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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
14  円環の蛇、黄昏の蛇 2


 先の降下作戦の失敗を受けて、プラント及びザフト指導部は親プラント国である大洋州連合にザフト地上軍の基地建設のための土地の提供を依頼したそうだ。
 このプラントの要請を受けた大洋州連合も、地球連合から受ける有形無形の圧力に抗するため、また、国防上の観点から、受け入れることを決断したようで、カーペンタリア湾の島を一つを提供することにしたらしい。

 これもユウキからの情報だから、信頼できるだろう。

 その結果、先の作戦から約二週間後、エルステッドは再び降下部隊の護衛任務にあたることになった。

 エルステッド首脳陣から各班責任者へのブリーフィングによると、降下地は先にあったように大洋州連合から島を提供されたカーペンタリア湾で、降下カプセルで地上軍の基地施設及び建設部隊、それに護衛MS部隊を一緒に降ろして、一気に展開させるというのが、今回の作戦の概要だった。
 このことを聞かされた時、前の失敗から二週間も経てずに良く基地施設を作りましたね、なんてことを言ったら、元々はビクトリア宇宙港の制圧後、ザフトの基地として使う予定だったものを少し仕様を変更して用意したものらしい。

 なるほど、大元があった上での仕様変更くらいなら、確かに短期間で用意が出来るな、なんて思ったもんだよ。


 ◇ ◇ ◇


 現在、ザフト宇宙機動艦隊は降下部隊を護衛しながら、連合軍の宇宙艦隊が不穏な動きを見せているL4方面の動きを気にしつつ、地球軌道上の降下ポイントへとやってきていた。
 とはいっても、護衛のために宇宙機動艦隊の半分を集めたが故の安心感から、エルステッド艦内は今回の降下作戦の内容や過日に公表されたザフトの新型MSの性能評価、降下するカーペンタリア湾周辺の特産品は何か、降下した連中は海鮮チゲが食べられるのか、地球連合軍太平洋艦隊が迎撃に出てくるのか、L4から地球連合軍が攻撃してくるのか、等々の様々な話題で満ちている。

 当然の事ながら、俺も含めたスクランブル待機組……アシム小隊がMSで周辺哨戒に出てしまっているが……休憩に入った整備班員達に混じって、雑談と言うか、新型MSの品評に参加していたりする。

 ……しかし、新型MS、ねぇ。

 皆はあまり気にしていないようだが、何故、発表された新型MSの中に"地上用"のMSが存在するのだろうか?

 ジンの後継機であるシグーはともかく、"地上用"を開発するには、いくらプラントの技術が優れているとしても、開戦後、僅か一ヶ月でというのは、あまりにも開発期間が短い……短過ぎるのだ。

 しかも、四機種も同時に開発できるだろうか?

 普通に考えれば、否であり不可能だ。

 ならば、開戦前から開発が……去年のL5宙域事変(仮)あたりから始まっていたと考えるのが妥当か。

 ……。

 だが、それだと、地上用MSが開発されていた理由にはならない。

 ……。

 或いは、去年の段階から、ザフトは……プラント評議会は、地球侵攻も視野に入れていた?

 ……だとすれば……話は噛み合うが……いや、仮にも自分が所属する組織だ、これ以上、思考を進めるのは止めておこう。

 詰めていた息をそっと吐き出し、和気藹々としている整備班を見やる。

「発表された新型MS、ちゃんとチェックしたか?」
「当然だろ、シグーにディン、バクゥにザウート、それにグーン」
「で、どう思った?」
「どいつもこいつもかわいこちゃん過ぎて、困っちまうよなぁ」
「そう思うよなぁ。……俺、実際に、整備することになったら……オッキしちまうかも」
「お前もそうなるよなっ! あのシルエットに興奮しない奴なんて、整備班員じゃないよなっ!」
「おうおう、どうやら、お前らも、整備班たる者が、わかってきたみたいじゃねぇかっ!」
「は、班長」
「MS整備員たる者、MSに惚れずして、整備などできない、いや、してはいけないのだっ! 覚えておけよ、てめぇら!」
「「「うっす」」」

 かなり、整備班の感性にはついていけないが……。

 俺と共に引いた目で整備班を見ていたレナが、藁にも縋るように、声をかけてきた。

「せ、先輩、……ち、地上軍に配備される新型MSって、どれも少し、変わってますよね?」
「まあな。……ジンの後継になるはずの新型……シグーはジンをシェイプしてスッキリした感があっていいと思うけど、確かに後のはなぁ。……ディンはどう見ても鳥人間だし、バクゥはまるっきり犬っころだし、ザウードは男のロマンの体現だし、グーンにいたっては、あの色からして、見るからに不味そうなイカだ」



「異議有りっっすっ!」



「……整備班長として異議を認めよう。デファン、整備班を代表して、アインちゃんに反論して、レナちゃんの蒙を啓いてやれっ!」

 いや、シゲさん、デファンは整備班違う、パイロット……だよな?

