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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
45  冬の艦隊流星群 3


 12日から13日に日付が移行する時分、戦隊は、連合軍艦隊に関する情報収集と選抜隊の航路誘導、そして、クルーゼ隊と通信をリンクさせることを目的に、エアーとバッテリーを脚部ハードポイントに追加させて、大幅に活動時間を伸ばした複座型を射出した。

 この複座型が収集して送ってくる情報はCICや索敵に回され、管制官達の分析や解析を経て、戦隊が様々なことを判断するための重要な材料となるのだ。

 ……なんて、したり顔で考えているが、俺は判断以外には特に関与せず、他のお仕事は全て、艦長や副長、各班長にお任せしているのが現実である。

 げふげふ。

 さて、俺は今、選抜隊として、後少しで出撃する他の三人と共にMSに搭乗して、待機している。機体の周囲をノーマルスーツを着用した整備班員が上下左右に行ったり来たりして、機体やロジアッツに不備がないか、最終確認をしてくれている。
 こういう縁の下の力持ちがいるからこそ、MSなんて整備が面倒で運用が難しいものを動かせるのだ。だからこそ、MS乗りは整備班員達に、普段から、感謝と敬意をもって接しなくてはいけない。

 ……話が逸れた。

 今回の出撃に使うロジアッツは二機ともエルステッドに搭載されているため、俺とレナがそれぞれに乗って射出されることになる。射出された後は、マクスウェルとデファンのハンゼン組と速度を同期させて、それぞれを裏面に拾っていく予定だ。

 今後について頭の中で確認していたら、ベルナールの顔がサブモニターに表示されて、状況を伝えてきた。

「隊長、発進予定時刻一分前です。ハンゼンの二機も出撃準備が完了しています」
「了解」

 では、そろそろ、動くか。

 見れば、周囲にいた整備員は、待避所に入ったのか、姿を消していた。

 ……流石はシゲさん、班員の安全管理がしっかりしている。

 なんてことを思っていたら、ブラックBOuRUがロジアッツを射出位置に機位を移動させて、カタパルトに接続、ロックしてくれた。礼のためにハンドサインで"感謝を"と示すと、ブラックBOuRUも手を振り返して、器用にも"幸運を"と示して見せた。

 小さな事だが、こんなやり取りが嬉しくて、口元が緩んでしまう。

「レナ、あんまり噴かして、整備の連中に迷惑をかけるなよ?」
「ふふ、先輩こそ、噴かし過ぎないように注意してくださいね」
「言ってくれるねぇ。……よし、射出位置に付いた。ベルナール、いつでも行けるぞ」

 ベルナールに呼びかけると、すぐに応答があった。

「了解です。……進路、クリアです。…………予定時刻になりました。出撃、どうぞ!」
「よし、ラインブルグ、シグー、IS1301、出るぞ!」

 ロックが外され、いつも感じるGと共にロジアッツが一気に射出された。


 ◇ ◇ ◇


 予定通り、俺の裏にデファン、レナの裏にマクスウェルを拾った後、一路、半面を青く輝かせる地球を目指す。当然、目的地に向かう間も暢気に寝ているわけではない。

 身体に負担がかからない様に、また減速で大量に使用する分も考えて、ロジアッツのメインスラスターや側面の補助ブースター、姿勢制御バーニアを少しずつ噴かして加速しているし、機体情報やロジアッツに異常がないかとか、ロジアッツ搭載のエアーとバッテリーと機体を繋ぐケーブルが正常作動しているかとか、予定している航路からずれていないかとか、複座型が収集して送ってくる敵の情報に変化がないかとか、航路上に大きなデブリが存在していないかとか、色々とチェックすることがあるのだ。

 今も定期チェックをしていたのだが、自身のチェックが終わって暇なのか、デファンが声をかけてきた。

「そういえば、久しぶりっすね。こうして先輩と一緒の行動するのって」
「ああ、そうだな。お前が小隊長になってからは、組んでなかったな」
「そうっすね。先輩の小隊にいた時は、確かに身体はシンドイ事が多かったっすけど、実は気楽だったんだなぁ、って、最近、つくづく思うっす」
「だろうな」

