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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
57  加速する時、変化する潮 2


 3月23日。
 戦隊は二度目の出撃と連合軍輸送艦隊への攻撃を終えて、L1拠点、世界樹の種で休憩している。

 この世界樹の種も運用が開始されて半年となり、拠点としての機能拡張が徐々に進んで、最初は四つの小さな箱型居住ブロックだけだった居住区画も直径三十メートルの円形チューブを一繋ぎにしたトーラス型コロニーになっている。
 リューベック司令の話では、もう一つ同じサイズのトーラス型コロニーを建設し、今、稼動しているコロニーが回転している方向とは逆方向に回して、歳差運動を押さえ込む予定だとか、っていうか、既に建設が始まっているのが、宇宙港や居住区画の窓から見えたりする。

 俺としては、稼動中のコロニーや生命維持関連装置が並ぶ中央基幹構造体に、建設資材等が衝突するだなんて致命的な重大事故が起きないよう、建設工事での安全管理をしっかりとやってくれさえすれば、特に言うことはないし、むしろ、この冷たい宇宙に人が住める空間が再び増えるという意味で、歓迎すべきことだと思う。

 そんな訳で、現在における世界樹の種の構成は、旧世界樹時代の物を流用した、大型宇宙船舶が三十隻位は収容できる宇宙港と俺達がプラントから運んで来て組み立てた小型簡易港を改装した艦船修理用ドック、宇宙港の片隅に無法なジャンク屋を監視させるために設置されたジャンク屋ギルドの支部、居住区画となるコロニーの回転軸と拠点全体の生命維持関連装置の収納スペースを兼ねた、宇宙港と居住区画とを連結する中央基幹構造体、回転させることで擬似重力を生み出す居住区画のトーラス型コロニーが一つ、同じく居住区画として建設中のトーラス型コロニーがもう一つということになる。

 いや、拠点構築のために第一歩を踏み出した身としては、感慨深いよ。

 ……。

 うん、初期段階だけとはいえ、コロニー建設に関わったからわかるけど、建造物というか物を創り出すのって、かなり長い時間と労力が掛かるんだよね。

 けど、それを破壊するのは、ユニウス・セブンや世界樹崩壊の時からわかるように、一瞬で済んでしまう。

 まぁ、何が言いたいかと言うと、物を創り上げるには時間と労力が掛かっているんだから、物を壊すことなんて簡単に出来てしまうんだから、もっと物を大切にしましょうってことだな。

 いや、破壊者である軍人もどきの俺が言えた義理じゃないけどさ。

 ……。

 にしても、創造と破壊の両方を担うなんて、俺も含めて、人間って、本当に矛盾した存在だよなぁ。

 ……いや、逆に、その破壊と創造の両方ができるから、ここまで進化してきたのかもしれないか。


 ◇ ◇ ◇


 居住区画の一角に滞在用の宿泊施設を用意してもらった俺達は、思い思いに一時の休息を楽しんでいる。

 パイロット連中は趣味や賭け遊戯、自主訓練とそれぞれ自身がやりたいことをやっているし、艦の運営スタッフも気の抜けない役目から解放されて、大いにくつろいでいるようだ。

 俺も重力がある居住区画での生活は、胃をゆっくりと休ませることができるだけに、ありがたい。

 ……いや、俺、基本的に胃が荒れていることが多いから、ほんとに助かるのよ。

 なんとなれば、重力があるだけで、幾つかの薬、筋力低下や宇宙酔いを抑える薬を飲まないで済むから、かなり胃の負担が減るのだ。ついでに言えば、俺の健康を管理するエヴァ先生から説教を受けたり、不機嫌な顰め面を拝まなくて済むしねぇ……。

 ああもう、ほんとに、この胃痛の日々から早く解放されたい。

 そんな訳で、俺は少しでもリラックスするために、滞在者を心安らげる目的の他に、光合成で二酸化炭素から酸素を作り出す目的もある緑地区で、芝生の上に寝転がっている。

「いいんですよ、このラクス・クラインの歌~」

 でもって、いつの間にか、フェスタが俺の傍で、ちょこんと座って自分の好きな歌手のセールスをしていたりもする。

「隊長~、もう、しっかりと聞いてくださいよ~」
「はいはい、フェスタはいい子だよなぁ~」
「えへへ……じゃなくて、もう、全然、聞いてないじゃないですか~」

 んなこと言われてもなぁ。

「いや、フェスタには悪いがな、ぶっちゃけると、俺、そいつの歌、好きじゃないんだよ」
「えー、隊長、そいつとか、言っちゃ駄目だよ」
「いや、マジで。……何というか、ラクス・クラインの歌を聞いていたら、不思議と、こう、イラっ★、って、来るんだよ」
「う~、いい歌なのに……」

