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投稿が遅れて申し訳ないです、最長です。長いです。
10 覚醒、ニチアサキッズの戦士
「わあ……、銀次くんの固い……」


「ほ……星空さん、恥ずかしいよ……」


「大丈夫、黄瀬さん!怖くないよ! わっ!ピクピクしてる!」


「どうした、顔を赤くして。色々と身体の仕組みを知る事が出来るチャンスだぞ」


「で……でも、男の人のを見るのって、私はじめてで……」


「でもほら!触ってみなよ! 銀次くんのすっごく固い!」


「絵を描くならば、ちゃんと構造を知っておくのが大事なのだろう?触って構わん」


「う……うん。 ……わあ、本当だ……それにとっても熱い……」


 思い立ったが吉日。その日以降も、思い立てばだいたい吉日。立てば吉日。そそり立てば吉日。
 という事で、俺と星空、そしてアヘ子は屋上へと赴き、早速ポスター製作をする事になった。 日野は差し入れを持ってくる、という事で今はいない。デリカシー帝国が崩壊しながらも逃げ延び、帝国復活のために暗躍を始めているデリカシー達が「ここは脱げ」というガイアの囁きを聞いたという事なので、俺は思いっきり脱いだ。キャストオフ、チェンジ・ビートォ。そして、俺の身体に深い興味を示した星空が固い所をペタペタと触り、アヘ子も恐る恐る撫でている所だ。
 

 ノクターンノベルズかと思った? 残念、筋肉ちゃんでした。


 脱いだのは、上に着ているブレザーやらYシャツだけである。現在俺は上半身裸。
 アヘ子直々に、モデルになってと頼まれたからで他意はない。
 ちなみに今現在、両腕を曲げた状態で上げるダブルバイセップスのポーズ中。
 
 俺の身体はチート身体能力により、中学生の身体ながらも死ぬ前と同じマッスル・コンディションを保った状態だ。普通の中学生と比べたらかなりのスリム筋肉がある方で、体育の時間で着替える際にはあまりの美しさにみな目を逸らしていた。「あいつとは友達になりたくねぇ…」なんて声が聞こえた気がする。幻聴が酷いな、今度耳鼻科に行かなければ。

 で。

 正直、星空の一言目でエロな予感はしていたが、まさかここまでとはビックリだ。ビックリしすぎて立ちかけた、親指が。親指がだよ? しかし星空。もしも屋上の扉の影に、俺達をそっと見守る誰かいたらどうする気なんだ。あれ? 扉がちょっと開いてる? 気のせいか。おかげで俺のエロ妄想回路が、スケベのエナジーたぎらせ、GOGO。「あっ!大変!岸崎くん、鼻血が出てる!」「へ? …もぉーーー!!銀次くんのエッチィーーーー!!」キュルケッ。いや、鼻血=エッチな事を考えている、という方程式はこの世には余りないぞ星空。主に俺だけだ。今、血が一部分に大集合しないように頑張っている、親指の話だ。褒めて星空、俺すごく頑張ってる。あれ?ビンタもご褒美だった気がする?でも無理矢理エロを織り交ぜたラノベっぽい展開を呼ぶのはやめていただけないだろうか、星空よ。異次元の向こうで64裂きにしたいとか言う人が出てくる。あ、間違えた、ニャンニャン×ニャンニャン。つまり、ニャニャニャニャ…(以下略)。やべぇ、これは悶える。


「それにしても……、銀次くんの身体って傷だらけ……」


 よかった。星空の眉間の皺が「それにしても」で消え去ってくれた。
 GJ、一緒に転生した身体の古傷達。あとで撫で撫でしてあげる。


「“八輪鉤爪やりんかぎづめ”は中々のじゃじゃ馬娘達でな、レディーの扱いがなっていなかった故に、よく引っかかれた。まあ、今となってはデリカシーを持つ者全てに背中を見せる男に俺はなったがな(現在、デリカシーは亡命交渉中)。何せ、八つ合わせて80kgもの重量があったから大変だった(女性の体重を語った事で交渉失敗、デリカシーは死んでしまった)」


「えぇ! そんな重いのをいつも持ってたの!? 岸崎くんって、漫画のキャラクターみたい……」


 俺はラノベだと思っているがな。
 口を開くと長々と語っちゃうし。




 ……あれ?恋愛センサーが欠けていて、尚且つ強くて優しいあの戦友。
 ちょっとラノベの主人公っぽい気がする。惚れてる子多かったし。



 ■




「右手でピースサイン。足はもうちょっと前。上体を右に捻って……、そのままストップ!」


 そんな余計な勘ぐりは置いておいて。
 俺はアヘ子の指示の元、屋上に何故か置いてある四角いコンクリートの塊に右足だけを乗せ屈伸するようなポーズ。上体を右に捻り、まっすぐ伸ばした左腕の先にはモップ、まっすぐ伸ばした右腕の先には、黄瀬に向かって見せているピースサイン。上半身は裸。顔には痣。目には涙。


「あの……、できれば笑った表情が……」


「すまん、表情が顔に出にくい性質でな。これでも凄く笑ってる。それに笑顔は星空の専売特許だ。星空のウルトラハッピーな笑顔を参考にしてくれ。天然モノだぞ」


 アヘ子と一緒にベンチに座って、俺の上半身裸を見ていた……、俺の裸を見ていた星空は、アヘ子の方へ顔を向ける。両手の一指し指をえくぼに当てたポーズで、アヘ子へのウルトラハッピー供給を開始した。俺はエロ妄想回路が心にまで侵食した事に危機を覚えた。日曜日のスーパーヒーロータイムで心を浄化せねば。でも坂本監督回だったらどうしよう。いや、大歓迎だけどね。


「はい、黄瀬さん! スマイルスマイル♪」


「ふふ、ありがとう星空さん」


 うん、この体勢でいる限り、星空の笑顔は維持されるようだ。
 このままの姿勢でいよう。ずっとそうしよう。その犠牲があって俺は幸せになれる。



 ……えっ、チートが発動しただと。身体が全然動かない。

 嘘だろ俺。もとい、不良品を掴ませた腐れ老害。
 え? 本当に動かないよ? 俺はもっとカッコイイボーズで死にたいのに。


「く……くるぅ~~~……。ようやく、みゆきにあえたくるぅ~~~……」


 そこに、のたのたと、ふらふらと歩く非実在動物が現れた。うわっ、身体汚ねぇ。

 おれ のこうげき! が からだが うごかない!
 ゆうしゃよ うごけないとは なさけない

 で、非実在動物の身体がボロボロだが、どうかしたの?


 ……いや、犯人俺じゃないか。昼休みに銀河の果てまで吹っ飛ばそうと蹴ったじゃないか。
 やばい、これが星空にバレたら今度こそヤバイ。
 デリカシー帝国どころが世界が崩壊する。星空の判断で地球がヤバイ。


「あっ!キャンディ!どこ行って……、って出てきちゃダメぇ!」


 一瞬声を上げるも、すぐに声のボリュームを落として非実在動物の元へと駆け寄り、星空はナウシカの如く、非実在動物を隠すように身をかぶせた。さすが星空優しい。俺も星空に身を隠されたい、というか抱きつかれたい。いや、昨日抱きつかれたか、凄く温かかった。はい、不埒妄想しちゃった、てへぺろ。エロ妄想回路がいつの間にか成長してる。俺に反抗して未来からボディービルダーロボットを送り込む勢いだな。もう世界の終末までこのポーズしてろ。それか、風の谷の連中に殺されろ。腐海の一部になれ。


「くるぅ~~~……、きがついたらがっこうのそとで、いぬにおいかけられたり、くるまにひかれそうになったり、からすにつかまったりして、たいへんだったくるぅ~~~………」


 あ、非実在動物の奴、あの蹴りで気絶してた。
 よく気絶した非実在動物。もとい、気絶させた俺。


「あれ? キャンディのなまえは、なんだっけくる?」


「名前を一人称代名詞で言っている上に、それは俺の持ちネタだ。……あれ?俺の名前なんだっけ?確かミロのヴィーナス像を作った人物と同姓同名だった気がする」


「あ、この前の子豚さんだ。ボロボロになっててかわいそう……」


 星空の挙動を怪しがったアヘ子は絵を描くのを中断して立ち上がり、星空の元へ駆け寄って非実在動物を撫でていた。俺も撫で撫でされたい。…いや、なんでアヘ子に? どうしたの俺? 俺を撫で撫でしていいのは星空だけだろ?


「キャンディはこぶたさんじゃ……!、あれ?キャンディってこぶたさんくる?」


「キャンディ、しっかりしてぇ!!あなたは絵本の国の妖精さん!! ……あ!いや!これはその、キャンディって言って、あの……!」


「俺の異常性アブノーマル福話術ラッキートーク』の成した非実在動物わざだったのさ」

 思いっきり非実在動物を掴んで前後に振っていた星空へのフォローを忘れない。
 デリカシーは死なない。本当に死ぬのは、俺に忘れられた時だ。あれ?デリカシーって何?


