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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
36  群狼の雄叫び 4


 12月13日。
 俺達の戦隊は捕捉した地球からの輸送船団に、今回の任務では最後となる七回目の襲撃を仕掛けるべく、出撃準備をしている。
 この襲撃を最後にする理由、それは9月の任務開始より三ヶ月以上が経過していることから、乗組員に里心がつくと言うか、見た目よりもストレスが溜まってきているためだ。

 たかが三ヶ月位の任務で軟弱な奴等だ、なんて嫌味を機動艦隊司令部から言われるかもしれないが、幾ら休憩する場所があり、休む時間も設けているとはいっても、戦闘やそれに順ずる待機状態が多いとなると、不満が溜まるのも仕方がないことだろう。

 実際、自身の体験でも、戦闘で生死の境目に立つ……死の恐怖に直面する程、ストレスになることはないのは確かだ。

 よって、今回の襲撃後、任務を一時中断して、プラントに帰還することにしたのだ。

 後、付け加えれば、隊長の責務から来るストレスもあって、俺の胃がやばいことになっていることも、帰還を決めた一因だったりする。


 ……無重力状態によって、筋力や骨が弱体化するのを抑える薬が胃に優しくないのがいかんのです。

 なんて、俺の愚痴は置いておくとして……。


 ザフトによる度重なる連合船籍の商船や輸送船団への襲撃を受けて、連合軍はこちらが通商破壊を行っていることに気が付いたらしく、船団に付ける護衛戦力が徐々に大きくなり始めている。
 具体的に言えば、どんな小さな船団でも、強力な火砲と堅固な防御力、それに機動戦力となるMAを有して、防衛の要となる250m級が一隻以上、ミサイルの改良で手強くなった150m級も四隻以上、必ず……そう、必ず、張り付くようになったのだ。

 まったくもって、数を揃える事ができるからこその業である。

 こうして数の利を活かした連合軍が本腰を入れて護送船団方式へと切り替え始めた以上、これを潰す労力は並大抵のことではなくなってしまった。
 実際、戦隊の幹部会議や世界樹の種での白服……戦隊長会議でも、今以上に通商破壊にあたる部隊を投入し、かつ、それらの部隊の連携が密にならなければ、通商破壊の効果は薄くなるだろうとの意見……というよりも結論が出ている。

 まぁ、プトレマイオス基地から艦隊戦力を引き摺り出した……つまりはプラントへの圧力を少しは減じることが出来たという点においては、評価できると思う。


 で、今回、俺達の襲撃目標である輸送船団なのだが……。


 双胴型輸送艦が16、250m級が1、150m級が12、機動戦力としてMAが最低でも10という、中々に豪華な面子が雁首を揃えている。
 正直に言えば、こちらのMS隊が全力出撃しても敵輸送船団の方が戦力的に優勢なことに加えて、他の戦隊が世界樹の種に補給に戻っており、波状攻撃を形成できないため、見送ってもいいかなとも思ってはいた。
 けれども、こちらが本気で通商破壊を狙っているんだぞ、ちょっとした戦力でも積極的に仕掛けてくるんだぞ、なんてことをアピールするためには必要なことだと割り切り、取り逃しが出てもいいから、攻撃を仕掛けることにしたのだ。

 これもまた先に挙げたように、航路防衛のために月の連合軍一大拠点であるプトレマイオスからより一層の艦隊戦力を抽出させて、少しでも月からプラントにかかる圧力を減らすためだ。多少の危険は我慢しないといけないだろう。

 そんな訳で、今回の襲撃では、戦力的にも厳しい事もあり、MS隊は予備戦力を残さず、最初から全力出撃する予定だ。
 その際のMS隊の編成だが、MS隊を迎撃に出てくる機動戦力の排除及び拘束、対艦攻撃隊の援護を担当する護衛隊……俺とレナ、デファン小隊と、無反動砲とパルデュスで爆装し、対艦攻撃を仕掛ける攻撃隊……マクスウェル小隊とリー小隊とに、役割を分担することにした。


 で、作戦概略はこうだ。

 護衛隊が敵迎撃隊を拘束している間に、攻撃隊は敵護衛艦艇への対艦攻撃を行う。

 護衛隊は敵迎撃隊を撃破に成功した場合、攻撃隊を援護する。

 敵護衛戦力を排除したら、じっくりと輸送艦を始末する。


 本当に、何ともわかり易いと自画自賛できる作戦だと思うが、……単純化し過ぎている気がしないでもない。


 まぁ、実際には作戦通りに行く保証はないため、その場その場で臨機応変に対応していくしかないだろう。


 ……。


 実は、先の方法以上に楽な方法もあるにはある。

 他の大きな戦力……250m級にも匹敵する強力な艦砲を持つエルステッドやハンゼンを攻撃に参加させるのだ。

 もしも、この二隻を攻撃に組み込めば、強力な支援攻撃を期待できるし、強力な一撃でもって敵艦艇の排除もやりやすいのは明らかだ。
 だが、艦艇を攻撃に参加させれば、万が一と言う言葉があるように、アンラッキーというか、敵艦艇の錬度が高かった場合、こちら側が沈められるという可能性も出てくる。
 元より人が生きる生存環境ではない宇宙では、母艦をやられるのが一番怖いという考えが俺にはあるため、到底、許容する事が出来ず、攻撃への参加は見送っている。

