ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
40  年末年始の骨休め 3


 1月も中頃を過ぎ、戦隊再召集……任務再開に向けて身体を鍛え直す日々を続けていたら、親父名義でまた物が届いた。

 今度も大物の上、数が複数だったりするのだが……どうやって、この戦争なんて非常の時に、何事もなく無事に届けているんだろうか?

 大いに興味をそそられてしまう事象だから、一度、調べてみてもいいかもしれない。

 まぁ、戦時における宇宙運輸事情の考察は後回しにして……。

 俺は今、セプテンベル・スリーの宇宙港に上がって、緑とクリームの二色で塗装された船体にデフォルメした黒犬をマーキングした200m程の貨物船から積荷が降ろされるのを確認しながら、受領証にサインしている。


 届いた代物、まずは、誰の趣味なのかは知らないが、赤色……よりも更に濃い深紅に塗装されているBOuRU……シンクなBOuRUが一機。
 こいつもまた、以前のブラックBOuRUと同じく、型番である【BW-00F-937PS】から、クサナ……少し捻ってクシャナと名付けて、ハンゼンのMS格納庫に放り込み、MS整備班に運用を委ねるつもりだ。
 なにせ、ハンゼンMS整備班の連中はエルステッドMS整備班が弄り倒しているブラックBOuRUを、以前から、事ある度に、非常に羨ましそうに見つめていたからなぁ。
 これでBOuRU導入を求めるハンゼンMS整備班員達から大量に送られてくる、熱過ぎる要望メールもなくなってくれるはずだ。


 で、もう一つというか、もう一種類は……まな板……じゃない、シャックリ……でもないな、……ゲッターッ! でもなかった、……グゥル? って、ザフト地上軍が使ってるMS輸送支援飛行機だから……、えーと、あーと、うーと、た、確か………………そう! サブフライトシステム! ……だったような?

 ……。

 と、とにかく、それらしいものが二つ届いたのだ。

 ……でもねぇ。

 いや、確かにね、一昨年に、前世の記憶と今現在の実践とを併せて、MSを運用する時にこういうものがあったら便利じゃね、なんて感じで構想を書いて送ったけどさ、いざ、モノが実物になって届くと扱いに困ってしまうもんだよ。

 とはいえ、一応、このサブフライトシステム(仮)の設計及び開発を担当したパーシィが書いた説明書を読んでみた。

 それによると、正式名称は、【RSS-021】長距離侵攻補助推進システム(Long Distance Invasion Assistance Thruster System)で、呼略称はロジアッツ(Lodiats)になるとのこと。そして、俺の所に届けた二機のロジアッツは、MSでの実機運用試験用の試作型【RSS-021(X)】に相当するそうだ。

 丁寧にもロジアッツの開発来歴を書いてくれているので読み進めると、このロジアッツなるもの、元々はラインブルグ宇宙造船(RSS)が造っている【RSS-02C型】という、建設資材やBOuRUを建設現場に運ぶのに使用している上下両面使用型カーゴ付小型運搬船をベースにしたものらしい。
 この小型運搬船に改装と改造……荷台部分にあるデブリ避けのカーゴを上下面ともに取り払って、MSが正座ないし両膝立ちして搭乗するスペースを確保し、また、取り払ったカーゴ部を、追加放熱板やMSの足掛り、MSのマニピュレーターを使用して固定するための取っ手等々に再利用、再加工して取り付ける等の作業を加えて、ロジアッツの土台に仕立てあげたそうだ。

 中立国オーブにいる一技術者に過ぎないはずのパーシィが、何故、MSのサイズを知っているのかと考えてみたら……第一次ビクトリア降下作戦で連合軍にジンが鹵獲されているだろうし、宇宙、地球を問わず、各所での大小規模の戦闘が起きている以上、当然、戦闘で多数の損傷機や破壊された機が戦場に遺棄されているだろうから、そのあたりから情報を手に入れたんだろうとあたりを付けた。

 話を戻して、ロジアッツの推進システムにも燃料効率や継戦能力の観点から少し改造を加えて、より少ない推進剤でこれまでと同等の運用を可能にし、同時に、より細やかな姿勢制御を実現させて柔軟な運動性を確保するために、改造前から使われていた姿勢制御用バーニアの出力増強に加えて、新しく幾つかの小型バーニアを取り付け、総合姿勢制御システムもMSの重量や形状に対応できるように組み直してみた、とも書かれていた。

