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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
29  一夜城作戦 2


 白服に任命されて、俺が隊長を務める戦隊を作り上げることになった。

 戦隊の戦力化まで与えられた時間は一ヶ月。

 これが短いのか長いのかは俺にはわからないが、為さなければならない以上、自身の全力を尽くすのみである。




 ……なんて格好いいことを当初は考えていたが、ゴートン艦長や他の皆の助けを借りて、やっとこなす事ができたのが現実だったりする。





 いや、ほんとに、自身の限界というものを直視させられたよ。




 まぁ、俺自身の反省は置いておいて、とりあえず、今までやってきたことの概要を話すと……ザラ委員長の計らいなのかはわからないが、指揮する戦隊に配属されることになったエルステッドをドックへと修理に出すのが最初の仕事だった。大破していたエルステッドだったが、大きな修繕箇所はモジュール交換で対応することになったため、全治三週間超との診断が出された。
 それと時を同じくして、エルステッドと共に戦隊を構成する艦も、現在の状況において他所から引っ張ってこれる程、現場の戦力に余裕がないため、一から新しく戦力化するようにとの通達が委員長名であった。また、事務局からも新造艦と装備品は一週間後には引き渡せるとの連絡も、同時に受け取った。
 これらを念頭に、引き続きエルステッドの艦長職を務めながら、俺の補佐役を兼ねることになったゴートン艦長と相談した結果、エルステッド乗組員には一週間の臨時休暇を与えるように事務局に頼んでおいた。

 とはいっても、隊長なんて管理職になってしまった俺には、休暇という社会人の至福は存在せず、乗組員の休暇が終わるまでの一週間の間に、戦隊を立ち上げるための準備室として、アプリリウス軍事衛星港内の倉庫を一つを一ヶ月間借りあげて、準備を進めることになった。

 最初の一週間にまずやったことは、同じく管理職組ということで居残ったゴートン艦長とフォルシウス副長と協議して、国防事務局から装備品の補充予定一覧と共に受け取った新規配属人員リストと現在のエルステッド乗組員名簿から、戦隊のそれぞれの艦の役職や配置を決めることだった。

 ちなみに事務局から受け取ったリスト……補充装備品のはともかく、新規配属人員のはアカデミーの卒業前とあってか、前部隊で素行に問題があるとして放り出された奴や、士官学校を卒業はしたが一定の能力に達していない判断されて更なる訓練を課せられていた、所謂、落ちこぼれと呼ばれる者達ばかりだったのが印象的だった。

 まぁ、赤ではなく緑からの白服抜擢である以上、事務局も優秀な人材を委ねたくないという意思が働いたんだろう。
 けど、人間なんて、遺伝子だけで全てが決まるなんてことは絶対にないんだから、こちらで相応に鍛えて、育てればいいだけの話だ。

 別段、気にすることでもない。

 ……で、一週間後、新規配属人員を合わせた乗組員が再召集されると直に、全員に戦隊が新規編成されることと各員の役職と配置を告げ、戦隊に用意された新造艦【FFM-161】ハンゼンを受領し、前エルステッド副長ウラディミル・フォルシウスを艦長に、前エルステッド火器情報管制班長ミハイル・ガンドルフィを副長に据えて、狭い艦内だが、既存乗組員と新規配属組とを全員放り込んで、二週間の予定で慣熟航海へと出した。
 また、ハンゼンには、エルステッドに艦載されていたジン4機と装備品として新たに受領した、ジンの機動性を向上させた改良型である【ZGMF-1017M】ジン・ハイマニューバを2機載せておいた。六人の新任MSパイロットと彼らの小隊長を務めさせることにしたデファン、マクスウェル、リーに小隊訓練をさせるためだ。
 そのために、三人にはラインブルグ小隊の名物【初心者の君もこれで一人前のMS小隊員! ようこそ地獄から天国へ至る集中特別訓練コース】を全てこなしてくるようにと、消化する訓練内容を渡しておいた。
 それと同時に小隊長になる三人には、ジンM型への機種転換訓練を別にこなすようにと言いつけることも忘れてはいない。三人揃って青い顔をしていたが、そんなものは当然無視である。