「キャンディって言うんだ…。よぉーし、まずは身体を綺麗にしてから、キャンディも描いてあげるね!」


 星空の焦りとは裏腹に、アヘ子はハンカチを取り出して非実在動物の汚れを拭いていく。
 「はぁ~、きもちいいくるぅ~」と、自分の存在が秘密である事を忘れた発言は「と言った感じに、俺の異常性アブノーマル福話術ラッキートーク』の成した非実在動物わざだったのさ」というフォローも忘れない。非実在動物に対して使うほどに堕ちても、デリカシー帝国は永遠不滅だ。オールハイルデリカシー。はっ、デリカシーの霊圧が消えただと?


 アへ子が非実在動物の身体を拭き終わった後は、ポスター製作作業を再開。
 星空はアヘ子の横でスマイル光線、俺と非実在動物はモデル。
 マスコットとなる非実在動物は、まだ不安定であるチートが無駄に発動して身体が完全に硬直した俺の前に置かれる形だ。アヘ子はそれを真剣な眼差しでジーッと見た後、筆をシャッシャッと動かす。星空はずっウルトラハッピーのポーズ。だんだんプルプルしてる、かわいい。


「……ぎんじ、キャンデイだんだんとおもいだしてきたくる」


「お菓子で買収される。ニャンニャンされて剥製。どーっちだ」


「おかしくるっ!!」


 はっ。ジト目で俺を脅そうなんて、無限万年早いわ。
 生存戦略しない奴なんて嫌だわ、早めに擦り潰さないと。俺ってシビれるだろう?


「おまたせー! 差し入れ持ってきたでー! ……あ、れいかが「屋上には近付かん方がええ」って言ーとったげと、何かあったん?」


 そこに、先程から行方を暗ませていた日野が戻ってきた。
 左手にはピニール袋があり、どことなくいい匂いが俺の嗅覚をくすぐる。これはソース?
 というか、れいかって誰?


「? ううん、何もないよ? 青木さんどうかしたの?」


「もしかして、キャンディの事なのかな?」


「まーた非実在動物か、お前はどれだけトラブルを持ち込めば気が済むんだ。暗黒ダークネスに突き落としてやろうか」


「えええええええ!? キャンディはなにもしてないくるーーーっ!!」


 まあ、そんな事より日野の持ってきた差し入れだ。

 日野はベンチの真ん中にビニール袋を置き、袋の中から取り出したのは、黒いプレート。その上には出来たてほやほやであろうお好み焼があった。やべぇ、うまそう。喰いたい。え?もんじゃ焼き?あれって全然食べた気しないよね。お好み焼き最高。


「うわー、おいしそう」


「あかねちゃん家、お好み焼き屋さんだもんねー!」


「へへへー。めっちゃおいしくて、ほっぺた落っこちるでぇ!」


 わいわいきゃっきゃ、うふふふ。

 ゆる百合を見守ってる場合ではない。
 俺の存在が魔法の言葉「アッカリ~ン」で消えかかってる。
 というか、さっきから動かない。


「ん? どないしたんや岸崎くん。ポーズ決めてへんで、お好み焼き食べようや」


「………身体が固まって動かん」






「さーさ、食べよ食べよー。早く喰わなん、冷めてまうでー」


 ひでええええええええええええええええ。

 表情を変えずに日野は、そのまま割り箸を取り出して星空とアヘ子に渡す。
 待て、違う、俺はボケてない。ツッコミも必要ない。関西人に今必要なのは、お好み焼きを食べさせてくれる優しさだけ。日野の身体の半分はお好み焼きでできてるんだろう? 俺にも食べさせろよ。あ、「日野を食べさせろ」という言葉が浮かんででエロ妄想しちゃった。まあいいか、妄想は三文の徳。今のお金にすると60円。安ッ。いや、星空への妄想はお金に返られないな。ああ、日野との妄想途中に星空が参戦してきた。最後に殺されてしまうオチだったらいいのに。

 いや、そんな事よりお好み焼き。


「わかった。もう苗字で呼んで結構。俺は潔く諦める。いや、ていうか、あの、本気で動かない。誰か俺に食べさせてくれ。おいしそうな匂いで俺の舌が、お好み焼きの歓迎パレードをしようと震えている。お好み焼きが来なかったらテロが起きる。タワーが占拠される」


「ふーふー……。んー、うちのおこのみやき、ぜっぴんやわー」


 てめぇはニコニコ動画で実況もこなしてしまう、フリー配布の文章読み上げソフトかっ。ワザとらしく棒読みしやがって。地獄のミサワさん家に突き落とすぞ。くそっ、おいしそうに喰いやがって。いつも喰ってる癖に顔を緩めやがって、かわいいな日野。ほっぺにソースがついてんだよ。


「あ…あかねちゃん、岸崎くん本当に動けないみたいだよ? さっきから全然動いてないもん」


「えぇ!? ホンマに!?」


「もしかしたら1ミリも動いてないかも……。私が食べさせてあげるね!」



 アヘ子、天使だああああああああああああ。



 なるほど、さっきからあった違和感はこれか。
 隠していた神性が溢れていたのか、俺には天使の鼓動が聞こえるぜアヘ子。
 星空が聖女で、アヘ子は天使。日野はお好み焼き。非実在動物? それ実在してない。
 頼む、エンジェル。俺にお好み焼き、アーンしておーくれ。
 ドラゴンボールが必要なら、今からクロックアップを覚醒させて集める。


 ……いや、ここでエンジン吹かすなよ糞チート。何クロックアップしようとしてるんだよ。
 高速のビジョンでお好み焼きを食い逃すだろうが。
 GOD SPEEDでお好み焼きを食えというのか。

 アヘ子は…………。くそっ、なんで名前が思い出せないんだ。俺の頭の螺子は2、3本はずれてるのか。あれ?転生前に良く言われてた気がする。それはいいとして、思い出せよ。今日という日に聞いたアヘ子の名前を、俺はまだ思い出せねーとかねーよ。

 アヘ子は割り箸にお好み焼きを摘み、タッタッと俺の元へと近寄ってきた。


「あーー……」


 「あーん」と言うつもりが自分もあーんとして、口が開きっぱなしのアヘ子。

 口を開けた状態の上に、クリリンとした無垢な目でこちらを見てるよ?
 ちょっとこれ、可愛い過ぎなイカ? 侵略されそうでゲソ。
 これか、これがあざといの根源か。でも、このあざといに包まれたい。そして眠りたい。
 なんで俺、この天使の名前が思い出せないの?馬鹿だろ、死ね。

 とりあえず、お好み焼きだ。それ以外の選択肢は今はない。

 あー…。


「ん。 んー……、はッふううううううううううううううううううう!!!!!」


「やよい、それ出来たてやで!? ふーふーせな、あかん!」


「ああ!? ご、ごめんなさい!!」


「お水!お水!」


 違いました。アヘ子悪魔でした。頭を上に下にと激しく動かしてるけど、その正体は舌を焼くのを生きがいにしてる悪魔でした。呼んでねぇよアヘ子さん。もういい、お前なんか一生アヘ子だ。コラ画像作られろ。照英を越えろ。川越シェフと並べ。その綺麗な顔にお好み焼きをふっ飛ばしてやるぜ。

 が、熱いながらも、一部がゾンビと化したデリカシー達がお好み焼きを口から発射するのを抑えた。いや、俺の舌が上手に焼かれようとしてるんだけど。なんでお前ら変なとこで頑張るんだよ。お前らもう死んだ身だろうが。何を強いられているんだよ。ジュニア・ハイスクール・オブ・ザ・デッド起こしてんじゃねえよ。核で街ごと消え去れよ。


 いや、というか、あげえええええええええええええええ。
 どれだけ保温機能が高いんだ、このお好み焼き。さっきから全然熱が引かないんだけど。くそっ、だからお好み焼きはダメなんだよ。もんじゃ焼き最高。


 あ、思い出した。こいつの名前は黒瀬アヘ子だ。




 ■




 そんなこんなあり、アヘ子はポスターの下書き(漫画ペンでなぞる直前のラフ画)を完成させた。
 空はオレンジ色に染まりきった。舌は火傷で染まりきった。デリカシーゾンビは皆殺しにした。
 

 そして俺は、ようやく動けるようになった。


 俺のフリーズ現象の原因は星空のスマイルにあったらしい。
 そういえば特命戦隊ゴーバスターズにもそんな感じの弱点があったなあ。
 鶏を見たら五分間フリーズするという、ウィークポイントが。

