第二部 二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
10 世界樹の落葉 4
緒戦を制したザフト宇宙機動艦隊は簡単な再編の後、L1宙域へ侵入を開始した。その結果、明けて23日深夜、L1宙域外縁部で、ザフトの侵入を阻止すべく立ちふさがった地球連合軍の艦隊群と、再度、ぶつかる事になった。
連合軍にとってはもう後がないだけに、今回は最初から全力出撃らしく、L1に引っ込んでいた無傷の一個艦隊を含めた三個艦隊に加え、コロニー【世界樹】自体の防衛隊も加わっているようだ。エルステッドのレーダーに映し出された光点の数は、先の戦闘よりも上回っている。
とはいえ、機動戦力はひどく消耗しているはずだから、MS部隊の艦隊突入を阻止する能力は弱まっているだろう。
対するこちら、ザフト宇宙機動艦隊は先の戦闘において、MSが、俺のような損傷機を外して、32機が撃墜された。
……実に、参加MSの1/3超が落ちたのだ。
この事実を知り、やはり、戦いは数だと実感した。
艦艇に関しては、本格的な艦隊戦に移行しなかったことから、酷い損害は出ていない。だが、どの艦までかは聞いていないが、損傷機の着艦ミスで小破した艦が出たということを整備班から聞いた。ありうる事だと、こちらも自分の機体を損傷させた身であるから、そういう場合には大いに注意しようと脳裏に刻み込んだ。
で、先の戦闘で生き残った艦隊とMSに、合流した後続部隊、FFM4隻と搭載MS24機がL1に攻め込むザフトの陣容である。
艦艇数では圧倒的に負けているが、MAに対するMSの優位性、艦艇の搭載艦砲能力、先の新兵器の効果……シゲさんから、ザフト整備班のネットワークで回ってきた情報を内緒で教えてもらったが、司令部が置かれている艦に例の新兵器が搭載されているらしく、その装置がどういう原理かは分からないが作動することによって、自由中性子運動を抑えるらしい。その結果、核分裂を抑制するのだが、実は電波の伝達を阻害する副作用もあって、それの影響で先の通信異常やレーダー不順が起きたとか。まぁ、その装置自体の仕組みについては流石に情報もなく、よくわからなかったが、とにかく、その装置が作動したら、単純に核分裂を利用する原子力発電が使用不可能になり、電波を使うレーダーや通信は近距離なら比較的使用できるが、遠距離では格段に性能が落ちるって、俺は憶えた……等々を鑑みて戦力を対比すれば、ザフト優勢といったところだろう。
そして、エルステッドのMS隊は、これから敵の艦隊に突入し、敵戦力を排除……言葉を誤魔化さずにいえば、敵艦を沈めるために出撃する。
「ラインブルグさん、新兵器が展開されました。この影響で本艦や艦隊から一定以上離れた場合、通信がつながりにくくなりますので注意してください。また、レーダーの性能も落ちますので、光学での索敵は十分に行ってください」
「了解。……ベルナール、敵に何か変わった動きはあるか?」
「光学による観測では……全ての艦隊で艦列が乱れていますね」
「長距離レーダーが使えなくて混乱していると考えるのが道理か?」
「はい。その他にも、300m級や250m級が動力源に原子力を使っている事も挙げられると思います」
ああ、なるほど……原子力が使えなくなって、予備電源を使用しているから、本来の性能を十全に発揮できないってことか。
「……はい、わかりました、伝えます。……ラインブルグさん、司令部より出撃命令が出ました。本艦MS隊の先行出撃はラインブルグ小隊になります」
「了解した。ラインブルグ小隊が先行出撃する。レナ、デファン、聞いていたな。俺達が先に出るぞ」
「わかりました」
「了解っす」
