第二部 二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
43 冬の艦隊流星群 1
俺達の戦隊が二十四時間態勢で訓練を行っている間、幾つかの情報がプラントから入ってきた。
一つ目は、プラント防衛隊にいるユウキから得た情報で、L3に存在するオーブ連合首長国のスペースコロニー【ヘリオポリス】で、地球連合軍がMSの開発を行っており、そこをラウの隊……クルーゼ隊が強襲して、連合製のMSを複数機奪取したというものだ。
中立国であるオーブが地球連合のMS開発に場所を提供した、或いは協力したということは、オーブ元首であるアスハが宣言した『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』っていうオーブの"理念"に反する行いだ。
である以上、外交担当者には、精々、派手に突っついてもらい、貿易での何らかの譲歩……オーブから輸入している食料や資源関連で有利な条件をもぎ取るべきだろう、なんて考えていたら、後で付け加えられた情報で思いっきり噴いた。
クルーゼ隊が連合製MSを奪取した際に発生した一連の戦闘で、連合軍がコロニー内に新型戦艦を持ち込み、艦砲をぶっ放すなんて無茶をやって、コロニーが崩壊したというのだ。
コロニー内に戦艦を持ち込んで、さらに艦砲を撃つなんて、普通ありえないっていうか、無茶しすぎ!
そら、コロニーも崩壊するに決まってるよ。
しかも、それを為した戦艦はクルーゼ隊の追撃を振り切って逃亡し、行方知れずなんていう、とんでもない事態だ。
……。
最も、今回のコロニー崩壊で犠牲になった者には悪いが、世界樹や新星攻略戦で被害を受けたL4コロニー群とはケースが異なるため、"攻める"側のこちらだけが一概に悪いわけではない。
なんとなれば、コロニー崩壊……直接的な原因というか、真実や真相がどこにあるのかはわからないが、この崩壊の責任は、"攻める"ことになったこちら側だけではなく、"攻められる"要因を作った側、つまりは連合軍とオーブにも等しく責任があるからだ。
特に、オーブに関しては、先の国家元首が行った宣言と相反する行いをしている以上、自身の不誠実さが生み出した自業自得なのだ。
似たような立場に、非武装中立を宣言して、連合とプラント、双方に資源等を輸出している月面都市群のような存在だってあるのだから、不用意過ぎる行いとしか言いようがない。
……自己弁護ならぬ友人を弁護するための理論武装はこれ位にしておいて、とにかく情報戦で、中立国の破約と地球連合が行った非道なんて具合に、頑張って宣伝して印象付けないと駄目だと思う。
もしも、逆をやられてしまったら、ただでさえ、悪いプラントの印象がさらに悪くなってしまうからだ。
……とはいっても、仕事をしないので有名なプラ……ザフト広報局だから、おそらく、悲観的な予想、つまりはコロニー崩壊の責任は全てプラントにある、なんてことになるのは間違いないだろうな。
でもって、情報戦で負けた後、オーブに上手いこと利用されて、コロニー崩壊の原因はプラントにあるんだから、その責任を取れなんていわれて、連合へのMS開発協力を有耶無耶にされてしまうんだろうさ。
……。
広報局ぅーっ!
給料もらってんだから、その分の仕事くらいしろよっ!!
それとっ! 親玉のフク何とかってお偉いさんをさっさと更迭しろーーっ!!