 そんなことを言っても、元々、ザフトの広告塔なんてやってる時点で良いイメージを持っていないのに、聞けば聞くほど、何故かはわからないが、無性にこう、ムカムカっ、としてしまうから聞きたくないんだよなぁ。

「本当に、勧めてくれているフェスタには悪いが、それを聞いたことで、俺が不機嫌になって、八つ当たりされたら嫌だろう?」
「……隊長、そんなこと、しないもん」
「いやいや、俺も人間だから、不機嫌な時は、八つ当たりの一つや二つ……」
「あれ、先輩にロベルタ……、こんな所で何をしてるんですか?」

 聞き慣れた声を聞いて、顔を上げるとレナとスタンフォードが立っていた。

「いや、俺は森林浴?」
「私は、たまたま隊長が芝生で寝転がっているのを見つけたから、お話でもしようと思って……」
「……はぁ、ロベルタ、隊長に迷惑をかけたら駄目よ」
「ぶー、ビアンカ、私は別に迷惑なんてかけてないよ~」

 まぁ、確かにフェスタから発生する癒しな空気のお陰で気分は楽だけど、あの歌姫を勧めるのだけは勘弁だ。

「だって、隊長、ラクスの歌、好きじゃないって言うんだもん」
「えっ? 隊長、ラクス・クラインの歌、好きじゃないんですか?」
「……あ~、何ていうかな、歌を聞いていたら、こう、何故か、イライラしてくるんだよ」
「先輩、前から思ってましたが、ラクスの歌を嫌いだなんて、変わってますよね」
「うーん、皆がそうまで言うなら、そうなのかもしれないな」

 つか、前から不思議に思ってたんだが、プラントでラクス・クラインの歌を嫌いな奴って、本当に少ないんだよ。

 ……。

 まさか、洗脳ソングとかじゃないだろうな?

 ……って、ははっ、まさか、そんな荒唐無稽な、それこそフィクションみたいなこと、あるわけないよなぁ、うん。

「とにかく、フェスタ、ラクス・クラインの歌だけは勘弁してくれよ」
「う~、ほんとにいいのに……」
「ほらほら、ロベルタ、これ以上は迷惑をかけたら駄目」
「う~」

 幼子のように拗ねた顔を見せるフェスタに癒しを感じていたら、アーサーがキョロキョロと誰かを探しながら、緑地区に入ってきた。

「おーい、アーサー、誰か探しているのか?」
「あっ、隊長。僕は隊長を探していたんですよ」
「……何か状況に変化か、誰かが問題でも起こしたのか?」
「あ、いえ、別に周辺状況や戦隊のことではないんです。ただ、隊長宛にプラント防衛隊のユウキ隊長から通信文が届きまして、それを届けに……」

 ……ユウキからの通信文か。

「それは今、何処に?」
「あ、これです」
「ああ、ありがとう。休みなのに、態々、こんな所まで済まなかったな、アーサー」
「いえ、かまいませんよ。では、僕はこれで……、失礼します」

 何か用事でもあるのか、足早に去って行くアーサーを手を振って見送った後、通信文に目を通す。



『家に入り込んでいた害虫の駆除が終了したので、まずはその旨を報告する。以後の経過と効果の確認も継続して行っているから安心してほしい。後で、今後のスケジュールに関しての連絡を入れるが、関係者には、これから実施する計画も含めて、こちらで報告と説明をしておいた』



 ……は、はははっ、ユウキの奴も、"遊び心"が出てきたねぇ。


「先輩の顔、あの時と同じ顔だ……」
「うわー、うわー、隊長って、こんな顔、するんだ」
「う、……な、なんだか、頬が熱くなってきた」


 さて、これで、事が本格的に動き出すわけだが……、ここにいる俺には、何か協力出来るだろうか?

 ……。

 例の作戦時の宇宙での戦力配置を想定してみると、月への牽制はプラントとヤキン・ドゥーエの艦隊が動けば成るはずだし、地球突入軌道の防衛と確保は、ボアズ駐留艦隊が四月から始める定期軌道爆撃の際にもやることになるだろうから、その頃には相当上手くなっているだろう。地球-L5の航路も、L1からの監視体制が整っている以上は、早期警戒態勢が確立していると言えるから何とでもなる。

 となると、L4への牽制か?

