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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
47  精神を砕くもの 1


 2月14日。
 今日で、あのユニウス・セブンへの核攻撃が行われてから、一年になる。プラントでは、追悼式典がしめやかに行われているだろうが、先日の戦闘の後始末をしている俺達には犠牲者を悼んでいる余裕もない。

 13日の昼過ぎに到着したエルステッドとハンゼンに、一時収容してもらっていたクルーゼ隊の旗艦ヴェサリウスから戻ると、できるだけ低軌道にデブリを残さないために、MS隊に大きい物を大気圏に落とさせたり、小さい物を艦載ビーム砲で焼き払ったりしている。

 これも、地球から打ち上げられたり、地球に降りて行ったりする宇宙船を守るために必要なことなのだ。

 で、こういうことをする原因になった昨日の戦闘についてだが……。

 昨日、13日の戦闘は、側面からの横撃に成功した俺達が再び戦域に戻った頃には既に終了しており、連合軍艦隊は150m級を数隻残して、ほぼ殲滅されていた。
 合流したラウが言うには、足つきの大気圏突入が成功するまで、連合軍艦隊は狂的なまでに援護を続け、一部を残し、旗艦を含めた全ての艦艇が沈んでいったらしい。
 その気合というか、恐ろしいまでの覚悟に驚きと慄きを感じつつ、敵についての詳しい情報を聞くと、去年の新星攻防戦でザフトを散々に苦しめた、ハルバートン率いる連合軍第八艦隊とのことだった。

 その名前と艦隊ナンバーを聞いて、狂気めいた奮戦振りにも納得してしまったよ。

 世間というかザフトではハルバートンは智将だなんて言われているが、今回の戦闘の件と以前の艦隊特攻の件を考えれば、俺の中では、どちらかというと烈将というイメージが強い。

 ……いや、これはどうでもことだな。

 降伏した残存艦の連合軍将兵に関しては、戦闘を主導したラウに図って、脱出用シャトルに全員を放り込んで地球に降下させる事にしてもらった。宇宙で捕虜を取って、わざわざ連れて帰るのが面倒だからなんて物臭な理由を表向きにしたが、本当は死戦での敢闘を称えてという温情が大半だ。

 実は、この投降将兵の処遇をその場にいた白服連中で決める時に、捕虜は解放する必要なんてない、丁度、今日で一年になるし、ユニウスの仇を取る為に全員処刑すべきだ、なんて馬鹿げた意見が出たりしている。
 だから、反論として、劣勢な戦力でも一個艦隊を叩き潰したザフトの精強さを伝えるスピーカー代わりに使えるとか、殺すために使う武器弾薬が勿体無いとか、皆殺しをしてしまうと敵の敵愾心と復讐心を煽る上、今後の戦闘でも徹底抗戦されて余計に損害が増えるとか、一理もない殺しを主張するお前の血の色は何色だとか、今後の事も考えず、感情に任せて行動を決めるなんて、プラント、否、コーディネイターの品位を疑わせる事になるとか、とにかく色々と適当に、あることないことをペラペラと一時間程捲くし立て、言い包めておいた。
 後でラウから、俺の延々と続く反論を受けていた意見者が途中から辟易していたと苦笑と共に告げられたことを考えると、半分ぐらいの時間で良かったかもしれないと、今は少しだけ反省している。

 ホントダヨ?

 バカナコトヲホザクヤカラニイシュナンテナイヨ?

 ……。

 俺、ストレス、溜まってるんだなぁ……。

 話を戻して、先の戦闘におけるザフトの被害は、鹵獲MSが大活躍したおかげで、MSが五機撃墜されるだけで済んでいる。あの大きな旗艦、300m級を落としたのも鹵獲MSの強力なビーム兵装だと聞いているから、MSが強力なビーム兵器を装備すれば、それだけで脅威なのだということがよくわかった。

 でもって、その鹵獲MSを生で見ようと思っていたんだが、実際に見れたのは、残念なことにMA可変機と特殊戦機の二機のみだった。わざわざ案内をしてくれた特殊戦機を担当する赤服の子によれば、なんでも、残りの二機は足つきを追うことに夢中だったために帰艦することができず、そのまま大気圏に突入してしまったとか……。

 幸いにして、鹵獲MSは大気圏突破機能があったらしく途中で燃え尽きる事はなかったそうだ。

 犠牲者も出ていないようなので、大気圏突入後の戦闘について、さらに詳しく聞いてみれば、その二機のうちの一機は、大気圏突入後も足つきの艦載機であるMSとの戦闘を繰り広げていたらしいのだが、何処からともなく、凄い勢いで飛んで来た中身の詰まったパルデュス・ミサイルポットの直撃を受けて、戦闘どころか、危うく大気圏突入に失敗する所だったらしい。


 ……何か、そのミサイルポッドの来歴に覚えがあるような?


