第二部 二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
46 冬の艦隊流星群 4
蒼さが眩しい地球がメインモニター背景の大部分を占めるようになった頃合に、複座型からミサイル発射位置に関する一連の情報が届いた。
よって、超長距離攻撃を、正直、伸るか反るかの博打的要素が満載なのだが、実行に移すことにする。
「よし、送られてきた情報に合わせて、ミサイル発射座標を通る軌道に入り、指定された方向へミサイルを発射するぞ」
「了解です。ラヴィネン、発射を担当してくれ」
「了解」
どうやら、向こうはマクスウェルが操縦を、レナが発射を担当するようだ。
「デファン、こちらも発射座標を通るように調整してくれ」
「わかったっす」
表示されている座標位置を通るように、ロジアッツの機体制御バーニアが何度か細かく噴かされ、発射座標を経由する予定軌道上に乗った。
「よし、ミサイル発射は俺が担当するから、更に細かな修正を頼む」
「了解っす」
……実は、後一分もしないうちに発射座標に到達したりする。
正直、もう少し時間的に余裕が欲しかったのだが、これも新米のフェスタが精一杯に頑張った結果なのだから、ここは先任として、しっかりと応えてやらないとな……。
細やかなバーニア噴射による制御が行われ、発射軸が整えられていく。
「発射座標まで三十秒」
「調整終了っす!」
安全装置解除……ロック・オン対象はなしで……発射座標まで後十五秒……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、発射!
「……よし、パルデュス全弾発射」
「全弾の射出を確認したっす」
前面から発射された有線小型ミサイルが、ロジアッツの速度に自身の推進力を上乗せする形で加速していく。
「有線、切断」
「全弾の切断を確認っす」
パルデュス自体が小型だけに推進剤は間違いなく途中で切れるだろうが、その時にはもう、早々、簡単には捉えられない速さに到達しているはずだ。もしも、一発でも敵艦に当たったとすれば、大物でも大打撃……いや、撃沈は間違いないだろう。
「次、キャニス発射の座標位置を通るよう、調整を開始したっす」
「おお、仕事が早いな、デファン」
「いや、褒めるのは後でいいっすから、まずは発射準備を」
「はいよ」
パルデュスの時と同じく、ロジアッツが発射座標位置を通るよう、再び、細かく制御バーニアが吹かされる。
「よし、軌道、軸、両方とも乗ったっす」
「よくやった。発射まで一分だ」
安全措置を外して、ロック・オンなし……座標位置まで後二十秒……十五……十……五、四、三、二、一、発射!
「キャニス、大、小共に、全弾発射した」
「大、小、各四発の発射を確認っす」
流石に大型に関しては、拠点攻撃用だけあって、噴出する推進力というか、迫力そのものが違うな。
「……こちら、レナです。ミサイル全弾の発射が終了しました。不良品のパルデュスも乗せておくのは怖いので、ハードポイントからパックを取り外して、地球に落ちるように投げておきました」
「わかった。……一応、そいつに関しては、俺達が当たらないように予定コースを出して送ってくれ」
「わかりました」
さて、当たるも八卦当たらぬも八卦、ってわけではないが……どうなるかは、結果をご覧じろ、だな。
「当たるっすかね?」
「うーん、全弾外れってことの方が可能性が高いし、当たればいいかな、って気持ちの方がガッカリしなくていいと思うぞ、俺は」
「そうっすね、運が良ければって……一、三、四、六……、七、九って……なんか九発も爆発したっすよ?」
「あちゃー、こりゃ、デブリにでも当たったかな?」
これは気付かれたかも……いや、ここは楽観で行こう。
さっきも考えたけど、ここまで来たんだし、今更、後戻りもできないしな。
「……まぁ、こういうこともあるさ。それよりも、こっちの減速や軌道変更、他にもロジアッツとの接続ケーブルを外すこともあるからな、しっかり頼むぞ?」
「当然っすよ。ケーブルを接続したまま、あの世まで引き摺られていく趣味はないっす」
「俺にもないさ」
……敵艦隊に動きは見られず、か。
「敵に動きがないところを見ると、気が付いていないみたいだな」
「そうみたいっすね。……これは俺の推測っすけど、地球に大量に散布されたニュートロンジャマーで観測機器の能力が大幅に低下しているんじゃないっすかね。ついでに言えば、対峙しての睨み合いの真っ最中で、神経は正面のクルーゼ隊とかにいっているはずっすから」
うん、その可能性はあるな。
ついでに言えば、俺達は双方の艦隊の上方、仰角方向から攻撃を仕掛けている面も影響しているはずだ。
それでも、連合軍艦隊がこちらに注意を向けないかとドキドキしてしまうのは仕方がないことだと思う。
その後は、この辺りで一番の重力源もとい地球への激突コースから、地球の大気に弾かれる角度で連合軍艦隊側面へ突入できるようにするべく、大きな螺旋を描くよう、大幅に軌道修正するために、姿勢制御バーニアでロジアッツの推進方向を様々な方向に回転させ、メインやサブのスラスターを噴射させることによって加減速を繰り返す。
