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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
12  男達の休日


 世界樹を巡っての攻防戦を終えてプラントへと帰ってきたら、驚きのニュースが待っていた。

 我が友、ラウ・ル・クルーゼの白服への昇進(?)と、著しい功績をあげた者に与えられるネビュラ勲章の受賞である。

 なんでも、先の攻防戦で、モビルアーマーを42機撃墜、艦艇も150m級2隻、250m級4隻、300m級1隻撃沈と、これまた、常人では為しえない、堂々たる戦果を挙げたとか……。

 つか、このスコアを一人で挙げるなんて、ありえねぇよっ!

 ってな具合に、ラウの戦果を聞いた瞬間に、叫んでしまいそうになったほどだ。

 だって、モビルアーマーが42機ってさ、連合軍の宇宙母艦、300m級が搭載しているだろう数の半分以上だよ? それに加えて、150m級2隻ならともかく、頑丈な250m級や300m級を、計5隻もどうやって落したんだ? 座学で勉強してたんだけど、あいつらって結構、タフだったはずだよ?


 そんな俺の疑問に答えてもらうため、家に呼んでみました世界樹の英雄殿を……。


 まぁ、そんなもんは建前であって、ほんとはただ単に休暇が上手い具合に重なったから、家で飲まないか、って誘っただけなんだけどね。

 ああ、それと、もちろん、プラント防衛隊に所属しているユウキの奴は強制参加である。

 上手い事やって時間を作ってこい、出席拒否は認めない、っていう通信を送った後、ユウキからの通信は着信拒否にしてやった。律儀なあいつのことだから、通信が繋がらないことへの文句と俺の非常識さを非難しに、有休でもとってやってくるだろう。

 生真面目なユウキの性格を逆手に取った嫌がら……げふんげふん、親交を深めようとする、俺の熱き意思を自画自賛しつつ、一人ニヤニヤと悦に浸ってると呼鈴が鳴った。
 出迎えに向かおうとすると、俺の締まらない顔を呆れた顔で見ていたミーアが代わりに玄関へと客人を迎えに行ってくれた。

 そして、ドアを開ける音が聞こえたかと思ったら、バタバタと激しい足音が近づいてきて……、

「ラインブルグっ! お前って奴わあぁぁぁっっ!!!!」
「うぼべああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 ユウキに殴り飛ばされた。


 ……殴られた勢いを殺しきれず、床でバウンドした瞬間に、因果応報という言葉を思い出した。



「お前は、今、プラント防衛隊がっ! どれほど防衛網の構築にっ! 心血を注いでいると思ってるんだっ!」
「いや、暇な防衛隊で、そこまで休暇を取るのが大変だったとは思いもしなかったんだよ」
「防衛隊は一般に言われるほど暇ではないっ! 幼子の手でもいいから、手伝いが欲しいくらいだっ!」

 ユウキに正座を命じられて、防衛隊の現状という講義を受けていたら、ミーアがラウを連れてきた。

「何をやっているのだね、君達は……」
「えーと、防衛隊の現状に関する認識のすりあわせと熱い友情の確認?」
「違う! プラント防衛隊苦闘の日々と一般常識を忘れた馬鹿者の躾だ」

 ユウキの奴も良い具合に壊れてきていると思う今日この頃である。

「アイン兄さんはそのままにしておいていいですから、クルーゼさん、ユウキさん、どうぞソファに座ってください。私はお茶を入れてきますから」
「ああ、お言葉に甘えるよ」
「ありがとう、ミーア嬢」
「……兄さんは、しばらく、そのままね」

 くすん……ミーアが冷たい。

「さて、馬鹿者の所為で醜態を晒してしまったが……んんっ、クルーゼ、ネビュラ勲章受賞と白服への昇格、おめでとう」
「……ああ、祝福を感謝する」
「こんな格好だが、俺からも祝福するよ、ラウ」
「……ああ、ありがとう」

 何気にサングラス姿が渋いラウは、少し、ぎこちなく微笑んだ。

 ……照れてるんだろうか?

