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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
08  世界樹の落葉 2


 2月22日となり、L1から迎撃に出てきた地球連合軍の二個艦隊とザフト宇宙機動艦隊の先鋒部隊が、戦端を開いた。

 エルステッドが所属する本隊のMS隊にも出撃命令が出たため、俺達も直に発進することになる。

「ラインブルグさん、現在の戦況は一進一退です。L1宙域より進出した敵艦隊は二手に分かれ、本艦から見て水平左右舷方向に展開しており、艦砲及び小型ミサイルや航宙魚雷、爆雷による十字砲火が形成されています。そのため、MSによる敵艦隊への突入はこの火線網に阻まれる可能性が高く、現状においては、難しいと思われます。実際、前衛部隊所属のMS隊は敵MA部隊によって、敵艦隊前面にて拘束されており、MAの一撃離脱戦法や敵艦隊との連携により、相当数が撃破されているようです」
「……なるほど、MSは塹壕戦の歩兵の如しって奴だな」

 メビウスの役所としては、差し詰め、突撃を阻止する鉄条網役あたりだろう。

「それと、敵MA部隊には敵主力機であるメビウスの他に、メビウス・ゼロが確認されています」
「メビウス・ゼロってことは、エース級かベテランが出てきてるってことだな?」
「はい」

 できれば、噂に聞くメビウス・ゼロとはやり合いたくないもんだ。

「了解した。情報提供に感謝するよ、ベルナール。……ああっと、そう言えばな、デファンの奴が、この作戦が終わってプラントに帰ったら、ベルナールを頑張って食事に誘うっす、って言っていたよ」
「ちょっ、そんなこといってn……」
「デファンに、あんまり美味しい料理は期待できなさそうなので、遠慮しておきますね」
「確かに、先輩と違って、デファンは美味しいお店を知らなさそうね」
「……」

 おお、デファンの奴、ベルナールとレナからダブルパンチを食らって、凹んでる凹んでる。

「うぅ、ひどいっす。あまりの暴言で、俺のピュアなハートには無数の皹が……」
「毛が生えてそうなハートなのに?」
「ぐっ。……お、俺よりも小さいm……もとい、小柄なのに、大きい心臓が入ってそうなレナに言われたくないっす」
「……今、ナニが小さいって、言いかけたのカナァ?」

 サブモニター越しにやり合うレナとデファンの様子を確認している間に、先行するアシム小隊が戦場に向けて、飛び出していったようだ。

「……アシム小隊の出撃が完了しました。…………進路、クリア。次、ラインブルグ小隊、どうぞ!」
「了解。レナ、デファン、そこまでにしておけ。……俺達がやることは、先のブリーフィングで話した通りだ。今回、俺達は裏方に徹するぞ。余分な功名心なんてものは、エルステッドに置いていくようにな」
「わかりました」
「……了解っす」

 二人ともいい感じに力が抜けているようだ。

 これなら大丈夫だろう。

「よし、ラインブルグ小隊、出撃する! ジン、1134、出るぞ!」

 整備班が示す出撃準備完了のハンドサインに軽く応えると、俺のジンはリニアカタパルトで勢いよく戦域へと向かって射出された。


 ……。

 戦域に入る前に、自身の思考を冷たくする。

 周囲の連中は熱狂で沸いているが、俺には必要ない。

 熱狂するのはテレビでスポーツを見る時だけで充分だ。

 ……。

 そもそも、これから向かうのは、一瞬の判断ミスが命取りになり、どんなことでも起こりうる戦場なのだ。

 だからこそ、どのような時でも、どのような状態でも、どのようなことが起きても、対応と対処ができるように、思索と沈着を、諧謔と余裕を失ってはいけない。

 前の戦闘で、余裕や冷静さをなくすとどうなるか、十分、わからされたからな。

 しっかりと肝に銘じておかないと……。

 ……。


 メビウス部隊とジンが殴り合いを行っている前線から一歩引いて、前線全体を見渡す。

 ……全体的に見て、戦況はほぼ互角だ。

 基本、火球が生まれるたびにメビウスが散っているのだが、時折、敵の後方から走るビームやミサイルの類によってジンが貫かれて、爆散している。

「……これはまた、うまいこと、十字砲火帯に引きずり込まれているな」
「そうですね。一撃離脱するメビウス隊に対応していたら、いつの間にか、敵艦隊のクロス・ファイアーポイントに誘導されている、なんて具合です」
「ということは、それだけ、MA部隊と艦隊の連携が出来てるってことっすね」
「ああ、そういうことだ。だから、俺達も引きずり込まれないように、十分に注意するぞ?」
「はい」
「うっす」

