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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
25  新星、煌めく時 2


 ザフト新星攻略艦隊がL4宙域に入りかける頃合に、防衛側の連合軍艦隊の一部、250m級2と150m級16が進出してきて、進入阻止の構えを見せた。そんなわけで、まずは緒戦である。
 攻略艦隊の戦力は、アプリリウス軍事衛星港に駐留する機動艦隊主力から抽出された本隊一個艦隊FFM12隻と艦載MS72機、前後衛それぞれ二個戦隊、合わせて四個戦隊FFM8隻と艦載MS48機で構成されていて、戦況次第でプラントから増援や占領部隊が送られることになっている。
 今回の緒戦では、このうちの前衛部隊である二個戦隊から、艦載MS24機をまず出撃させて、敵の出方を伺うというか、露払いさせることにしたようだ。

 俺達が所属している本隊にも第二種戦闘配置が発令されており、所属パイロットもいつでも出撃可能な状態でMSのコックピットで待機している。

 出撃命令が即伝わるようにと、艦橋と繋げっ放しにしている通信ラインからは、戦況を把握するために、通信や索敵を担当する管制官達が奮闘している様子が、彼らが話す静かな声音から伝わってくる。

「先輩、戦況はどうなんでしょうか?」
「うーん、進出してきた部隊が少ないからなぁ、俺達は出なくてもいいかもしれない」
「でも、なんで小艦隊だけで出てきたっすかね?」
「そうだなぁ」

 色々と考えられるな。

 ……。

 折角だから、相手の動きについて考えてみるのも、今の無聊を慰める意味でもいいかもしれない。

「時間潰しに少し、皆で今日の連合軍の動きについて、考えてみるか?」
「おおっ、そういうのも面白そうっすね!」
「確かに、今の所は出撃命令が来そうな気配もありませんから、やってみましょうか」

 と、どうやら二人も退屈だったらしく、いつもなら、慎重な意見を述べることが多いレナからも賛同を得たので、皆で議論しながら考えてみる。

「デファン、この進出してきた敵小艦隊の目的を推測したら、何が真っ先に浮かぶ?」
「普通なら、阻止戦闘っすね」
「だが、それだと、戦力があまりにも少なすぎるように感じるぞ?」

 現実として、最近の機動戦力消耗比であるMS1:MA5で考えても、一個艦隊規模では俺達の侵入を阻止するのは困難なはずなのだ。ましてや、今日、前面に展開している敵の数はそれ以下だから、なおさらだ。

「だったら、威力偵察とかも考えられるっすけど……これも、やっぱり、戦力比で考えたら、打たれ弱すぎるっすよね」
「でも、敵の指揮官が杓子定規に物事を考えたり、進めていたりする可能性もあるんじゃないかな?」
「ああ、そういうこともあるかもねぇ」

 何事も教本通りなんてことも、硬直化した組織ではありそうなことだ。

「けど、これだけあちこちで戦闘を繰り返しているなら、そういう定規があったとしても長さが変わってくると思えないっすか?」
「その辺は、指揮官の資質が大きく影響するだろうからなぁ。とりあえず、これは置いておこうか。……じゃ、レナ、阻止戦闘や威力偵察以外でなにかないか?」
「うーん、それ以外でしたら、援軍が到着するまでの時間稼ぎ?」
「……あるかもしれないが、ヤキン・ドゥーエの艦隊が月を狙うような動きを見せて、牽制に動いている事もあるから、月からの援軍が来る望みは薄いはずだ」
「そっすね、それに連合も今月の戦闘でかなり消耗しているはずっすから、動きは鈍いはずっす」

 だが、援軍に関しては、巨大な国力を誇る地球連合の回復力を侮らない方がいいだろうから、心の片隅にでも留意しておく必要はあるな。

「レナ、他には?」
「後は、罠、ですか?」
「……そうか、罠か。もし、そうだとしたら、どんな罠をしかける?」
「え、えっと、そうですね……MSが艦隊を攻撃するために進入してくるコースにデブリに模した機雷を仕掛けているとかどうですか?」