 フォルシウス副……艦長のことだ、ハンゼンの帰港予定日まで毎日、乗組んだ全員が休む間もなく、訓練漬けにしていることだろう。

 けど、ここは自身が成長するための経験、生命を失わないための代償ということで、割り切って我慢してもらおうと思う。


 で、ハンゼンに加わらずにプラントに残っている俺本人なのだが、別に遊んでいたわけではない。


 間借りしている軍事衛星港の戦隊立上げ準備室で、MS隊副官兼隊長秘書を担当させるために残したレナに、地球連合が使用している地球-月航路に関する情報や遮断するために必要になりそうな情報、現在のL1宙域の情報をかき集めさせて、ゴートン艦長や前エルステッド航法通信管制班長で現エルステッド副長となったリュウ・ミンリンと、どのように月にある連合軍の目を騙しながらL1宙域に入り、デブリ帯のどこに、どのような拠点を置き、拠点構築のためにどんな物資がどれ程必要かを考え、また、間違いなく遭遇すると予想されるジャンク屋にどう対応するかも検討し、地球-月間を行き来する輸送船団や商船にどのような攻撃を仕掛け、もしも護衛部隊が存在した場合はどのように翻弄するか、といった具体的な作戦全体像を構築したり、四人で物資申請書類を沢山書いて事務局に大量に提出して、戦隊で使用しそうな物資を多く確保しよう画策したり、ゴートン艦長から白服としての、指揮官としての心得を伝授してもらったり、新たに俺の乗機になることになった【ZGMF-515】シグーの機種転換訓練を同じくジン・ハイマニューバに機種転換するレナと行ったりと、まぁ、色々と忙しかったのだ。


 ほんとに、あまりの忙しさに体重が5kg痩せたくらいだよ?


 どうせなら、勝ち組のザラ委員長みたいに、おんにゃ……げふんげふん……って、あっ、シグーへの機種転換で思い出した。


 俺が新たに搭乗することになったMS、シグーは、ジンと操縦系が若干異なる仕様だったために機種転換でかなり梃子摺らせられた。とは言ったものの操縦系に慣れたら、どちらかというと機体形状に丸みを帯びているジンよりも、よりシャープになっている外見が格好良くみえたりするから、我ながら現金なモノだと思う。
 でも実際、性能面でも、スラスターや姿勢制御バーニアの改良により機動力や運動性も上がっていることから、案外、いい機体だな、という感触を抱いている。


 だが……。


 ……。


 だが……機体の色が…………色が………………黄色なのだ。



 何故に、黄色なのか?



 それはもう、見事なまでにカラフルなイエローである。

 本当、目が痛くなる程に、色鮮やかなイエローである。

 宇宙の闇色の中でも、太陽の輝きを受けて燦々と目立ってしまう、イエローである。

 戦隊モノでいうと、色々とイロモノに位置づけされることが多い、イエローである。
 


 あまりにあまりな色なので、すぐに事務局に文句の連絡を入れたよ。

 ……そしたら、苦情に対応した事務員が何て言ったと思う?



 委員長の指示です、だぞ?



 悲しいかな、いくら白服になった俺でも、最高指揮者からの公の指示を覆せる権限はないため、泣く泣く受け入れるしかなかった。


 ……これはあれか、俺を戦場で亡き者にするための、委員長の遠回しな陰謀なのだろうか?


 まったく、茶会の一件での仕返しにしては、あまりにも幼稚でかつ洒落にならない仕返しとは思わないか?
 いや、確かに、俺が目立つことで、他の連中が目立たなくなる利点もあるから、一概に悪いとは言わないけどさ。



 ……とりあえず、何らかの方法で、こちらもやり返してやろうとは考えている。



 んんっ、そんなこんなで、日々を忙しく過ごしてきて……もう明日は、ハンゼンの帰港日である。

 二艦分の人員を一艦に押し込んだのだから、当然、かなり狭苦しい思いをしただろう。

 でも、だからこそ、色々な所で自身の好悪に関係なく、様々な意思の疎通や妥協を嫌でもしなければならなかったはずだ。
 それに、フォルシウス艦長を初めとする副長や各科班長、MS小隊長といった幹部達には、もしも乗組員に殺しきれない不満が発生したら、不満の矛先を俺に向けるよう、それとなく誘導するようにとも言っておいたから、俺を共通の敵にして、少しは協調性も生まれているだろうしね。