 しかし、さっきからの展開に悪意を感じる……。俺が何かしたというのか……。
 ただ3人の女子中学生と青春を送っていただけじゃないか。何が悪いというのだ。



 が、ただ動けずに、ずっとエロ妄想していただけではない。
 アヘ子のポスターを見て、イメージを安定させる方法を思いついた。



「よーやっと動いたなぁ、岸崎くん」


「ああ……、動けないまま日曜の朝を迎えたら、8時30分にご臨終だった……」


「銀次くん、スーパーヒーローが大好きなニチアサキッズだもんねー。あれ?黄瀬さんも?」

 
 いや、しかし特命戦隊ゴーバスターズがこの世界にないとかありえないな。海賊戦隊ゴーカイジャーが35年の集大成ならば、特命戦隊ゴーバスターズは次の時代を切り開く新たな開拓という感じなのに、東映さんの冒険スピリッツが抜群に発揮される作品だというのに、ないなんて本当にありえない。そりゃあ、宇宙刑事シリーズもいいがな。世代ではないので見ていなかったが、『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』で惚れる直前まで行った。


「ち…違うもん! 確かにゴーバスターズとかデカイダーとか見てるけど……」


 くそっ、スーパー戦隊や仮面ライダー・劇場版が始まる度に、冒頭部で気絶する癖はどうにかならないものか。海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』は気絶の連続で、まだニチアサキッズ脳に焼き付けないまま死んでしまった。まだ14回しか見てなかったのに。俺は50回くらい通わないとちゃんと全部観れないんだよ。MOVIE大戦MEGAMAXはもう凄かったな、あれは多分100回くらい通った。しかも全部見れた後も気絶して生死を彷徨った。あー、だんだんとむかついてきた。この世界に平成ライダーシリーズもガオレン以降のスーパー戦隊もないなんて。ここって地獄じゃないのか? 実際、黄色のリスみたいな悪魔がいるし。今、物凄い発言したし。



 今、なんつったよこの悪魔。



「おっ! なんや、やよいもニチアサキッズっちゅー奴か?」


「そ! そんなんじゃないもん!」


 今、悪魔が凄い事を囁いた気がする。いや、いつもの幻聴だよね? 俺の聴覚もチートの恩恵で良くなっていて、今朝の日野とのやり取りをしている時に『あかね』と呼ぶ度に日野の心臓がドクドク言っているのが聞こえたけど。今のはさすがのさすがにさすがで幻聴だよね? 特命戦隊ゴーバスターズがこの世界で放送されてるわけないよね? 東映さんが巨大ロボ戦を屋外で撮影してないよね? 変身バンクを排除して、仮面ライダーみたいに、その場その場で変身してたりしないよね? 脚本の千葉靖子さん、通称靖ニャンがバディロイド達の掛け合いを描いて視聴者を楽しませたりしないよね? 嘘だよね? 嘘だろ。嘘つきは泥棒の始まりだぞ。そして絶望がお前のゴールだ。

 俺の顔に何かついているのか、星空と日野とアヘ子はギョッとした顔でこちらを見ていた。


「あ! ち、違うの銀次くん! 黄瀬さんはスーパーヒーローが大好きで……」


「な、なんや!? やよいをいじめたら、ただじゃおかへんで!!」


「…………なあ、ゴーバスターズって知ってる? 知っていたら、題名を全部まとめて言ってくれ」



 まあ、そんなわけないよねー。俺の知ってる特命戦隊ゴーバスターズじゃないよねー。もしも、そうだった場合は俺、とんでもない事になっちゃうよー? 一度だけ、本当に一度だけ、視聴も録画も忘れた事があるのだけども。その時俺は、まるで陸に打ち上げられた魚の如く痙攣して倒れて、白目剥いて口から黒い液体を垂れ流して、病院で心配停止が確認された挙句、医者から「ご臨終です……」って言われた事があるらしい。というか、死んだじいちゃんに会った。目が覚めるとテレビがあって、俺の見逃した回が延々とリピートされていた。俺が一人前のニチアサキッズになった証だとその時の事は受け取ったけど、医者が「ブラック・ジャックでも来たのか……」とか言ってたぞ。まさか、ねー。そんなんじゃ、ねー。嘘だったら寂しさでぶっ殺して地獄に落とすぞこのウサギ。




「と、特命戦隊ゴーバスターズが、どうかしたの……?」




 嘘だと言ってよバァァァァァァニィィィィィィィィィィィィ!!!!!!


 待て、待ってくれ。
 なんでアヘ子が、彼ら(・・)を知っている。

 それは、この世界にないものだ。
 なんでそれが、この世界にあるというのだ。
 


 まさか……。



 俺の力にしたい候補がないこの世界。
 それはつまり、俺のまだ知らない力がある世界。

 俺は、特命戦隊ゴーバスターズは予告と映画でしか観ていなく。
 力の内容は「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン」くらいでしか知らない。
 いや、気絶してたからまだそのシーンに達していない。知らない。
 俺の力の候補になるわけがない。


 つまり、この世界に特命戦隊ゴーバスターズがあると?


 音がだんだんと遠ざかり、視界がモノクロになっていきつつ、五臓六腑が縄で絞められる感覚に襲われながらも、気力を振り絞って俺はアヘ子に尋ねる。


「な…なあ、ちなみに特命戦隊ゴーバスターズ様の録画データは家にあるのか?」


「え? えと、お母さんがまだ消してないと思うから、あるよ?」





 YEEEEAAAAAHHHHHHHH!!!!!

 天使だ!!天使がいた!!天使に触れたよ!!おかーさん!!この子天使!!マイエンジェル!!君に会えたこの銀河できっと奇跡が始まったんだよ!!夢と希望のマシンガン持ってるよこの天使!!鉢の巣になったよ!!蜂住めよ!!遠慮するなよ!!蝶サイコー!!フォー!!ファンタスティック・フォー!!銀河の危機とか知らない!!バスターズがレディゴーすればオッケー!!イッツモーフィンタイムする!!レッツモーフィン!!ほら天使も一緒に!!レッツモーフィン!!やっべー!!興奮してきた!!こんな興奮は布団の中で星空との《中略》を妄想した時以来だぜー!!キャッホオオオオオ!!妹の漫画!?そんなの後だよ後!!むしろ知るかよ!!邪魔なんだよ、俺の思い通りにならないものは全て!!今は特命戦隊ゴーバスターズと出会えた事に感謝する!!祭りの場所はここだ!!ヒィィィィハァァァァァ!!!!

 はあ…、はあ…、心の喉が凄く痛ぇ…。あとは誰かが『お前、ニチアサキッズじゃなかったっけ?』と言わなければ完璧だ。あの時もそれがトドメだったからな。



「……はっは~ん、まさかスーパーヒーローを愛するニチアサキッズとか言いながら、見忘れとったんか?」


「え? 銀次くんそうなの?」


「ははは、病室で特命戦隊ゴーバスターズの映像を延々とループさせておいてくれ」






 そこで俺の意識は暗転した。




 ■




「…………おーい、お前ちゃん生きてるかーいィ? いや……、もう死んでるかィ……」


「……っお兄ちゃんに問題です! 仮面ライダーZXの放送した日は……、何日でしょう?」


「はあ? 俺の妹の癖に、そんなに簡単で解釈の間違った問題を出すんだ? お前、さてはミカじゃないな。が、スーパーヒーロータイムを愛するニチアサキッズとして、その問題にしっかりと応えよう。問題というのは、お前の解釈が間違っている事を指す。ニチアサキッズの妹として大問題だ、大迷惑な存在なのだ。いいかよく聞け、放送されたのは1984年の1月3日だ。正確に言うならば、題名は『10号誕生!仮面ライダー全員集合!! 』。はあ……、簡単すぎて我が妹ながら頭を疑う。どうやらここは病院っぽいし、頭をスキャニングチャージしてもらえ。お前、なんだか凄い怪我をしているじゃないか。まるで交通事故で死に掛けた様に見える。あれ?俺の声って、学園武装を使わず幽霊で俺と戦った女と同じ声だっけ? 声優の使いまわしってよくないと思うぞ。いや、『オールライダーVS大ショッカー』で仮面ライダーの声と怪人の声を兼用で演じた関智一さんと鈴村健一さんは別だ。あの方達は何かと特撮に縁の深い人物だからな。稲田徹さんも忘れてはならない、藤岡弘、さんに変わって仮面ライダー一号の声を担当して、特捜戦隊デカレンジャーではドキー・クルーガー役を熱演し、そして愛したお方だ。はて?どうしたのミカったら涙ぐんで。はて?包帯お姉さんも何、涙ぐんでるの?いつもの痴女っぷりはどこに行ったの?包帯お姉さんも偽者?」