 ……よし。

「H-3宙域の味方が突出しているな、後詰に入る」
「「了解」」


 ◇ ◇ ◇


 戦域は生死を賭けることで狂騒の坩堝となっている。

 連合軍艦隊から向かって来る輝く艦砲の光やすぐ近くで爆発するミサイルや爆雷の類に、普通なら怯みそうなものだが、俺が思っている以上にザフト兵は戦意と狂気に満ちているようで、お構い無しに突っ込んで行っている。
 その天井知らずの熱狂ぶりを示す証拠が、前線をサポートし続ける間にも、様々な生々しい感情が篭った復讐と怨嗟と侮蔑の言葉として、通信リンクから聞こえてくるのだ。

「ユニウスの……親父の仇だっ!」
「下等なナチュラルがっ! よくもユニウスをっ!」
「はんっ、てめぇらナチュラルの弾なんざ、中るかよ!」

 そんな言葉と共にザフト兵はメビウスを落していく。

 時に、オーバーキルと言えるぐらいに銃弾を撃ち込んだりする姿が見受けられた。

 時に、メビウスに跨って、いたぶる様に重斬刀を叩きつけもしていた。


 けれど、そんな熱狂と鏖殺の場において、異なる色を見せるジンがあった。


 見覚えがある機動に、おそらくラウだろうと見当を付けたが……あいかわらず、凄い。

 無駄な動きをほとんどせず、最小限の動きでクールに次々にメビウスを落していく姿は圧巻の一言だ。

 しかも、時々、背後や側面の死角から撃たれたリニアガンの弾すら避けて見せた。


 ……ラウって、あれか、νタイプなのか?


 そんな感触を懐いていたら、近くの宙域にいたジンに敵の艦砲が掠って推進剤が誘爆してしまい、損傷してしまった。
 また、その損傷したジンに狙いをつけたのだろう、二機のMAが、しかもメビウス・ゼロらしいシルエットが、こちらに急速接近してくる。

「ラインブルグ小隊、敵MAが急速接近中です! 警戒してください!」
「了解、エルステッド。……デファン、レナ、どうやら敵さんはこちらに目をつけたようだ。レナは損傷したジンを後方の安全宙域までエスコートしろ。デファンは俺とレナが戻ってくるまで敵を引きつけて、時間を稼ぐ」
「了解です。それで、えーっと……先輩、男を待たせるのは、女の特権ですよね?」

 何とビックリ、真面目なレナが、冗談を言い出した。

「……確かに、と言いたいところだが、待つのは根性無しの情けない男達だ。待ちぼうけは勘弁して欲しいから、はやく戻ってきてくれよ?」
「ふふ、はい、わかりました。……すぐに戻ってきますから、二人とも落ちたら駄目ですよ」
「……そんな心配をするなら、はやく戻ってきて欲しいっす」

 デファンのボヤキに似た返事に笑顔で舌を出すと、レナは損傷機を後方へと牽引して行った。


 ……まったく、レナの奴、いったい誰の影響なんだ?

 こんな戦場で冗談を飛ばすなんて……艦長の影響か?


 なんてことを考えていたら、メビウス・ゼロのコンビが突っ込んできた。

 聞きしに勝る加速力と速度に慄く。

「デファン、今は無理に落そうとするな。……いや、こちらが落されないように常に連携と牽制を維持するぞ!」
「了解っす!」

 付かず離れずの距離を維持し連携を続けることで、敵のコンビが俺達のどちらか片方に狙いを定めれば、それを妨害するために、もう一方がメビウス・ゼロの機動進路に予測射撃をして牽制する、といった具合に共同で対処できる。
 また、牽制射撃はメビウス・ゼロの機体特性である補助バーニアを使った急旋回や急停止を多用させることに繋がるはずだから、敵パイロットの疲労が誘えて、無駄ではない……はずなのだ。
 後は、こちらも常にAMBACやこまめなスラスター噴射で回避機動をし続けることで、メビウス・ゼロお得意の急旋回によって生まれる射線に入り込まないように意識するだけだ。

 というわけで、俄かに我慢比べになってしまった。

 ジリジリとしながら、レナの戻りを待つ。

 視界の隅に入る戦況図から、徐々にザフトが押し始めているのがわかる。

 どうやら、このベテランらしいメビウス・ゼロを俺達が引き受けたことに効果と意味があったようだ、なんて自負してみる。

 ……いや、正直に言えば、本当に関係しているかなんてわからない。

「う~、きついっす」
「……我慢比べだ、我慢比べ。奴さん達が根負けして退くか、俺達に落されるかのどちらかしかないからな」
「うひーーーー、人使いが荒いって、人事に訴えてやるっす!」


 ……こいつもいったい、誰の影響なんだ?