 役に付かない平隊員は、身体的には辛いものがあるかもしれないが、実は気楽にやれる部分が多いのだ。

「ほんと、責任者って精神的に疲れるッす。……俺、小隊長になってから、体重が3kg減ったっすよ?」
「はは。まぁ、お前はまだ、それで済んでるからいいけど、俺なんて戦隊長だぞ? もう、普段から胃がしくしくと痛くて痛くて、胃薬を手を離した日はないぞ」

 だから、せめて、後少し位は給料を上げて欲しい。

 幾ら、建前では義勇軍だからって、命を張るには安過ぎる給料だ。

「……今なら先輩の苦労が、よ~く、わかるっすよ」
「はは、なら、その苦労を軽減するために、ロジアッツの武装チェック、頼むぞ」
「うへっ、しまったっす」

 なんてデファンは言っているが、こいつは何気に真面目だから、しっかりこなすだろう。

 ……。

 そろそろ、先行している複座型から受信している情報だと、複座型にも接近してきているし、そろそろ通信が入ってもおかしくないが……もう少し、先か?

「うし、チェック、終わったっす。両側面のキャニス発射システム及び、前両面のパルデュス四パックの発射システム、全て正常に動いてるっす」
「了解。……レナ、マクスウェル、そっちはどうだ? 何か異常はないか?」

 俺達の斜め後方を付いてきているレナ達にも聞いてみる。

「ロジアッツと機体共に正常です」
「マクスウェルです。……パルデュスが一パック、システム不良です」
「ありゃ、接続にミスでもあったかな」
「いえ、どちらかというと、さっきのデブリベルトを通過した際に、小型デブリにぶつかった衝撃で狂った線が強いです」

 一応、このミサイルパックは少々のデブリに当たっても大丈夫なよう、頑丈に出来てるんだけど、今回は設計想定以上の高速で移動しているからなぁ。

 ……爆発しなかっただけマシと考えよう。

 でも……。

「速度、もう少し、落とした方がいいかなぁ?」
「先輩、少し落しましょう。……正直、こうもミサイルに囲まれていると怖いです」
「そうっすよねぇ」
「隊長、キャニスにデブリが衝突したら、マジでやばいと思うんですが?」
「ま、まぁ、ここはプラント驚異の技術力を信じようじゃないか!」

 お、俺は驚異の技術力を信じてるぞっ!

「……先輩、俺、まだ星になりたくないから、操縦をしっかり頼むっす」
「……ラヴィネン、一度当たってるんだから、今度はそんなことがないように頼む」

 ちょ、そんなプレッシャーかけんなっ!

「ううぅ、そんなことを言われると、ぷ、プレッシャーが……」
「れ、レナ、落ち着け! お前はやれば出来る子だっ!」

 作戦前から、ドカンっ! ……彼らは夜空を彩るお星様の一つになったのだ、では困る!

 何か、気を逸らすものはないものか、と考えていたら、通信を求める信号音が鳴り始めた。

「……あっ、味方機……複座型からの通信信号を確認したっす」
「こっちでも確認した。俺が出るから、操縦は任すぞ、デファン。ユー・ハブ」
「アイ・ハブ。任せるっす」

 デファンに命を委ね、俺は複座型との通信を繋げてみる。

「……あっ、ビアンカ、大丈夫みたい。向こうからも通信が繋がったよ」
「そうみたいね。……こちらスタンフォードです、聞こえますか?」

 フェスタとスタンフォードがサブモニターに顔を出した。

「ああ、聞こえている。こちら、ラインブルグだ。スタンフォードにフェスタ、情報はちゃんと受信できているからな。……初めての実戦任務なのに、これだけできるなんて、よく頑張ってる。偉いぞ、二人とも。この後もこの調子でやればいいからな」
「えへへ、隊長に褒められた」
「……ロベルタ、嬉しいのはわかるけど、今は報告しなきゃ」
「あっ、そうだった」