……ふぅ、魂の叫びは置いておいて、通信で連合製MSについて概要だけ聞いたけど……結構、凄いみたいだ。
奪取できたのは開発されていた五機のうち四機で、それぞれ、汎用機、砲撃支援機、特殊戦機、MA可変機に位置づけられるらしく、それぞれに、なんと艦砲並の小型ビーム兵器が標準装備されているらしい。
まぁ、機体情報の詳しい所はプラントに帰ってから、ユウキに直接教えてもらうつもりだが、いやはや、連合軍がMSの開発に成功したということは、何とも、恐れていた事態が迫ってきているようだ。
だから、何とか、早い所、停戦に持ち込んで欲しいなぁ。
……今の状況じゃ、無理だろうけど。
で、次の二つ目、マスコミと国防事務局から得た情報なんだが……デブリベルトで安定軌道に乗ったユニウス・セブンの残骸で、追悼慰霊が可能かどうかの調査に出ていた非武装船舶が何者かに襲われ、同行していたクライン最高評議会議長の娘で、プラントでは"歌姫"と持て囃されているラクス・クラインが行方知れずになったということだ。
……とりあえず、俺はこの調査船を出すことを推し進めた奴と認めた奴に、大きな声で言いたい。
考える頭はないのかっ! どう考えても、馬鹿な事じゃないかっ!?
追悼慰霊という目的のためというは確かに立派だとは思う。
だが、何もこんな戦争状態である現状で送るもんじゃないだろう? そもそも、これを決定した奴は、今が戦争状態であることを本当に認識しているのか?
しかも、デブリベルトって言っても、静止軌道上にある地球連合の【アルテミス要塞】が影響力をそれなりに持つ上に……敵の勢力圏でもある地球に近い危険地帯だぞ?
それに上手い匂いを嗅ぎつけたら、不心得なジャンク屋なんて一瞬で海賊に転じるだろうし、連合軍に遭遇したら、こちらが通商破壊をしているように、プラント船籍を持つ以上は非武装だろうがなんだろうが関係なく撃たれるのは当たり前だろう?
要は、ちゃんと護衛ぐらいは連れて行けってことと、そもそも、議長の娘だろうが歌姫だろうが知らんが、重要人物なら、戦争中にのこのこと前線なんて危険地帯に出て行くなってこと!
現場で苦労する立場ということで、声を大にして言わせてもらいたいっ!
……ふぅ。
戦争は人の理性が弱まる異常な状態なんだ。
もう少しそのことを換算してくれよ、頼むから……。
んんっ、気を取りなおして、最後の三つ目は、訓練終了直後に宇宙機動艦隊司令部へ報告に行った際に聞いた、連合軍の月根拠地プトレマイオスから一個艦隊規模の艦隊が出撃したというものだ。
先のL4失陥に続いての出撃だっただけに、プラント防衛隊や宇宙機動艦隊は俄かに色めき立ったのだが、打ち上げられた方向や予測された航行軌道からプラントへの侵攻ではなく、L4への移動だと判断されたため、急速に萎んでいったのには、不謹慎だが、笑ってしまったものだ。
だが、翌日に届いた、月を出撃した連合軍艦隊の目的は我々が追撃している新型戦艦との合流かもしれない、とのクルーゼ隊からの報告によって、事態は再び動き出すことになった。
宇宙機動艦隊司令部が、L5宙域の地球方面を守る要衝として配置された旧新星……ボアズ要塞に駐留している艦隊に出撃準備命令を下したのだ。
その新型戦艦に、艦隊を動かして迎えに行く程の価値があるのかはわからない。けれども、現実に動いている以上は、何か意味があるのかもしれない。でも、それも確実とはいえないし……。だったら、ちょっと様子を見ようではないか。
そんな上層部の考えが透けて見える中途半端な命令だと思う。
……。
以上の三つが訓練をしていた二週間ちょっとの内に入ってきた大きな情報なのだが、そのうちの二つが連合のMS開発に関わることだっただけに、戦争の行方に関わる事態が進んでいることを感じさせた。
◇ ◇ ◇
2月12日。
戦隊は、訓練終了後に与えられた二日間の休暇を終えて、任務である地球-月航路の遮断作戦を再開するためにプラントを出撃した。まずは、L1拠点【世界樹の種】に向かい、現状の確認と最近の敵の動きを知るつもりだ。
いつもと変わらず、隊長としての日常業務を終えた後、艦橋に顔を出して、艦運営の邪魔にならない程度に、ゴートン艦長とL4の連合軍艦隊や連合製MSについて話したり、アーサーにあることないこと吹き込んだり、航法、索敵、通信の各担当管制官から現状に対する要望を聞いたり、ちょっと脱線して雑談等をしたりしている。
でもって、今は、MS管制官のベルナールと会話している。
「ベルナール、複座型からの通信状況はどうだ?」
「はい、通信ラインはしっかりと確保されていますよ。何か、レナや二人と話しますか?」
「いや、いいよ。予定だと、複座型が退避逃亡訓練をしているだろうからな。レナはともかく、二人に余計な通信に応える余裕は、まだないだろうさ」
「うふふ、レナが鬼になっての鬼ごっこですね」
「ああ、複座型の二人が、偵察任務中に敵に追い回される恐怖を少しでも味わってくれればいいんだけどな」
偵察機は情報収集するのがお仕事であって、敵に狙われたら、速やかに逃げてくるのが重要なんだよね。
「怖い鬼ですからね、きっとひっし……何、レナ?」
……何か、あったか?
