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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
31  一夜城作戦 4


 今回の通商破壊任務に先駆けて、L1に拠点を構築することになり、気を使ったことが二つある。


 それは、拠点の隠蔽と安全だ。


 拠点の隠蔽とは、簡単にいえば、連合軍から拠点を分からなくする、あるいは見落とさせるために行う擬態のことだ。とはいえ、L1という場所が月から目と鼻の先にあるだけに、月にある連合軍の目も厳しいだろう。そのため、この隠蔽は重要でかつ難しい問題となっていた。
 これを何とか解決するために、デブリ帯の中に拠点を構築するなんて荒業に出たのだが、今度は構築する拠点にデブリが衝突する危険が常に付きまとう事になってしまった。そこで、拠点の安全を何とかするために目をつけたのが、T7宙域にある大型デブリなのだ。


 艦載観測機器で捕捉され、メインスクリーンに映し出された件の大型デブリを見ていたら、二人の小隊長から再び通信が入った。両者共に報告する声には、困惑の色が若干混じっている。

「T7宙域に到達したっすけど……」
「これは……コロニーですか?」
「ああ、マクスウェルが言った通り、旧世界樹コロニーの居住区画だ。両小隊は、そいつの周辺及び内部が安全かどうか、調べて欲しい」
「了解っす。……マクスウェル、うちは内部に行くっすよ?」
「OK、俺の小隊は外を回るよ」

 二人のやり取りが通信系から聞こえてくる。小隊長としてハンゼンに移した二人の間で、上手く意思疎通が出来ていることが確認でき、ほっと息をついてしまう。そんな具合に安堵していたら、じっとメインスクリーンを見ていた艦長が独り言のように問い掛けてきた。

「中……どうなっているかねぇ」
「……連合軍が世界樹のザフト拠点化を嫌って、コロニーを爆破したとしても、いくら何でも、住人の避難は絶対にさせるはずです。流石に、犠牲者が浮かんでいるなんてことはないでしょう」
「……うん、普通はそうだよねぇ」

 ザフトに参加する以前、貨物船の船長をしていたらしいゴートン艦長にとって、【世界樹】は思い出深いものだろうから、それだけに、今の変わり果てた姿をモニター越しとはいえ見てしまうと、色々と考えてしまうのかもしれない。

 けれども、そんな自身の思いを、沸きあがって来るであろう様々な感情を上手く韜晦して隠すあたり、ゴートン艦長のすごいところだと思う。

「索敵、月方面に動きがないか、特に注意してね」
「アイ、艦長」

 現に今も、先の感慨以上のものは表に出さず、艦橋スタッフへ通常と変わりなく指示を出している。


 ……大丈夫だと、暗に示している以上、艦長の心情にはもう触れない方がいいだろう。


 そう結論付けて、再び目を正面のスクリーンへと移す。
 映し出されているのは、世界樹の居住区画であった円柱シリンダー型の閉鎖コロニー……円周直径3km、長さ10kmを持つが、一般的に島三号と呼ばれるシリンダー型コロニーの半分程度だ……を見つめる。
 どうやら、世界樹攻防戦時に連合軍によって爆破された際に大きなブレーキがかかったらしく、遠心力で内部に擬似重力を生み出す回転をほぼ失ってしまっている。また、原型を残しているものの、大きな破損があちこちに見られることから、間違いなく中の空気は抜けてしまっているだろう。
 何よりも、姿勢制御が不可能な状態になっている以上は、この旧居住区画もいつまでもこの場に留まり続けることが出来ないはずだ。

 しかし、これだけの大型デブリというか、お宝というか、資源というか……とにかく、このままデブリとして放ったままにして、資源を無駄にするなんて勿体ないことは、性格的にも、心情的にも、経済的にも、俺にできることではなく、拠点構築のために有効利用させてももらうことにしたのだ。


 そう、俺は、このコロニーを隠蔽とデブリ避けの外殻として使おうと考えている。


 まったく、こんな"たからもの"をそのまま放棄するなんて、勿体無いないお化けが出るぞぉ、むしろ、俺が勿体無いお化けになってやるぞぉ、なんてことを考えていたら、また、MS隊から連絡が入った。

「区画内部は回転にブレーキがかかった際に大きな力を受けたらしく、無茶苦茶に壊れてる上にデブリになってあふれてるっす」
「コロニー外壁は多数の穴が開いているため、下手に衝撃を与えると分解する可能性もありそうです」

 ……ふむ、内部はデブリで溢れている上に、外部は分解する恐れね。

「わかった。後、宇宙港がどちらかの先端にあるはずだ、最後にそこを見てくれ」
「了解」
「隊長になっても、先輩は相変わらず人使いが荒いっすよねぇ」
「……んん、何か言ったか、デファン?」
「い、いや、ちゃんと了解したって言ったすよ!」

 減らず口を叩くデファンに苦笑しながら、艦長に相談してみる。

「外殻の分解はまぁ、大丈夫なものと交換なり、他のデブリで補強なりすれば何とかなると思いますが、内部のデブリはどうしたらいいと思います?」
「……そうだねぇ。何にも気にしないでいいならビーム撃って、消し飛ばすんだけどねぇ」
「それをすると、月の連合軍にバレてしまう可能性がありますからね」

 ……そうだな。

 取り敢えずは、使える場所を確保すればいいんだし……そこらへんに浮いている外れた外壁をMSに持たせて、ドーザーブレード代わりにしてデブリを除去させてみるかな。
 後、構造体の中心軸で延びているリニアモーターレールも一定の長さで切り離したら、別の何かに使えるかもしれない。

