第一部 新しき生
22 新人+職場=紹介+後輩+軋轢(C.E.69年 4)
ゴートン艦長との出会いを経て、頑張ろうと決心し、同僚となるエルステッドのクルーに挨拶をする。
あの艦長の下にいるだけあって、中々に捌けた人が多かったのが印象的だった。
で、肝心のモビルスーツ隊にも期待していたのだが……。
「はんっ、大方、前の戦闘じゃ、出来損ないらしく、クルーゼのおこぼれにでも与ったんだろう」
はぁぁぁ、艦長……悪いですが、この艦の機動戦力……MS隊は先行きが暗そうですよ。
俺は内心の嘆きを隠しながら、ブリーフィングルームの天井を見上げる。
……心なしか、いつもより、ライトが暗く感じたよ。
初顔合わせとなる新人四人の前で、俺に対して堂々と侮蔑発言をかましてくれたのは、俺と共にモビルスーツ隊の先任となるムラン・アシムだ。先任と言うからには、一応、俺と同期になる……のかなぁ、MS隊っていってもいくつかに分かれてたし、あんまり顔を覚えていないんだよなぁ。
あっ、そう言えば……ラウやユウキの奴、元気でやってるかねぇ。確か、ラウは俺と同じで宇宙機動艦隊、ユウキは防衛隊に配属だったよな。
「……聞いてンのか! ラインブルグ!」
「はいはい、聞いてる聞いてる。俺の撃墜数は、お前が言う通り、ラウのおこぼれをもらったんだよ。それにお前さんの撃墜数が俺よりも少ないのは、たまたま調子が悪かったからなんだよな、うん、わかってるわかってる」
先の戦闘で、俺が撃墜したメビウスの数は5機なのだが、これはMS隊でも多い方らしかった。そのことを戦闘終了後、MS隊で褒められたのだが、正直に言えば、撃墜数が多いことを褒められても、うれしく感じることはなかった。
まぁ、俺の感慨は置いておくとして、参考に友人二人の戦果を並べておくと、ラウは13機、ユウキは10機、メビウスを撃墜している。当然、この戦果はMS隊でもトップクラスになるだが、いや、赤服を着ているのは伊達じゃないってことがよくわかるよ。
そんなことを考えながらアシムの独演を聞き流していたら、どうやら俺の先程の言葉と殊勝な態度に満足したようで、話を切り上げそうだ。
「……ふんっ、わかってんなら、せいぜい、俺の足をひっぱんナよ! 行くぞっ、ガイル、エリオット!」
おや、すでに自分の小隊メンバーを選択済みですか、そうですか。
……いや、アシムの話を聞いただけで、あからさまに嘲笑を表に出して、見下すように俺を見た奴らなんて、いくら俺の人格ができていても、自分から面倒見る気にはならんけどな。
でも、せめて、自己紹介くらいはしていって欲しいもんだなぁ。
心中で重く大きい溜息をつくが、自分の後輩になる二人の前で気分を落し過ぎる訳にもいかない。
よって、普段と変わらない調子で、残る二人に問い掛ける。
「そんで、君らが、俺の小隊に所属することになるんだな? よろしく頼むよ」
「……」
「……」
えっ、俺、なんか、滑った?
「あの、ラインブルグさん?」
「ああ、今日、エルステッドMS隊に配属された、アイン・ラインブルグだ。これから君等と小隊を組み、また指導することにもなるんだが……まぁ、よろしく」
「……」
「……」
え、えっ?
……何、さっきから、挨拶しても返ってこないし、ついでに、意味ありげな沈黙が続いているんですけど?
本当に、何なんだろうか?
……。
むむっ、これはもしや、あれじゃないか?
ザフト士官学校教育の弊害が出たんではなかろうか?
能力だけに注目してしまって、人格形成を無視している教育が悪い方に働いたんだよ。
確かに個人能力も必要なんだけど、組織なんだから人格も重要になるはず……。
……なのに、あの性根が歪むこと間違いない能力偏重教育!
その結果が、マトモな挨拶もできない、さっきの連中みたいな奴らなんだ。
まったく、士官学校の教育課程は絶対に一度根本から見直すべきだと思うよ。
…………無理だろうけどさ。
なんて感じで、一人、外面では無表情を保ったまま、内面で今後のザフトに諦観を持って待っていたら、残った二人のうち、非常に珍しい女のk、げふんげふん、女性パイロットが恐る恐るといった感じで、口を開いた。
「え……えっと、その、イメージが合わないというか?」
「へっ? イメージ?」
その言葉に、思わず目が点になった。
俺って、他人様に知られるほど、有名じゃないよ?
なのに、俺のイメージって、これ如何に?
「ああ、士官学校で見た、ラインブルグさんの機動と、本人のイメージがあわないんだよな」
「そう、そうなのよっ!」
二人で勝手に通じ合わないで欲しいな、お兄さんは……。
……?
士官学校で見た?
ラインブルグさんの機動?
えっ、なにそれ、俺、初耳だよ?
「ザフトレッドのユウキさんとの模擬戦の映像っす」
「はいっ、MSであんな動きができるんだって、すごっく驚きました!」
いや、お嬢さん、興奮しないで、ね?