ベルナールは、俺や艦長にも聞かせるためだろう、スピーカーを個人から艦橋全体に聞こえるように切り替えてくれた。
「サリア、先輩か艦長に、複座型が味方の援軍要請信号を捉えたって伝えてちょうだい」
「他に詳しいことは?」
「それはまだ……ええ、方向は地球方面で……発信元は……クルーゼ隊ね?」
……地球方面でラウの隊、ってことは……新型戦艦絡みか?
「ベルナール、レナに了解したと伝えてくれ。……後、訓練でエアーや推進剤の残量が心許なくなっているだろうから、訓練は一旦中止して、艦に戻ってくるようにとも」
「了解です」
ベルナールが通信に取りかかったのを受けて、俺もゴートン艦長の元へ跳ぶ。
「……艦長、どう思います?」
「情報が足りないね。他に何か情報がないか、プラントにも連絡を入れてみようか」
「そうですね。まだ、ここら辺なら通信中継衛星がありますから通信が届くでしょう」
「うん。……トライン班長、プラントの司令部に確認を」
「了解です、艦長」
しかし、あのラウが援軍要請ねぇ。
「クルーゼ隊が援軍要請を出すということは、それだけ手に負えない相手ってことですかね?」
「だとすれば、例のL4に入った艦隊が出張ってきたと考えられるね。……流石のクルーゼ隊も一個戦隊じゃ、一個艦隊を相手するのは不可能だろうからねぇ」
「ですよね。……それに、鹵獲できなかったMSがかなり手強いとも聞いています」
何しろ、あのクルーゼ隊に所属する歴戦のパイロットが、鹵獲できなかった新型MSに相次いで撃墜されたんだからな。
無精髭を撫でる艦長が中空に視線を彷徨わせるのを見ながら、出撃前の休暇に時間を作って、鹵獲MSの調査に参加したユウキに講義してもらった連合製MSの性能を思い返す。
連合製MSが装備していた強力な携帯型ビーム兵装も厄介だが、それよりも更に厄介なのがPS(Phase Shift)装甲なる代物だ。本当に、電気エネルギーを消費して装甲を相転移させて、物理衝撃を無効化するなんて、インチキめいたものなのだから笑えない。
ついでにいえば、なんとなく、前世で見た某有名SFロボットアニメに出ていたMSに似ているし……って、俺の個人的な意見は関係ないか。
「……ふむ、さっき話していた時にも言ってたね。そんなに手強いのかい?」
「物理攻撃を無効化する特殊な装甲を持っていて、実体弾が主体のジンではまず歯が立たないかと……」
「それはまた……頭が痛くなるねぇ」
「ええ。……もし、ジンでそのMSを倒そうとするなら、ひたすらこちらの攻撃を機体に当てて、その特殊な装甲に使うエネルギーを使い切らせてから落とすか、特火重粒子砲を至近距離で中てるぐらいしか、現状では方法はないみたいです。それに付け加えて、相手側はジンを一撃で落とせるビーム兵装ですよ?」
「へぇ、それはまた、相手にしたら、重労働だね」
「俺が管理職じゃなかったら、上役に文句言ってますよ」
おい、ふざけたこと抜かすなっ、仕事して欲しけりゃ、もっと使える武器を寄こしやがれっ、てね。
「でも、よくそんな機密になってそうな装甲に関する情報が手に入ったね」
「教えてもらった奴が呆れながら言ってましたけど、鹵獲した全てのMSのコックピット内に、どういう訳か本当にわからないんですが、御丁寧にも、MSの仕様書や操作説明書、それに整備マニュアル一式までもが入っていたそうですよ」
「……それは……また……何て言ったらいいかな?」
