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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
18  ヤキン・ドゥーエ防衛線 2


 4月17日。
 突出したザフトの前衛部隊が連合軍の艦隊へ攻撃を仕掛けた。

 かなりの激戦になっており、双方共に機動戦力の消耗が著しいとは、現在の戦況を教えてくれるMS管制官のベルナールからの情報だ。


 現在の所、先に俺が示した懸念は……外れている。


 先の懸念、艦長が宇宙機動艦隊と防衛隊の双方に伝えたのだが、それぞれの反応は非常に対称的だった。

 俺達が属している宇宙機動艦隊司令部は、そのようなことは迎撃作戦に織り込み済みだと豪語したそうだ。
 艦長が、その場合の対処はどうすればよいのかと尋ねたら、個々の能力が高い我々ならば、飛んでくるミサイルや砲弾をビーム砲で薙ぎ払いつつ、MA如きは撃墜できて当然だ、と答えたらしい。

 ……本当に考えていたのか、対策を練っているのか、非常に怪しい答えだ。

 一方のプラント防衛隊は、その懸念が非常に現実的だと判断したらしい。
 この時に初めて知ったのだが、ヤキン・ドゥーエ内部で要塞化工事をしている、ザウードのベースとなった作業用MSに急遽、余り物であったバルルス改特火重粒子砲……エネルギー切れの不安を解消するために外付けカートリッジの代わりに充電ケーブルつなげた……を据え付けて、ミサイル迎撃機としてヤキン・ドゥーエの各所に取り付けたり、普段からプラントの各コロニーを行き来する連絡船や小型ランチにパルディス三連ミサイルポッドを取り付けて、迎撃ミサイルベースにしたりと、必死の努力を今も続けているそうだ。


 願わくば……後で、無駄なことさせやがって、って怒られる方がいいなぁ。


「ラインブルグさん、第一防衛ラインが後退を始めました。これに伴ない、第二防衛ラインに所属している全艦に対して、MS隊の出撃命令が出ました」
「了解。……先発は?」
「先発はアシム小隊となります」

 その言葉通り、見ると既にアシムの小隊が動き出し、次々とリニアカタパルトへと向かっていく。俺も機体周囲の整備員に離れるように指示を出して、その後に続く。

「聞いたな、レナ、デファン。アシム小隊に続いて出るぞ」
「わかりました」
「了解っす」

 二人の頼もしい返事を心強く思いながら続ける。

「今回もいつも通り、連携を崩さないことを意識しろよ?」
「先輩こそ、意識してくださいね」
「一対一はできるだけ避けるっすよ」

 先発組が順次射出されていき、次は俺達の番だ。

 カタパルト担当整備員が出す異常なしのサインにジンの腕を振って応え、射出位置につく。

「……進路、クリアです。ラインブルグ小隊、発進どうぞ! ……皆、ちゃんと帰ってきてね」
「了解。……ラインブルグ、ジン、1134、出るぞ!」


 エルステッドから射出されてから周囲の宙域を見ると、同じく本隊から射出されたMSの姿が確認できた。中には新型のシグーの姿が散見され、機体の更新が行われていることが伺える。

 ……新型かぁ、いいなぁ。

 なんて思ったのが悪かったのか、ジンの背部スラスターが急に咳き込んだ。

「先輩、今、スラスター……変じゃなかったすか?」
「……いや、機体情報に異常はないな」
「私が目視しますね」

 俺がスラスター噴射を一時止めて、レナとデファンに追い着かせる。

「……どうだ?」
「特に、異常は目視できません」
「ありがとう、レナ。なら、大丈夫だろうさ。……しかし、宇宙にもグレムリンが出るのかなぁ」
「……なんすか、それ?」
「何、今のは戯言だから気にするな」

 とは言うものの、本当に存在するなら、一度、いたずらをしている姿を拝見してみたいものだ。

 ……やはり、宇宙服を着ているのだろうか?

 ……。

 瞬間、緊張していた神経を落ち着かせるために、わざと馬鹿なことを考えてみた。

 決して、素で考えたわけではない。

「よし、まずは第一防衛ラインの連中の後退を掩護する。調子の乗って突っかかってくるMAを追い散らかすぞ」
「「了解!」」

 右舷推進ユニットに敵の艦砲を喰らったと思われるFFMの前に陣取って、味方の艦艇や損傷機が速やかに後退できるように、防衛ラインを突破しようと突入してきているメビウスの推進方向に牽制射撃を始める。
 メビウスも慌てて旋回して、回避行動をとった結果、後退中のFFMの弾幕に突っ込んで散っていった。