 ああ、結構、できるかもしれない……いい線だな。

「でも、ニュートロンジャマーが効いてるっすから、接近を感知する電波が使えないっすよ?」
「あっ、そういえばそうだったわね」
「……でも、なんらかの方法で起爆させることはできるかもしれないな」
「なんらかって、どんなっすか?」
「有線とかどうだ?」
「簡単にばれるっす」

 まぁ、そら、有線がピーンと艦艇からデブリまで繋がっていたら、間抜けだよなぁ。

「時限式ではどうだろう?」
「……時間が合わなければ、間抜けな上に資源の無駄遣いですよ?」
「そうだよなぁ」

 ……機雷だから、感知方法を考えれば上手くいくのか?

「なら、ジンのシルエットなり大きな人型を記録しておいて、そういったものが近くに映ったら起爆するってのはどうだ?」
「……それなら、できそうっすね」
「でも、そんなの短期間で作れるでしょうか?」
「いやいや、人間、やろうと思えば、できなくはないような?」

 あれだ、技術者達に、不眠不休で血涙と努力と根性を強いて、締め切り前に仕上げさせるんだよ、きっと。

「あ、熱源感知式なら、どうですか?」
「なるほど、それなら、うまく行く可能性が高いな」
「うっす、技術的にも可能性はあるっすね」
「なら、この線はあり得るってことにして、他に何かないか?」

 俺が重ねて聞くと、二人も更に頭を回転させ始めたようだ。

 いやはや、最初に会った時や初陣でガチガチになっていた時からは想像できない姿だな。

 一人で当時を思い返していると、デファンが何やら思いついたようで、声を上げた。

「あれじゃないっすかね。囮っていうか、疑似餌ッすよ」
「疑似餌?」
「そうっすよ、レナ。以前、L1での戦闘で、連合が大規模な十字砲火を使ったじゃないっすか。あれを大々的にやるために、それなりに大きな囮を準備して、火線収束点にうちらを引きずり込むっすよ」
「おおっ、デファン! それ、あるかもしれない!」
「へへっ、少しは俺も、勉強してるっすよ!」
「でも、敵の本隊に動きはないですよ?」
「……」
「……」

 なんかレナからバッサリと、クールに切り捨てられた感じがした。

 男二人、少女の無情な切り捨てに思わず項垂れて、沈黙してしまったよ。

 と、そこに艦橋にいるゴートン艦長の声が、俺達の通信系に入り込んできた。

「ラインブルグ君、何やら面白いことやってるじゃないの」
「いえ、艦長、これはただの時間潰しですよ。……それで、何か状況に変化が?」
「いや、今の所は、いつものように機動戦力同士が小競り合いしている所だよ」
「そうですか」
「もっとも、向こうさんは以前やった戦法に一工夫加えて、掩護に撃ちこんで来るミサイルを長大な有線式にして、シーカーがMSを追尾できる距離まで誘導しているみたいだ」

 ミサイル用の長大な有線……って、そんなの準備するっていうか用意するなんて、凄い、のか?

「で、そのミサイルもMSに直撃できなくても、すぐ近くで爆発するみたいでさ、前衛のMS部隊はスラスターや間接とかにミサイルの破片……デブリを結構喰らっていて、無視できない損害が出ているみたいだよ」
「……なるほど、MSの機動力や運動性を落とすことを主眼に置いているってことですか」
「うん。どうやら、今日の敵さんは、この戦法がMSに通用するかどうか、武装の評価も兼ねて試しているって感じがするよ」
「……向こうも色々と考えてきますね」
「それだけ必死ってことさ」

 ならば、俺達も出撃した方がいいような気がするな。

「……艦長、ここは一気に勝負を決めた方がいいのでは?」
「いや、俺も司令部に聞いたけど、今回の戦闘では、本隊MS隊の出撃は見送って、戦力を温存するってさ」
「はぁ、そうですか」