 まぁ、じっと観察するのも趣味が悪いし、ユウキに前から聞きたかったことがあったから、それで話を逸らすか。

「でだ、少し話が変わるが……ユウキよ、ラウが今度から着ることになる白服って、実際、どれぐらいの権限があるんだ?」
「知らないのか、ラインブルグ」
「ああ。他の色は……緑が一般卒業のザフト隊員、赤はトップガンっていうか成績優良卒業者でエリートの証だろ、そして、黒はFFMとかの責任者、艦長が着るっては知ってる」

 だから、ザフト隊員は、所属している班によって、若干の形状の違いはあるものの、基本、緑を基調にした制服ばかりなのだ。

「ああ、大体はそうだが、黒服は白服の補佐官的な役割も担う」
「そうなのか。……なら、その白は? 隊長格ってのはわかるんだけどな……」
「む、確かにそれで十分通じるが、詳しくは知らないみたいだな。……うん、あの、ラインブルグが知りたいと言っているのだから、教えておこう」
「お願いします、ユウキ先生」

 おや、何だか、ユウキの奴、照れてやがる。

「……わ、私が所属している防衛隊で言うならば、MS4小隊12機の長である中隊長クラス以上の指揮官だな。君達が所属している宇宙機動艦隊では、二、三隻の艦艇で構成される戦隊の司令以上、つまり、今言った戦隊司令、四から九隻で構成される分艦隊司令、十隻以上で構成される艦隊司令等が該当する。あ、後、旗艦艦長も該当するな」
「ふーん、そうなのか。……あれ? でも、防衛隊はともかくとしてさ、宇宙機動艦隊は分かりにくくないか? 同じ白服同士でさ、指揮系統に問題が生じるんじゃないのか?」
「……いや、白服は責任階級ではないんだ。白服というのは、例えば、宇宙機動艦隊だと、複数の艦艇を率いるだけの能力を有しているという資格を示すものと考えた方がいいだろう。権限や指揮権は、それぞれが就いている役職によって、変化するのが基本だ」

 と、なると、戦闘に参加する白服が複数存在する場合は、絶対に、戦闘前に、それぞれの権限を確認しておかないと、駄目ってことだな。

「……なるほど。服の色は資格なのか、って、うん?」
「また、何か疑問がでてきたのか?」
「いや、ラウってさ、MSのパイロットだろ? なのにいきなり戦隊司令を務めるって、ちょっとおかしいような?」
「ラインブルグ、そこに士官学校での成績が出てくるんだよ。赤服ならば、総合的に高い能力を持つと、あらかじめわかっているだろう」
「おお、なるほどな。だったら、おかしくないな」

 ……うん?

 ……。

 いや、ラウさんよ、あんた、なるほどなって感じで頷いてなかったか、今。

 じっとラウの顔を見ていると、サングラス越しでわかりにくいが、つい、と視線を外したような気がした。

「……」
「……」
「……どうした、ラインブルグ?」

 どうやらユウキは気がつかなかった模様だが……まぁ、ラウの名誉のために黙っておこう。

 貸し一つだぜ、なんてラウにアイコンタクトをしてみたが、サングラスで上手いこと無視されてしまって、どうしてくれようかと考えていたら、ミーアがお茶を持ってきてくれた。

 もちろん、今度はこぼさないように慎重にだ。

「お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう」
「感謝する、ミーア嬢」 
「あんがと」

 四人で、ゆったりとお茶をすする。

 ……ふぅ、お茶って、おいしいよねぇ。

「……そういえば、ユウキ。先程、プラント防衛網の構築と言っていたが?」
「ああ、さっき、ラインブルグにしていた話だな?」

 ふっ、最近、何故か、正座に慣れてきたから、普通にお茶を味わいながら、優雅に飲めるようになったんだ。

「そうだ。……どのくらい構築できたのかね?」
「……何とか七割がたは完成させたが、どうしても月方面からの圧力が強いために、防衛隊では、引き受けきれないという予測が出てきて、困っているところだ」

 ふふん、正座しても足が痺れない俺って、実はすごい奴だと思う。

「月のプトレマイオスを根拠地にしている艦隊が原因というわけか」
「ああ、いくらMSの優位性があっても、大戦力でかかられると、先の……ユニウス・セブンのようなことは起きかねない。だから、何とかしたいのだが……」
「なら、資源衛星でも小惑星でも使うなりして、要塞でも作ってさ、航路を塞げばいいじゃんか」