 ……BOuRUの時と同じく、相変わらずの改良ぶりである。

 付け加えて、より遠くへより早くという元のコンセプトから、強力な機動力を手に入れるために、本来は使い捨てにされている安物の打ち上げ用ブースターを上下面の左右舷に一本ずつ配置にして、計四本取り付けたともあった。これによって、瞬間的な推力を大幅にアップさせ、宇宙での移動距離と速度を稼ぐとのことだ。
 しかしながら、ロジアッツを使用することでより遠くへ足を延ばせたとしても、今度はMS側のバッテリーやエアーが不足するなんて問題が出てくることになる。
 そこで、ロジアッツ船体内部に元からある大型のバッテリーとエアータンクから接続ケーブルでもって、MSと連結することでこの問題をクリアするとあった。
 けれども、これも進む時だけの時間稼ぎにしかならないから、運用方法で何らかの対策、或いはMS側の改良が必要ではないか、との提言も書かれていた。

 ……うーん、パーシィの提言通り、このあたりは運用側で解決策を考えないと駄目だろう。

 そして、最後に、ロジアッツを運用するために必要な操縦系は、無線あるいは有線による接続によって、MSからの操縦できるようにザフトで使用している規格に合わせているが、MS側の操縦系がそれに対応できるようにするのは、そちらで何とかして欲しいと書かれていた。

 まぁ、このあたりはシゲさんに頼んで、何とかしてもらおう。シゲさんというか、うちの整備班の連中なら、こういう問題を嬉々として解決しそうな感じがするし、楽しんでやってくれるだろう。それに、パーシィの設計なら絶対に余裕を持って作っているはずだし、少々の改造や装置の増設なら可能なはずだしな。

 他にも操縦席部分を残しているから有人での運航も可能、って書いてあるし、もしもMSで運用できなくても、元の用途や、別の用途があるかもしれない。


 ……あれ、何か、こうやって考えてみたら、これ、使えるかもしれないような気がしてきたぞ?


 とりあえず、戦隊の再召集日までは、ここの宇宙港の倉庫に預けておいて、召集後に引き取りに来るか。


 そんなことを考えつつ、これらの物品を預ける手続きのために港湾事務所へ向かおうとしたら、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

「ふむ、このBOuRUの赤は……人の精神を熱く沸き立たせるものがあるな」
「ん、あれ? ラウか?」
「ああ、久しぶりだな、アイン」
「おお、こうやって直接会うのは久しぶりだ、うん、その顔を見るに、元気にやってるみたいだな」

 ……えっ、あれ?

 俺、ラウと会う約束なんてしたかな?

 なんて疑問が顔に出てしまったのか、白服姿のラウはニヤっと小さく口元を歪めると理由を話してくれた。

「なに、私が乗っていた連絡船がここに寄航した際に、この赤いBOuRUがちらりと見えてな、思わず降りてしまったのだ」

 さ、流石は、燃え派だっ! と声を大にして言わざるを得ない。

「ふっ、ふふふっ、この血潮が熱く滾り、魂が燃え上がるような赤ぁ! 実に、BOuRUの野性味や凶暴性をよく引き出していて、素晴らしい出来ではないかっ!」
「そ、そうか」

 お、俺にはあんまりわからん世界だっ、ていうわけでもないが、……なんか、今日のラウは、今にも、大きく口を開けて……。

 Aー、HAッHAッHAッHAッ!!!

 ……ってな感じに、笑い出しそうな勢いがあるぞ?

「……ラウ、何か、良いことでもあったのか?」
「ふ、ふふ、アイン、わかるかね」
「ああ、今にも鼻歌を歌いだしそうな雰囲気だ」
「……流石に鼻歌は歌わぬが、確かに機嫌は良いな」

 うん、やっぱり、ラウの奴、珍しい事に心浮き立ってるようだ。

「この素晴らしく燃えるBOuRUと出会えたこともあるが……」
「あるが?」
「アイン、月のグリマディで、忌むべき血筋……私と同じ血を引く者と、敵として再会できたのだよ」
「! そりゃ驚いた……そんなことがあるんだな。……って、どうやってそんなこと、わかったんだ?」
「……感覚だ」
「……感覚ですか?」

 え、それほんとに?