 ……だが、俺が率いている戦力が戦隊規模である以上は、L4への牽制など不可能だ。差し詰め、地球-L4航路間に進出して、ミサイル攻撃を迎撃したり、L4駐留艦隊の動きを警戒する位が精一杯と言えるだろう。

 でも、それだと、L4の艦隊が降下部隊に突入する可能性がなくならないよな。

 ……なら、リューベック司令にお願いして、駐留艦隊を動かしてもらう?

 いや、ここが月に近い以上は、そう簡単に駐留艦隊を動かせないというか、動かそうとしても戦力回復も成っていないし、そもそも、ここを抜かれたら本末転倒だ。となると、独立戦隊同士で連携して、牽制するのが一番か?

 ……。

 うちと同じく通商破壊任務に就いている独立戦隊は、任務体制の見直しを受けて、世界樹の種に休養や予備戦力として常駐する四個戦隊、航路に出て地球連合のスペースレーンに圧力を掛ける四個戦隊、プラントで長期休養や再編成、訓練している四個戦隊と、全部で十二個だ。

 このうち、直接的に即応で動かせるのは、プラントにいる四個戦隊を除いた、八個戦隊って所か。

 ……ふむ、八個戦隊だと単純に戦力計算して、FFMが16、MSが96、その半数でもFFMが8、MSが48になるから、まぁ、これだけあれば、十分、L4への早期警戒態勢を作れるだろう。

 その際の全体指揮は、俺の胃のためにも、冷静な計算が出来る適当な誰か……、そうだな、一番の年長として、いつも独立戦隊群のまとめ役をしてくれている、ラブロフ隊長にでも押し付ければいいや。

 ……。

 よし、俺もそれとなくリューベック司令にお願いしたりして、根回しに動いてみるか。


 ふと、気がつくと、レナがフェスタの横に並んで座り込んでいた。

 付け加えれば、スタンフォードも含めた三人共、若干顔が赤くなっているように見えなくもないが、……体調管理は大丈夫なんだろうか?

「三人とも、何だか熱そうに見えるけど、体調が悪かったり、発熱とかはしてないよな?」
「は、はい、大丈夫ですよ、ねぇ、ビアンカ?」
「え、ええ、私は、大丈夫です」
「は~、さっきまでの隊長の顔……、カッあいたっ!」
「ちょ、……レナか?」

 一瞬過ぎて見えなかったが、レナがフェスタの頭を叩いたように見えた。

「う~、レナ先輩、急にひどいです」
「え、えと、何か、虫らしきものがいたから……」
「まぁ、緑地帯だから、居ても可笑しくは無いだろうが、ちょっと強く叩きすぎじゃないか?」

 うんうん、と賛同するように頷くフェスタに、乾いた笑みを浮かべたレナが、ごめんねとの言葉と共に頭を下げて、落着である。

 さて、もう少し休んでから、リューベック司令の所に行って、来るべき作戦のことを匂わせて、色々と協力をお願いするかな。

 そんなことを考えていたら、スタンフォードが俺が持っている通信文を指差して、質問してきた。

「え、えーと、ラインブルグ隊長は、あのユウキ隊長とお知り合いなんですか?」
「ああ、どういう意味での、あの、なのかはわからんが、ユウキとは同期だぞ」
「ついでに言えば、クルーゼ隊長とも親しいですよね、先輩って……」
「えっ、そうなんですか? 隊長って、凄いんですね」

 いや、知り合いが凄いだけで、俺も凄くなるという論理はおかしいと思う。

 それを指摘しようと思ったら、フェスタも、じーっと、俺の手の中にある通信文と俺とを交互に見ながら、疑問を投げかけてきた。

「ん~、隊長、真剣に通信文を読んでましたけど、いったい何なんですか?」
「ん、これか? ほれ、フェスタ、読んでみ」
「えっ、いいんですか?」
「ああ」

 ……まぁ、普通は読んでもわからんだろ。

「……害虫の駆除?」
「ああ、家の周囲に花壇がある関係かはわからんが、春になった所為か、我が家に地蟲が大量に沸いて出てきてなぁ。その駆除をユウキに頼んでおいたんだよ」
「でも、あんなに真剣に……」
「いや、家にはスタンフォード達よりも、三つぐらい年下の妹分が一人で留守番しているんで、大丈夫だったかな、ってちょっと気になったんだよ」
「……ああ、ミーアちゃんのことですねぇ」

 えっ? レナさんや、何故に、そんなに怖い雰囲気に?

