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第一部  新しき生
25  父親+沙汰⇒(会社+成長)+贈物(C.E.69年 7)


 久しぶりにまとまった休暇が与えられ、久しぶりに我が家へと帰宅した。
 当たり前のように迎えてくれたミーアに感謝しつつ、溜まったメールや郵便物を始末する。
 そして、その中には父親からのモノも含まれていた。

「おじさん、前に連絡くれた時、アイン兄さんのことをすごく心配してたよ?」

 あっ、忙しさに感けて連絡を忘れ……反省してますから、そんな目で見ないで下さい。

 む、昔から言うじゃないか、便りがないのは元気な証拠ってさ。


 ……まぁ、今の世の中じゃ、便りがないのは失踪或いは孤独死、なんて場合もありそうだけど、俺には当てはまらない、と思う。


 内心で独り暮らしではないことを感謝しつつ、ミーアからジト目を浴びせられて、精神に甚大なダメージを受けながらも、父親からの便りに目を通す。

 そこに書かれていたのは……少し恥ずかしいのであんまり言いたくないのだが、ザフトに参加した……させられた俺の身を案じる言葉と、俺が以前、弱った時に助けてやれなかったという後悔と謝罪、弱った俺を救い、立ち直らせてくれたミーアは非常に得難い子だから、どんな時でも大切にしなさいという助言、そして、もしも、世界の色々なことに耐え切れなくなったら、こっちに帰ってくればいいという、家族だけが持つ、とても暖かくて優しく、思い遣りに満ちた言葉だった。


 ……。


 うん、ちょっと、泣いてもいいかな?


 って、ミーアさん、男の涙は安くはないので、できれば見ないで欲しいのですが?

「本物の女の涙も安くないよ? ……それに、男の涙なんて気取ったこと言ってるけど、アイン兄さんに関してだけは、今更だと思う。……私はアイン兄さんが泣き虫なんだって……知っているんだから、ね?」


 うぼぉぁーーー!


 そ、そうだった!

 す、すでに俺はミーアの前で散々に泣いていたんだったっ!


 ……う、うぐぅ。


 は、恥ずかしい過去が俺をお、追い詰めるぅぅぅ!

 だ、だが、ここは何とか、大人として、漢としての尊厳をっ!

「……兄さん、無理しなくても、いいよ?」

 ふぐうっ!

 ……み、ミーアの優しい声に頷きそうになってしまった。

 が、頑張れ、俺!

 年長者としての意地を!

「前みたいに胸を貸すよ?」

 ぐふうっ!

 ……け、結構、魅惑的で魅力的なお誘いのように感じられない事もない今日この頃なんですが、ミーアの胸のサイズ的にっ!

 だ、だが、待て、俺!

 ここで尊厳をっ! をこれまで担ってきた"兄"としての尊厳を捨てていいのかっ!

「……遠慮しなくていいよ?」

 ………………い、いいか…………はっ!

 ダメダッだめだだめだだめだっ、駄目だっ!

 あ"ぅっ!

 く、くぅ、何だ! この、は、ハラワタが絶たれたような苦しさはっ!

 ……は、歯を食いしばれ、俺!

 これしきの誘惑に負けるなっ!

「兄さん、私がいたら、駄目なの?」

 ……うっ!

「……駄目なの?」

 ……。

 いや、駄目ってわけじゃなくてな……その、なんだ……。

「……」

 ……いや、そんな捨てられた仔猫のような目で、見ないで欲しい。

 ……。

 まぁ、いいか。

 ……ミーア。

「うん」

 ……少し……泣く。



 --感動、感謝、感激による嗚咽と落涙中のため、しばらく、お待ちください--



 あ~、今回もまた、お見苦しいところを……あっ、どうも、んっ、チーンっと。

 ……はぁ、まったく、ミーアとはどちらが年上なのかわからなくなる今日この頃である。

 ……。

 あ~、でも、なんか、すっごく身体も心も軽いわぁ~。

 やっぱり、実際に戦闘に参加して死の恐怖を体感したり、相手を撃墜して殺したりして、自覚がなかっただけで、色々とストレスが溜まりに溜まってたんだろうなぁ。

 まったく、高ストレス社会であるプラント社会や保安局の鬼訓練で鍛えられてなかったらと思うと、ぞっとするなぁ、って……。


 ……手紙に、続きがあるな。


 え~と、何々、今度、会社を改編して……?