「お兄ちゃん!!」


「うおっ、いきなり抱きついてきた。こいつミカだ。しかもこの匂いもミカだ」


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!ずっと会いたかったよ!!パパもママも死んじゃって、更にはお兄ちゃんまで死んじゃうなんて!!ミカ、寂しすぎて死んじゃうかと思ったよ!!ていうか、さっきまで生きながら死んじゃってたよ!!おじいちゃんは相変わらずだったよ!!幽霊の先輩お姉さんにお兄ちゃんの魂をクチヨセしてもらったんだ!!あの世に魂すらないって言った時はチョキチョキしてぶっ殺してやろうかと思ったよ糞が!!お兄ちゃんだ!!やたら台詞が長くてスーパーヒーロータイムの事しか語らない上に、いちいち台詞の中にパロディを入れきて喉が弱いからシリアスな場面でしか叫ばないお兄ちゃんだ!!ぶっちゃけ、ミカね!!東映にテロ行為してやろうかと思ったよ!!でも、東映を失ったらお兄ちゃんがガチで死ぬからやめておいた!!偉いよね!!褒めろ!!会いたかったよ、お兄ちゃん!!私のお兄ちゃん!!私だけのお兄ちゃん!!私専用お兄ちゃん!!ミカずっと言いたかった事があるの!!つーか、ずっと言ってたのにてめぇ、何シカトこいてんだよあ゛ぁ!?チョキチョキして愛しちゃうぞゴルァ!!ミカね、お兄ちゃんの事大好きだったの!!ううん、今も好き!!大好き!!愛してる!!結婚しろ!!お兄ちゃん風に言うと、お前の運命はミカが決める。だよ!!大嫌いな仮面ライダーを吐きながら見て覚えたよ!!これでお兄ちゃんとミカは一緒!!一心同体!!つはりは、…なんだっけ、エクスカリバーだっけ? 別にいいやそんな事!!お兄ちゃん!!ミカとエッチな事して、子供を一億万人くらい生んで!!一緒に近親相姦を認めない社会をチョキチョキして八つ裂きにしよう!!邪魔する奴は例え、神でもチョキチョキだよ!!ていうかチューしよ!!チュー!!AとかBとか関係なしに、Zの先にある愛を見つけよう!!私は見つけたけどね!!それはお兄ちゃん!!んー……、ちゅ、んふ、ん、ちゅぷ、れる。《五分後》……ぷっはぁぁぁぁ!!うんめぇぇぇぇぇ!!兄貴の唾液最高だわぁぁぁぁ!!心の《自主規制》がビンビンだわぁぁぁぁぁ!!お兄ちゃんにミカの処女膜くれてやるわぁぁぁぁ!!その股間の《自主規制》をミカにぶち込んでぶち破れゴルァァァ!!だから覚悟してねお兄ちゃん!!今夜は寝かせないぞ!!夢の中まで《自主規制》してやる!! ……あれ?これお兄ちゃんじゃないじゃん。幽霊を操る先輩お姉さんじゃん。 ……だましたなぁぁぁ!!よくもだましたなぁぁぁぁ!!ミカの記念すべき104834回目のファーストキス奪いやがったなぁぁぁ!!知ってるんだぞゴルァ包帯ババアクソビッチてめぇ!!私が掴み取るはずの532回目の奴をその汚ねぇベロで奪いやがった事!!もう許さねぇぞ!!お兄ちゃんが覚醒状態でのファーストキスはミカが貰うの大決定してたんだぞ!!目覚めろ!!スラッと長いハサミがお兄ちゃんみたいでミカの《自主規制》の友!!学園武装“華一紋芽はないちもんめ”!!てめぇら全員チョキチョキしたらァァァ!!!!」




 ■




 黄瀬、あ、名前覚えた。黄瀬の製作するポスターのモデルをして、一週間が経った。

 そろそろ星空印のウルトラハッピーを補給しなければいけない頃なので、俺は登校する事にし、今は湖のほとりにある桜並木の道を歩いている。俺と星空が運命の出会いをした所だ。そういえば非実在動物とはどこで会ったんだっけ。


 俺の妹がこんなにヤンデレなわけがない。な夢から目が覚めると病院で、テレビに接続されたポータブルDVDプレーヤーに特命戦隊ゴーバスターズの映像が流れていた。また気絶した。再び目覚めると、今度はげっそりとした医者が、「あんたの事は見逃すから、もう来ないでくれ」と話し始め、荷物をまとめさせられて病院から追い出された。全くなんの事やら。まるで一度死んだのにも関わらず、特命戦隊ゴーバスターズを流したら生き返ったみたいじゃないか。ニチアサキッズにはよくある事だろう?


 と、いうわけで。おそらく黄瀬が届けてくれたであろう、特命戦隊ゴーバスターズのDVDをマンションに持ち帰り、スーパーヒーロータイムを楽しんだ。本当ならばBlu-rayがいいのだが、贅沢は言うまい。で、再び気がついたら裸で、部屋に嵐でも通ったかの如く荒れており、部屋には嘔吐物と血の匂いで凄い事になっていた。鏡で自分も見るとゲッソリとしており、体重が4kg落ちている。こんなニチアサキッズがいたら引くわー……。というか、俺だった。どれだけ興奮したんだよ俺。さすがにちょっと引いた。というか段々とマンションが、SAWの監督がファイナルと銘打った作品を作ったのにも関わらず、次回作を作る事を決める勢いの有様だ。どうするのこれぇ……。


 適当に掃除を終えた後、俺はコンビニである物を買って、チートを安定させるための物を作り始めた。



 そして、太陽がのぼり、校内美化週間ポスターの受賞者発表日となったので、制服に腕を通して登校する事にして今に至る。いや、ウルトラハッピーの補給が最優先だけどね。なんだか手の震えが止まらないし。


「! よう、星空。救急車呼んでくれてありがとな」


「へ? …………ぎ、銀次くん? …………うっ、うわぁぁーーん!!銀次くんが生きてたぁぁーー!!」


 通学路を歩く星空を見かけたので挨拶をすると、いきなり涙を流し始めた星空が俺に抱きついてきた。鼻血が出ると察した俺は右手でピースを作って無理矢理止める。なにこれ、ウルトラハッピーを貯蓄しているタンクが一瞬で満杯になって壊れそう。星空の髪の匂いくんかくんか。喉に血が流れてきた。

 いや、そういう場合じゃなくて。

 泣きながら抱きつく星空の肩を左手で掴み離すと、学生鞄から非実在動物も顔を出した。
 あ、星空の鼻水が俺の制服に付いて橋が出来た。とりあえず非実在動物で拭いておこう。
 ついでに、こいつのふわふわした耳ちぎって鼻に詰めよう。


「どうした星空。まるで俺が死んだみたいじゃないか」


「まったくもって、そのとおりくる! ってキャンディはタオルじゃなっ…ちぎっちゃダメぐる゛ぅーーーー!! あ゛ッ!!」


 俺はちぎった毛を鼻に詰めつつ、星空は制服の袖で涙を拭きつつ、話始めた。


「えっぐ……、あのね。…ぶふぅっ!!」


 話始めようとしたら、俺の鋼鉄の鼻柱を見て吹いた。
 鼻の両穴に黄色いものが突っ込まれあるから仕方ないな。別に我流鼻毛真拳に目覚めて、頭を芸術にするつもりはないから安心してくれ星空。俺の失神が芸術だ、先日悟った。

 星空は呼吸を整えて話を再開。


 「……えとね、銀次くんが気絶した後、救急車呼んだの。そしたら……、病院で亡くなったって連絡が青木さんから回ってきて……ひっぐ、でも黄瀬さんが、ヒーロー番組を見せれば大丈夫って……え゛っぐ。それで私とあかねちゃんと黄瀬さんで、病院に行って、DVDを再生したの……。そしたら銀次くん、息を吹き返して……。うえぇぇーーーん!!すっごく心配したんだからぁぁーーー!!」


 再び涙を流し始めたウルトラハッピーの結晶体である星空は、俺の胸板をポカポカと叩く。俺の心もポカポカしてきた。ありがとう、これで今日も生きられる。でも星空を心配させて涙を流させてしまった。ごめんね、これで今日死ぬ事にした。


「そうか、心配をかけて悪かった。というか助かった。命の恩人だ」


「ぐしゅっ……、ううん。DVDの事を言い始めたのは黄瀬さんだから、黄瀬さんにお礼を言って……。私もあかねちゃんも……、ただ待つだけしかできなかったから……ひっぐ」


 黄瀬め、天使の上にニチアサキッズってあざとすぎないか? 狙ってるの? 俺は狙われてるの? 狙って構わないのよ? 天使のような日曜日よりの使者に感謝。とりあえず、星空の頭もなでなで。ずっとしたかったんだよな、これ。ふふふ。


