2012年1月19日 23時3分 更新:1月19日 23時14分
整備が進まず政府の事業仕分けで「無駄遣い」と批判された国土交通省のスーパー堤防(高規格堤防)事業で、全体の整備計画(約873キロ)のうち5.8%(約51キロ)とされてきた整備済みの区間(整備率)が、実際は1.1%(約9キロ)しかないことが会計検査院の調査で分かった。国交省が着工前や工事中の地区まで整備済み区間に含め、「完成」としていた中にも実際には規格を満たさず未完成のものもあった。検査院は19日、検査結果を国会に報告した。
検査院は国会からの要請で事業の状況を調査。通常は完成した区間のみで算出する整備率に、工事中や一部だけ完成した区間、用地買収交渉中で着工前の区間まで含めていたことが判明した。さらに、国交省が「完成」としている34地区を調べたところ、スーパー堤防の規格を満たしているのは一部なのに全体を完成としていたのが20地区、規格を満たさず全く完成していないのが3地区あった。
大阪市東住吉区の大和川沿いの地区では04年度に完成したことになっていたが、土台部分を横切るように廃線となったJRの貨物線の線路跡が残っており、規格を全く満たしていなかった。
国交省は「事業に着手した段階で整備率にカウントしていた。予算に対する整備状況を詳しく知らせるためで、完成した区間を多く見せようといった意図はなかった」と釈明。「表記方法が不適切だったかもしれず、見直したい」と話している。
同事業では地元自治体の町づくり事業との連携を掲げているが、堤防上に設ける市街地の整備計画を国と自治体が協議して策定した例が一つもないことも検査院の調査で判明。計画地区内で通常の堤防すら完成していない区間が3割以上あることも分かり、検査院は「安全対策上、通常の堤防を優先的に整備するよう検討すべきだ」と指摘した。【桐野耕一、樋岡徹也】
市街地側の勾配が3%で、幅は高さの30倍程度(高さ8メートルなら幅は約240メートル)とされる高規格堤防。大洪水で川の水が堤防を越えても、決壊を防ぎ壊滅的な被害を避けることが目的。盛り土の部分はつながっている必要がある。首都圏の利根川、江戸川、荒川、多摩川と近畿圏の淀川、大和川を対象に87年度から整備が始まり、10年度までの総事業費は6936億円。住民の反対などで整備が進まず、完成は400年後、総事業費は12兆円に上るとされることから、10年の政府の事業仕分けで廃止と判定された。ただし、国土交通省は事業規模を約120キロに縮小して進める方針を示している。