 なんか、えへへ、なんて笑うフェスタの幼い声を聞いていると、和むわぁ。

「んんっ、隊長、現状では敵艦隊に動きはありません。味方のクルーゼ隊ですが、増援の二個独立戦隊が到着したようで、現在DDMHが一、FFMが五、確認できています」

 DDMHってことは、きっと、クルーゼ隊の旗艦の【ナスカ級高速戦闘艦】ヴェサリウスのことだな。

「了解、通信リンクは?」
「戦隊とクルーゼ隊、共に通信リンクを維持していますので、いつでも通信可能です」
「……了解した。二人には、後少し進出してもらって、情報収集と通信ライン維持の傍ら、俺達の航路誘導をして欲しい。大変だろうけど、頼む。それと、常に周囲への警戒を怠るなよ?」
「「了解」」

 さて、エルステッドに通信を入れて、何か情報がないか聞いてみるか。

「エルステッド、こちら、ラインブルグだ。先行していた複座型と通信が繋がった」
「あっ、こちらベルナール、了解です」
「何か新しい情報はあるか?」
「はい、一つだけ、隊長にお伝えしたい事が……」

 ……こういう尻切れ言葉の時は、悪い情報が多いんだよね。

「何か、あったのか?」
「機動艦隊司令部から新しい情報が入りまして、予定されているプラントからの援軍が遅れそうなんです」
「援軍が遅れる?」
「はい、ボアズの宇宙港で大規模な爆弾テロが発生したそうです。出撃のために出港中だった多数の艦がそれに巻き込まれて被害を受けており、また、港湾開口部が半壊して閉鎖されています」

 おいおい、何もこんな時に……。

「犯人は?」
「はっきりとはわかっていませんが、港湾工事を受注していた工事関係者の線が疑われています」

 確かに、件の青秋桜系なのかまではわからないが、工事関係者に化けた反プラント、反コーディネイターのテロリスト或いは地球連合系の工作員が工事用船舶に爆弾を隠して持ち込んで、起爆させたって線が、可能性としては一番高いな。

 でも、軍事施設で爆弾テロって……普通はなぁ……。

 ……。

 これはやはり、プラント保安局の防諜能力が落ちているってことかな?

 年始に、保安局セプテンベル・スリー支部に所属していた時に世話になった上司……現在は、課長から大出世して、セプテンベル支部の支部長になっていた……と酒を飲んだ時に言ってたのだが、ザフトの地球侵攻後、保安局員がザフトの保安要員として支配地域に吸い取られてしまい、仕事がままならないそうだ。
 他にも色々と気になる情報を聞いたのだが、とにかく、どれもプラントの保安状況が悪化の一途を辿っていることを示すものばかりだった。

 猫の手でもいいから借りたいとは、支部長が保安局の現状を話し終えた時にこぼしたボヤキだ。

 ……。

 いや、今は援軍の話だな。

「それで、どれぐらい遅れる?」
「被害を受けた艦隊に代わって、ヤキン・ドゥーエ駐留艦隊に出撃命令が出ていますが、テロへの警戒も行われているため……おそらく当初予定より半日は確実に遅れるかと」

 後詰めがいなくなるってことは、より厳しい状況になるってことだが……今更、作戦を変更する気というか、賽は投げられている以上、やめることはできない。

「了解した。戦隊は予定通り、クルーゼ隊との合流を目指して欲しい、と艦長に伝えてくれ。俺達も予定を変更せずに攻撃を仕掛ける」
「了解しました」

 ベルナールの真剣な表情がサブモニターから消え、再びフェスタの顔が映る。

 ……さて、後は、ラウだな。

「フェスタ、今度はクルーゼ隊と通信をつなげてくれ」
「わかりました」

 ……。

「隊長、つなぎます」
「了解」

 サブモニターにパイロットスーツのラウが現れた。

 その姿に過去の情景が一瞬頭を過ぎる。

 実は、以前……まだL5宙域事変(仮)の時分だったか、ラウの奴が制服のまま、宇宙に出ようとしたので、口を酸っぱくして説教したことがあったのだ。
 いや、デブリ回収業を営んでいた父を持つ身なので、宇宙空間の危険性を十分に見聞きしているから、どうしても見過ごせなかったのだ。ほんとに、宇宙なんて危険地帯に出る時は、必ずパイロットスーツやノーマルスーツを着用するのは、常識……当たり前のことだ。

