10年前、大阪のマンションで主婦と子どもが殺害された事件を巡り、いったん死刑判決が出たあと、最高裁判所が審理のやり直しを命じた裁判で、大阪地方裁判所は、殺人などの罪で起訴された被告に無罪を言い渡しました。
無罪判決を受けたのは大阪刑務所の刑務官、森健充さん(54)です。
平成14年に大阪・平野区のマンションの部屋で、義理の娘で当時28歳の主婦と1歳の長男が殺害され部屋が放火された事件で殺人などの罪で起訴され、一貫して無罪を主張しました。
1審と2審は、マンションの階段で被告のたばこの吸い殻が見つかったことなどを根拠に、いずれも有罪と判断し、2審が死刑を言い渡しましたが、最高裁判所はおととし、「有罪と認めるのは困難だ」と審理のやり直しを命じました。
改めて行われた裁判の判決で大阪地方裁判所の水島和男裁判長は「たばこの吸い殻は変色していて、事件よりかなり前に捨てられた可能性がある。被告が事件当日、マンションを訪れて現場の部屋に立ち入ったとは認められない」と無罪を言い渡しました。
また、おととしの判決で最高裁は、同じ場所で見つかった残りの71本の吸い殻を詳しく調べるよう促していましたが、やり直しの裁判の中で、警察がこの吸い殻を紛失していたことが発覚しました。
これについて大阪地裁は、判決の中で「捜査機関の不手際で鑑定ができなくなってしまった」と厳しく批判したうえで「証拠の適切な保管は捜査の最重要課題といっても過言ではない。今回の紛失の経緯を再検討し、組織のありようも含めて再発防止策がとられることを切に希望する」と改善を求めました。
弁護団によりますと、被告は判決のあと、「必ずこの日が来ると信じていた」と弁護士に話していたということです。
弁護団は「判決は具体的なうえ、詳細で説得力があった。警察は、事件が起きてから森さんを犯人と思い込んで捜査してきたが、真犯人がいるはずだ。検察は、判決を重く受け止め、控訴すべきでない」と話していました。
判決について大阪地方検察庁の大島忠郁次席検事は「主張が認められず遺憾だ。内容を精査し、高等検察庁などとも協議のうえ、適切に対応したい」としています。
判決について、被害者の主婦の母親の明石隆子さん(62)は「遺族にとっては残酷で悔しい判決です。状況証拠がたくさんあるのに、無罪にしてしまう司法はおかしい。検察には控訴を求めたい」と話していました。
裁判は、最高裁判所が2審の死刑判決を取り消して差し戻すという異例の経過をたどりました。
この事件で、最高裁は、おととしの4月、「有罪とすることは著しく困難だ」として2審の死刑判決を取り消し、地裁に審理をやり直すよう命じました。
最高裁が死刑判決を取り消したのは、昭和47年に石川県で起きた事件以来で、戦後6件しかありません。
この判決の中で最高裁は、今回のように直接的な証拠がない事件について「被告が犯人でないとしたら説明ができないような行動がなければ有罪にできない」という新たな判断基準を示しました。
今回の判決は、より慎重な判断を求める最高裁の基準に沿って改めて検討した結果、被告は無罪だと結論づけました。
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