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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
22  午後には優雅にお茶会を 2






 ……まずは、NOHANA式の"話し合い"の結果から述べようと思う。




 "話し合い"開始、第八ラウンドにおいて、ザラ委員長が放った、渾身のストレートを喰らいながらも、俺が打ち返したクロスカウンターが見事に決まったのだが、両者共にそこで力尽きてしまい、パンチを放った、もとい、喰らった姿勢のまま崩れ落ちてのダブルダウンと相成った。
 そして、いつのまにかレフリーをしていたユウキのテン・カウントにも両者立ち上がれず、ダブル・ノックアウト宣告を受けて、拳による"話し合い"はドローとなってしまた。


 く、くそぅ、年齢差を考えれば、勝てるはずなのに……。

 流石に、プラント独立闘争の闘士は、伊達ではないということかっ!


 で、お偉いさんとの馬鹿なOHANASIをしたことで、四月の一件以来、心の底に淀んでいた思いも少しは汲み出す事ができ、すっきりした気分で、再び、茶会の会場である居間に戻ってきた。

 殴られた顔面がかなり熱かったり、ボディブローの影響で胃がムカムカしていたり、足が小鹿の如くプルプルと震えたりしているが、全て、想定……許容の範囲内だ。

 ああ、顔に当てられた氷嚢が気持ちいいわぁ。

「まったく、アイン兄さん、無茶しすぎ」
「う、うぐぅ」

 患部に氷嚢を当ててくれているミーアに怒った顔を向けられて、つい、目を逸らしてしまう。これを見ていたらしい、同じくザラ夫人に氷嚢を当てられていたザラ委員長が、さり気に、揶揄めいた笑みを浮かべやがった。

「ふん、様がないな、若造」
「あ・な・た」
「む、むぅ」

 くくく、そういう委員長も様がないねぇ。

「……」

 で、一人、呆けているのは、ユウキだ。


 ……いや、まぁ……その、呆けたくなる気持ち……わからないでもない。


 なんせ、強引に休日を取らされた上に、お茶会に招かれたと思えば、実は偉いさんの家で、緊張していたところに連れがその偉いさん本人と殴り合いという"話し合い"をし始め、自分はそのレフリーをしていた、なんてことになったんだから、なぁ。

 きっと、俺でも呆けるだろうさ。

 それに、他人に話しても、絶対に信じてもらえないことは間違いないだろうしな。


 ……。


 とはいえ、流石にこんな馬鹿なことをしでかした以上は、留まり続けるわけにはいかないだろうな。

 でも、まぁ、以前、あの作戦で感じたモヤモヤは偉いさんを殴ったおかげで、少し解消させてもらえたから、良かったかな?


 ……って、それ以上に厄介なことを聞いたことを考えると、良くないか。


 うーん、でも、どうしよう?

 流石に、殲滅戦争に参加する気にはならない。

 ……。

 そうだな、オーブにいる親父の所へ夜逃げする準備をするべきか?

 いや、もう、いっそのこと、今日ここでザラ委員長を誘拐でもして、エヴァ先生に洗脳をお願いして、戦争終結に……いやいや、一人だけじゃ不味いな、せめて、主戦派の親玉全員を拉致して、社会的に抹殺……。

 ……あれ?

 何か途中から物凄く、妄想に分類されるような考えに変わってしまったような?

 なんて、反問していたら、ザラ夫人が一人考え込んでいる俺を見かねたのか、声をかけてくれた。

「アイン君、さっきのことなら、別に気にする必要はないわよ」
「へっ?」
「……お、おい、レノア」
「この人はね、昔から強面のくせに繊細なのよ。特に今日は、アイン君に痛い所を突かれてしまって、剥きになっちゃったのよ」

 うりうりと委員長のコブを容赦なく突く夫人。

 ……惚気られているように見えるが、同じ男から見たら、思わず同情してしまう光景だ。

「ですが、おば様。今日の場合はアイン兄さんも悪いのでは?」
「そうかもしれない。……けどね、年長者が年少者の挑発に簡単に乗ってしまうなんて、醜態をさらしたのはこの人よ」
「……」

 夫人の生暖かい視線に耐えかねたのだろう、ザラ委員長は大いに目を逸らした。

 ……同じ馬鹿をした男として、ちょっとフォローを入れることにする。

「……いえ、今の委員長との殴りあいは、男同士の"語らい"に近いものだったので、そういったことを気にしていたのではないのです」
「あら、そうなの。……では、何を気にしていたの?」
「……ミズ・ザラ。……プラント独立のためならばともかく、ナチュラルを根絶するために戦争を行うことに、私は価値を見出せません。私の父と母は両方ともナチュラルですし、友人にもナチュラルがおりますので」

 おい、阿呆な妄言を吐きやがった、そこの委員長さん、あんたに言ってんだよ。

「……そうね。私もナチュラルの根絶なんてものに、何の価値も見出せないわ」
「……レノア」

 くくく、委員長、何とも、情けない顔ですなぁ。

 嘲うために、ニヤリとしてやったら、容赦なく、ミーアにコブを叩かれた。


 ……ぬ、ぬぉぉぉぉぉ!


