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「自転車事故」〜酔って運転。歩道で老人をはね大怪我をさせたら

プレジデント 3月16日(金)10時30分配信

 自転車は、道路交通法上では軽車両に区分される。当然、酒を飲んで乗れば飲酒運転。正常な運転ができぬ状態で運転したともなれば5年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられる。
 しかし、一般には「自転車で人にぶつかったところで、たいしたことにはならない」と思っている人が多いのではないだろうか。もし、そうだとすれば、とんでもない思い違いだ。
 自転車が歩行者にぶつかり、歩行者が死亡したという事故は、毎年わずかではあるが起きている。民事訴訟の過去の判例では、損害賠償の最高額が約7000万円という事故がある(表参照)。

 この事故では、片手運転で坂道を下ってきた自転車が、交差点を横断中の歩行者に衝突し、死亡させた。裁判所は、自転車側に100%の過失があると認め、損害賠償を命じている。
 自転車といえども車両なのだから、自動車と同様に罰則もあり、人に損害を与えれば賠償請求の対象となる。しかも、困ったことに周知のとおり、自転車には車のような自賠責保険がない。そのため判例の事故では、賠償金の一部が労災保険で填補されたものの、被告はほぼ全額に近い賠償金を支払うことになった。


■歩道上の事故に多い自転車の過失100%

 自転車による歩行者の死亡事故のうち、飲酒運転によるケースは実際にはほとんどない。しかし、ありえない事故ではない。
 警察庁の統計によれば、自転車の関係する交通事故に遭った人は2010年で15万1626人に上り、このうち死亡者は658人。そのほとんどは対自動車の事故だ。自転車事故の件数は、04年をピークに減少してきているが、自転車対歩行者の事故はというと、全体に占める割合こそ低いものの、04年と比べると増加傾向にある。

 その原因のひとつとして、自転車の通行区分のあいまいさがあげられると思う。
 10年10月から警察庁が促し始めた通り、道交法では、自転車は車道を走ることになっている。しかし、これには例外規定があって、「道路標識等により通行することが認められているとき」は歩道を走ってもよいとされている。
 さらに、07年の道交法改正により、この例外の範囲が広げられている。「運転者が、児童、幼児その他の者(主に70歳以上の者等)であるとき」と「安全を確保するため歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」である。

 問題は、後者の規定だ。法文では「車道又は交通状況を照らして」と条件がつけられているのだが、これでは何をもって「やむを得ない」と認められるのかがわからない。運転者が独自の判断で、歩道を走ることができる。つまり、原則は車道走行、しかし歩道を走るかどうかは運転者まかせということになってしまっている。
 07年の道交法改正によるこの通行区分の例外規定は、自転車事故の増加を受けて考えられたものだ。だが、実際にはむしろ通行区分があいまいになってしまっている。道交法改正前、自転車対歩行者の事故は、そのほぼ半数が歩道上で起きていた。今、自転車と歩行者の関係は、むしろ道交法改正前よりリスキーな状況にある。

 交通事故の損害賠償請求訴訟では、被害者にも過失があった場合、加害者の過失責任が相殺され、請求額が減額される。しかし、歩道上で起きた自転車対歩行者の事故では、自転車側の過失を100%とした判例が少なくない。まして飲酒運転という法令違反を犯していればどうなるかは、言うまでもない。怪我でも、程度によっては賠償金額が数百万円以上にもなる可能性がある。

 東日本大震災で帰宅難民を経験して以降、自転車通勤族が増えたといわれる。事故対策の第一は車と同様「飲んだら乗るな」だ。が、例えばクレジットカードに、他人に与えた被害を填補する賠償責任保険がついていたり、加入している自動車保険が自転車事故も対象としていたりする場合もある。ともに該当しなければ、自転車保険の利用が重要だ。年間4000円余の保険料で1億円まで補償されるものもある。自転車通勤をしている人にぜひ、お勧めしたい。


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弁護士
古川 美
1953年、広島県生まれ。中央大学法学部卒業。96年、弁護士登録。ちゅら法律事務所。みずから自転車通勤を続けている。著書に『里山保全の法制度、政策』(共著)

高橋盛男=構成

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最終更新:3月16日(金)10時30分

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