「よし……しばらくはこの艦近くに陣取って、後退の掩護と周辺ラインを破られないように行動する。攻撃は別の連中が挙って頑張ってくれるだろうから、心配しなくていい」
「しばらくということは……本隊のMS隊が防衛ラインを押しあげるまでですね」
「ああ、血気盛んな奴らには、まぁ、頑張ってもらおう」
「先輩って……あくどいッすよね」
「褒め言葉と思っておくよ」

 その時、掩護しているFFMから通信が入った。

「こちらFFM-134ハミルトンだ。そこのMS小隊、後退支援と掩護を感謝する」
「やって当然のことを気にしなくていいさ。それで……前線の圧力は酷いのか?」
「……ああ、うちのMS隊は……全滅したよ」
「……そうか」
「あいつらのっ! …………仇をとって欲しい」
「……ああ、できるだけ頑張るよ」
「……」
「とにかく、今は後方に戻ることに集中しなよ。その様子じゃ、満足に動けないだろ?」
「……わかった」

 苦渋の混じった返事と共に通信が切れた。

 仇……か。

「仇を取れと言われても、俺達も殺している以上は仇だろうからなぁ」
「……先輩」
「ああ、すまん。……つまらん感傷さ」

 レナの心配する声を聞き、意識を現実に引き戻す。

 そして、敵が展開している前方を見ると……何となく先程まで持っていた雰囲気と少し変わっているように感じられた。

「レナ、デファン」
「何ですか?」
「なんっすか?」
「……敵の雰囲気が変わったように感じる。何か起きるかもしれないから、周辺に注意しろ」
「へっ、なんすか、それ?」
「……デファン、今は先輩に従いなさい」

 デファンの不審の声をレナが抑えてくれているが、雰囲気が変わった原因を探すのに忙しくて気にして入られない。

 ……。

 ……。

 ……?

「……あれか? デファン、敵艦隊の俯角方向に何かないか見てくれ。レナは引き続き、周囲の警戒を頼む」
「わかりました」
「了解っす。……俯角方向っすね」

 何気に俺達の小隊でデファンが一番目がいいのだ。

「………………んんっ?」
「150m級らしき艦艇が集まってないか?」
「うっす、集まってるみたいッすね。……船の色が宇宙にうまく溶け込んでいるから、数がはっきりと数えられないっすけど」
「いや、数の把握は難しいだろうから、そこまではいい」

 確か、150m級は脆いが、機動性が良かったはずだな。

 ……。

 一気に加速して、防衛ラインへの強行突入して、突破でもするつもりなのか?

「……もしかして、出撃前に先輩が言ってたみたいに、突っ込んでくるつもりでしょうか?」
「わからない。一種の欺瞞行動かもしれないが……エルステッドに連絡だけは入れておこう」

 こちらからエルステッドに通信を送ろうとしたら、向こうから通信が入った。

「こちら、エルステッド。……ラインブルグさん、聞こえますか?」
「ああ、聞こえてるよ、ベルナール」
「先程、艦の光学観測で敵艦隊に不穏な動きを観測しました」
「俯角方向に150m級が集結中、だろ?」
「はい、引き続き、エルステッドでは警戒を続けていますが……艦長が、そちらも注意するようにと……」


 ……こいつは…………来るかも。


「……い、嫌な想像が当たったかもしれない」
「……? とにかく、っ! ら、ラインブルグさんっ! て、敵艦隊より多数の熱源を探知! 艦載ミサイルが発射されたと思われます! 同じく、敵MAの動きにも大きな変化が見られます! 敵MAの動きに警戒してください!」
「先輩っ! 例の艦艇群が動き始めたっす! スラスター光の数から大体で30っす!」
「先輩! 前線のMS隊を置き去りにして、メビウスが一斉に……小隊規模で艦隊への突入を開始しました!」

 次々に入ってくる情報に焦る頭を必死に冷やす。

 だが、浮かぶ思考は一つだけだ。



「……おいおい、連中、刺し違えるつもりかよ」



 自艦隊の防御を放ってまで突入してくるとは……連合軍の連中の覚悟を見誤っていた。





 ◇ ◇ ◇





 ……まいった。


 これが予期せぬ敵の攻撃を喰らった俺の感想であるが、現実は容赦してくれない。

「デファン、右だっ! 落せ!」
「決めるッす!」
「先輩、直上から、二機来ますっ!」
「おぅぅぅっとっ!」
「先輩っ! すぐに掩護します!」
「一機撃破っ! っと、先輩、敵MA小隊! 下から突き上げてくるっすよ!」
「デファン、突っかかれ! レナ!」
「は、はいっ!」
「これくらいなら対応できる! それよりもデファンの後をカバーしてやれ!」
「了解!」

 第二防衛ラインを形成している味方艦隊近くまで損傷していたFFMを後退支援した後、再び、前面の戦闘宙域へと赴いたのだが……引っ切り無しに襲い掛かってくるメビウスの大群の対処に忙殺され、状況の把握が難しい。
 わかることは、自分の小隊の状況と周辺の敵の数、後、前線を押し上げていたMSが戻ってきてしまったということだけだ。


 お前ら、何で戻ってくるのっ!?