 ◇ ◇ ◇


 仕切りなおして、今度こそ、お茶会が始まった。

 どうにか再起動を果たしたユウキも席についている。

「まったく、ラインブルグ、お前と言う奴は……」
「いやな、ユウキ。いくら、やる気のない俺でもさ、あのユニウス・セブンの悲劇を直接、目の当たりにしてさ……ああ、こういうことを許したら駄目だ、こういうことを絶対にさせない為のプラント独立なら、頑張ってもいいかなってさ、思ってたんだよ。それを……その思いを木っ端微塵にしてくれたのが、あのニュートロンジャマーの地球全土への無差別散布だったんだよ。そして、それを指示したというか、容認した人が目の前にいて、加えて、とんでもないことを言い出したから、どうしても我慢できなくなったんだ」
「…………そうか」

 そう答えたユウキも先程の委員長と俺のやり取りに何か感じるものがあったのだろう、それ以上は突っ込んでこなかった。

 一方のザラ委員長も先程から、何やらずっと黙り込んでいる。

「……」
「ほら、あなた、そんなにムッツリしていたら、失礼よ」
「む、むぅぅぅ」

 まぁ、持論に真っ向から反論した相手が目の前でのんびりとお茶していたら、ねぇ。

 旦那さんの様子に処置なしといった感じでザラ夫人は肩を竦めて見せた後、俺に言った。

「アイン君。……今日、あそこまで夫の本音を引き出してくれたことに、本当に、感謝するわ」
「…………い、いえ、それは感謝されることではないと思うのですが?」
「いえ、この人は、強がりで頑固だから……自分の本音を上手く隠すタイプなのよ。まったく、結婚する時に隠し事はなしって約束したのにねぇ」

 再び、横目で旦那様を見やる夫人だが、今度の目は……ガクガクブルブル。

「兄さん、おば様の目……」
「ミーア……ああなったら、だ……」
「……いいかも」

 ……お、俺は何も聞かなかった。

「まぁ、今日、この人が口走った馬鹿な考えは、私が責任を持って、全力で、絶対に修正するわ」
「は、はぁ」
「ほんとに……以前から、私の交友関係によく口出しをすると思っていたら、あんな馬鹿なことを考えていただなんて……信じられないわ」
「そ、それはだな……。わ、私は、レノア、お前の身を心配してだな」

 ……豪腕と言われる国防委員長殿も家の中じゃ、普通の旦那さんだねぇ。


 そんなことを考えていたら、俺は、それを証明する光景を目の当たりにしてしまう。


「あなたっ!!!」
「っ! な、何だ!?」




「私の交友関係にああだこうだと口出しする前に、プラントという一つの国を指導する立場にある、あなたがっっっ!!!! 旧種だの、新種だの、理屈をつけて、ナチュラルを滅ぼすだなんて、あまりにも馬鹿げた考えをさっさと捨てなさいっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 お、おおおおおうっ、う、生まれて此の方、初めて経験する、さ、最大級の雷が…………ザラ委員長に……落ちた。


 ユウキは……椅子ごと引っくり返っている。

 ミーアは……目をキラキラさせてザラ夫人を見つめている。

 委員長は……ああ、あの人は、もう……手遅れかもしれない。

 俺は……少し、ちびってしまった。

 ……。

 いや、今のはな、あくまで、受けた衝撃を逃すための逃避であって、って、ああ、委員長が崩れ落ちた!

 気を、気を確かに!

「いいのよ、アイン君、そんな馬鹿な人はしばらく放っておいていいわ」
「えっと……それはさすがに……?」
「しばらく、反省させるわ」
「そ、ソウデスカ」

 ……さ、逆らったら、ヤラレテシマウ!

「……んんっ、それにしても、アイン君達には、少し見苦しいところ見せてしまったわね」
「イ、イエ、ドコノカテイデモアルコトダトオモイマス」

 ほ、他にどう言えと?

 誰にとも知れぬ言い訳が頭に浮かぶが、これも現実逃避の一つなのだろうと結論付けた。

「それで、アイン君。今後、私達は、プラントは、どうすればいいのかしら?」
「……え、えっと、どう、と言いますと?」
「あなたは、プラントが独立を達成するために、どうすればいいと思う?」

 ええっ、それを俺に聞きますか?

