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2012年3月16日(金)付

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原発1次評価―これで安全といえない

安全の観点から今、「原発の再稼働を」といえるだろうか。野田首相と関係閣僚は近く、関西電力大飯原発3、4号機の安全性を判断し、福井県など地元自治体に再稼働の理解を求めるこ[記事全文]

大阪の卒業式―口元寒し斉唱監視

卒業式で教員が本当に君が代を歌っているか――。大阪府立和泉高校の校長が教頭らに指示して教員の口の動きを監視させていた。歌わなかったと判断された教員らは事情聴取のうえ、処[記事全文]

原発1次評価―これで安全といえない

 安全の観点から今、「原発の再稼働を」といえるだろうか。

 野田首相と関係閣僚は近く、関西電力大飯原発3、4号機の安全性を判断し、福井県など地元自治体に再稼働の理解を求めることになりそうだ。

 政府は夏の電力を心配している。だが、その前に肝心なのは原発の安全性だ。

 大飯原発で終わったストレステスト(耐性評価)の1次評価は、地震や津波、全交流電源の停止が起きたとき、炉心溶融などの過酷事故になるまでどの程度余裕があるか計算する。

 この原発は津波高さ2.8メートルで設計しているが、波が越えても機器の水密化などを進めたことで、高さ11メートルの津波まで耐えるとなった。地震には想定の揺れの1.8倍まで大丈夫で、停電が起きても配置した消防ポンプのガソリンが切れるまで16日間は炉の冷却ができる――。

 ただこれは、多くが東日本大震災以前の想定を元にした机上の計算でしかない。

 東京電力柏崎刈羽原発はかつて、地震の揺れを最大450ガルとしていたが、2007年の新潟県中越沖地震で1700ガルもの揺れに襲われた。福島第一原発への津波は想定5.7メートルだったが、13メートルに襲われた。

 このように、実際の災害はしばしば想定を大きく超える。

 どう考えても、旧来の想定による1次評価で「安全」というのは乱暴だろう。

 1次評価は昨年、政府が再稼働の判断材料として求めた。しかし、どこまで余裕があれば安全かを示すものではない。

 班目春樹・原子力安全委員長も「1次評価だけで安全性評価はできない」と言っている。

 次に実施する2次評価はもう少し踏み込み、「過酷事故が起きる」という前提で、事故後の被害拡大防止策などを考える。欧州のストレステストは、この2次評価と同様のものをさす。

 事故から1年が経ち、全国の原発では電源車や消防車が置かれ、防潮堤かさ上げの工事がされているものの、根本的な安全性向上策はまだだ。

 少なくとも事故の検証をし、それに基づいて安全基準や規制の仕方を変える必要がある。非常用電源の配置換えや、格納容器のガス抜き弁の改良なども含まれるだろう。

 今後は原発から半径30キロ圏が防災重点区域になるが、この地域の防災対策もできていない。

 夏の電力が厳しくなった場合でも、再稼働は需給を精査し、必要最低限の基数で考えるべきだ。一気に多数の再稼働をめざすような考えは危うい。

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大阪の卒業式―口元寒し斉唱監視

 卒業式で教員が本当に君が代を歌っているか――。

 大阪府立和泉高校の校長が教頭らに指示して教員の口の動きを監視させていた。歌わなかったと判断された教員らは事情聴取のうえ、処分も検討された。

 大阪府では昨年、全国で初めて君が代の起立斉唱を教職員に義務づける条例ができた。それに基づくチェックだという。

 校長は10年春、民間人校長の公募に応じ、採用された。起立斉唱条例を提案した大阪維新の会代表の橋下徹・大阪市長の友人で、弁護士資格を持つ41歳。

 府教委の生野照子委員長は橋下氏と校長にメールを送り、「もっと悠々たる度量でご検討を」と口元監視をいさめた。

 それでも橋下氏は「これが服務規律を徹底するマネジメント」「ここまで徹底していかなければなりません」と校長の姿勢を高く評価するばかりだ。

 個人の歴史観で見解が分かれる君が代をめぐり、最高裁は職務命令で起立斉唱を強制することに慎重な考慮を求めている。

 1月には東京都の懲戒処分をめぐる判決で、いきすぎた制裁に歯止めをかけた。

 これに対して橋下氏は、君が代の起立斉唱は、良心や歴史認識の問題ではなく、公務員として守るべきルールであり、マネジメントのあり方だという主張を繰り返している。

 しかし、そもそも卒業式で口元を監視することが優れたマネジメントといえるのだろうか。

 卒業生を送り出す祝いの舞台が、校長の管理能力を試す場になっていないか。

 同僚の口元を凝視させられる教頭らの気持ちはどんなものだろう。教育者より管理者の意識ばかりを徹底させていないか。

 教員のもつ能力を最大限に引き出し、良好な学びの場を生徒らに提供することが校長の手腕であるはずだ。口元監視がそうした教育環境づくりに寄与するとはとても思えない。

 今春、府立高校14校の教員17人が不起立を理由に戒告処分を受けた。研修を受け、「今後は職務命令に従う」との誓約書に署名・押印を求められた。

 こうした府教委の対応は、府議会で審議中の職員基本条例案の成立を見越したものだ。

 条例は、同じ職務命令に3回違反すれば免職にすると定めている。君が代で起立斉唱しなかった教職員を想定しているとみられる。市議会でも市長が提案する方向で準備をすすめる。

 組織統制を優先させる「マネジメント」が、よりよき教育を生むのか。条例を審議する議会各派はじっくり考えて欲しい。

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