「ん~? 後ろの関係者や今後の計画って言うのは?」
「それはご近所さんのことだよ。虫を駆除するって計画を前もって伝えておいたから、駆除の報告と、たぶん、虫の被害が広がっていないかを確かめるための、検査日の説明や打ち合わせってところだろう」
「あ、そういうことですか~」

 そういうことにしておいてくださいな。

「でも、その花壇って、隊長が育ててるんですか?」
「あー、いや、死んだ母親が育てていたのを留守番してくれている妹分、ミーアって言うんだけど、この子が引き継いで育てているんだよ」

 これは半分位は本当のことって、あらら、フェスタの奴、俺の母親が死んでいることを知ってしまって、落ち込んでしまったようだ。それに追い討ちをかけるようにスタンフォードがフェスタを叱責する。

「もう、ロベルタ。安易に人のプライベートに踏み込んだら駄目だって、前から言っておいたでしょう?」
「……うん。隊長、ごめんなさい」
「いい、気にするな、フェスタ。俺の母親が死んだのは、もう十年以上前のことだから、とっくに受け入れているよ」

 つか、母が死んで、もう十五年位になるんだから、俺も歳も取るはずだよなぁ。

 ……って、空気が重くなったな。

「にしても、お前達さ、折角の休みだってのに、一人や二人ぐらい、遊びやデートに誘ってくれる男はいないのか?」
「先輩、それもプライベートなことですよ」
「いや、そう言われてもなぁ、こんだけ綺麗所が揃っているのに、声もかけられないのは、常識的に考えて、おかしいだろう?」
「あ、う、いえ、それはその……」
「えへへ、ビアンカ、私達、綺麗所だって!」
「う、うぅ、そんなこと、初めて男の人に言われた」

 あ~、確かにスタンフォードは、どちらかというと、お姉様っ、なんて具合に、同性から言われて慕われそうなタイプだよなぁ。

 で、レナは、何故に、身体を寒そうに摩っているのかな、かな?

「何でだろう、先輩に褒められたはずなのに、こう、鳥肌が立つのは……」

 まったく、たまに褒めてやったって言うのに、失礼な反応なことで……。

「はいはい。で、それで、なんでなんだ?」
「え、えーとですね、実は、この前の特別休暇で艦を降りた直後に、ハンゼンのエンリケ班長とジェルマン班長が、私達三人に、あまりにもしつこく声をかけてきた上に、ロベルタに直接的にちょっかいを出そうとしたので……」
「レナ先輩とロベルタと私の三人でもって、手加減なしの打撃オンリーで……」
「はい! 立ち上がれないほどにのしました!」
「それ以来、我々にちょっかいを出すと言いますか、遊びに誘ってくれる男性隊員は……」
「うん、いないんだよねぇ」
「あはは、少し、やり過ぎてしまいました」
「……そうか、日頃の訓練が活きて、何よりだ」

 やり過ぎのような気がしないでもないが、エンリケとジェルマンが男としてのマナー違反をしている以上は応報ってことかな?

「でも、もし隊長だったら、あんなことはしないで、遊びに行ったよね~、ビアンカ」
「そ、そうね、確かに、ラインブルグ隊長だったら、あんなことしないで、遊びに行ったわ」

 えっ、そうなの?

 ……こ、これは、もしかして、で、伝説のモテ期が俺にもっ!!

「隊長って、お兄ちゃんって感じがして、ね~」
「ええ、私達、兄弟姉妹がいないから、憧れます」

 うぅ、そうですか……。

「先輩、そんなに悲しい顔をしないで下さいよ。……居た堪れなくなります」
「でもさ、レナ、今の評価、女からすれば、どうなのよ?」
「さ、さて、私はサリアの所に行こうっと」

 おぅい、俺の疑問は放置かよっ!

「あっ、私も行きます~」
「では、隊長、失礼します」
「あ、ああ、ゆっくり休めよ?」

 フェスタが代表するように、元気良く返事をすると、三人揃って緑地区から去って行った。

 はぁ、何だか、癒されたような傷ついたような、微妙な感覚だけが残ってるな。

 ……。

 まぁ、こういう日もあるってことでいいか。

 よし、俺ももう一休みした後、リューベック司令の所に行くとするかな。












 以下、要らないかもしれないけど、ユウキからの通信文でのネタばれ?










 ・家=最高評議会及び各委員会、又、それに属する議員や委員
 ・害虫=諜報員等
 ・駆除=摘発及び排除
 ・以後の経過と効果の確認=監視下においた諜報員の動き
 ・スケジュール=オペレーション・スピリットブレイク、ブリッツブレイク関連の進捗状況
 ・関係者=最高評議会議員
 ・これから実施する計画=オペレーション・スピリットブレイク及びブリッツブレイク
 ・報告と説明=諜報員の摘発と防諜強化及び機密保持の徹底
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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