この軌道変更と減速の際に、スラスターやバーニアの噴射タイミングには辟易とさせられたが、何とか、旋回が完了し、突入軌道に入る事が出来た。
だが、ホッとしたのも束の間で、その時にはモニターで米粒ぐらいの大きさに敵味方双方の艦艇が判別できるようになっており、同時にミサイルが到達する時が迫っていた。
第一陣が到達する時間かな、なんて考えていた所に、レナから通信が入った。
「先輩、味方部隊よりスラスター光を確認しました。MS隊の出撃ではないでしょうか?」
事前情報で確認していたのと変わらない位置に存在していたクルーゼ隊や他の戦隊の艦艇から、青白い光が幾つか散見できた。それに応える形で連合軍艦隊からも、MAのスラスター光らしき光が見え始める。
「…………ああ、そのようだな、双方の出撃を確認した」
むぅ、このタイミング、ミサイルが到達するであろう時間に、結構合っていると感じるが……って、あれか?
ミサイルがデブリに衝突して発生した爆発光でタイミングを計ったか……或いは、複座型の二人が気を利かせたか、だな。
……まぁ、別にどちらでもいいけど、結構、上手いタイミングだとは思う。
「隊長、そろそろ、パルデュスの到達予定時刻です」
「よし、ここは単純に爆発光の数で確認しよう」
はっきりと見えないんだ、大体でいいよ、もう。
「……先輩、爆発光を複数確認しました」
モニター内で、球状の爆光が五つ程、断続的に発生しては消えていった。その直後から、艦が破壊された際に生じたデブリや破壊された船体が地球の引力によって落ちていくのか、夜の地球を背景に赤い輝きが幾つも見え始める。
「爆発光は全部で五、確認できたっす」
「二十一発撃って、六発がデブリでアウト。残り十五発のうち、五発も命中したなら、十分過ぎるだろう」
超長距離から撃って、誘導がまったく効かないのに命中率が20%を越えるなんて、こりゃ、コース計算したロベルタを大いに褒めてやらないと……。
「隊長、続いて、キャニス、十三発が到達します」
「ああ、さっきと同じように確認する」
……む?
二つ程、大小の光が立て続けに発生した後、更に二つ、大きな爆光が確認できた。
「キャニスは、迎撃されたのか?」
「いや、四発のうち、迎撃されたのは一発だけっす。迎撃の火砲が偶然、当たったみたいっすね。で、最初の一発は150m級に命中、残りの大型二発は、250m級二隻に命中したっす」
……ほんの一瞬の事なのによく判別できたなと、デファンを感心するしかない。
「いや、本当なら、この二発は……足つきと300m級への直撃コースだったんっすけどね。……沈んだ250m級がパルデュスの弾着からキャニスの弾着までの僅かな間で、即座に反応して遮ってるあたり、錬度、高いっす」
「……嘘だろ? 自分の艦が沈むかもしれないのに……庇ったっていうのか?」
「まぁ、俺の憶測っすけど、二隻も同時に動くとなると、多分、それが正解だと思うっす」
マクスウェルが呆然と呟いた言葉にデファンが応えたので、俺も口を挟む。
「マクスウェル、今のを見たら、ナチュラルってだけでは侮る理由にはならないって、俺が普段から言ってる理由がわかるだろ?」
「……ええ、今の行動を見て、初めて隊長が言っていた意味がわかりました」
まぁ、あそこまで、実際に行動できるのは、相当に珍しいと思うけどね。
味方を守って散って逝った敵に、その勇気と献身に、自然と敬意の念が浮かんでくるが、自らが為した事でもあるし、これから横腹に突入して、更にかき乱すのだから、今は不要と心底に押し込める。
それよりも、状況の把握が先だ。
「先輩、味方のMS隊が迎撃に出たMAを排除したようです」
「……どうやら、MAはそんなに出せなかったようだな」
ミサイルによる突発的な奇襲を受けたために指揮系統に混乱が生じたか、はたまた、デブリが撒き散らされたために危険と判断したか、或いは、更なる攻撃を警戒してのことなのかはわからないが、連合軍艦隊がMAの射出が中断したようなのだ。
本当に、このタイミングで出撃の断を下したラウを賞賛するべきだろう。
あの決断力を俺にも分けて欲しいなぁ、なんて考えていたら、我を取り戻したらしいマクスウェルがしっかりとした声で俺に告げる。
「隊長、ロジアッツのケーブルを切り離す時間です」
「ああ、ケーブルの接続を解除する。それと、さっきの旋回中にも話したが、地球の引力に足を捉まれないように、機体高度や座標のチェックを忘れるなよ?」
「「「了解」」」
さて、長らくお世話になったロジアッツとも、これでお別れだ。
「デファン、ぶつける目標の選定は済ませたか?」
「とりあえずは、250m級にしたっす」
「わかった。……同じタイミングで跳び立たないと、コースがずれるからな、気をつけろよ?」
「先輩……俺のことよりも先輩自身が上手く出来るか、気にして欲しいっすよ」
「……お前、最近、口が達者になってね?」
「いい見本がいたっすからねぇ、たぶん、その人に似たっすよ」
誰だっ、その口が達者な奴は!