 長くなるから要約すると、順調に発展していたRSF(Rheinburg Space Factory)なんだが、俺がザフトに参加したのを機に、事業の見直しと再編成を行おうと考えたらしい。
 何故に、俺のザフト参加が機になったのかというと、いつでも俺がザフトを辞められるように……辞められるものなのかは知らないが……俺の居場所を作っておこうと考えた父の親馬鹿が発端らしい。

 でも、それが何気に不穏な世の中と事業内容の変更が合致しており、スムーズに事が運んだようだ。

 で、再編内容だが、新たに持株会社を作成して、その下にラインブルグ・グループなるものを形成することにしたらしい。

 その持株会社の名はラインブルグ・ホールディングス(RHD)。


 ……うん、そのままやね。


 で、その持株会社の株主に、何故か、俺の名前が加わっていた。
 なんでも、以前から両親が俺名義で貯めていた金に加えて、俺の分のBOuRUパテント料、俺が自分で返すことにしたために浮いてしまった借金返還金、さらに、いつの間にか所有していることになっていたRSFの株式との交換で、所有第二位の大株主になってしまったらしい。


 ……いや、俺、そんな金があること自体知らなかったよ。


 ちなみに筆頭株主は親父、二位の俺、三位にオーブ連合首長国の国営企業であり、取引相手でもあるモルゲンレーテ社が来て、四位がミハシラバンクっていう、アメノミハシラに本店を構える民間系銀行、五位がサハク家っていうオーブの支配層に当たる氏族であり、アメノミハシラの責任者が持っているらしい。で、この五者で全株を保有することになるとか。
 そして、肝心のRHDの傘下で子会社化する事業は、RSFの主要業務だった三つ、機械製作部門をより拡張した形のラインブルグ宇宙工業(Rheinburg Space Industry)、成長株だった造船部門をラインブルグ宇宙造船(Rheinburg Space Shipbuilding)、縁の下の力持ち的な技術開発部門をラインブルグ技術研究所(Rheinburg Technical Laboratories)として立ち上げた。
 そこに加えて、現在もアメノミハシラ建設に関わって頑張っている建設業のラインブルグ宇宙建設(Rheinburg Space Construction)、本来の家業だったデブリ清掃業で復活することになるラインブルグ宇宙清掃(Rheinburg Space Cleaning)、新規部門として、宇宙での作業中に上手い飯が食いたいがためのラインブルグ宇宙食品(Rheinburg Space Food)、モルゲンレーテが熱心に薦めたという発電と蓄電に関わる分野でラインブルグ宇宙発電(Rheinburg Space Power Generation)とラインブルグ宇宙電気(Rheinburg Space Electric)、ミハシラバンクが推し進めたラインブルグ宇宙保険(Rheinburg Space Insurance)、サハク家が立ち上げ要請をしたらしいラインブルグ宇宙商船(Rheinburg Space Merchant Vessel)となっている。


 ……一言、言わせてもらえるなら、何でもラインブルグと宇宙ってつけたら良いわけじゃないと思うんだ。


 まぁ、妙な感慨は程々にして、なんか、うちの会社がいつの間にか、小さな頃からは想像できないくらいに大規模に拡張しているんだけど……。
 いや、ほんとに、プラントにあった時はとっても小さな個人商店的な企業だったんだが……どうして、こんなに? オーブの水が会社に合ったんだろうか?

 非常に興味がそそられるが、流石に気楽に行ける距離でも状況でもないので、今後の大いなる楽しみにしておこう。

 それで、最後の方に、それらの会社を立ち上げたから、今後は忙しくなるので連絡は取れないだろうと書かれてあった。また、何か新しいアイデアや面白いそうなことを考えたら、どんなものでもいいから、まとめて、こちらに送ってくれとも追記されていた。


 うーん、ならば、近況報告がてら、色々と、手紙に書いて送ることにしよう。


「兄さん、手紙、読み終わった?」
「ああ、うん、終わったよ。……他に何かあるのか?」
「え、えーと、私からは、なんとも……」

 ミーアにしては珍しく、えらく歯切れが悪いが、何なのだろうか?

「その、ね、宇宙港におじさんが兄さんに送った荷物が置いたままなの」
「えっ? 下まで届けてくれなかったのか?」
「……届けられないと思う、あれは」

 ……何かはわからんが、とりあえず、行ってみるか。


 ◇ ◇ ◇


 それで、久しぶりの外で食道楽を経て、ミーアと二人、やってきました宇宙港。

「……」
「……」

 デデン、と倉庫に鎮座したるは、艶消しされた黒で塗装された、ブラックなBOuRU。


 ……親父、これを、俺に、どうしろと?


「早く引き取ってくださいよ、場所だって有限なんですから」


 いや、引き取れったって、あんた……。


「……どこに?」

 多分、有難い好意なんだろうけど、迷惑な行為にしかなっていない件について、一時間ほど、親父と語り合いたいと思った。


 しかし、今の社会情勢で……よく届いたよなぁ。

 でも、本当に、こいつ、どうしよう?
10/09/20 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。


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