 こんなに壊れたのは、シゲさんの影響か?


 ……。

 しかし、なんで、メビウス・ゼロはガンバレルを使用しない?


「ラインブルグさん! レナがあと少しで戻ります! もう少し耐えてください!」
「了解。……ベルナール、メビウス・ゼロがっ、と危ない……メビウス・ゼロがガンバレルを使用しないのっと、……使用しないんだが、何故だと思う?」
「……事前情報から判断しますと、おそらくですが、ガンバレルは元より制御が難しいため、一対一ならともかく、今のラインブルグさん達がやってるような複数機による連携を伴なった激しい機動戦では使用しにくいのかもしれません。それにガンバレルが有線式であることを考えますと、二機同時に使用した場合は、連絡線が絡まったりする可能性があるかもしれませんから、余計に使用しにくいのではないでしょうか?」
「なるほど、な。つまり、連携を欠かさずに機動戦に徹すれば、少なくとも時間は、っと……稼げそうだな」


 ……流石に、ガンバレルの推進剤切れってのはないか。


「デファン、もう少しこのままの状態を維持する。……耐えろよ」
「……う~っす」


 ……うーん。

 二対二で膠着状態を維持できるんだから、レナが戻ったら、優勢に持ち込める可能性もあるかもしれない。

 できれば、この凄腕達は落としておきたいが、どうしたものかなぁ。

 ……。

 まぁ、レナが戻ったら、決めればいいか。


 そんなことを考えつつ、デファンと一緒に、メビウス・ゼロのコンビと千日手な戦闘を続けていると、敵二機の機動に、少しだけなのだが、荒さが混じりだした。

 どうやら、俺達に行動を拘束されていることに気が付いて、焦り始めたようだ。

 然もあらん、戦域の旗色がザフトに傾きだしている以上は、早く、味方の掩護に行きたいだろう。

 とはいうものの、俺達が付け入れるような隙を見つけようとしても、熟練しているメビウス・ゼロの機動に荒さがほんの少し混じったぐらいでは、全然、見えてこない。
 逆に、こちらが付け入れられる隙を見せないように、鋭意、努力しないといけない程だ。

「うひゃー、あ、あぶねぇ! せ、先輩、連中、強いっすね!」
「ああ、隙が、全、然、ない、なーーーとっ!」

 見事なまでの二機連携で、それぞれの死角をカバーしている上、補助バーニアを利用した急旋回でリニアガンの射線をあわせてくるのが厄介すぎる。

「出てきてる、メビウス、ゼロが、少数で、済んで、いるのが、幸いっす!」
「まったくだっ!」

 デファンと共にボヤキあっていると、

「先輩、戻りました!」

 とのレナの声が通信で届いた。

 それと同時に、レナが重突撃機銃でメビウス・ゼロに76mm弾を撃ち込みながら、こちらに近づいてくるのをサブモニターで確認した。
 メビウス・ゼロのコンビは、レナからの攻撃を避けるために素早く散開したかと思うと再び編隊を組みなおし、レナを狙いそうな動きを見せたので、こちらからも牽制弾を撃ち込んで動きを妨害してやる。

 その間にレナが小隊連携の輪に入った。


 ……。

 これで、状況は三対二になったが……どうする?

 勝負をかける?

 それとも色気を出さず、時間稼ぎに徹する?

 ……。

 正直、時間稼ぎが一番いいんだが……ここで凄腕を逃してしまうと、後で戦線を立て直されそうな不安が残るんだよなぁ。

 ……よし。

「レナ、デファン、小隊を二つに分けるぞ。レナとデファンは二機連携で、俺が一方を抑えている間に、もう片方を絶対に戦闘不……いや、撃墜して見せろ」

 きっと、変な色気は出さずに、相手が引くのを待つ方がきっと無難なのだろうが、この二機はやはり無傷のままでは逃せない。
 けれど、三対二となったとはいえ、相手の連携が俺達の小隊以上に熟練していることが、これまでの動きで感じ取れたから、おそらくは崩しきれないだろう。
 ならば、敵の連携を分断して、どちらかを確実に落す方針に変えた方がいい。
 そして、この方法……小隊を二つに分けて戦闘を行うのならば、搭乗時間の長さから考えて、俺が一対一で一機を抑えている間に、レナとデファンに協同させて、もう一機を落とさせる他はないだろう。


