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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
59  加速する時、変化する潮 4


 待伏せ場所を隠蔽するために、大きく迂回するルートを飛びながら、現状の確認を行う。

「レナ、やはり複座型は敵に発見されたのか?」
「はい、どうやら、気付かれたみたいです。さっきの連絡では、二十機程度のMAに追われているとのことです」
「二人に余裕は?」
「声から察するに、何とか冷静さを保っていますが、精神的にはかなりキツイはずです」

 複座型も推力が強化されているとはいえ、加速性能ではMAの方が上だしな。MSの運動性が活かせるデブリ帯に逃げ込めればいいが……。

「敵の武装は?」
「全機、小型ミサイルを装備しているとのこと」
「撃ってきてるか?」
「はい。最寄のデブリ帯に逃げ込めないように、牽制に使われているようですね」

 ……これは、早く行かないと、拙いな。

「よし、ここからは最短ルートで複座型と合流を図る」
「了解です。すぐに最短コースを送ります」

 加速込みで、五分か。

「確認した。これより、最大推力で救援に向かう。全機、過重なんかに負けるなよっ!」
「「「了解」」」

 三人に檄を飛ばした後、俺は推力を一気に最大まで上げて、機体を加速させ始めた。




 ……そして、四分後。




 俺達は、複座型が撃墜される前に、何とか、合流することに成功した。

 だが、複座型の状態は酷いものであり、致命的な部分への被弾は免れていたものの、レーダードームが破壊されていたり、左腕や右脚部が無くなっていたりと無視できない損傷を受けていた。

「リー、牽制を」
「了解です!」

 リーの小隊に、俺達が来たことで複座型から距離を置いたMAへの牽制射撃を加えさせて、動きを制限させる間に、俺とレナは複座型に近づいて、二人の様子を確認する。

 ……二十対一の状況を耐えて、何とか生き残ったことを考えると、本当に、よく頑張ったとしか言えない。

「二人とも、怪我をしていないか?」
「うぅぅ、ひっく、……こ、こかったです、たい、ちょぅ」
「……わ、私もフェスタも何とか、怪我はしていません」
「ああ、本当に、よく頑張ったな、フェスタ、スタンフォード」
「……うん」
「……はい」

 フェスタはもう泣いているし、スタンフォードもよく見れば目の周りが濡れている上に、声が震えている。それが、自身が下した判断ミスをより強く認識させてくれる。

「リー、敵の状況はどうか」
「敵の動きにあわせて、できるだけ牽制してますが、一斉に掛かられると拙いです!」
「わかった。……レナ、複座型を援護しろ。複座型に当たりそうなミサイルは全て落とせよ?」
「了解です!」

 ああ、なんか久しぶりだな、このハラワタが熱く滾っているのに、頭が冷め切っているのって……。

「リー、俺は突出して敵の陣形を崩しながら、叩き潰す。お前の小隊は左右に展開し、十字砲火を形成して、敵を複座型に寄せ付けるな」
「そ、それだと、隊長が単機になりますが、大丈夫なんですか?」
「なら、リー、俺の援護も併せてできるか?」
「……やってみせます」
「いい返事だ。俺の背後を突こうとする奴を優先して落としてくれ。後、小隊同士の連携も忘れるなよ?」
「了解!」

 ……さて、これは手前勝手な責任転嫁でただの八つ当たりに過ぎないかもしれないが、うちの隊員を危ない目に会わせてくれた礼を、タップリとさせてもらおうか。

 微かに息を吐き出した後、一気に機体を加速させて、一番前にいたメビウスの進路を遮るように機を移動させる。

 当然、前方の敵群もリニアガンや小型ミサイルを次々に発射し始めるが、……遅い。

 リニアガンの弾を僅かに機位をずらす事で交わし、逆に三点射で先頭のメビウスを撃ち抜く。そして、発生した流れる火球の脇を通ることで、他のメビウスから撃たれたミサイルの眼を誤魔化せるか試してみる。

「ゥッ!」

 背後で大量のミサイルがメビウスだった火球に次々に命中して爆発し、巨大な火の玉になっているのをサブモニターで確認しながら、今度は、推進方向を俯角へと鋭角に切り返す。
 そうすることで、右側面から突撃を仕掛けてきた相手の虚をついて交わし、背後から重突撃機銃をぶっ放して、これも撃墜する。

 ……。

 うん、立て続けに二機を落としたからか、敵が動揺し始めたらしい。

 この動揺により付け込むために、モノアイを光らせて、メビウスの群れの中から得物を品定めをするかのように、わざとらしく一機一機に照準を合わせて動かしてみせる。

 照準を合わせた全てのメビウスが、突撃機動から回避機動へと移り、及び腰になったのがわかった。

 そんな敵の動揺を上手く突いて、リー小隊やレナからの弾幕射撃が入り、五機のメビウスが立て続けに爆散し、虚空に還って逝く。

 残りは十三機だ。

 睨みを効かせて、少しでも敵の動きを鈍くさせようと試みていたら、俄かに、俺を標的から外して、背後を狙いそうな機動を見せた。
 なので、複座型に敵の注意がいかないように、挑発を……、伝統の中指立てをMSでして見せて、かかってこんかいとばかりに、くいくいと手前に中指を曲げてみる。