「そうだ。俺がいない間にバッドエンド主義者な奴らは攻めてこなかったか?」


「うん! あかねちゃんと放課後パトロールしたりしたけど、大丈夫だったよ! 世界は私達、プリキュアが守るんだもん! ねっ、銀次くん!」


 ようやく、鼻が赤いながらも星空に笑顔が戻った。これでウルトラハッピー補給が平常運行。でもね、星空。どうかキュアナイトの件は忘れてくれないだろうか。今日死ぬから。


「ならいい。……俺も決めるところはちゃんと決めたいからな」


「?」


 俺はポケットから出した、チートを安定させるために作ったものを眺めた。




 ■




「おっはよー! ……岸崎くん、テレビ見逃しただけで死に掛けるてアホやろ?」


「スーパーヒーロータイムを愛するニチアサキッズとして当然の事だ」


「威張るとこちゃう……」


 星空と一緒に登校し、校門をくぐってしばらくすると日野……、おーっといけない。名前忘れたわー。急に忘れたわー。えーと、確か名前は……、お好み焼きが手を振ってこちらに駆けて来た。そして第一声がそれだった。 え?デリカシー?あいつら役に立たないから皆殺しにしたよ。よくよく考えたら、デリカシーなくても人は生きていけるよね。デリカシー物語・完。次回作は出ないので期待しないでください。


 というか、他に言う事あるだろがお好み焼き。「大丈夫だったん岸崎くん? ほんまニチアサキッズの鑑やわー」とか「もうめっちゃ心配したで! 実はうち…岸崎くんの事…」とか「岸崎くんったらおっちゃめー☆ うふふ☆」とオエッ。最後のはさすがになかった。また入院してしまう。お好み焼きめ、起こしヘラで八つ裂きにしてやろうか。やはりニャンニャンよりこれがしっくりする。


「実はあかねちゃんね。すっごく泣いてて「ぎんじー!ぎんじー!」って!!」


「み、みゆき! それは言わんといてーや!!うちの汚点や!!」


 一瞬、星空の言葉で名前思い出したけど消滅した。お前誰だっけ。
 汚点ってなんだよ。俺を心配したら黒歴史かよ。それを言ったら星空は黒歴史まみれだぞ。学校に自分専用の教室を作らせて、ロボット同士がいちゃいちゃする同人誌でハアハアする腐女子だった時期は、星空にはないんだぞ。これからもないぞ。

 赤面するお好み焼きは、急にハッとした表情になって手をポンと叩いた。


「あ、そやそや! 例のポスター張り出されてるみたいやで!」


「本当!? 行こう行こう!」


「お、あれ完成したのか」


 ポスターとは、黄瀬が製作した校内美化週間ポスターの事だ。
 俺と星空とお好み焼きは小走りでポスターが張り出されている場所へと向かう。


「あんな事があったから、出すのが遅れたけど……。黄瀬さん、とってもいいポスターを描いてくれたよ! きっと銀次くんも気に入ると思う!」


「ホンマ、やよいには感謝せなあかんで! ちゃんと謝って、お礼言っとき! …しかし、やよいはなんであんなに、冷静やったんやろ?」


 それは彼女がプリキュアだからじゃねぇの?目覚めつつあるんじゃね?
 多分、今までの展開的に、次に敵が攻めてきたら覚醒するよ。




 ■




 俺と星空、お好み焼きは昇降口で上履きに履き替え、中学生達が密集している場所へと向かう。
 人ゴミの中に小さな天使を見つけたので、俺は声を掛けた。


「よう黄瀬。色々と大変な目に会わせて悪かった。そして、特命戦隊ゴーバスターズを届けてくれてありがとう。命の恩人だ。そして俺は今年の秋から仮面ライダーが始まるという確信を得た。本当にありがとう黄瀬」


「きり……岸崎くん……」


 はは、この天使ったら←キャ?ワ!イイv。噛んじゃってるぜ。でも途中で持ち直したら、かみまみたのやり取りができない。でもいいのさ、黄瀬は命の恩人だ。ネコミミが生えたら俺がどうにかしてやる。えっやだ、ネコミミ天使ってあざとすぎてかわいい。「ニャ…ニャ~」と赤面しながら言うとこ妄想したら萌えるんだけど。今回ばかりは妄想回路にサムズアップ。親指の話だ。


「黄瀬さん!」


「どうやった?」


 「あ……」と気まずそうに呟いた天使は、暗い顔で壁にある掲示板に目を向けた。

 そこには校内美化週間ポスターの結果が張り出されていた。
 「ポイ捨て許すな」という文字と共に気味の悪い絵が描かれたポスター。その上に「金賞」という文字が掲げられていた。その下のポスターには「校内美化ヒーロークリーンピースマン」という文字が描かれ、天使が生み出した新たなヒーローがモップを持ってピースとポーズを決めていた。あ、よく見たらマスコットもいる。天使が描くとこんなにかわいくなるのか。星空の鞄の中にいる非実在動物も見習えよ。

 が、その神聖に溢れるポスターの上には「努力賞」という文字があった。
 いつから優勝した者が「努力賞」を獲るようになったんだ? これがゆとり教育って奴?


「努力賞…」


「せっかく3人に手伝ってもらったのに、ごめんなさい……」


 どうやら、ゆとり教育ではなく、本当の意味を冠した「努力賞」らしい。

 審査員は誰だ。俺が八つ裂きにしてやろう。それとも新たな力でぶっ殺してやろうか。いいじゃないか、クリーンピースマン。赤と白を基調としたコスチュームに青いマントをひるがえして、星空印の笑顔を振りまく二本角。あ、そうだ。


「岸崎くんが余計な事するからや!!」


「ティファニアッ」


 お好み焼きに脇腹をどつかれた。しかもエルボー。
 え?余計な事って何? 特命戦隊ゴーバスターズに出会えた事で魚の如く痙攣して倒れて、白目剥いて口から黒い液体を垂れ流して、病院で心配停止が確認された挙句、医者から「ご臨終です……」って言われた事? マジか、俺のせいか。え、本当に?マジで? あ、また意識飛びそう。


「ち! 違うよ! だって……、精一杯やったもん!」


 一瞬俯いた顔をしたので俺の心臓が停止するかと思ったが、パッと上げた二つの瞳に、涙目ながらも強い光が未だに宿っていた。きっと、本当にやりきったのだろう。天使ってば、絵描きの鑑だな。携帯電話を持って神と話してる大天使も、黄瀬の前ではただの時間旅行者だよ。きっとこのポスターも脳髄の奥にセーブするに違いない。しなかったら許シャダイ。噛みました。違うワザとだ。かみまみた。ワザとじゃない? Come my sister! あ、いや、やっぱり来なくていいや。あれは夢だけど嫌な予感しかしない。こっち来んな。


「うんうん! 黄瀬さん!私、努力賞だって凄いと思うよ!」


「そや! うちはやよいのポスターが一番輝いて見えるで!」


「そうだぞ、金物屋で酷使されていた大型犬を連れた子供が、このポスターを見て安らかに眠るぞ」


「3人共……、ありがとう……。……あの、岸崎くん」


 はて? どうしたんだ黄瀬、気まずそうな顔をして。愛の告白ならば、思い出の深い屋上に行こう。はっ、もしかしてこんな大衆の中で告白するのか? 実は周りが仕掛け人で、いきなりミュージカルとかを始めちゃったりするのか? プリキュアって凄ぇ。もしかして、石田監督が監督してるんじゃないだろうか。アニメの世界でも演出力を失わないってやっぱり巨匠は凄ぇ。でも今回の話が終わったら、すぐに仮面ライダーの撮影に戻っていただきたい。というか戻れ。仮面ライダー部があなたを必要としている。

 黄瀬が何かを言いかけた所で、人ごみの向こうから無粋な声が飛んできた。


「そんなの、負け惜しみだよ。誰が見ても、蘇我部長のポスターが一番芸術的で優れているさ」


「そんなふざけたポスターと比べられちゃ困るよ」


 いつぞの、芸術を頭に抱えた天パーアフロを筆頭に、4人の美術部員らしき男子中学生がこちらを嘲笑うかのように笑っていた。








 いま何と言ったか。


 俺は特命戦隊ゴーバスターズを見る前にネットで注文して、昨日届いたばかりの理髪用のハサミを両方の袖口から取り出した。異様と思える程に軽いハサミだし、周りに居た中学生共が一斉に身を引いたが、そんなの事はどうでもいい。


 こいつら全員、八つ裂きだ。


 だが、ハサミを取り出したところで星空と日野に両腕を押さえられ、八つ裂きを止められた。


「止めるな2人共、こいつら八つ裂きにする」


「ダメだよ銀次くん!!」


「そや!! こんな奴ら斬り刻んでも意味ない!! ちょっとぉ!あんたら何やねん!!」


「そうだよ! 黄瀬さんだって頑張って描いたんだから!!」


 俺の両腕を力一杯押さえながら、星空と日野は醜い美術部員に向かって叫んだ。
 そうだ。これは恥ずかしがり屋で泣き虫な黄瀬が、頑張って描いたポスターだ。もしかたら、このヒーローが世界を救うという展開がこれからあるかも知れない。それなのにてめぇらと来たら「ふざけてる」だと?それこそふざけるな。利き腕はどっちだ。一生筆が握れない身体にしてやる。