 戻ってくる暇があったら、敵の艦隊戦力を落して来い!

 この引っ切り無しに飛んでくるミサイルの大元を叩いてこいよっ!


 って、思わず言いたくなった。

 なにしろ味方艦隊がビーム砲を休まず撃って、飛んでくるミサイルを迎撃しているのだが……切れ目がないのだ。
 しかも、何気に懸念していた先程の150m級の艦艇群が一団となって、こちらの防衛線への突入を開始して、後退し切れなかった第一防衛ラインのFFM数隻と壮絶な撃ち合いを展開した後、これらを撃沈し、更に迫ってきている。
 艦艇同士の殴り合いで数をかなり減らしたとはいえ、その戦力はコロニーにとって、一級の脅威だ。

 こんな敵の攻勢への対処できりきり舞いになっている状況で、もしも、敵艦隊の本隊がこぞって突入を開始したら……なんて想像して、胆を冷やして背中から冷や汗をだらだらと流しても、いいと思うんだ。


 まったく、攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ、と感じざるをえない現況である。


「おっと! ……まったく、どれだけいるんだよ、メビウスはっ! この数はっ、冗談にしても笑えないぞ!」
「で、でも、メビウス・ゼロが、いないだけっ、マシっすね!」
「それは、た、確かになぁぁぁっとっ、そこかっ! 落ちろッ!!」
「せ、先輩、敵艦の突入はわわっ、と、どうするんですかっ!」
「……それって、俺達の仕事かなぁ」

 俺のボヤキに応じてくれたのは、レナやデファンではなく、俺達に通信してきたゴートン艦長だった。

「……いやぁ、ラインブルグ君、それ、君達の仕事になりそうだわ」
「ちょっ、この状況でですか? っ! デファンっ! 仰角三時から三機、来るぞっ!」
「了解、任せるっす!」
「レナ、デファンの掩護をっ!」
「了解!」

 二人が前面のメビウスに対処している間、俺は二人の側面や背後を取られないように周辺に目を配りつつ、時に牽制射撃や欺瞞襲撃をしながら、艦長の言葉の意味を考える。

 ……。

 艦隊の迎撃能力が限界なのか?

「艦隊の迎撃態勢……厳しいんですか?」
「うん、第三防衛ラインの後衛部隊も迎撃に参加しているけど、厳しい状況だよ。うちもミサイルの迎撃だけで対応限界ギリギリでさぁ。今頃、CICで副長とガンドルフィ班長が班員に檄を飛ばしてるだろうね」

 強面な二人に檄を飛ばされる火器情報管制班員に同情してしまうよ。

 とはいえ、俺達にも同情して欲しいというか……同情するなら、援軍くれっ、って、誰にでもいいから言いたい。

「まぁ、実際の所ねぇ、艦隊も今の状況じゃ、敵艦艇の相手するより、MAを相手した方が対処できるんだわ」
「……ああ、なるほど、ビームもミサイルも全てミサイルや艦砲弾の迎撃に使ってますからね」
「そういうことだよ。近接火器はそれなりに余裕があるから、近くの同僚艦とボックスでも組んで対処するさ」

 なるほど、納得した。

 納得したが、現実的に、今の武装、重突撃機銃や重斬刀だけでは難しい所だな。

「しかし、艦長、俺達の小隊は打撃面で不安があります」
「うん、だから、後衛部隊からも爆装したMS小隊を出してもらうことにしたよ」

 なら、その小隊と協同できれば、何とかできるかもしれないな。

「……了解、何とかしてみますよ」
「よろしく頼む。……皆の帰りをエルステッドで待ってるよ」

 その言葉を最後に、ゴートン艦長との通信は切れた。

 それと同じく、レナとデファンも順当にメビウスを落して、周辺を警戒しつつ戻ってきた。

「二人とも一応は耳に入っていただろうが、敵突入艦隊への対処を、俺達がすることになった」
「……人使いが荒いっすね」
「そう言うな。俺達の他にも貧乏くじを引かされた奴等がいるんだからな」
「ですが、私達、通常装備ですよ? どうやって、対艦攻撃……敵艦に対処するんですか?」