「おや、ラウさんや、もう出撃準備完了かい?」
「ふっ、奴があの艦隊……あの足つきにいるのでな……気が逸るのだ」
「……なんとまあ……俺は、ラウがそいつとぶつかる前に、自分とあたらないことを祈るよ」

 さて、戯言は終了。

「プラント……ボアズでのテロは聞いたか?」
「ああ、聞いている。……そうそう、都合良くいかぬのが現実だな」
「そうだな。俺も何でこんなことしてるんだろうって、よく思うよ」

 ほんとにねぇって、違う、今は真面目な話!

「俺達も順調にそちらに向っているが、搭載している通信機出力の関係上、途中で通信ラインが切れる。だから、そちらと上手く攻撃を同期させられる保証が出来ない」
「……ふむ。それはこちらが上手く合わせよう」
「すまんな」
「何、気にするな。では、頼むぞ」
「了解。また、後でな」
「ああ」

 ラウがサブモニターから消えて、複座の二人が映し出される。その二人の顔をバイザー越しに見て、ふと、自身の考えを一つ試してみることにした。

「フェスタ」
「はい?」
「複座型でロジアッツの航路誘導ができるなら、ロジアッツのミサイルも誘導できないか?」
「うーん……ジン用のミサイルは、外部誘導しようにもミサイル側にレーザー受信装置がありませんし、ロジアッツみたいに隊長達が制御できるわけでもないので、不可能です」
「……そうか」

 元々がMS用……有視界戦用に作られたものだから、仕方がないか……。

「あっ、でも、ミサイルの航路設定というか、前もって、どの位置から発射すれば、どこに行くかとかなら、計算できますよ?」
「なら、連合軍艦隊が位置する所を、全弾がほぼ同時に到達するように、狙えるのか?」
「はい、ロジアッツの速度と艦隊の速度が一定なら、計算できます」

 元々、ロジアッツの武装は側面攻撃を仕掛ける直前に大凡の位置で撃つつもりだったけど、仮に超長距離攻撃ができるかもしれないなら、面し……やってみてもいいかもしれない。

 ……ここは駄目元で頼んでみるか?

 いや、でも、命が懸かることでも、そもそもずっと艦隊があのままで……。

 ……。

 妥協案でいくか?

「フェスタ、加えて、万が一にも地球へ突き抜けないように傾斜角を深くとる必要もあるが?」
「はい、それも含めてです」
「……発射までの時間的猶予は軌道変更に入るまでになるが、それでも?」
「任せてください!」

 ここはフェスタを信じて、やってみようか。

「なら、頼む」
「はい、ミサイルの航路……発射座標位置を出し次第、通信で送ります!」
「……あ、それと、旗艦と新造艦をキャニスで狙いたいが……これもできるか?」
「う……、わ、わかりました、できるだけ、やってみます」
「はは、今のは冗談だよ、気にするな。……では、任せるぞ、フェスタ」
「は、はいっ!」
「後、スタンフォード」
「はい」
「俺達にミサイルの座標位置と俺達の予定航路を送った後も、引き続き、通信リンクの維持に務めてくれ。だが、戦隊が進出してきたり、エアーやバッテリーに不安を感じた場合は引き揚げても構わない」
「了解しました」

 うんうん、二人ともしっかりしていて、大変よろしい。


 ……。


 さて、予定地まで、後少しだ。

 そろそろ、頭の中を切り替えていくか……。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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