「勘違いって事はないのか?」
「いや、絶対に勘違いではないだろう。……私が奴に気付いたように、確かに、奴もまた、私に気付いていた」
「……戦闘中に、ラウも向こうも互いが互いだって、気が付いたってことか?」
「ああ、そうなのだよ、アイン」

 おいおい、それが本当なら、凄いことだぞ。

「まるでテレパシーみたいだな」
「……どうやら私と奴に流れる血によって、感覚が吸い寄せられるらしいな」
「それって、もしかして、魂レベルで引き合うというか繋がっている、ってことじゃないか?」
「……ふむ、魂か……案外、そのような表現も熱くて良いかもしれぬな」

 ラウが真剣な顔で思案し掛けたが、構わずに話を続ける。

「……それにしても、難儀な感覚だよな、互いの存在がわかるってさ」
「ふっ、だが、その感覚は、私にとっては都合が良いな」

 ああ、もう、ラウめ、その相手に恋焦がれているみたいに、本当に嬉しそうだ。

 ……って、都合が良い?

「そいつ……落としたんじゃないのか?」
「いや、落とせずに痛み分けたよ」

 な、なにぃぃぃっ!

「う、嘘だろ? ラウが落とせなかったってのか?」
「……ああ、ゼロ型に乗った奴は、私と戦いつつ、私の目の前でジンを五機、立て続けに撃ち落として魅せたよ」
「ご、五機ぃぃぃっ!?」

 ラウと戦いながら、立て続けにって、おぅい!

 ゼロ型に乗っているとはいえ、そりゃ凄腕じゃすまんだろ!

 エース・オブ・エースを名乗れんぞ、そいつ!

「はぁ、そりゃ、ラウの好敵手って奴だな」
「……そうだな、奴は私にとって、自らの手で倒すべき好敵手だ」

 な、何か、ラウの背後でメラメラと小宇宙のようなオーラが燃え上がって見える気がするよ。

 ……というか、ラウって、こんなに……ここまで熱い奴だったっけ?

「偶然だろうが必然だろうが、神でも悪魔でも、運命の悪戯でも構わぬ……ただ、奴と戦場で引き合わせてくれたことには感謝したいものだ」

 は~、そうですかぁ。

「すまぬな、長々と話してしまった」
「いや、別にいいさ。ただ……」
「……ただ?」
「そいつを他の誰かに落とされないように、気をつけろよ?」
「ふっ、奴はこの私以外には落とせんよ」

 お、おふぅ、こ、これは、まさに己が世界の主役である、世界は我のもの、なんてレベルの発言だっ!

 し、しかも、それがまた、サングラスの影響か、クールさが前面に出て、二枚目の魅力溢れるラウに似合ってるじゃないかっ、ちくしょうめっ!

 対して、我が身を省みるに……………………ふ、ふふ、最早、嫉妬どころか虚ろに笑うしかないよなぁ。

「……なら、頼むから、俺とそいつが当たる前に落としてくれよ?」
「さて、それはわからぬな」

 って、おいおい、ニヤリと笑うなよ、こっちは切実だっての……。

 久しぶりに見たラウのニヤリ笑いにどう突っ込もうかと考えていたら、宇宙港の人の流れが、俄かに慌ただしくなった。

「ふむ、そろそろ、連絡船が出る時間か」
「ああ、そうみたいだな」

 ……思いがけない再会だったが、中々楽しめた。

「……ではな、アイン。また、会おう」
「ああ、またな、ラウ」

 軽く手を挙げたラウに対して、俺は軽く手を振って見送る。

 ……。

 なんか、訓練校で初めて会った時からは想像できないくらいに、ラウの奴、変わったよなぁ。


 そのうち、"沈着冷静"じゃなくて、"情熱に溢れる熱血"になってしまうかもしれん。


 むむ、これはこれで……似合いそうで似合わないような、似合わないようで似合いそうな?


 ……。


 馬鹿考えてないで、今日は保安局時代の上司と飲む約束もあるし、さっさと倉庫に荷物を預けよう。


 休暇も残り一週間だし……しっかりと身体を鍛え直して、精神を休めとかないとな。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。