 あ~~、このお茶、いつもより、美味いわぁ~。

「……」
「……」
「……あっ、ミーア、お茶、お代わりお願いって、どうかしたか? 俺の顔に何か付いているか?」

 そんなにマジマジと見られると照れちゃいますよぅ、なんて内心でかわいこぶってみる。表に出すのは、出した瞬間にユウキに、心身どちらかの病院へ送られそうだから、自重した。

「いや、馬鹿と賢者は紙一重なのだと、君を見ていて思ってしまっただけだ」
「……いや、それってさ、喧嘩売ってないか?」
「アイン、今のユウキの言葉は褒め言葉だ」

 ラウの言葉に首を捻る。

 なんで、褒め言葉?

 それにユウキだ。

 よくわからないが、えらくユウキの顔が晴れやかなのだ。

「いや、ラインブルグ、今日は休んで正解だった」

 あ、そうですか。

 ……。

 ユウキが機嫌良いと、逆に違和感を感じてしまう俺はきっと駄目な奴なんだと思う。


 その後はミーアも話の輪に加わり、しばらくの間、和やかなムードで歓談する。


 プラント内部の最新情報を一般市民の視線からミーアが、評議会やザフト中央の動向をユウキが、宇宙の状況や艦隊での真面目な話をラウが、ザフトの様々なネットーワークから馬鹿話を俺が、といった具合に中々に話が弾む。

 ちょっと、ザフトというか、軍務に関わる話題が多いのは、俺達三人がザフトにいる影響だろう。とはいえ、ミーアが話すプラントの情報は多岐に渡っており、情報量としては軍と民で五分五分である。

 でだ……。

 このまま雑談を続けるのも十分に楽しいのだが、俺には是非にもラウに聞きたいことがある。

 そう、先の戦闘で、250m級と300m級をどうやって落したかだ。

「さて、一般市民にも、急速に名前が広がりつつあるラウさんよ」
「……何かね、防衛隊で変人の代名詞になりつつあるアインよ」

 ぐ、ぐはっ、な、なんという切り返し!

 だ、だが、俺は大人なんだ!

 変な仇名を防衛隊内に広めたユウキへの報復は後回しにして、今は会話を続けるんだ!

「……お、お前さん、どうやって、250m級と300m級を落したんだ?」
「ふむ、それは私も興味があったんだ。聞いてみたいな、エース殿」
「……」

 ラウは内容が内容だけにミーアを窺っ……て、ああっ、しまったな。

「……じゃあ、私は晩御飯の準備をするね」
「ああ、頼むよ、ミーア。悲しい独身鰥夫三人組に美味い家庭料理を是非に頼むっ!」
「はぁ、また兄さんは馬鹿なことを言って、もう。……二人とも、あまり期待しないで下さいね?」
「いや、防衛隊での食事は食事と言える代物ではないから、楽しみにさせてもらうよ」
「そうだな、ミーア嬢、期待させてもらう」
「もう、お二人まで……」

 ミーアは俺達の期待に、照れ笑いと苦笑いを混ぜ合わせた表情を見せながら、夕食の準備に取り掛かってくれた。


 ……気を使わせて、そして、気が利かなくて、すまん、ミーア。


「……さて、ミーア嬢が気を利かせてくれたようなので答えるが……250m級と300m級をどうやって落としたか、だったな?」
「ああ、250m級と300m級といえば、連合軍の主力艦ともいうべきクラスだろう? 私もそれらをどうやって落したのか、興味があったのだ」
「そうだよなぁ。俺も小隊の連中と検討したんだが、小隊の連携で、ようやく一隻を落せるかな、って所で落ち着いたんだよ。そこを一機で落すって、どんだけ~、って思ったぞ」
「…………ふむ、そんなに難しいことではないのだが?」

 いや、ラウさんよ。

 お前の難しくないは、一般のというか、コーディネイターの普通でも基準じゃないと思ったりするんだが?

