2012年1月18日 12時6分 更新:1月18日 12時24分
東日本大震災直後、帰宅困難者らの貴重な情報源となったワンセグ放送。今、ごく限られた地域で放送される「エリアワンセグ」の実験が全国各地で行われている。その可能性とは?【吉住遊】
ワンセグは、携帯電話など携帯端末向けの地上デジタル放送。通常の放送エリアは都道府県単位かそれ以上だが、エリアワンセグはずっと狭い。
年間6000万人以上が利用する東京・羽田空港。出発ロビーが見渡せる通路で携帯電話を取り出し、ワンセグのチャンネルを検索すると、NHKや民放各局のほか「羽田エリアワンセグ」の表示が現れた。空港内のレストランや土産物、旅先情報を紹介する番組が音声付きで流れる。動画の下には、データ放送を使って文字案内も表示される。
羽田空港を運営する「日本空港ビルディング」が3年前から実験を始め、昨年11月末からは国内線第1、第2の両ターミナルで24時間放送を開始した。
40ある放送用のチャンネルのうち、利用されているのはテレビの地上波10チャンネル程度で、ほかは空いている。未使用のチャンネルを活用するため、総務省はエリアワンセグの導入を推進。集客施設のほか、各地の自治体が試験放送を実施している。同省は混線防止のための基準を設けるなどして12年春にも一般事業者が参入できる体制を整え、実用化の見込みだ。
特に期待されるのが、災害時の活用だ。アクセスが集中すると通信障害を起こすインターネットと異なり、電波放送は多数の人に情報を一括して提供できる。携帯電話で視聴できる手軽さも大きい。東日本大震災では、停電地域で被災状況を知るためや、駅で立ち往生した帰宅困難者が電車の運行状況などを確認するためにワンセグが活用されたが、エリアワンセグならさらにきめ細かい地域情報が提供できる。
放送する側に電源のバックアップがあれば停電時でも情報を送れることから、羽田空港でも災害時に物資や食料の配給情報や交通情報などの提供を検討する。係員がカメラと発信用のアンテナを持ち歩き、中継することも可能という。
震災復興の地域情報提供用に、実験放送を始めた自治体もある。福島県南相馬市は昨年7月から、市役所周辺や仮設住宅がある鹿島地区で、復興イベントや放射線量などの情報を提供している。
同市情報政策課の佐藤祐一課長は「情報提供だけでなく避難所周辺ではテレビに出たということで被災者の間で話題になったりしていて、コミュニティー醸成にも効果がありそう」と期待を寄せる。
課題は、特定の地域に放送電波が流れていることをどう知ってもらうか。携帯電話でエリアワンセグを見るには、電波が受信できる場所に行き、チャンネルをチューニングする必要があるが、携帯電話端末ごとにこの手順は異なる。災害などの緊急時に見てもらうためにも、平時の番組を充実させる必要がある。“放送局”がどう収益を確保するかも問題になってきそうだ。
宮城県栗原市の実験放送に協力する慶応大学環境情報学部の植原啓介准教授は「マスメディアが伝えられない生活情報等を共有するコミュニケーションツールとしては非常に便利。将来的には、携帯に防災情報が画像で瞬時に送られるといった次世代型防災無線にだってなり得る」と話している。