 ……。

 ま、まぁ、幸いにしてPS装甲のお陰で落ちなかったんだから、うん、よかった!

 い、いやぁ、事故と言うのは怖いねぇ、うん。

 ……。

 黙ってれば、わからないよな?


 ◇ ◇ ◇


 ほぼ一日かかった後始末が終了し、作業に出していたMSの撤収が進む中、俺はエルステッドの艦橋でゴートン艦長と先の戦闘や今後の展望について話しながら、一息入れている。

「本当に、昨日はうまくいって良かったですよ」
「確かに、うまくいくか心配だったけど、結果は上々だからね、良かったよ」
「ええ、しかも一個艦隊を潰せましたから、月やL4にも、それなりの圧力になるはずです」

 昨日の戦闘の結果、月とL4の連合軍艦隊に掛かった圧力の大きさを量りながら、手に持ったドリンクを一口、口に含む。

 はぁ、青く美しく輝く地球を見ながら飲むITIGOオレは格別に美味しい……。

 ITIGOと甘味料とミルクで合成された陳腐な甘味で、脳を癒しながら艦長との話を続ける。

「これで俺達の任務も楽になればいいんですが、どう思います?」
「……昨日、得た情報から考えると、一時は楽になるだろうけど、あんまり期待しない方がよさそうだねぇ」
「やっぱり、艦長もそう思いますか?」
「うん、連合の艦隊戦力は順調に再建されているみたいだからさ」

 昨日、鹵獲した150m級から月の戦力に関する情報も少しだけ奪取できたのだが、それがまた、頭が痛くなる内容だったのだ。


 と、その内容の説明をする前に、簡単に地球連合の宇宙戦力について軽く触れておきたい。

 地球連合とは去年に結成されたばかりで、来歴一年と非常に若く、出来立てほやほやの組織だ。

 しかしながら、地球連合には長年、国際社会をリードしてきた国際連合という下地が存在しており、意思決定機関が国連首脳部から連合構成国首脳部に変わっただけで、他は国際連合とさほど変わりがないのだ。簡単な事例を挙げれば、地球連合軍で使用されている制服も、元は国連軍の制服を流用したものだったりする。
 でもって、地球連合が保有する宇宙戦力なのだが、連合軍艦隊なんて言っているが、実はプラント理事国である大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国の三大国の艦隊がそのまま名前を変えた存在に過ぎない。それらに加えて、旧国連軍艦隊……国際スペースコロニー【世界樹】や月、L4、L5に駐留していた艦隊が加わるのだ。
 もっとも、国連軍艦隊も元々はプラント理事国の艦隊が主体になって構成されたものなので、理事国に好き勝手に使われていたのが現実だったりする。

 まぁ、今も昔も国際社会では大国が好き勝手できるほどに強いということを認識しておけば十分だろう。

 ……話が変に曲がったので、元に戻す。

 地球連合軍の宇宙戦力は、要となる機動艦隊が理事国軍と旧国連軍とを合わせて、第一艦隊から第九艦隊までの九つ存在していて、第一、第二、第四、第八、第九は旧国連軍、第三、第五、第六、第七は各理事国それぞれの艦隊が転用されている。
 ちなみに、第四だけは国際連合時代から構成国全てが艦艇や人員を供出して形成された各国混成型であり、真の意味での連合軍艦隊と言える存在かもしれない。

 この九つの艦隊に加えて新設されたらしい一個艦隊がザフト宇宙機動艦隊、引いてはザフト宇宙軍にとっての敵となる。


 ……十個艦隊を常備できるだけの国力は本当に恐ろしく、頭の痛いことだ。


 ITIGOオレの甘さで、ぶり返してしまった頭の痛みを和らげながら、艦長に敵の現況を、自身への確認も含めて述べてみる。

「今現在、連合宇宙軍の機動戦力は、L4に出張っている第四艦隊、月のプトレマイオスで健在なのが第七艦隊で……直に再建完了なのが第一、第三、第五、第六艦隊の四個艦隊で、新設されたのが第十でしたね?」
「うん、それらの艦隊自体も艦艇数を増やすだろうし、以前より強化されることは間違いなしだよ」

 ちなみに、番号が挙がらなかった、第二は世界樹攻防戦で、第八は昨日の戦闘で壊滅しており、また、第九もL5宙域事変(仮)で叩き出された艦隊に相当するのだが、これは世界樹攻防戦で消耗した第一に吸収されている。これら三つの艦隊は、今現在において書類上の存在になっているそうだが、それもいつまでのことか……。