「まぁ、MSが使えるんだし、楽観的に考えて、上手いことやろうよ」
「そうですね」

 うん、宇宙では万能建機でもあるからね、MSは……。

「……取り敢えずは、欲しい部分に目星をつけて、後はさっさと切り離した方がいいですかね?」
「いやいや……それは拠点になる簡易コロニーを作ってからでもいいんでないかい?」
「……なら、先にデブリ除去とスペース確保を済ませて、簡易コロニー建設終了後、ってところですね」
「うん。それがいいと思うよ」

 拠点として使う簡易コロニー……なんて、いかにも凄い物なんだぞ、って感じで言っているが、実のところ、ただ、長い棒の先に箱をつけた代物である。これをブンブンと円軌道で回して、遠心力でもって箱の内部に擬似重力を発生させるのだ。

 ……。

 L1に拠点を構築するために用意した資材を具体的に述べれば、遠心力で擬似重力を生み出す為の回転軸機構と宇宙艦船が二隻分くらいは収容できる簡易宇宙港の一部、常用と予備で二つの循環空気用大型エアクリーナー、同じく二つの酸素発生装置、空気作成用大型液体窒素タンク、様々な用途に使う大型水タンクを満タンにして十個、大型ラジエター、FFMでも使っている燃料電池システム、大量の非常用バッテリー、四つの箱型居住ブロック、居住ブロックと回転軸に繋ぐ長さ1000mの支柱兼エレベーターシャフトを作るためのリニアモーターレールとその外壁板が沢山、シャフトと居住ブロックの連結を補強する骨格材、居住ブロック用の救難艇、姿勢制御用モーメンタムホイールが幾つか、太陽光発電ミラー、放熱パネル、他諸々といったものだ。

 これらのパーツをそれぞれつなげて、観覧車みたいな簡易コロニーを作り上げるのだ。


 ……むむ。


 あ~、あれだね、昔のレシプロ飛行機で例えれば、プロペラ部に四枚あるブレード部分がエレベーターシャフトで、その先に居住区画がくっ付いている。んで、プロペラを回す回転軸につながるエンジン部分に生命維持関連の装置や宇宙港があるって、いえばわかるだろうか。


 ……わかりにくいか。


 とにかく、この四つの居住区画を毎分一周半超ぐらいで回すことで、地球の三分の一程度の重力を発生させて、長期滞在というか少しでも重力空間で休めるようにするつもりである。

 で、これら簡易コロニーを宇宙放射線やデブリの衝突、外からの観測から守るために、大型デブリ、もとい、旧世界樹コロニーの居住区画の外壁を外殻として使って、周囲を覆うつもりなのだ。そして、その外壁というか建設する拠点の外殻部分には、居住区画外縁側宇宙港付近を使おうと考えている。
 旧世界樹コロニーの宇宙港施設の損傷が手に負えないようなら断念するが、手に負えるようならば、大いに修理と改造を施すつもりだ。大きい宇宙港があれば、それだけ拠点の艦船収容能力が大きく増えるしね。

 宇宙港について考えていたら、その宇宙港を見に行かせた二つの小隊から連絡が入った。

「先輩、こちら、デファンっす。ざっと見た感じ、宇宙港付近はちょっと損傷している程度っすね」
「こちらマクスウェル。内部のリニアレールはそれほど損傷していない様子です」
「……了解した。これから戦隊を宇宙港に入港させる。ガイドビーコンや誘導ビームがない入港だからな、お前達に内部への誘導をしてもらいたい」
「了解っす」
「わかりました」

 ということで、後は艦長にお任せするだけである。

「皆、ラインブルグ隊長の話を聞いてたよね? ……航法、特に大変だろうけど、君の腕を信頼しているから全て任せるよ。通信、ハンゼンと輸送艦に今の指示を伝えてちょうだい、後、MS隊とは連絡を密にするんだよ?」
「アイ」
「了解」

 いつもの気の抜けた調子での艦長の指示なのだが、艦橋スタッフはすぐにキビキビと返答して行動に移る。

 ……いや、ほんと、いつの間にこんなに仕込んだんだろうか?

 不思議そうな顔でスタッフを眺めていたことに気がついたのだろう、艦長が俺の疑問の答えを教えてくれた。

「すべては完熟航海で受けたフォルシウス艦長の薫陶のお陰だよ」
「……フォルシウス艦長なら、薫陶って言うよりも、鋼鉄の規律の方が合うんじゃないですか? 鬼の副長ならぬ鬼艦長って感じで」
「はは、もしも、そう部下に言われているなら、彼はきっと本望に思うだろうよ」
「……そうでしょうね」

 ……厳しい訓練が実戦で命を助ける、ってことだよな。

 確かに、それで艦が沈まないで済むなら、死なないで済むなら、安いもんだろう。


 ……。


 ……メインスクリーンに宇宙港が映し出された。


 ……。


 これから、たぶん、某計画Xに取り上げられるてもおかしくない、拠点建設に苦闘する日々が始まるだろう。


 戦隊の皆にはきっと苦労をかけるだろうが……今後のために、為さねばならないことなのだ。


 そう、たとえ、何を犠牲にしたとしても!






























 うん、実はそうなんだ、犠牲になるのは、他人じゃなくて、俺の胃や頭髪なんだ。


 ……うう、何か問題が起こるたびに、きっと胃を痛くしたり、頭を掻き毟るんだろうなぁ。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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