「俺は、頭のいい、お偉い専門家じゃないんですけど?」
「私は、真剣に、今の状況を憂いている人の意見を聞きたいのよ」
「……適当なこと言いますけど、本当にいいですか?」
「ええ、構わないわ。それに、アイン君の考えは私の考えと近いみたいだから、どう考えているのか、参考に教えて欲しいということもあるのよ」

 ……ならば、お答えします。

「正直、今の状況になってしまってからでは……プラント独立の実現は、かなり困難だと思います」
「……難しいの?」
「はい。……まだ、こちらがユニウス・セブンへの核攻撃を受けての被害者のままだったら、地球圏全体へと地球連合の非道を訴えることで、市民の中にプラントの立場に同情的な民衆を生み出し、独立を容認する国際世論を形成することができたでしょうし、また、その世論を背景とした外交交渉によって、プラント独立支持国を得る事も可能だったはずです。そして、それを足がかりに、連合から無形有形を問わずに行われる、数々の妨害を排除し続けていれば、独立実現へと、確実に進むことができていたと思います」
「……今、その方法は?」
「不可能でしょうね。最早、プラントからの復讐の矢は放たれ、地球では、今現在も、被害が発生し続けています。……地球社会が安定を取り戻すまでに、それこそ、何千万、下手をすれば、何億もの死者が間違いなく出るでしょう。結果、地球市民の憎悪と復讐の念は間違いなく、プラント市民や地球に住むコーディネイターへと向かい、プラントに同情的な国際世論の形勢どころか、反コーディネイターの勢力が伸張し、世論もそちらに傾くのは間違いありません。それに、中立国も含めて、無差別攻撃を仕掛けたこともあって、国家としての信用も暴落し、国際的に……外交の場でも、苦しい立場へと追いやられてしまいますしね」
「……」
「正直、あの無差別攻撃がなされた時、非常に取り乱しましたよ。プラントは独立をするつもりがあるのか、何故に、殲滅戦なんて馬鹿なことを仕掛けるのか、ってね」
「……そう」

 そう応えて、ザラ夫人は俯いてしまった。

 すると、今度は椅子を元に戻して、ようやく落ち着いた様子のユウキが問いかけてきた。

「……だが、ラインブルグ、今、我々は勝っているぞ?」
「確かに、今、プラントは、ザフトは勝っている状況だよ? でも、国力に勝る地球連合が今の負けっぱなしの状態でプラントと講和するなんてことは、まず考えられないだろう? ……ましてや、地球全土へ無差別攻撃を仕掛けた後だ、市民感情が連合に講和を許さないよ。そもそもさ、今までのように、ずっと、こちらが勝ち続けさせてくれるほど……このまま無策で戦い続ける程、連合が甘い組織だとは思えない」
「……そう、だろうか?」
「ああ。……うーん、そうだな……例えば、今のザフト優位な状況を作り出したのがMSにあるとするのなら、きっと、連合もまた、MSを開発して対抗手段にしてくるだろうさ」

 戦争状態で新しい兵器が出てきた時、相手も対抗手段を生み出すのは、何時の時代も同じだ。

「MSの開発か……お前はそうなると思うのか、ラインブルグ?」
「間違いなく、な。……たぶん、急場で仕上げるだろうから、こちらのものに比べて性能で劣るかもしれない」

 いや、後発になるから、案外。

「……或いは、時間をかけて、より高性能なものを作り上げてくるかもしれないな。……とにかく、MSを開発するのは、間違いないだろうさ。そして、同じ土俵に立たれたら、今度は国力の差、つまりは、数の差で、プラントは必ず負かされる」
「MSの性能やパイロットの能力で、こちらが圧倒したとしてもか?」
「言っただろう? 戦いは数だと……。数で囲まれれば、いくら無双を誇っても、いつかは必ず落とされる」
「……ならば、どうすればいいのだ、ラインブルグ」
「……地道に連合との仲介役か交渉役を探して、見つけた後は、プラントの独立を最低限ラインに設定して、ただひたすらに地道な交渉を重ねて、落とし所を探すしかないさ」

 辛く、長い道だよ、本当にさ。

「そして、交渉で落とし所が見つかるまで、俺達、ザフトはプラントを守らなければならないんだ」
「……守りきれなければ?」
「負け。……独立という希望は泡沫の夢と化し、コーディネイターの国家なんてものは夢のまた夢。それどころか、下手すりゃ、プラント市民全員が、皆殺しになる可能性もあるさ」
「……そうか」




 ……俺、茶会に来たはずなのに……何を語ってるんだろう?
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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