 ……本当なら、俺の方にも、もう一機欲しいところなのだが……ないもの強請りだ。


「先輩は、大丈夫なんすか?」
「これでも搭乗時間や機体制御じゃ、まだ、お前らに負けてないから、大丈夫さ」
「……でも、小隊を二つに割るって事は……もしもの場合を考えると……とても危ない賭けになりますよ?」
「よくわかってるな、レナ。だが、凄腕だけに、ここで落とさないと戦線を立て直される可能性がある」
「でも、先輩一人じゃ……」

 レナの不安を取り除くために、できるだけ不敵に見えるように、口元を片方だけ上げて笑ってみせる。

「何、俺を信じろ。相手がそちらに行かないようにしつつ、落されないように逃げ回るだけさ」
「……先輩、その顔と言ってる事が全然噛み合ってないッす」
「……ええっと、ここは、お前らが落す前に俺一人でも落してやるさ、とか何とか言わないと、凄くかっこ悪いですよ?」


 うん、お前ら、いつから、こんな状況でも突っ込めるようになったんだ?


「はいはい、なら、こんな情けないことを言う先輩を助けるために、早いところ相手を落して掩護してくれ」
「うっす、早く始末をつけて、情けない先輩を助けてやるっす」
「そうね、情けない先輩が落ちる前に、早いところ、助けてあげないとね」

 ……まぁ、それだけ減らず口を叩ければ、大丈夫だろうさ。

「……よし、次の交錯で二機の間に割って入る。その後、お前達は二機連携で、後方の奴を狙って、絶対に落せ」
「「了解」」


 さて、以前やった模擬戦での一対一と違って、今度は生死を賭けた戦闘だ。

 気張っていかないと。






 ……で、やりあって、すぐに後悔した。






 ベルナールの予想は当たっていたようで、一対一の状況になった途端に、敵のメビウス・ゼロがガンバレルを展開しやがりました。


 通信から聞こえてくるレナとデファンの奮起の罵声と緊迫の悲鳴から推測するに、向こうも同じような状況なのだろう。

 だが、二人には頑張ってもらわないと……こちらが困る。

「ぅゥッ!」

 おっと、危ないっ!

 思いっきり、右腕を内側に振ることで機体を回転させて、機体上方のガンバレルから放たれた弾を避ける。

 ……。

 おそらく、ガンバレルの弾にはジンを一撃で葬り去るような恐ろしい威力はないだろう。だが、大打撃を与える威力がないだけであって、下手に間接部にあたれば、間違いなく持っていかれるだけの威力はある。

 それにだ……もし仮に、一発でもガンバレルの弾を喰らえば、撃墜されるのは目に見えている。

 なんとなれば、ガンバレルからの攻撃を一撃でももらって、ジンの姿勢を大きく崩されてしまうと、機体制御を取り戻して、崩れた姿勢から体勢を立て直すまでの間に、メビウス・ゼロから五月雨式にガンバレルの弾を撃ち込まれた後、止めにリニアガンをぶっ放されて、お星様にされるからだ。


 本当に、リアルに死を感じさせてくれる、非常に恐ろしい相手だ。


 ……って、らしくないよなぁ、落とされる想像をするなんてさ。


 自身が落とされるという嫌な想像を振り払うために、メビウス・ゼロに牽制弾を撃ち込んで、すぐに回避機動をとる。

 うん、そうだ、自分が落ちる想像なんて縁起の悪いもんは放棄してしまえばいいんだ。

 だいたい、こっちだって、ただ、ボーっと浮いてるだけじゃないんだ。

 ガンバレルの動きを把握するために、常に頭部カメラを動かしているし、小刻みに姿勢制御用バーニアを吹かして、捕捉されないように常に動き回ってるんだ。

 そう簡単には、中たりませんよぉぉぉぉぉぉぉぉっと!

 こう、ピキーーンっとか、かんじられっとぉぉぉぉっと!

 らくぅぅぅぅなんだけぇぇどぉぉぉって!

 おいおい、あぶねぇじゃあねぇかっって、ふぬぅぅぅうぅっと!