「やめて3人共! …もういいの」


 俯いた顔となってしまった黄瀬は掲示板の方へ行き、違法審査で努力賞という汚名を着せられたポスターを画鋲に構わず外してしまった。何故、はずす。それはそこに飾っていても恥ずかしくないものだ。むしろ、それを学校中に貼るべきポスターなんだぞ、黄瀬。




「岸崎くん。 …………ありがとう」



 顔を下に向けたまま俺にそう言って、黄瀬は廊下を走って去っていった。


 何がありがとうなのか。

 俺は一体何を感謝されたというのか。俺はただ、黄瀬の描いたポスターを侮辱されたにも関わらず、俺は星空と日野に止められたままで、何も出来ずに黄瀬の目に涙を浮かばせてしまったではないか。一体、俺が何をしたのか。何もしていないではないか。

 そこに、アフロが口を開いた。


「はっ! 黄瀬とか言ったなぁ……。あいつは芸術の事を全く理解していない。あんな子供だましでどう心に訴えかける事が出来るというんだ。僕の描いたポスターを見ろ! 一つのポイ捨てが、後々環境を破壊し、人々を苦しめるんだ! だから誰かが見張るんだよ! ポイ捨てをすれば誰が許さず、お前を見てるんだぞ!ってね! それに比べて……、校内美化ヒーローだなんて、くだらないモノを提出するなんてありえない! あんなものは芸術じゃなくて、ただのごっこ遊びだ! いいか、芸術はいつだって……、爆裂だァァーーー!!」


 「さすがです!」「天才は言う事が違う!」「心に響きました!」
 なんて、美術部に属する蝿がアフロを賞賛しているが、お前達は何を言っているのか理解しているのか。何を言って、黄瀬を悲しませたのか知っているのか。何を言って、俺を怒らせたか分かっているのか。


「ちょっと蘇我先輩! それは言い過ぎです! 黄瀬さんって言う人も一生懸命描いたじゃないですか!」


 そこに異議を唱えたのは、黒板に少女漫画風の絵を描いていた眼鏡の女子生徒だ。
 今はベレー帽は被らず、プロデューザー風のセーターは肩に掛けていない。ただのおさげの眼鏡だ。

 だが、その声空しく、アフロはわざとらしく耳の横に手のひらを立てた。


「はぁ? 芸術家として当然の事を言っただけだろう!? ……ああ、お前は確か一年の美川とか言ったっけ? お前は放課後、教室の黒板に絵を描いて披露しているみたいだが、僕に言わせればそんなの、ただの自己満足だ。ただ絵の描けない奴らに、どれだけ自分が優れているか見てもらいたいだけのなっ! アイディア賞を貰ったみたいだが、僕に言わせればどこにアイディアがあるのかサッパリ検討が付かない。 だいいち絵も古く感じる、お前漫画家には向いてないんじゃないかぁ?」


 両手の平を上に向けて失笑するアフロが言ったポスターを見ると、少女漫画風の絵の上には「アイディア賞」という文字が掲げられていた。
 「……んなわけない」と、少女漫画風のポスターを描いた女子中学生は、怒りと恥ずかしさで顔を赤くし、口をへの形に結ぶ。

 蝿の笑い声が耳障りだ。




「……みゆき、やよいを追いかけるで」


「えっ!? でも!!」


「ええから!! …………ギンジ、ホンマに殺したらあかんで。うちはギンジがおらんくなったら寂しいからな」


「…………ああ、わかった」


 星空と日野はそっと俺の腕を離して、2人並んで廊下を駆けて行った。

 星空、日野、お前達の怒りは俺が引き受けた。ついでに少女漫画の女子中学生の分もだ。これ以上抑えられていたら、親愛なる友人を八つ裂きにしなければならなかった。


「なんだぁ? 今度は友情ごっこか?」


「……あの、蘇我部長。こ、この二年生って、もしかして噂の……」


「はあ? 噂のなんだ……よ……」




「どうしたアフロ。まるで、悪魔を見たような顔じゃないか」




 それはもちろん、俺だがな。

 悪魔を見たような顔、と言っても、正直な話俺にはよく見えていない。ただ、俺を怒らせた奴はだいたい、口を開けばそう語る。俺を怒らせた奴はだいたい、ぼんやりとした影にしか見えない。八つ裂きにするために脳が活性化して、必要な情報のみを抜き出している。というのが転生前の学園で務めていた保健医の見解だ。アフロの目にどう見えているかは知らないが、笑顔を失ったこの顔でも、俺の怒りは表現できているようだ。よかったなアフロ。これを見た奴はだいたい、布団の中で頭を抱えて四六時中怯える日々が続き、悪夢にうなされる。グレていた時代は、何人退学にさせたか数えていない。せっかくだし、この世界では丁寧に数えるとしよう。


 まずは1人。


「まままま待て待て!! 話せば分かる!! それに暴力なんて振るっても、あいつが金賞取れるわけじゃないぞ!! 僕はただ、芸術がどんなものかをだな!!」


 恐らく、手を出しながら、じりじりと後ろへ下がり昇降口の柱に逃走を邪魔されたアフロが目の前に見える。何を言ったか知らないが。何か言ったのだろう。何を言ったとしても知るか。


「はいはい、そうだねよかったねー。お前は確かに芸術家で、言葉が心に良く響いて耳障りだよ。おかげさまで集中の向こう側にあるゾーンに突入した。もうお前が何言ってるのかよく聞こえないし、ただの敵にしか見えない。よくも俺の友達が魂を込めて描いたポスターを侮辱してくれたな。あれが子供だましだと?中学生のガキが喚きやがって。あのポスターは子供ではあるが、だましてなんかいない。「芸術家は嘘で真実を語り、政治家は本当の事のように嘘を語る」って言葉を知らないのか? お前の恐怖でポイ捨てをやめさせるのは、まあ一応筋は通ってると俺も思う。だがな、黄瀬の描いたポスターに込められた思いの方がずっと筋が通っていて、正しい。汚すのをやめさせるのではなく、綺麗にする事に重きを置いているからだ。ゴミを捨てる奴がいなくなっても、ゴミを拾う奴がいないと意味がない。お前はポイ捨てする恐怖を表現して満足か? 黄瀬は、掃除する事で綺麗になり、みんなが笑顔になる事をヒーローにして表してるぞ。お前のポスターよりもよっぽどいい。芸術とか、そんな硬そうなもんじゃなくて、もっと柔らかくて、優しい、想いに溢れた作品だ。ついでに少女漫画の奴のポスターもだ。校内美化活動で爽やかって感じだろうが。それに、絵描きってのは見せたがり……いや、絵を見せなきゃ絵描きにはなれない。だから、たとえ自己満足であっても、見た奴を満足させれば問題なしだ。俺はお前の芸術では満足できない。むしろ、不満が積もる一方だ。芸術は爆裂?よくもまあ、俺の前でそんな事が言える。俺もまた、芸術家の一面を持っていてな。それはそれは美しく表現できる腕がある。嘆かわしい事に、その芸術に必要不可欠な相棒はこの前死んでしまったが、まあ、代用品でも事足りるだろう。あの世で岡本太郎によろしく伝えておけ、芸術は八つ裂きだって事をな」


 俺は床を蹴り、まっすぐにアフロの顔面に目掛けて右手のハサミを繰り出した。
 アフロは恐らく情けない顔で足をもつらせて倒れ、俺のハサミを避けたようだ。
 おかげでハサミが根元まで柱に埋まってしまった。
 周りの蝿共も悲鳴を上げて逃げ出した。


「避けるな。避けたら、八つ裂きにできないだろうが」


 残ったハサミを左手から右手に移して鳴らしつつ、床から俺を見上げる敵を見下ろす。


「お、お前無茶苦茶だぁ!! 日本で一番偉大な芸術家になるかも知れない僕を殺す気かぁ!!」


「……ああ、今のは聞こえたぞ。そんな歴史に名を残しそうな奴を俺は八つ裂きにはしない。芸術を見る目が俺にはある、つまりお前が本当に芸術家であれば、俺は寛大な心で四つ裂きにするだけだ。未来からタイム・パトロールがボンと出てきたりはしないから安心しろ。いや、あれは年代的に見て過去から来るのか? どっちでもいいか。俺が殺す気なのは、世界で一番愚かな芸術家気取りのアフロ小僧だけだ」