「この"大間抜け"め、でいいんじゃないですか?」
情報管理はしっかりやりましょう、っていうことを教えてくれる好例だよ。
「はは、言うねぇ。……そういえば、鹵獲したMSはクルーゼ隊が使ってるんだよね?」
「はい、機体に関する情報は"敵失"で全て手に入りましたから、データ収集のために、実機を使ってるみたいです」
「その機体は使えるの?」
「四機で残った一機すら落とせないという結果でみれば、正直、微妙かもしれません」
「確かに四機と一機じゃ……ねぇ」
でも、だからと言って、MSの性能が悪いとは一概には言えない。
「まぁ、その四機に搭乗しているパイロットが"下手くそ"だったとも考えられもしますが……乗っている全員が赤服らしいですから、ここは"ない"と考えましょう」
「と、すれば……敵パイロットが上手だったと考えた方がいい、ということだね」
「ええ」
ほんと、一人で四人と戦って退けるなんて、凄いことだよ。
そんなことを考えていたら、アーサーがこちらに跳んで来た。
「……艦長、ラインブルグ隊長も、よろしいですか?」
「ん、ああ。トライン班長、何かわかったかい?」
「ええ、司令部に確認したところ、向こうが把握している情報では、L4に留まっていた艦隊が例の新造戦艦と合流した後、地球軌道に進出したそうです。この動きから、新造戦艦が地球への降下を行うのではないかと考えたクルーゼ隊は、睨み合いによって行動を牽制して、膠着状態を維持しつつ援軍を要請してきたとのことです」
……それはまた、無茶なことしてるね、ラウの奴。
まさか、熱血が昂じてるんじゃないだろうな?
「アーサー、司令部はどう対応するって言ってる?」
「ボアズ要塞に駐留している一個艦隊に出撃命令を下したそうです。今日中には出撃できる予定、だそうです」
援軍の当てはあるか。
……。
「隊長、うちはどうします?」
「……俺としては、参戦するべきだと考えます」
「その理由は?」
「頑丈な家に篭っていた艦隊が、わざわざ地球軌道なんて危険地帯まで出張ってくれた以上は、……生かして返したくないですから」
「なるほど。……ですが、別にうちの隊が任務を離れてまで行く必要もないとも考えますが?」
「戦いは本来、数がモノをいう世界ですから、たとえ少数であったとしても、数の追加は必要だと思います」
「……了解です。では、基本、クルーゼ隊との合流を目指し、参戦するという方向でいきますか」
「ええ。後、もうすぐレナ達が帰艦するはずですから、その後、戦隊の戦闘部門会議を開いて、今後の動きについて通達しましょう」
「了解。トライン班長、ハンゼンや副長にそのことを伝えてちょうだいな。それと地球への針路変更もね」
「アイ、艦長」
うーん、会議前に、ラウにどういう状況なのかを直接聞いておきたいな。
「アーサー、クルーゼ隊に通信は繋がるか?」
「……何とかやってみせます」
「頼む。……繋がったら、会議室に回してくれ」
「了解です、隊長」
アーサーの力強い返事を頼もしく感じつつ、俺は艦長に一言声をかけ、先に会議室に向かうことにした。
機動戦士ガンダムSEED、放送開始でございまする。
※以下は修正履歴等
11/02/06 サブタイトル表記を変更。
11/09/13 誤記修正。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。