「先輩! 先輩はザウードの評価以外、間違ってるっすよ!」
「……ザウードの評価はあってるんだ」

 レナ、そりゃ、当然の認識だぞ?

 たくさんの大口径の大砲っていうのは、そして、別の形から人型へ変形するというのは、昔からの男のロマンなのだよ。

「ディンはMSでも空を飛べるって実証して見せた偉大なMSっすよ! 鳥人間、大いにいいじゃないっすか! 空力を考え、知恵を絞りに絞って考えて付けられたあの六枚の翼は、昔から人が大空に挑み続けてきた歴史を受け継ぐ立派な代物っす! そして、何よりも空を制するものは地上を制するっていうっすよ!」
「!」
「バクゥは確かに見かけは犬っころかもしれないっすけど、ただの犬っころじゃないっす! 四足は機体の安定性と不整地を踏破する力を与え、足の裏についたキャタピラが機動性を確保するっす! しかも、人型のMSに比べれば遥かに低い全高は敵の攻撃をかわしやすくしているっすよっ! つまり、この犬っころは、そこらの犬っころではなく、敵を追い詰めて狩り出す、鋭い牙を持った猟犬っすよ!」
「!!」
「そして、最後のグーンっすけどね。……俺は、あの形にこそ、設計者の想いを感じるっすよ! 例え、人にイカみたいだなんて言われて笑われようとも、水の抵抗を減らし、かつ、水中でもMSの特性を失わないように工夫を凝らしたのが、俺にはわかるんっすよ! このMSはきっと、水中の王者として君臨して海を制するっすよ!」
「!!!」

 お、俺は……なんということを……言ってしまったんだ。

「……すまん、デファン。俺が……俺が、間違っていた」
「いや、先輩……人間、誰しもが、見た目に騙されて、気付かぬうちに、間違いを犯すってことはよくあることっす。だから、そんな間違いを犯すことがあるってことを前提に、MSを見ていけば、外見だけに判断されずに、しっかりとその特性を見抜いてやれるっす」
「で、デファン……」
「どんなMSにだって、……たとえ、他人から駄作と言われようが……きっと、そう、きっと、いいところがあるはずなんっすよ。……俺は、それを信じて、今までMSを愛してきたっす。そして、これからも、そうしていくっすよ」

 俺はデファンのMSを想う気持ちに、MSに対する愛に心を打たれ、自然と拍手してしまった。周りの整備班連中も、俺に感化されてしまったのだろう、同じく拍手を始めた。


「ありがとう! みな、ありがとう! ありがとうっす!」


「……なんでだろう、すごくいいことをデファンが言ってた気がするのに、どうしても、素直に感心できない」


 レナの言葉は聞こえなかったことにした。


 ◇ ◇ ◇


 少しして、部屋を包んでいた大いなる感動が落ち着いて、整備班長を先頭に整備員達と、何故かデファンが休憩室から整備班の戦場へと去った後、さっきまでの"のり"を冷めた目で見ていたレナが疑問を口にした。

「そういえば、護衛する私達の艦隊や降下部隊の輸送艦とは別に船が何隻かありますよね? あれ、何ですか?」
「うん? ……いや、俺も知らないな。まぁ、これは推測だが、降下支援用の爆弾でも積んでいるんじゃないか?」
「爆弾、ですか?」
「ああ、軌道上から大気圏で燃え尽きないように爆弾を落してやれば、……恐ろしいだろう?」

 人は、これを軌道爆撃という……はず。

「……た、確かに、例え自由落下でも、宇宙からなら凄い速度になりそうです」
「だろう? ……極端な話、地球連合を構成する国に、首都や都市に爆弾を大量に落すぞ、なんて脅しをかけたり、軍事基地や生産施設を狙って爆撃したらいいんだよ。そうすりゃ、連合に所属する国から降伏する……ってのは難しいかもしれないが、面従腹背する国も出てくるんじゃないかねぇ」

 後、爆撃するにしても、前もって予告したり、通牒を出すなり、市民への避難勧告を出すなりして、地球連合が事前通告無しで核攻撃したのとは、対称的な行動で理知的な面を見せ付けて、かつ、自身の行いの正当性……いや、主張というか論陣でもって、大規模な反地球連合のキャンペーンを展開させて、反プラントに傾いている市民感情を引き戻したい所だな。

 そんなことを考えていたら、レナが緑色の目を丸くしながら、俺を見つめていた。

「どうした?」
「……時々、先輩のことがわからなくなります」
「んっ?」
「……いえ、いいんです。気にしないで下さい」

 気にするなといわれて、気にしないということは無いのですよ。

 だから、何がわからないのかを聞き出そう、かと、思ったんだけど……けたたましい警報音が邪魔をしてくれた。

「このアラートは、え、えっと、第二種戦闘配置ですよね?」
「ああ。……L4か月から長距離ミサイルでも飛んできたかな。とにかく、俺達はMSに搭乗して待機するぞ」
「はいっ」


 ……いったい、何が起きたんだろうか?
10/10/03 加筆修正。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。
11/02/27 誤字修正。


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