「まったく、月なんて巨大な資源庫だから、幾らでも作り出しそうで怖いよねぇ」
「ほんとですよ」

 この艦隊再建とMSの開発と併せて考えると、俺が以前から恐れている消耗戦が開始される前兆だと感じさせてくれるのだ。

 そら、自然と頭も痛くなってくるよ。

「やれやれ、連合の本格的な反攻が始まる前に、戦争、終わりませんかね?」
「うーん、まだ決め手が足りないねぇ」
「決め手、ですか?」
「うん、決め手」

 決め手か……。

「えーと、ラインブルグ隊長、よろしいですか?」

 どんなことが戦争終結の決め手になるかを考えていたら、アーサーが恐る恐るといった感じで、俺に声をかけてきた。

「うん? どうかしたのか、アーサー」
「はい、プラントの総司令部から、ラインブルグ戦隊は任務を中断し帰還せよ、との命令が届きました」

 ……任務外の行動をしたことへのお叱りか?

 いや、うちは独立した権限をある程度持っている戦隊だから、それはないか……。

「詳しくは?」
「いえ、ただ、帰還せよとの命令が……少し粘って聞いてみたんですけど、どうも、上の方から命令が出たみたいです」
「……上?」

 上と聞くと、シャッチョ椅子に座ったザラ委員長が、両手で頬杖をついて不敵に笑う姿が脳裏に浮かぶんだが……。

「うわぁ……きっと、碌なことじゃないだろうなぁ」
「ですが、隊長、上からの命令であると仄めかされた以上、無視するわけには……」
「ああ、うん、わかってるよ。……艦長?」
「くぅぅぅ、こういうのって、宮仕えの悲しいところだねぇ、ラインブルグ君」

 いや、ゴートン艦長……泣きまねして目元を手で覆っても、口元が笑ってるのが見えてますよ、もう。

「はぁ。……艦長、どうも、お上がお呼びのようですから、プラントに戻りましょう」
「はいはい、トライン班長、ハンゼンと艦内各班に通達を出してちょうだいな」
「アイ、艦長」

 ゴートン艦長の命令を受けて、アーサーがすぐさま行動に移る。

 ……何か、アーサーの奴、いつもにまして、キビキビしてないか?

 そんな俺の疑問に答えてくれたのは、隣で同じくアーサーの動きを見ていたゴートン艦長だった。

「少し変わっただろ?」
「ええ、動きが機敏ですね」
「ああ、トライン君も今回の作戦で思う事があったみたいなんだ」
「へぇ、そうなんですかぁ」
「ふふ、人が成長する姿を見るのはさ、いつ見てもいいもんだよ」

 ……俺もその対象ですね、わかります。

 少し被害妄想染みた考えが浮かぶが、それを振り払って、艦長に伝える事を伝えておく。

「帰還前に、一応、クルーゼ隊に声を掛けておきますよ」
「うん、それがいいね」
「では……。アーサー、クルーゼ隊長と話がしたいから、ヴェサリウスに通信を繋いでくれ」
「了解です」

 待つこと少し……メインモニターにラウの姿が映った。

「いいタイミングだったな。ちょうど、こちらから連絡を入れようとした所だった」
「……あ~、もしかして、あれか? 帰還命令か?」
「そうだ。どうやら昨日の会戦に参加した部隊全てに出ているようだな」
「そうか。なら、話が早いな。うちの戦隊にも帰還しろって来たから、撤収しようと思うんだが、そっちはどうする?」
「ふむ、そうだな、少し待ってくれ。……アデス、足つきとイザーク、ディアッカ両名について、カーペンタリアとジブラルタルへの連絡は済んでいるか?」

 どうやら、ラウは足つきに関する情報伝達や地球に降下した部下についての確認をしているようだ。

 ……にしても、待っている間、ラウが見せている、顎に手を当てて考え込むようなスタイルって、何気にかっこいいよね。

 ベルナールの奴なんか、作業の手を止めて、じぃーーっとラウの奴に見惚れてるもんなぁ。

 ここは俺も一つ、真似してみようかな?

 ……。

 想像してみたけど、悲しいことに、似合わんわぁ。

「……アイン、我々も撤収することにするよ」
「そうか。なら、さっさと引き上げよう。低軌道は危険地帯だからな、必要以上の長居は無用だ」
「そうだな。後、他の戦隊にはこちらから連絡しておく」
「うん、頼むよ」
「……では、また後で会おう」
「ああ、また、プラントでな」

 ラウの姿がメインモニターから消える。と、同時にベルナールの溜息が……。

 艦長と揃ってその溜息に苦笑していると、それに気が付いたのか、ベルナールが口を尖らせた後、イーっとした顔をしてから舌を出して見せた。
 そして、そんなベルナールの歳相応の表情に見惚れているアーサーの惚けた顔にも、また笑えてくる。

 ……うん、笑ったら、少しリラックスできたな。


 ……。


 さて、今から帰ることになるプラントで、上層部から無理難題を課せられないように、今から、そうだな……我が母にでも祈ってみるか……。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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