 ハサミを振りかぶると、アフロはゴキブリのように地面を這って逃げ、廊下の端に置いてある消火器を両手で掴み、悲鳴を上げながら投げつけてきた。

 それを俺はハサミで一撫でし、軌道を変えて横に飛ばす。
 一撫でした際にできた傷から白い粉末が上がり、昇降口が白煙に染まった。

 後ろから悲鳴が聞こえてやかましいが、それよりも目の前で喚く口を塞がなければ。


「あ、おいおいどうしてくれる。代用品とは言え高かったハサミが歪んだじゃないか。こりゃダメだな。“八輪鉤爪やりんかぎづめ”には遠く及ばない。むしろ、文字通り別次元(・・・)の領域か。さすがは俺の相棒。…ふむ、これもメモしておくかな。いや、する必要はないか。とりあえず、予備は後28本ある。さーてさて、お待ちかねの八つ裂きだ。もっと反抗しないと、死ーんーじゃーうーぞー?」


 相変わらず床を這うアフロの鳩尾に右足を叩き込み、押さえつける。
 両方の袖口から予備の理髪用ハサミを取り出し、鳴らす。


「ごほっ……や、やめて!!やめろおおおおおおおおお!!!!」


「死ね」


 両手のハサミを、暴れるアフロの顔に目掛けて、俺は振り下ろした。




「がっ…………、あ」


 アフロはそのまま、床に大の字になって倒れた。はい、八つ裂き完了。お疲れさんしたー。あと、お前クビ。ハサミの癖にちょっと脆すぎる。うちのエースだった奴はトラックくらい簡単に解体できたぞ。そこまで求めているわけではないが、せめて岩を八つ裂きにしても刃こぼれしない身体になれ。では、来世で頑張ってね。

 俺は深呼吸して、ゾーンから現実世界へと戻り、色や音を取り戻した。


「……ちょ……ちょっと。 殺しちゃっ……、あ」


「安心しろ少女漫画。日野との……、あ、シリアスシーンにかまけて呼び方戻しちゃった。まあいいか。日野との約束があったから殺してねぇよ。ただ、頭に大事に抱えてる芸術を八つ裂きにしただけだ。アイデンティティーは何者だ?と彷徨い続けろ。こんな俺嫌だ、こんな俺嫌だってな。こいつの事はこれからどう呼ぼう……。アフロがなくなったからハゲでいいか。綺麗にツルンと出来たし、それと題名は……『惨髪さんぱつ』だな。うん。また素晴らしい芸術を八つ裂きってしまった」


 床には象徴にして芸術であったアフロの残骸と、本体を八つ裂きにされたハゲが転がっていた。うわっ、泡吹いて白目剥いてる上にズボンに染みが出来てる。こんな気絶のされ方をするのは予想外だな。星空や日野や黄瀬がこんなだらしのない気絶の仕方しても俺は気にしないが、これ以上の失神をした日には縁を切る事を考えなければならない。きっと星空や日野や黄瀬も同じ事に違いない。でも、寛大な心で許してほしいと思うのはなぜだろう。

 俺の芸術品であるハゲに魅入っていた少女漫画はハッとした顔になって口を開く。


「や、やりすぎよ! あ、やりすぎです先輩! これで退学になったらどうする気ですか!? 私達まだ義務教育の途中なんですよ!?」


「いや、ハゲが退学になっても知った事じゃないが?」


「先輩の事です!!」


 え? 俺何かした? 何か犯罪チックな事起こした? 罪の王冠でも被っちゃった?
 ただ黄瀬の作品を馬鹿にした奴に正義の八つ裂きを喰らわせただけだが? あ、最初に文句を言ってきた蝿の事忘れてた。まあ、後でゆっくりと楽し……、ゆっくり八つ裂きにして楽しめはいいか。うんうん。

 眉間に皺を寄せていた少女漫画はフッと呆れた顔へと解けて、ため息をついた。


「はあ……、でも、ありがとうございます。先輩のおかげで少しスッキリしました。えーと……」


「俺か? 俺の名前は……、あれ?何だっけ? 確かルーヴェンスの絵を見たら死ぬ奴と同姓同名だった気がする」


 ルーヴェンスの絵を見たら死ぬって、ルーヴェンスは一体何者なんだよ。
 ダ・ヴィンチより凄い暗号コードを絵に入れてたのか、やっぱり本物の芸術家って凄ぇ。


「先輩、日本人ですよね……? というか自分の名前を忘れないでください! ……私は一年の美川です」


「そうか、だが残念な事に俺は、一定の条件が満たされないと名前を覚えられないんだよ。とりあえず少女漫画っほい絵を描くから少女漫画と呼ばせてもらう。個人的にお前の絵は黄瀬には劣ると思うが、あのポスターは嫌いじゃないわ。幻想(ルナ)的な絵だと思う。イケメンで強い絵も描けてしまうんだろう。ハゲはあんな事を言っていたが、俺はお前が漫画家になれると思ってる。現実という名の怪物たちに負けずに頑張れ、先輩は応援してるぞ」


「いやです、もう漫画なんて描きたくありません」







 ええええええええええええええええええ。

 ちょ、俺が認めたのにその発言かよ。さっき感謝してたじゃん。お世辞だったとしても受け取れよこの中学生。それとも何。自分はワガママではあるけど適当ではないと言いたいのか。適当だよ、俺の前でそんな発言。適当に人生送ってるとしか思えない。八つ裂きにするぞ。気をしっかり持てよ、そんなにバッドエナジーを垂れ流したら、未来がバッドエンドに染まるぞ。


 あ。


 気が付けば、少女漫画を含めた生徒達が膝を付きうなだれ、すでに見慣れた黒い光を身体から垂れ流し、ネガティブな発言を思いつく限り放っていた。昇降口の玄関から空を見ると、まるで夕日のない夕暮れのように空が赤く染まっている。朝っぱらか来たのかあいつらめ。いまいち仕事するサイクルが掴めないな。日雇いで収入が不安定なのか?


「アカオニくる! アカオーニがきたくるぅ!」


「! 非実在動物!」


 泣きそうな顔で跳ね、こっちに向かって来た非実在動物の方へと俺は駆け出し、右手で掴んで肩に乗せて、そのまま非実在動物が来た方へと走った。


「バッドエンドしか書けない病気に悩まされる奴らが来たか。荒療治を食らわせてやる」


「そうくる! バッドエンドおうこくのアカオーニがきたくる! みゆきとあかねがあぶないから、ちみのちからをかりたいくる!」


 …………。


 俺は立ち止まり、非実在動物を両手に抱えて正面から向き合った。
 非実在動物が嘘をついてるか分かるように、そして俺が嘘をついていないと分からせるために。
 目と目を合わせて。


「…………俺を疑ってたんじゃないのか、お前は」


「いまでもそうくる! ……でも、ちみはともだちのためにおこったくる。だから、ちみのちからがひつようくる! キャンディに……、たたかうチカラはないくる……。だから、ちみをたよることしかできないくる! みゆきとあかねを……、プリキュアをたすけてほしいくるぅー!!」


 非実在動物は泣きながらそう語った。

 ……どうやら、俺は反省せねばならないらしい。
 力がない故に頼る事しかできない非実在動物は、誰かに力を頼る重圧を背負っている。
 下手すれば、自分が頼ったが故に命を落とさせてしまうかも知れない。

 
 そんなヒーローを、スーパーヒーロータイムを愛するニチアサキッズが放っておけるわけがない。


「…………悪かったな、乱暴したりして。俺の力でよければ手を貸そう。俺と一緒に戦ってくれ、キャンディ」


「こちらこそ、おねがいするくる! きっとプリキュアは、ともだちをたいせつにするこがなれるくる! ぎんじ、ちみはキュアナイほおおおおお!!!!はんへふるうううううう!!」


 ぺっ。まだそれを引っ張ってやがったのかよ。お返しにほっぺを力の限り引っ張ってやる。頼る事しか能がない害獣め。星空や日野の柔肌に傷がついたらどうする気だ、どう責任をとる気だ。絵本の国に高飛びする気かてめぇ。させない、お前は八つ裂きにする。そして星空と日野は俺が守る。


「無駄な事してないで、早く行くぞ」


「そ、それはぎんじがぁ! ……なんでもないくる。そのハサミをしまってほしいくる」


 俺は非実在動物を肩に乗せ、星空と日野が戦ってる場所へと再び駆け出した。


「あ、2人。3人。4人。5人」


「えええええええええ!? なんでいま、ひとのかみをきったくるぅ!?」


「俺って友達思いだから」




 ■




「星……、ハッピー!サニー!」


 確か星空が変身した際にはコードネームで呼んでいたので、俺は今回からそれを遵守する事にした。

 駆けつけてみると、ハッピーとサニーはバテた状態で地面に膝を付いており、その目の前には醜いピエロの顔がお決まりのアカンベェ。その隣には、名の通りに赤く、金棒を担いだ鬼が立っていた。うわー、ウルフルンより捻りがないデザインだー。弱そー。