 ……おお、こうかはぜつだいだ。


 メビウスの機動が、さっきまでの動揺や逃げ腰が嘘のように、明らかに、俺を狙ってのものに切り替わり、残していたらしいミサイルも次々と放ち出した。
 こちらも、それぞれのメビウスの機動から、リニアガンの射線やメビウスの進路を予測しつつ、直撃コースに入っているミサイルを機銃で掃射する。

 いやはや、目に見えた挑発がここまで効果的とは思わなかったが、これで、俺以外を狙う可能性も少しは減るだろう。その分、メビウスの機動が荒々しいというか、前より良くなってしまったけどな。

 それにしても、さっきみたいな安易な挑発を見過ごせないとなると、差し詰め、敵さん、チキン野郎扱いされることでも嫌ったのかねぇ。

 実際、MAに乗るような連中はプライドが高い奴らが多そうだから、ありえそうな話なので笑えてくる。

 なら、熱狂的なザフト隊員に対応するのと同じような心持ちでいいかもしれないと考えながら、一機一機、リニアガンの射線に入り込まないように細かく機動変更をして、牽制や射撃、回避で対応していく。

 連中、動きは鋭くなったが、直線的な動きが明らかに多くなってるな、って、またミサイルを撃ってきたか。

 ……デコイやフレアみたいなのが欲しいなぁ。

 無いもの強請りは情けないとはわかっているが、欲しいものは欲しい。

 設計局の連中も現場の意見をもっと聞けばいいのになんて思いながら、前もって進路を読んでおいたメビウスと十字交差するように機動を切り返し、擦れ違い様に、L1宙域のデブリだった重斬刀を加工して、左手の盾に備え付けた、改良デブリクローで左推進部を切り裂く。

「ぐっ!」

 同時に左腕から機体全体へと衝撃が走り、機体バランスが崩れると共に機体情報に注意の黄色が点るが……、後、二回ぐらいは持つだろう。

 推進部に損傷を負ったメビウスが推進剤に引火でもしたのか爆発したので、後から追尾してきていたミサイルがどうなるか、改めて確かめてみる。

 ミサイルは、より大きな熱源に引かれたかのように、火球になったメビウスの近くで次々に爆発した。

 ……やはり、メビウスが装備しているミサイルは、150m級のミサイルと同じものというか、熱源探知式みたいだ。

 再び生み出された巨大な火球を視界の隅で確認しながら、次の敵に備える。

「先輩っ! 残り、八機です!」 

 レナの声が、現在の状況を簡潔に教えてくれる。俺が今落とした一機以外にも数が減っていることから、どうやら、レナ達も頑張ってくれているようだ。

「わかった! 絶対に、複座型に寄せ付けるなよっ!」
「はいっ!」

 ……にしても、連合の連中、過半を撃墜されたっていうのに、まだ、退かないのか?

 俺なら、どれだけ頭にきていても、撤退を決断している損害なのだが、敵に退く素振りが見られない。

 さっきの挑発が効き過ぎたのか?

 ……はぁ。

 どうも、今日はやることやること、裏目に出ているような気がする。

 でも、やってしまった以上は、敵が全滅するか後退するまでは、付き合うしかないだろうなんて、また湧いて出てきた小型ミサイルに追われながら、開き直ってみる。

 連携もなく突っ込んできたメビウスを闘牛士の如く交わして、機体を流しながら背後から射撃で撃墜する。でも、ミサイルは相変わらず、俺の機動に付いて来て、しっかりとストーキングしてくれるから嫌になる。
 ウンザリとしながら、周辺状況の把握に努めていると、機体が流れた先で、一機のメビウスと衝突コースになることがわかった。

「っし」

 咄嗟に判断して、衝突を回避しようとするメビウスの中央胴体部を足場に足蹴して、推進方向を直角に変更し、メビウスがミサイルの標的になるか、試してみる。

 ……残念なことに、生きているメビウスには命中しないようだ。

 メビウスの小型ミサイルは敵味方の識別もできるみたいだと判断しつつ、機銃掃射でミサイルと足蹴にしたメビウスを一掃する。

 今度はどいつが相手だと、再び周囲を見回してみると、敵の動きが急に変化し、俺達の標的となっている輸送船団が今現在存在するらしい方向へと引き揚げ始めた。

「敵、撤退します!」
「ああ、確認している」

 やれやれ、残存四機になって、ようやく退いたか……。

 まったく、連合軍の連中、戦意旺盛と表現するしかないな。

「……何だか、今までより、随分、タフでしたね」
「ああ、手強かった」

 MSに対抗できる小型ミサイルが搭載された事が大きいのか?