 よくもこんな劣悪な環境に放り込みやがって、何様のつもりだ、あの野郎! っていう感じで、俺は大いに怨まれるだろうがな……。


 ◇ ◇ ◇


 8月28日。
 宇宙機動艦隊から一定の権限を与えられた独立戦隊規模艦隊、公称【ラインブルグ隊】が正式に発足することになった。
 戦隊の戦力構成は【FFM-113】エルステッドと【FFM-161】ハンゼンの二艦と艦載MSの【ZGMF-515】シグーが1機、【ZGMF-1017M】ジン・ハイマニューバが4機、【ZGMF-1017】ジンが6機で計11機となっている。

 ちなみに艦載MSが二艦のMS艦載限界数である12機ではなく11機なのは、別に俺が手配し忘れたわけではない。
 任務が任務だけに、【ZGMF-LRR704B】長距離強行偵察複座型ジン……いわば索敵に特化した特殊機を準備して欲しいと、任務を言い渡されて、委員長室を出たその足で国防事務局にお願いしに行っておいたのだが、どうも手続き中に手違いが起きたらしく、パイロットとMSが別の隊……確か、ユン・ロー隊だったかな、その隊に配属されてしまったらしいのだ。
 渡された確定装備品リストに含まれておらず、また、一向に補充に関する連絡がないことを不思議に思って連絡すると、何やら向こうがドタバタし始め、平謝りの謝罪と共に手違いがあったと告げられ、至急、人員とMSを準備しますと言い出したもんだから、あの堅実無比な国防事務局でも失敗があるんだなって、その時は驚いたものだよ。
 そんな具合に事務局が約束してくれた補充なのだが、新星……今は改名されて【ボアズ】をL5に運ぶミッションで受けた被害を埋めたり、うちとは別に新しい戦隊が戦力化されたり、地球への戦力投入が続いていたりしている現状では難しいことが予想されるため、恐らく、士官学校の卒業が終わる9月以降になってしまうだろう。

 ……現実、間に合っていないしね。


 まぁ、ちょっとした齟齬があったとはいえ、ラインブルグ隊は概ね戦力化が成ったのだ。


 まさに、この一ヶ月間の苦労……ゴートン艦長やフォルシウス副長と共に、古の伝説にあるジャパニーズBIZINESUMANの如く、不眠不休で72時間戦いながら、艦の人員配置と役職について悩みながら決めていったり、地球-月航路遮断作戦の全体像を作り上げるのに、宇宙港に残った四人で目の下に隈を作りつつ、様々な情報を収集し、唸りながら一つずつ可能性を検証して、案に積み上げていくという、精神と頭脳を消耗させる地味な作業を延々と続けたり、ジャンク屋への対応で、建設作業が終わるまで身柄を拘束するか、逆に強引にでも契約を結んで建設作業に参加させるかで対立したり、機種転換訓練では新しい操縦系に慣れるために全身の感覚を機体に合うようになるまで、意識を失いかける寸前まで訓練宙域を飛び回ったり、ハンゼンが帰港した後、MS隊の後輩や主要幹部、新しい面子と元からいた連中から、様々な苦労や要望、愚痴とも取れる報告を我慢して聞いたり読んだり、事務局に物資申請の要望が大多数却下されてしまって大いに凹んだり……が報われた瞬間である。


 ほんと、よく、俺、やり遂げられたよなぁ。

 ……。

 いや、この自惚れが駄目なんだよな。

 これは皆の協力があってこその目標達成だ。

 俺の独力じゃ、絶対に出来なかったことなんだ。

 うん、本当に、皆には感謝しないといけないな。

 ……。


 さて、苦労話はここまでにして、ついさっき、宇宙機動艦隊司令部から、正式にL1での拠点構築と連合の地球-月航路遮断の作戦任務書を受け取った。

 三日間の休暇の後、9月1日には出港して、最低3ヶ月間の任務に取り掛かる。


 正直、どういう結果になるかはわからないが、できる限り、戦隊の人員に被害が出ないようにだけはしたい。

 うん。

 気が抜けず、胃と頭が痛くなるような日々が始まるが、何とか乗り切っていこうと思う。











 にしても、公式な隊名に、自分の苗字がつくなんてさぁ。

 ……正直、勘弁してくださいって感じだよなぁ。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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