「ぎ……銀次くん」


「や、やってもうた。うちもみゆきも必殺技はずしてもうて……」


「ええっ!? ちゃんとちからをゴメッ!!」


 役立たずの非実在動物を地面にスパーンと叩きつけて、俺は星空と日野の前に立ちはだかる。
 今度のアカンベェは、青いボロボロのマントに赤い太ったボディ。身体の真ん中には「A」と描かれた文字がプリントされており、左手にモップ、右手には刃物のような塵取りを持っていた。

 これは……。


「銀次くん! 悪い赤鬼さんが、黄瀬さんのポスターをアカンベェにしちゃったの!」


「クリーンピースマン・アカンベェ……。いや、胸糞悪いからポスター・アカンベェとでも呼んでおくか」


「アカァァーーーンベェェーーー!!」


 まるで自分の力を見せ付ける様に、ポスター・アカンベェは両腕を上げて咆哮した。

 うるさい。それはお前の力じゃない。威張るな。

 その力は、そこにくしゃくちゃにされて転がっている、黄瀬の作ったポスターが、ヒーローがバッドエンドに染まって作られた力だ。決して、お前が威張る力ではない。お前が誇る力でもない。ただの偽者だ。


「なんだぁオニ? またプリキュアが増えたオニかぁ……?。はっはっはー!!さてはお前が、ウルフルンの言っていた、バッドエンドを迎えた人間オニか!!たしかにこれは愉快オニ!!」


 ポスター・アカンベェの横にいる赤鬼が喚き始めた。
 虎柄のパンツを履き、上半身には動物の皮を羽織った頭が悪そうな鬼だ。青鬼も力を貸さない程に頭悪そう。見捨てちゃえよこんな奴。こんな頭の悪そうな鬼を庇う必要ねぇよ。むしろ踏み台にしちゃえよ。というかこいつ、絶対馬鹿だろ。ばーか。


「……一部違うが、だいたいそうだ。相変わらず愉快な喋り方をする奴らだな」


「いや……、銀次くんもなかなか愉快な喋り方するで?」


「うん、やっぱりデリカシーが死んでも生きてられるみたいだ。持ってて損した」


「デリカシーさん、死んじゃったの!?」


「俺が殺した」


「ぎんじ、ひどいくる!!」


「おいぃ!? 俺様を無視するなオニィ!!」


 いや、俺は悪くない。駆けつけてみれば、頭の悪そうな鬼がいるんだもん。
 やる気なくなってきたぞ。せっかくチート安定のために作ったものがあるのに、もう黄瀬に全部まかせて次回に持ち込もうかとも思えてきた。バッドエナジーを流しながら膝をついて俯いてるけど。なんかいい事を言えば日野みたいに気を取り戻す気がする。「黄瀬はかわいいぞー」あ、ダメだった。
 
 はて?

 そういえば俺、チートの安定試したっけ? あ、試してない。全然これっぽっちも試してない。特命戦隊ゴーバスターズを観る合間にチラチラと書いて完成はさせたけど、試してない。あれ?できるよね俺? あれ?なんでチートも自問自答も黙ってるの? なんか喋れよ。エンジン吹かせよ。おい、え。マジで?


「アカーーーーーンッ……ベェェーーーーー!!!」


 俺が焦っているのを無視して、ポスター・アカンベェは口から紫の光を帯びた光線を発射した。

 こうなれば実戦で試すしかない。

 ポケットに忍ばせていたメモ帳10冊を取り出し、括っていた鉄線をハサミで全て斬った。
 俺の身体の中に内包されているであろう、無垢で何にも染まっていないチートのエネルギーを込め、それを宙へと投げる。チートのエネルギーで、俺の脳髄とメモ帳に焼き付けた、ありったけのイメージを具現化する。




 バラバラになったメモ帳が黄金の光を放った。




 ■




「アガンベッ!?!?」


 ポスター・アカンベェの放った光線が断ち切られた。

 二つの影が、巨大な身体を拳と蹴りで後ろへとふっ飛ばし、彼らは綺麗に着地して、威嚇するようにポーズを決めた。俺の脳内だけではなく、今俺が立っている場所に耳障りの良いあの音が響く。


「こ、これって!!」


「あ、あれはうちでも知ってるで!!」


「そうだろう。彼らを知らない奴は、日本にいない」


 右に、白い右手の拳を固めて右腰に付け、白い左腕を爪の先まで延ばし右上の方に鋭く突きだす。
 赤い目玉に緑の身体。赤いマフラーを靡かせる、仮面ライダー一号。

 左に、白い左手の拳を固めて、左腕を曲げ、白い右手を開いて前に力一杯突き出す。
 赤い身体に青いゴーグル。赤いマントを靡かせる、アカレンジャー。


 俺の放ったメモ帳に書き記し、何より俺の魂に染みこんでいたイメージが具現化した。

 妙に身体が軽い。
 まるで身体の中に流れていたエネルギーを殆ど出し切ったような感覚。

 
 つまり、覚醒に成功したのだ。



「!! みゆき、あかね!! そらをみるくる!!」


「「空? ……っえええええええええ!!!!」」


 メモ帳が放った光が和らぎ、視界が完全にクリアになった時。
 赤い空を上書きするように輝く黄金の空。
 見上げれば、数え切れない程に多く、黄金の光を纏った彼らがいた。


 日本を、世界を守った全てのスーパー戦隊と仮面ライダー。


 黄金の光に染まる空が網膜を刺激し、鳥肌が立ち、心臓の鼓動が早まり、魂が震える。
 きっと今なら、俺は笑ってるに違いない。


「な、なんや!? なんか一杯おるで!! めっちゃでかいのもおる!!」


「落ち着け、あれは仮面ライダーJ。燃えてるのは仮面ライダーコア。中くらいのは仮面ライターアーク。カラフルにチームで並んでいるのがスーパー戦隊。それ以外の鎧を纏っている戦士が仮面ライダーだ」


 すげぇ、生で観ると仮面ライダーJも仮面ライダーコアもでけぇ。
 これが生の迫力って奴なのか。パないの。


「こ、こんなに沢山いたんだ……。スーパー戦隊さんと仮面ライダーさんって……」


「な、何が起こってるオニ!? 意味がわからんオニ!!」


 ならば、何が起こっているのか俺の身体を持って説明してやる。
 よーく見ておけ、次回からはこんな光景は拝めない。


 俺は、空を見上げながら右手を上げる。


 すると、それに呼応するようにスーパー戦隊と仮面ライダー達がカードへと変化し、俺の右手へと集まっていく。
 右手が火傷しそうなくらいに熱い。
 それはそうだろう、彼らの力を一つのバックルに集めているのだから。

 俺の右手が眩しい程の光を放ち、それが解けると、光とは相反するように黒いバックルが現れた。


 本来であるならば、9つの仮面ライダーの力を持つ戦士の変身アイテム「ディケイドライバー」ではあるが、本来の姿とは相反するように黒く、バックルの中心には深く青い球が収められている。

 「仮面ライダー クライマックスヒーローズ/仮面ライダー クライマックスヒーローズW」に登場する、世界の破壊者として活動していた頃の主人公・門矢士かどやつかさ。過去の彼が変身していた『仮面ライダーダークディケイド』の姿を俺は拝借する事にしたのだ。


 少々、使用は違うが。


 俺は最高のMOVIE大戦で、いかに偉大で、いかに格好良いかを改めて教えられた「スーパー」という言葉を付け加えて「スーパーディケイドライバー」と、変身アイテムであるバックルに名前を付けた。

 先程、俺が出現させた仮面ライダー一号とアカレンジャーが俺の近くに寄り、顔を合わせる。

 俺と仮面ライダー一号とアカレンジャーは強く頷き。
 ポスター・アカンベェの方に強い視線を浴びせる。


「ア、アカンベェ!?」

「なんだオニ!! 一体、何をする気だオニ!?」


 「スーパーディケイドライバー」を自分のヘソの前に置く。

 するとイメージ通り、一瞬で腰にベルトが巻きついた。
 左腰が黄金の光を放ち、その中から銃にも剣にもなる、全てのカードが封入された本型のカードホルダーが現れる。ヘソの前に付けた「スーパーディケイドライバー」を左右両方から引っ張り、カードを挿入できるように展開した。本型カードホルダー「スーパーライドブッカー」を腰につけたまま横に開き、俺はの中にあるカードの中から、欲しいと思いを込めたカードを右手の指で取り出した。


 それを静かに前に突き出す。


「こ、これが銀次くんの!!」


「スーパーヒーローの力なんか!?」


「ぎんじぃーー!! へんしんするくるぅーーー!!」


 俺はあの言葉(・・)を放ち、一息で「スーパーディケイドライバー」にカードを入れて、展開させていたバックルを両側から強く閉めた。





「変身!!」





“SUPER KAMEN RIDE. DECADE!!”






「……悪鬼八つ裂き、スーパーヒーロータイム。 仮面ライダー!!スーパーディケイド!!」


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