 この旨を戦隊の幹部会議でも話して、全乗組員にも通達しているんだが、それでも納得がいかないのか、中には俺達も戦闘に参加させろなんて直訴メールを送ってくる血気盛んな連中がいたりする。

 ……気持ちは汲むが、その際のリスクを低減させる方法もちゃんと考えて書き送ってください、というのが、俺の本音だ。


 ◇ ◇ ◇


「よし、MS隊、出撃する」
「了解しました。……戦隊MS隊の出撃シークエンスを開始します。隊長、発進位置にどうぞ」

 ゆっくりと慎重に、発進位置へシグーを進ませる。

「隊長、敵船団の動き、依然として変化はありません。どうか、ご武運を……」
「ありがとさん、ベルナール。その綺麗な声で、皆にもそう言って励ましてやってくれ」
「ふふ、了解です。……進路クリアです、出撃どうぞ!」
「了解! ラインブルグ、シグー、IS(Independence Squadron:独立戦隊)1301、出るぞ!」

 いつもと同じく、リニアカタパルトによる急加速でもって射出されると、すぐさま進路を敵輸送船団に向ける。遠望した感じ、ベルナールが言った通り、まだこちらに気が付いていないのだろう、動きに変化は見られない。

「先輩、編隊位置につきました」
「了解。……レナ、今回は数が多い、油断するなよ」
「先輩こそ、油断大敵ですよ?」
「……こちら、デファンっす。お二人さんこそ、油断しないで欲しいッすよ」
「言ってろ、デファン。……それで、お前の所の連中の様子はどうだ?」
「実戦の空気に確実に慣れてきてるっすから、以前より、機動にメリハリがあるっす」
「そうか。しっかりと面倒を見てやれよ」
「了解っす」

 うん、そのデファン小隊の後方に六つのスラスター光が見えるから、全機、無事発進できたってことだな。

 それで、敵さんの様子はっと、……こちらに気付いたようだな。

「先輩、250m級より敵MAの発進を確認! ……現状、五!」
「デファン、聞いたな? だが、メビウスはこれだけではないはずだ、増えるつもりでいるように小隊員に伝えておけ」
「了解!」

 しっかりとした返事と共に、デファンからの通信が切れた。

「よし、レナ、一気に加速して、敵の編隊に圧力をかける」
「デファン小隊のやり易いようにですか?」
「ああ、俺達は二機とも高機動を持つ機体に乗っているんだ、これ位はしてやらんとな」
「ふふ、了解です」

 二機編隊を組んだまま、編隊を組みつつあるメビウスの仰角方向に機位を進ませる。そうすることでメビウスからの射線を避け、また、心理的にも圧力をかけるためだ。

「メビウスの前衛、編隊が乱れました! あっ、後方に新たなスラスター光を確認!」
「数は……四か。よし、俺達は後ろのを狙う」
「了解!」

 ついでに、どちらを狙うか一瞬迷ったメビウスの前衛編隊に牽制射撃を加えて、動きを制限しておいてやる。後は、デファンに任せよう。

「よし、レナ、このまま敵艦隊への突進を続けて、メビウスの動きを制限する!」
「……先輩、また、無茶を言いますね」
「おや? レナが嫌がるのは、ミサイルや近接火器が怖いからですか?」
「はいはい、そんな安い挑発には乗りませんよ」
「……大人になったなぁ」

 昔は少し挑発するだけで剥きになって食って掛かって来たっていうのに……。

「私はもう十分に大人な女です。……それで、突進する意味はあるんですか?」
「流石に敵さんも味方撃ちはしないだろう」
「あんまり接近されたら、自棄になってすると思いますよ?」

 うん、今の案は却下しよう。

「……レナの懸念は正しいだろうからやめとくわ」
「何でそんな拗ねた感じなんですか、って、先輩! 敵MAが来ます!」
「仕方がない、いつも通りに一撃離脱させないように対応する」
「了解!」
「後、250m級のビームには十分に気をつけて、常に射線を意識しておけよ? それと、メビウスとの連携を仕掛ける場合もあるってことも忘れるな」
「はい!」

 ……とはいえ、メビウスの機動を見るに……錬度は、以前とは比べ物にならないほどに落ちているな。

「レナ、メビウスの動き、下手になってきてないか?」
「ええ、動きが稚拙です。……そこっ!」
「お見事! ……ッ!」

 レナが見事なまでの予測射撃でもって一機のメビウスを落とすのを賞賛する。
 と同時に、味方機との連携もせず、安易にリニアガンを撃ちながら突進してきた別のメビウスを、擦れ違う瞬間を狙って攻防盾の先に取り付けた三本クロー……L1に浮いていた重斬刀を加工した再利用品……で引き裂く。