 そんなことを思いながら、ラウの口が続きを語るのを待つ。

「君達も連合軍の大型宇宙艦艇がMAの母艦を兼ねていることは知っているだろう」
「ああ、知っている」
「……私は、そのMAを出撃させる射出口付近を狙ってみたのだよ」

 ……なるほど。

「……メビウスに搭載される爆発物を誘爆させたのか?」
「そうだ。君達も検討しただろうが……あれらの大型艦艇は流石に戦艦と名乗るだけあって、装甲が厚く、また、近接火器での防備もあって、守りも堅い。比較的柔らかい部分として、推進部と艦橋部があるが、それは向こうも織り込み済みだろう。推進部を狙ったとしても機動力を落すことは出来るだろうが、統一された指揮の下にある継戦能力が失われるわけではない。また、艦橋部は周囲を火器で厳重に守られていることを考えれば、攻撃するリスクが大きい上に、必ずしも艦の継戦能力を喪失させるわけではない」
「そうだな。ザフトの艦艇でもCICが備わっているんだから、指揮の引継ぎをして戦闘を続行するわなぁ」
「そういうことだ。さっきアインが言ったように、小隊ならば、艦の全ての機能を潰して、確実に沈めることが出来るだろうし、私もそうしていたのだろう。……だが、あの時、私の小隊は艦隊の防衛砲火に引っかかってしまい、あいにくと損傷機が出てしまってな。二機とも艦へ返したのだ」
「……それで、一人で、単独行動を取ったのか?」
「ああ、危険だが、一人でやってみる価値があると思ったのだ」

 さ、さすがはトップガン!

 言うこととやることが、他人とは違う!

 ザフトの赤服は伊達じゃないっ!

 緑とは違うのだよ、緑とはっ、て感じがしたッ!

「す、すげぇなぁ」
「私にはできないな、きっと……」
「……続けるぞ?」
「ああ、うん、頼む」
「……一機で攻撃を艦艇にし掛ける以上は、出来るだけ一撃で艦艇を行動不能にさせるほどの打撃を与えたかった。そのために、どの場所を狙えばいいかを私は考えたのだ。一番に浮かんだのは、推進剤を狙って誘爆を誘うやり方だったが、大型艦艇は150m級と違い、推進剤は頑丈に守られているために難しい」

 うん、俺達の小隊が150m級を落した方法だ。

「次に浮かんだのは、艦砲や外付けのランチャーや魚雷管を狙うことだったのだが、これらも外部に取り付けられていて誘爆させても、装甲の厚さによって効果が薄い」

 これまた、俺達が150m級を沈めるために使った方法だ。

「そして、最後に浮かんだのがMAの射出口や出入り口だ。これらも頑強に守られているだろうが、開閉させる構造上、他の場所よりも構造の剛性や耐久性が低い可能性があると、そう考えた。そして、その内側には推進剤や弾薬といった可燃物や爆発物が大量にあるとも、な。それで、実際に無反動砲やミサイルを立て続けに撃ち込んだみたのだ。……その結果が先の戦果だ」

 なるほどなぁ。

 これなら、うまくやれれば、一機でも250m級や300m級を落せるな。

「つまり、艦艇の構造上の弱みを突いたということだな?」
「そうなるな」
「まぁ、複数ならともかく一機できるのはラウだけだろうな」
「……そうだろうか?」
「いや、近接防御砲火を掻い潜って、目標地点に複数弾、当てるって、すごく難しいぞ?」
「ああ、やれと言われたとしても、単機では少なくともやりたくはないことだ」

 ほら、同じ赤のユウキですらそういってるじゃないか。

 ……。

 いや、ラウさん、なんか照れてません?

「んんっ、すまないが、お茶のお代わりを……」
「ああ、俺が淹れて来るよ」

 ……うーん、そうだなぁ。

 せっかくだから、本格純粋搾りたて生鮮蒼汁でも……。

「……アイン、蒼汁は要らぬからな?」

 ちっ、読まれたか……。



 で、その後は先のような取り止めのない会話を三人や四人でして、夕食にミーアが作ってくれたアイントプフや【農夫の朝食】を皆で食した後は、人間の古くからの親友である酒類を取りながら夜が更けるまで歓談して過ごした。

 最後の方で酒がいい感じに酔ってしまったミーアに、大いに暴れられて手を焼いたが……まぁ、これも一興だ。



 と、こんな具合で、大いにリラックスできた一日は終わった。

 ほんと、先の戦闘でささくれ立っていた神経も休まった、いい休日だった。

 ……やはり、余暇というものは大切なものなのだと、つくづく、実感できたよ。
11/02/06 サブタイトル表記を変更及び内容を圧縮。


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