余計なことをデファンに吹き込みやがって!
「さて、カウントに入るぞ」
「……見本が誰なのかに関しては無視っすか?」
当然っ!
「速度を生かして、無反動砲を撃ってから、敵艦隊を突っ切るぞ! 敵艦と衝突なんて、下手をうつなよ?」
「「「了解!」」」
三人の返事を聞いて頷いている間にも、敵艦隊が晒している横腹がモニター内で、あっ、という間もなく大きくなる。
「3、2、1、行くぞっ!」
「了解っ!」
ほぼ同じタイミングで俺とデファンはMSをロジアッツから跳びたたせる。右斜め後方に占位していたレナとマクスウェルもまた、うまく跳びたてたようだ。
劇的なまでに急速接近してくる250m級や150m級の群に向けて、立て続けに無反動砲をぶっ放し、ついでに弾が切れた無反動自体も適当にあたりをつけて、放ってみる。
「撃ってきたっ!」
「ミサイルを、撃って来ないだけ、マシと思えっ!」
誰の声かと判別する余裕がないまま言い返し、大小の艦艇群と僅かに撃ち放たれた近接火砲、加えて、地球に落下しつつあるデブリの間を、突き抜けた。
……。
後追いの砲弾が飛んでこないところを見ると、こちらに構う余裕はないようだ。
息が抜けると同時に、艦隊を突き抜けた際に、よくぞ何モノにも衝突しなかったものだとも感じて、どっと冷や汗が流れ出てきた。
「皆、生きてるか?」
「マクスウェル、なんとか無事です」
「私も大丈夫です」
「こちらデファンっすけど、先輩……生きてるかはないっす」
俺なんて心臓が今更、バクバクと音をたてているのに……、余裕があるな、デファン。
「よし、皆無事だな。今から、推進方向を仰角に変更して……」
「隊長、この速度なら一周した方が早くないですか?」
むっ、それ、いいかも……。
「マクスウェルの意見を採用、といいたいんだが、戦闘はまだ継続しているし、引き返すぞ。……正直、地球観光しながら一周回っていうのも、魅力的なんだがなぁ」
去年の4月と比べても、夜側に人工の光が見え始めてるから、見てみたいんだけどさ。
「……いえ、隊長の言う通り、確かに戦闘中でした。ここは単純に反転して戻りましょう」
「なら早くしないと駄目っすよ。……結構、離れたっすから、急がないと」
「ああ、そうだな。全機、推進方向を制御して高度を稼ぎ、その後、機体を反転させる」
「「「了解」」」
……なんて言ったけど、正直に言うとね、俺の中では、戦闘はもう終わってるのよ。
機先を制して混乱させたし、ザフト屈指のエースであるラウがいるんだから、確実に勝ってる筈だしね。
……。
地球を足元に十分に高度を取ってから機体を反転させると、遥か遠方の戦闘宙域がメインモニターに映った。
爆発光がまだ確認できるが、それも数が少ない。
それよりも、戦闘宙域下部で発生している赤い輝き……数多の赤い光が軌跡を描いて、断続的に地球に降り注いでいることに、気を取られてしまった。
……おそらく、戦闘で発生した残骸や破片が、大量に大気圏に落下しているのだろう。
不謹慎だと自身でも思うのだが、俺には、それがまるで、夜空を彩る流星群のように見えた。
「よし、クルーゼ隊との合流を目指すぞ」
「……了解です」
「……はい」
「……わかったっす」
……俺以外の三人も、あの流れる赤い輝きに何かを感じたのかもしれない。
そんなことを思いながら、MSを戦闘宙域へと向かわせた。
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