 確かに、敵本隊が出てきていない以上は、それも正しいのかもしれない。

 でも、大戦力で一気に叩ける物は叩いた方がいいとも思うのだが……。

「とりあえず、前衛部隊のMS隊が敵MAを排除するなり、撤退させるな……あ~、敵さん、余力がある内にMAを引き揚げさせるみたいだ。艦隊も撤退を開始してるよ」
「……MS隊か前衛部隊での追撃は?」
「展開しているMS隊は機動力を落とされているし、敵さんも、これでもかって位に盛大に阻止砲撃してるからねぇ。ちょっと厳しいかもしれないな」
「なら、俺達が出て、追撃を仕掛けるべきでは? 今後を考えると、少しでも戦力を削れる時は削っておく必要があると思いますが?」
「……した方がいいかもしれないねぇ。上に掛け合ってみるよ」

 ……小粋な細工を試して、しかも撤退判断が早いことを考えると、今回の相手は正面からの力業では来ないかもしれない。

「MSへの対処方法を探る、か……」
「MSの弱い所を狙ってきているあたり、向こうも研究しているっすね」
「でも、どうやって、MSの研究をしてるんでしょうか?」
「3月のビクトリア戦で、鹵獲したジンがあるんだろう」
「あ、なるほど」

 なんてことを皆で話していたら、再び通信系に入ってきたゴートン艦長から司令部の答えを聞かされた。

「ラインブルグ君、前衛、本隊共に、追撃はなしだってさ」
「……月での敗戦といいますか、受けた損害が司令部を慎重にさせてるんですかね?」
「あり得るね。……とりあえず、後、少ししたら一種警戒に落とすから、もう少しその場で我慢しておいてちょうだな」
「アイ、艦長」

 そんなわけで、少し緊張を解いて、一息である。

「二人とも、少し、気を楽にしていいぞ」
「もう、出撃がないって聞いた所から、かなり気を抜いたっすよ」
「実は、私も皆で話し始めてから、あまり緊張していません」
「……図太いなぁ、お前ら」
「……先輩ほどじゃないっす」
「……先輩に言われたくないです」

 すわっ! お前ら、反抗期かっ!

「まったく、誰の影響を受けて、そんな風になんてしまったんだ。最初の頃はあんなに初々しかったのに……」
「……」
「……」

 えっ、なによ、その沈黙は?

「自覚がないっすよ、レナ」
「ええ、そうね、デファン。私達に一番影響を与えた人が、その自覚を持っていないだなんて……少し腹が立つわね」
「そうっすね。……腹、立つっすね」
「おいおい、何を言っているんだね、君達は……。君達がそんな風に育ったのは、あくまでも、君達が自分で自分をそのように育てただけではないか」

 ハハハハハハッ、って、似非外国人笑……あっ、そういえば、俺って外国人?

「……レナ、後で何かやってやるっすよ」
「……あれよ、先輩の携帯食にマスタードをタップリ隠し味に入れておくとか、どう?」
「甘いっすよ。先輩のインナーに塗り込んでおく方がきっと効果的っす」
「えっ? 先輩の……インナー……?」
「ん、どうしたっすか、レナ?」
「……インナー…………どんな匂い……するのかなぁ」
「……」
「……」

 さて、俺は何も聞かなかった。

「あ、あ~、今日も循環空気が美味いッすねぇ」
「そ、そうだなぁ」
「っ! わ、わたし、な、なんにも、いいいい、いってないですよ?」
「あっ、先輩、二種配置が解除されたみたいっすよ」
「……ああ、じゃ、じゃあ、俺、先に上がるわ」
「うっす。お先にどうぞっす」
「ちょっ……聞いてください!」

 さて、二種配置が解除とはいえ、まだ一種警戒だから待機所に向かうとしようか。

 そう考え、俺はエアー充填中を示すイエローランプを眺めつつ、機付整備員に後を任せて、身体を待機室がある方向へと投げ出した。


「……レナ……人の趣味はそれぞれっすけどね……できるだけ人の道は外れないように気をつけるっすよ?」
「で、デファンっ!」


 なんてやり取りが微かにヘッドセットから聞こえた気がしたけど、俺は忘れることにした。


 ……だって、インナーの数が減ったら、怖いことを想像してしまうだろ?
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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