「くッァ!」

 だが、その際の衝撃で機体が回転してしまった。

「こりゃ、クローを使うのも考えモノだな」

 自然、ボヤめいた独語をしながら姿勢を立て直すと、正面に、こちらに攻撃を仕掛けるために旋回をしているメビウスを捉えた。小まめな回避機動も組み込まない、あまりのも下手な旋回をしていたため、これ幸いとばかりに、進路を予測して射撃を加えてみる。


 ……あっけなく、落ちた。


「……やっぱり脆いな」
「う、うわぁ、さっきの攻撃……まさに先輩のパーソナルマークを体現する攻撃でしたね」
「いや、そのマークを作ったのはレナだろう?」
「あ、あはは」

 レナに頼んだ俺のパーソナルマークは、名前のアインの頭文字Aを筆記体の大文字αにして、その中で狼が雄叫びを上げる姿に仕上がったんだが、細かい所……牙や足の爪の部分が強調されて描かれている。で、レナは今の攻防盾のクロー攻撃をマークの狼の爪に譬えて揶揄したのだ。

「……いや、そんな話をしている場合じゃなかったな、後の一機をって、来たか、デファン」
「二人とも! 何をのんびりしてるっすか! もう、メビウスは全機落したっすよ! 次は、ほら! ミサイルが来るっす!」
「おおぅ!」

 見れば、ほぼ全ての150m級から、これもいつもと同じく、四つのランチャーから小型ミサイルが断続的に放たれている。

 それに伴なって、ロックオン警報が鳴り響き、アラートランプに赤色光が点る。

 ……あ~、対艦攻撃を仕掛けるマクスウェルとリーの小隊を掩護するためには、あれの目標にならにゃいかんなぁ。

「デファン、お前の小隊で対艦攻撃をする二小隊がミサイルに食われないよう、サポートに入れ」
「了解っす!」

 で、残った俺達だけど……。

「……また、ですね」
「ああ、いつものように、たくさんのストーカーを連れての追いかけっこだ」
「まぁ、いいですけどね、ダイエット代わりになってますし」
「ほぅほぅ、レナさんは最近、お痩せになってますか」
「……え、えーと」
「以前と変わらんように感じるがなぁ」
「先輩、何処を見て言ってやがりますか?」

 もちろん、男が皆大好きな母性さ!

 って、レナさん?

 その顔の翳に何やら恐ろしい気配が感じられるのですが?

「さ、さて、来るぞ、レナ!」
「……いつか刺してやる」

 怖ッ!

「ぶ、ブレイク! さっきも言ったが、250m級のビームに気をつけろよっ!」
「わかりました! ほんとにもう! 帰ったら、絶対に! 文句言ってやるんだからっ!」

 うん、まぁ、それ位の意気があれば、これぐらいのミサイルは捌けるだろ。

 んんっ?

 ……あっれぇ?

 ……。

 俺の目、おかしいのかな?

 ……。

 なんで、ミサイルの大部分が俺を追ってくるのかなぁ? 

「レナ、なんか、俺の方に、えらい、量の、ミサイルが、来てるんだが、おかしく、ない?」
「知りま、せんっ!」

 ……そうか。

 あれか?

 いつもと、おなじで、黄色が、悪いんだ、きっと……。

「これで、どうだっ! ……っ!」

 何度か急旋回でやり過ごしているんだが、今回は、以前よりも増して、しつこく追いかけて来てくれる。

「って、危ない、なぁ」

 しかも、250m級からビームまで時々飛んでくる始末だ。

「これは、あれか、ミサイルの、改良は、い、っそう、進んで、いる、ってこと、かっ!」
「そう、みたい、ですね、……先輩、一度、交差、しますか?」
「ああ、そう、しよう」

 で、高速を保ったまま交差して、ミサイル群同士をぶつけることで誘爆させて、大幅に減らしてみる。これで少しは楽になるかと思った。

「先輩! ミサイルの、第二派を、確認!」

 思ったんだが……現実はいつも厳しい。

 つか、対艦攻撃はどうした?

「……レナ、対艦、攻撃が、難しい、のか?」
「そうかも、しれません」

 ……。

「なら、ちょっと、前みたいに、ミサイルを、利用して、みるか」
「それはっ! 危険! です!」
「これも、お仕事……危険は、当然」
「ですがっ!」
「つか、この量、結構、厳しいわ」
「……もう、少し、我慢、できま、せんか?」

 サブモニターで、対艦攻撃を仕掛けている小隊の様子を伺ってみる。

 ……近接火砲が効果的に形成されているな。

 こちらに、気を引かせるためには……。

「うぉぉお!」

 って、250m級のビームかっ!

 危なかったな、今のは……。

「先輩ッ! ミサイルが!」
「っ!」

 なっ、しまった!

 これが狙いかっ!

 背後から追ってきていたミサイルが急速に近づいてくる。

 ……。

 ……くっ…………これは……当たるッ!!


「ぬ、ぬぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!」


「せ、せんぱいっ!」


 …………レナの悲鳴が耳に残った。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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