整備員の誘導に従って、機体を射出位置につける。……やはり、今回はD装だけあって、感覚的なモノだと思うのだが、少し動きが重たく感じられる。
「……進路クリアです! ラインブルグ小隊、発進どうぞ!」
「了解。……ラインブルグ、ジン、1134、出るぞ!」
射出時の瞬間的なGが俺の体を押さえつけるが、もう、この重圧にも慣れてしまった。人間、どんなことでも慣れてしまうものだな、などと考えながら周囲と後続に注意を払う。
周囲では、友軍艦から俺達と同じように射出されたジンの小隊が、それぞれ陣形を組み、加速していく。また、後方をサブモニターで確認するとしっかりと二人が連携距離を意識しながら、しっかりと付いてきている。
……。
大丈夫だと思うが、一声かけておくか……。
「二人とも……同期が落されて辛く感じているだろうが、これからしばらくは忘れろよ?」
「……言われなくても分かってます」
「そうっす。俺はそれよりも、また、先輩が馬鹿なことをしないかの方が気になるっす」
「うぐっ」
見事に切り返された。
「ほんとですよ、先輩」
「カッコなんてつけなくてもいい、確実に生き残れって、俺達に言ってたのは先輩っすよ?」
「ああ……そうだったな」
「なのに……あんな馬鹿なことを!」
「れ、レナ、落ちつくっすよ。……先輩も人間なんだから、失敗することもあるっすよ」
……逆にフォローまでされてしまった。
「でも、レナが言っていることには俺も同意してるっす。だから、先輩も頼みますから、もう馬鹿なことはしないでほしいっす」
「……ああ、わかった。馬鹿なことはしない」
とはいえ、絶対しないと確約ができないのが、俺の現状だ。
……どうも、死にたくないと常々に思いつつ、自ら死にそうな選択をしてしまうという矛盾が、俺の内にあるように感じられるのだ。
先の無謀も、選択ミスと言ってしまえばそれまでなのだが、よくよく考えれば、死の危険が非常に高い選択肢が思い浮かぶこと自体がおかしい。
……。
これは俺の心底に隠された英雄願望、或いは破滅願望が表に出た結果なのだろうか?
それとも、誰しもが持つ、一種の自己顕示欲が発現しただけなのか?
……。
まぁ、実際はそんな難しいことではなく、ただ単純に熱くなって、後先考えずに暴走したとも考えられない事もない。
……って、俺、昔と、あんまり、変わってないのかなぁ。
……。
ああ、もう、いかんな。
今はこんなことを考えている時じゃないのに……。
頭を軽く振って、意識を周辺状況の把握に振り向ける。
敵艦隊を見れば、艦艇群からメビウスのものらしきスラスター光が見受けられ始めた。同時に、250m級からと思われるビームや150m級の小型ミサイルの群がこちらに撃たれ始めている。
MS部隊の先陣も既にMA部隊との殴り合いを開始しているが……今回の目的は、MAの母艦となる艦隊の排除だ。以前のように、逃げられてしまっては、態勢を立て直されたり、戦力を回復されてしまうだろう。
だが、このまま、激しい砲火が予想される真正面から突っ込むのは、下の下であり、あまりにも危険で馬鹿らしい。
というわけで、一計を案じてみる。
「……よし、推進方向を俯角三時に変針して、主戦場を回避する。立ちふさがる敵以外は目をくれるな。俺達は敵艦隊下部に潜り込んで、下から突き上げる」
「「了解」」
……。
瞬間、遠く敵艦隊の後方に世界樹と呼ばれるコロニーが見えた気がした。
MS先鋒部隊とMA部隊との殴り合いが激化し始めた頃、こちらは敵艦隊の下部に潜り込むために一気に加速をかける。どうやら俺と同じようなことを考えた奴がいたようで、近くに二つの小隊が俺達と同様、敵艦隊に向かって加速し始めている。
実は、以前、連合軍の知恵者がやったようにデブリに隠れて忍び寄ることも考えたのだが、現在、戦闘の流れがこちらに傾いていることから、下手に時間をかけてしまえば時機を逃すかもしれないと思って、今回は見送っている。