 いや、それだけでは、あの高い士気の説明としては、弱いな。

 ……考えられるとしたら、連合が作った足つきのMSがザフトのMSや部隊を立て続けに打ち破った事実に加えて、月の宇宙艦隊も再建されつつあるから、ザフトやコーディネイターに対する劣等感や苦手意識、敗北感が薄れてきた、ってあたりかな。

 何にせよ、これからの戦闘では拙いことになるかもしれない、等と思いつつ、複座型の二人の状況をレナに尋ねる。

「レナ、二人は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。敵は皆、先輩に夢中でしたから、こっちにはもう、見向きもしませんでした」

 そんな連中に夢中になられるのは嫌だけど、自機の色が目立つことを考えると妥当だろうな。

「……人気者は困るね」
「ふふ、本当ですね」
「さて、マクスウェルやデファン達は大丈夫かな?」
「それは流石に、戻ってみないことにはわかりません」

 ……。

「そういえば、複座型の通信系は健在なのか?」
「ええ、何とかエルステッドに繋がっているみたいです」

 うぅ、これなら、レナを待伏せ組に置いてきた方が良かったかもしれないと考えそうになるが、それだと、俺が落とされる可能性が大幅に増えるし……、もう、今日は本当に、やる事なす事、全てが裏目か失敗だよ。

 自嘲に歪みそうになる口元を何とか押さえながら、リーに指示を出す。

「リー、お前の小隊は複座型をエスコートして、エルステッドに戻れ。二人共、かなり精神を消耗しているはずだからな、気遣ってやれよ?」
「わかりました」
「フェスタ、スタンフォード」
「は、い」
「なんでしょう?」
「本当に、よく頑張ったな。……それと、もし、エルステッドに戻っても恐怖が抜けないようなら、エヴァ先生の所に行って、話を聞いてもらうんだぞ?」
「……うん」
「……了解しました」

 後は、特に無いな。

「よし、俺とレナは待伏せ場所に戻る。リー、後は頼んだぞ」
「了解です!」

 力強いリーの返事を聞いた後、レナに合図を送り、MAが去った方向へと機体を進ませ始めた。

「レナ、エルステッドに、リー小隊と複座型を戻すことと損傷した複座型の受け入れ準備を頼むって、連絡しておいてくれ」
「はい」

 リー達が行動に移るのをサブモニターで確認しつつ、レナへの指示にもう一つ、付け加える。

「後、待伏せ組の様子がどうなっているか、エルステッドが把握している範囲で教えて欲しいとも」
「わかりました」

 うーん、ニュートロンジャマー影響下だと、部隊を二つに分けたりした時、連絡が取れないっていうのは、やり難いな。

 いや、確かに、ニュートロンジャマー影響下だと、レーダーが効きにくくなるから、敵に動きを察知されにくくなるだなんて利点もあるけど、これは逆もまた真なことだから、一概にこちらが得をするとはいえないことだ、って、こんなことは今はどうでもいいか。

 ……でも、最低でも、小隊長機にぐらいは、大出力のレーザー通信装置が必要だよなぁ。

 ぐだぐだと、MSに取り付ける装備について考えを進めていたら、レナからさっきの指示に対する報告が返ってきた。

「先輩、エルステッドの光学観測によれば、両小隊とも例の輸送船団に対艦攻撃を仕掛けて、150m級四隻と輸送艦三隻に撃沈ないし大破させる打撃を与えたそうです」
「……それで、こちらの被害は?」
「これといった被害は無く、全機無事に帰還中だそうです」

 それは重畳というべきことだが……。

「敵の送り狼は?」
「二次攻撃を警戒しているのか、確認されていません」
「うん、ならいい。それで、待伏せ組と合流出来るか?」
「……サリアに誘導を頑張ってもらいましょう」
「それはまた、いい訓練になりそうだな」

 もちろん、ベルナールのな……。

「よし、俺達もベルナールの管制に従って、待伏せ組との合流を目指す、とエルステッドに伝えてくれ」
「ふふ、了解です」

 レナの笑いを含んだ声を聞きつつ、今日の戦闘をを思い返す。

 ……。

 ほんと、とことん、無様だったよなぁ。

 それに俺……、命が懸かってる状況で判断ミスをしたっていうのに、自身を擁護するための言い訳なんて考えて……、自身の判断というか決断に命が懸かっていることを、軽く見るようになっていたのかもしれない。


 ……本当に、犠牲が出なくて良かった。


 そんなことを胸の内に抱きつつ、指揮官という立場の重みを再認識しながら、エルステッドから送られてきた指示に従って、俺は機体を反転させ、スラスターを噴射させた。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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