第1章 修行とお仕事はじめました
第6話 任務は危険と隣り合わせ
私はメガロメセンブリアから極秘裏に派遣された調査隊を預かっている。今回の任務は数十年前から、旧世界≪ムンドゥス・ウェトゥス≫で何度か観測された巨大な魔力である。
旧世界にあるという聖地で観測されたならばまだしも、ヨーロッパと呼ばれる地方の『黒の森』と呼ばれる巨大な樹海である。
ならば何らかの儀式が行われたか、力の有る鬼神・悪魔が召喚された可能性が有る。
しかし、それなら数十年に渡って何度も観測されたにもかかわらず森に異常は見られず、また周囲での大きな事件も報告されていないのだ。
これを異常事態と言わずしてなんと言うべきか。
任務において最優先とされるものは、魔力の原因の確認。
次に生存して報告。出来れば確保、あるいは討伐。
我々がバックアップをする旧世界の組織ならともかく、他所の組織に握られるわけにはいかないのだ。最悪の場合、他の組織と出会えば戦闘もありえるだろう。
「隊長。今のペースならば。早朝には黒の森にたどり着きます」
「よし。他の組織に警戒を回しつつ、森の手前で休息を取る」
「了解!」
現在私が率いている部下は2人。
相手の交渉も考慮した上で精鋭を用意し、男2女1の編成である。交渉が出来る相手がおり、有利な契約を交わせれば上等。最低でも情報は握りたい。
しかし現実的に考えるならば、儀式跡と何らかの組織・グループの痕跡程度であろう。
「隊長。野営準備完了しました」
「ご苦労。結界を張りつつ交代で見張りに付く」
「了解!」
さて、早朝には森に入る。どこまで探索が可能だろうか。
魔力反応は幸いにもほぼ特定の範囲である。
我々の足ならば、半日もかからずにたどり着くだろう。
あたし達はわざわざ旧世界に来ている。
こちらでは大きな声で魔法を使えないし、暗躍する魔法団体も数が多すぎる。
今朝、調査の目的地に到着。ちょうど黒の森内部の探査指定範囲に向かって駆け出している。
正直なところめんどくさい。旧世界の事なんだからそっちで勝手にやってほしい。
「まったく。なんであたしが……」
「口を閉じろ、コードエイト」
「はーい」
ぼやけばすぐこれだ。隊長は固すぎるのよね。コードネームエイト、それが組織でのあたしの名前。隊長はデルタ。割とまじめなもう一人の隊員はセブン。
数字の名前なんて華もあったもんじゃないわ。いい加減仕事変えようかしら?
かといって裏組織にいる身。簡単に変わったり出来ないのよね。
「そろそろだ、警戒を怠るな」
「了解!」
「はーい、了解」
目的地に着いたもののやっぱり森が広がっているだけにしか見えない。
探査魔法をかけてみるものの、何かの儀式の痕跡は感知できなかった。
「このポイントは終了。次のポイントへ向かう」
「了解!」
次……、ねぇ。今も魔力反応は無いんだし、儀式跡でも見つかるかどうかってレベルじゃないかしら。
「次のポイントだ、北北西へ1km進む」
「了か……!?」
「え!?」
寒気がした。唐突に巨大な魔力の気配。
これは明らかにヤバイ。こんな魔力人間が出せるレベルじゃない、それこそ鬼神やヘラスの守護聖獣でも目の前に居るかのよう!
「た……隊長、どうしますか!?」
「あ、あたしは帰りたいな~、なんて……」
「馬鹿者!調査する絶好の機会でしかない!」
「り、了解!」
「了解!」
冗談じゃないわ。こんなのと対面するのなら反逆者扱いでも逃亡した方がマシってものよ!
けれど魔力反応はかなり近い。
急に出た辺りもしかしたら待ち構えられていたのかもしれない。
一瞬、死が頭をよぎったけれど、あたし達は行くしかなかった。
なんという事だ。調査隊には精鋭を連れてきたはず。
たとえ敵対組織や大量の召還魔が居たとしても、反撃しつつ好転、あるいは逃走は可能だと踏んでいた。しかしこれほどの魔力では無事に逃げ切るのはまず無理だ。
最悪の場合は私自身が囮となり、報告を部下に任せる事になるだろう。
「隊長!反応捕らえました。西に100mです」
「よし。私が先行する。エイトは私の後方に。セブンはこの場で待機して観測。最悪の場合は即座の逃走の準備を」
「了解!」
「観測準備開始します!」
覚悟を決めるしかなさそうだ。
そう思いつつじわじわと歩みを進める。正直、息が詰まる思いだ。
魔力からは害意が感じられない事がせめてもの救いだろうか。
そうしているうちに念話の魔法が届いた。
(こちらセブン!魔法障壁の展開が確認できます!かなりの魔力です!)
(了解した!)
魔法障壁だと?これだけの魔力を障壁だけに使っているとは考え難い。
障壁を張った中で何かを行っていると考えるのが自然か。
いやまて、ならばなぜ結界ではなく障壁?
おかしい。何者かが居るのは確定だが、怪しすぎる。
ガサガサ――!
――!しまった、別の組織が居たか!
どうする、現状で動くのは危険すぎる。
「――魔法の射手!氷の7矢!」
「ぐっ!」
「きゃっ!?」
しまった、手前を凍らされた!これでは先に動くのが遅れる!
逃げればみすみす原因もどこの敵対組織かも解らないまま終わる!
「――契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!」
氷結の魔法か!
まずい!この距離では巻き込まれる!
(――セブン!今すぐ逃走を……!?)
(隊長!?何が!)
パアァァァァン!
くっ!あちらの障壁が解除されたか!
あれだけの魔力障壁だ、上級魔法の封印術を防いだか。
しかしやつらの後衛がすぐやって来るだろう!この機に逃げるしかないか!?
「――来れ風精 光の精 光りに包み 吹き流せ 光の奔流 陽光の息吹!」
何!?原因の方から反撃?
障壁を張っていた魔法が解けたにしては建て直しが早すぎる!!
あちらは何人い――!馬鹿な!少女1人だと!?
少女に見入っているうち、敵対組織と思われる者たちは光に包まれ、遥か遠くへ吹き飛ばされていた――。
6話目終了です。
現在のストックはここまでになります。
次話は、推敲と矛盾点の確認しつつ、ストックを溜めてから投稿となります。
※1月4日魔法に対する補足を追加。
シルヴィアが使った「陽光の息吹」に関しては、「雷の暴風」を参考に、勝手な解釈に基くオリジナル魔法です。
攻撃魔法に対して遠慮があるため、得意な光で拘束、風で吹き飛ばして怪我をさせたくないという考えから、この様な形を取りました。
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