 むむ、通常装備、つまりは、重突撃機銃と重斬刀でどう、対処するか、か……。

「とりあえず……定石通りに重突撃機銃でランチャーや推進剤タンクを狙って、誘爆を狙う?」
「それって、重突撃機銃でなんとかなるっすか?」
「試してみなきゃわからないし、それ以外にどうしようもないだろう?」
「それはそうですけど……一度、帰艦してD装に換えた方がいいんじゃ?」
「確かにレナの言う通り、帰艦できれば換装もできるけどさ、向こうに着艦作業ができるような余裕がないんだわ」

 二人から途方に暮れたような沈黙が帰ってきたので、あえて楽観論を述べてみる。

「いや、そもそも、爆装した小隊が来る予定だから、そこまで気にする必要はないさ」
「けど、最悪を考えて行動しないと……」
「そうっす、万一を、援軍が来ない場合も考えないと駄目っす」

 後輩から駄目だしを喰らった。

 ……。

 いや、確かに、困難だとしても、成し遂げないことにはいかん任務だからなぁ。

 むぅ、だが、現在の装備で、俺が思い浮かぶ攻撃策は精々……。

「なら、少々危険だが、重斬刀で艦橋なり推進ユニットを叩き潰すしかないな」
「……うへぇ」
「そ、それは……あまり、気が進まないですね」
「はいはい、なら、他の方法を考えておいてくれ。今は時間に余裕もないし、贅沢言ってられる状況でもないからな」

 もう、後は臨機応変でいくしかないな。

「この宙域は他の連中に任せて、俺達は指定された座標へ急ぐぞ」
「「了解」」


 ◇ ◇ ◇


 戦域の端を移動して、目標地点に着くまでの間に、多くの破壊された敵味方の機体残骸が宙域を漂っていることに気付かされる。
 それらが味方艦隊が撃つビーム光とミサイルが破壊されて発生する爆光に照らし出される度に、何やら怨み言を言い出しそうで不気味だ。

「……」
「よし、そろそろ、敵突入艦隊の進路近く……指定座標に着くな。デファン、共同する小隊を探してくれ」
「うっす」
「後、レナ。……今は必要以上に気にしすぎるな」
「へっ? な、何のことですか?」
「……破壊された機体……残骸が気にかかったんじゃないのか?」
「………………はい」
「厳しいことを言うが、今は気にするな。そんな気持ちを抱えて戦闘に入ったら、死者に足を引っ張られるぞ?」
「…………はい」
「死者を悼むのは後でいい。今は生き残ることを第一にしろ。……わかったな?」
「……はい」

 もっとも、俺も人のことを言えたことじゃないけどな……。

「先輩、共同部隊らしき小隊を見つけたっす」

 そんな俺の感慨をデファンの報告が強制的に断ち切った。そして、急いで、共同部隊の指揮官と通信をつなげる。急場で即席の連携になるだろうが、打ち合わせは絶対に必要だ。

「こちら、本隊所属エルステッドのラインブルグ小隊だ」
「……こちらは後衛所属クルーゼ隊のラウ・ル・クルーゼだ」

 ラウだった。

「あらまぁ、戦場では久しぶりになるな、ラウ」
「君はいつもの様に余裕そうだな、アイン」
「いやいや、今日はそんな余裕はないって」
「その口でよく言うものだ」

 どんな口?

「……それで、ここに来たと言う事は例の突入艦隊の対処だな?」
「ああ、アレをなんとかしないと、戦域全体に余裕が出来ないからな」
「ふむ……だが、君達は爆装していないようだが?」
「こっちは前線からの緊急派遣だよ。……つか、何気にラウ達だけでも、十分にやれたんじゃないのか?」
「……確かに可能かも知れぬが、無用な危険は避けたい」
「了解。そういうことなら、ご一緒しましょうか」

 うーん。

 軽装の俺達が敵前で襲撃を仕掛けることで囮になり、敵が囮である俺達に気を取られた隙を突いて、本命のラウ達の小隊が仕掛ける、ってところかな。

「アイン……、君達には少々、危険な橋を渡ってもらうぞ?」
「今の場合なら、それが一番だな」
「……君は話が早くて助かる」
「お互い……、苦労しているからなぁ」

 互いに口元だけで笑みを浮かべ、それぞれの小隊員に行動を説明する。

「うちの小隊は派手な襲撃機動を行って囮役を担う。敵の注意を、護衛のMA隊や近接火砲を引き受ければ、上等だ」
「ミゲル、オロール、我々は本命だ。敵艦の弱点を狙い初撃で、全艦を落すつもりでいく」
「「「「了解!」」」」


 いやはや、世界樹の英雄殿との協同作戦になるとわかったら、急に元気になった気がするよ。 


 ……我ながら、現金なものだ。
11/02/06 サブタイトル表記を変更及び内容を圧縮。


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