……あの戦法は奇襲や待伏せに使う方が良さそうだ。
……。
うーん、戦法について考え事をするぐらいに余裕があるというか……阻止砲撃やMAが前に立ち塞がらないところを見ると、敵艦隊の対応能力は限界に来ているのかもしれない、って、レーダーがおぼろげに敵の艦影を捉え始めたな。
……。
むぅ、どうやら、連合軍艦隊は旗艦と思しき300m級を中心とした、典型的な球体陣形を組んでいるようだ。
どうするべきか。
……。
俺達が狙うべきモノは旗艦であり、球の中心に位置する300m級なのだが……ここは堅実に外縁の近接防御系が主体の護衛艦から削った方がいいだろう。
無謀は駄目、絶対駄目って後輩達に叱られたばかりだしな。
「よし、敵艦隊の外縁部にいる150m級を削る。憶えているだろうが、あのクラスは近接防御火器がメインだから、あまり迂闊に近寄りすぎるな。それと、近距離になると、ある程度ミサイルの誘導が効くから、ランチャーの動きに注意するように」
「了解っす」
「先輩こそ、油断しないで下さいね」
「わかった、肝に銘じておく。……狙いは艦隊の最下部でボックスを組んでる四隻。初めて実際に敵艦を攻撃するんだ。オーバーキルでいいから、パルデュス全弾をロックして、確実に沈めるぞ」
たぶん、これでいけるはずだ。
「狙いは艦体から突き出たミサイルランチャーあたりか……」
「……後部の推進部でしたね」
「ああ、誘爆を誘えたら御の字だからな、無理に艦橋を狙う必要はないぞ。……各機、各艦に一発ずつ割り振って、残りは好きなのを狙え」
目標の四隻がこちらに気が付いたのだろう、真下に潜りこませないように連携して、盛んに艦体下部の艦砲を撃ってくるが……その弾幕は薄い。それに、ロックオン警報が鳴らないところをみると、先の戦闘でのミサイル攻撃で、ミサイルを使い切ったのかもしれない。
もちろん油断は出来ないが、今のところはミサイルが来ないんだ、ラッキーだと思うことにしよう。
「……よし、発射しろ!」
光学とレーダー両方で目標をロックし、脚部ハードポイントから熱源探知式有線ミサイルを次々と発射する。同時に空になった発射筒をパージする。
……。
四発ほどが迎撃されたが、残りの十四発がそれぞれの目標に突き刺さった。
「……っ」
「当たったっす」
「……うん、沈んだわ」
自分達がやったこととはいえ、あまりにも呆気ない最後だった。
推進部に命中した一艦は推進剤に誘爆したらしく、一発で轟沈。また、ミサイルランチャー付近に命中した三艦は、やはりミサイルは使い果たしていたのだろう、弾薬類に誘爆を引き起すことはなかったが、次々とミサイルが命中した結果、艦体全体に火球が次々と広がっていき、爆散した。
……。
そして、俺達の小隊が開けた穴から、別の小隊が艦隊内部へと突入して行く。
「……先輩、これからどうするっすか?」
「あ、ああ……俺達も艦隊内部に突入して、無反動砲の弾がなくなるまで、食い散らすぞ」
「……わかりました」
艦隊内部に突入しながら、一つ疑問に思う。
……あんなにも簡単に軍艦は沈むものなのか?
その後、俺達が攻撃を仕掛け、突入した敵艦隊は、突入に成功した他のMSによって旗艦が沈められた事で壊走状態に陥った。
そこに付け込んで、ザフトも追撃をかけようとしたのだが、後方や側面に位置していた別艦隊からの激しい支援砲撃やMA部隊の捨て身ともいえる献身によって、断念せざるをえなかった。
通信状態が悪く、劣勢の中でも、艦隊同士や艦艇と機動部隊との相互連携とそれぞれの役割を為して見せた地球連合軍は、やはり強敵だということがよく分かった一戦だった。
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