 ……ふぅ、やっぱ、回避行動って、身体にきついわぁ。

 しかし、見えない一撃ってものは、流石に恐ろしいものがあるよなぁ。

 けど、恐ろしいものであっても、回避だけに努めていると、意外と何となったりするもんだ。

 そもそも、ガンバレルをメビウス・ゼロ本体から切り離すのは、敵の死角に潜り込ませて、予期せぬ方向から一撃を加えるためのものだ。つまり、逆に考えれば、死角から撃ってくると予測できるということだ。
 ならば、その予測と小刻みな機動とを組み合わせることでっと、こっちも回避が可能になったりするんだよぉなあぁぁぁぁぁぁっと、……い、今のは危なかったな。

 タイミングを読めるようにするために、制御可能な程度にわざとふらつかせてみせたり、こちらからメビウス・ゼロ本体に攻撃を仕掛けたりすると、何とか、撃ってくるタイミングが計れるんだよっうっっっと。


 まぁ、命をベットするなんて、非常にリスクが高い、無謀なことだけどな。


 しかし、ガンバレルを展開されるだけでこんなにやり辛いとはっ、っと、とっ!

 メビウス・ゼロとやりあう時は、絶対に、一対一にっ、なったらっ、駄目、なのがっっと、わかったぁぁーっと……。

 ほんとにぃぃい、去年のうちにぃぃぃぃ、ラウとタップリやったったっと、模擬戦闘にぃぃぃ、か、感謝だなぁっと、とっ!。


 ……はふぅぅぅぅ。


 そうじゃないと、こんなに回避が成功することは、なかったろうなぁって、……敵の動きが変化した?

「先輩! 落しました!」

 なるほど、レナ達が上手くやってくれたか。

「……そうか、よくやったなぁぁぁ、っと」
「すぐに行くっすよ!」


 ……よし、増援が来るなら、こちらから、仕掛けるか。


 いい加減、やられっぱなしも、業腹だしなっ!


 ヤルと決断し、一気にメビウス・ゼロに向かって加速しながら、重突撃機銃を撃つ。

 対峙するメビウス・ゼロが、補助バーニアを使って、こちらが撃つ弾を回避しながらリニアガンを向けようとする瞬間に、左足のスラスターだけを一気に全力噴射!

 左足を前後左右に動かすことで流れながら機体を回転させて、俺を周囲で取り囲むガンバレルに向けて重突撃機銃を乱射する。

 同時に、回避行動のために右背部スラスターを噴射する。


 ……ガンバレルに向けて撃った重突撃機銃の弾が、一発掠り、二発がそれぞれ見事命中した。


 やった、と思った瞬間、激しい振動が俺の体を襲う。

「ぐふぅぅぅうっっ!」
「先輩っ!」

 あえて錐揉みする機体を立て直おさず、ランダムに制御バーニアを噴かして回避行動しながら、更なる衝撃に備えつつ、素早く機体情報を確認する。


 ……左腕がアウト、左背部スラスター破損だ。


 うん、もう少し早く、右背部スラスターを噴射しないといけなさそうだって……もしかして、してなかったら、胴体に命中していたか?


 ……今更ながら、自分が危ない橋を嬉々と渡ったことに気付き、血の気が引く。


 だ、だが、ガンバレルを二つ落したんだ、お釣りが来るだろう。

 なんて具合に損得勘定で動揺を押さえ込み、周辺状況を把握してみれば、デファンが突出しながらメビウス・ゼロに牽制射撃を加えていて、レナも俺のすぐ傍で援護射撃を行っていた。

「……レナ、デファン、後は任せたぞ」
「今のは無謀っすよ、先輩! ……でも、まぁ、後は任せるっす」
「まったくですよっ! 先輩、無茶しないで下さい!」
「い、いや、少しは先輩らしいところを見せy……」
「別に無理をする必要の無い所で無茶をした馬鹿な先輩には、帰ったら、絶対にSEKKYOUしますっっ!!」

 ううぅ、少しでも後輩の負担を減らそうと頑張ったのに……。

 ……。

 しかし、冷静に考えてみれば……三対一になるんだから、こんなことする必要はなかったんだよな。

 ……。

 どうやら、自分でも気がつかないうちに頭に血が昇って、熱くなっていたみたいだ。

 ……。

 あれだけ、冷静になれ、冷静になれ、頭を冷やせ、って念じてきたのに、この体たらく。

 ……。

 気負い、過ぎてたのかな?


 なんて、俺が自身の無謀というべき行動と冷静でいられなかった心理状態を責めつつ、後輩からの心の篭った諫言に涙していいのか、喜んでいいのか等と考えている間に、俺が苦戦していたのが嘘のように、二人はメビウス・ゼロを撃墜したのだった。




 お、俺の苦闘は……いったい……。
11/02/06 サブタイトル表記を変更及び内容を圧縮。


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