そちらの坊ちゃんも、あれはいいものだった、って一人頷かない!
ああ、もう、話が進まないッ!
「わかったわかった。要するに、お前さん達が見たすっごい映像に出てた機動にとても憧れた?」
「……うす」
「……はい」
「士官学校を卒業して、この艦に配属されて、その機動をした俺がここに配属されると知った?」
「……うす」
「……はい」
「で、凄い機動をしていた人だったから、その人もきっと凄い人に違いないと期待していたと?」
「……うす」
「……はい」
「で、期待していた分、へこへこしている姿を見て、抱いていたイメージとあまりに合わなさ過ぎて、ガッカリ感が半端ではないと?」
「……うす」
「……はい」
ガッカリって、おぅいっ!
本人の前で肯定するなっ!
こいつら正直すぎるぞっ!
つか、勝手にイメージ作って、勝手に落胆するなっ!
それは肖像権の侵害なのかは知らんが甚だ迷惑だっ!
……だが、俺は、大人、大人なんだっ!
理不尽な評価には負けないっ!
理不尽な失望にも挫けないッ!
「お前らの期待を裏切って、申し訳ないが、これが俺だ。ちゃんとイメージを修正するように」
「……うす」
「……はい」
……なに、これ、罰ゲームか何かか?
だが、この重苦しい空気を換えるのも年長者たる俺の責任っ!
「じゃあ、二人とも、自己紹介してくれ」
「……」
「……」
沈黙の中で何らかのやり取りが二人の間で行われた後、鮮やかな青髪を短いポニーテールにした色白の女の子が先に自己紹介を始めた。一つ一つの所作が洗練されていることを考えると、中流以上の育ちなのだろう。
二重目蓋の下の、まだ穢れを知らないエメラルドのような瞳が、しっかりと俺の目を捉えて、見上げてくる。また、その顔立ちもティーンエイジ特有の童顔と美顔の間を行き来している雰囲気が強いのだが、もう少し歳を取れば、美人さんの方に傾きそうかなと感じられる。
もっとも、バストに関しては、まだまだ未発達のようだが……。
「ヘレーナ・ラヴィネンです。……気軽に、レナと呼んでください。これから、よろしくお願いします」
「うん、よろしく、レナ。俺の呼び名は苗字でも名前でも好きな方でいいよ」
「では、アインさん……いえ、先輩だから、アイン先輩と呼ばせてもらいます」
頷くことで答えて、もう一人のサッパリとした緑色の短髪と少し浅黒い肌をもった少年に目を向ける。
こちらは精悍さの中に愛嬌を感じさせるという印象的な暗黒色の目を持っているが、少し、その色に翳りがある。とはいえ、体格は良いほうだし、これまでの言動にも傲慢さや尊大さは微塵も見えない。一般的に言えば、少し影はあるが気の良さそうな好青少年って感じだろうか?
「うす、俺はフィデル・デファンっす。……ハーフっす」
「ふーん、珍しいな、ハーフ・コーディネイターは……。まぁ、よろしく。……デファンでいいか?」
「…………はい。よろしくっす、ラインブルグ先輩」
フィデルにも頷いて答える。
しかし、まさか、先輩なんて言葉が聞けるとは……。
……。
後輩か……。
……。
……いや、今は今だ。
新しい俺の後輩達を、俺流に歓迎してやろうじゃないか。
「よし、俺達三人でこれから小隊を組むことになるが、まず、最初にやることがあるっ!」
「はいっ!」
「うっす!」
おおっ、威勢のいい声だ。
いいねぇ、若い者はそれくらい元気じゃないとな。
「小隊結成を祝って、三人で飯食うぞっ! どうせ出航してしまえば食べるものが限られるんだ、外に美味いもんを食いに行くっ! ……ああ、そうそう、金の心配なんて無粋な心配はするなよ? ゴートン艦長が艦の運営経費として上手く落してくれるそうだ。だから、今度、艦長に会った時には、しっかりと、元気に、はきはきと、心を込めて、ゴチになりましたっ! って具合に、気持ち好く礼を言っておくようにっ!」
えっ、何? 二人とも、そのとても脱力した間抜け面は?
「く、訓練は?」
「えっ? 訓練?」
「……俺たち、士官学校での成績が悪かったっすよ。だから……」
「いや、別にそんなに慌てる必要はないだろうよ。今日ぐらいは、まぁ、楽しもうや」
「でも……」
「そうっすよ。少しでも……」
真面目過ぎるなぁ。
ならば……。
「……安心しろ。どうせ、後で、いっそ殺してくれって、自分から望んでしまうぐらいに地獄を……ごほっ、天国が遠ざかるぐらいに、しごいてやるから、な?」
おうおう、二人とも、俺の言葉に思いっきり反応してるよ。
ああ、でも失敗したかな?
今から、こんなに緊張させたら駄目だよなぁ。
申し訳ない、今は反省している。
でもな、休むべきときは休むってことは、遊ぶときは遊ぶってことは、重要なことだぞ?
「……うう、今感じた怖気……見誤ってたっす」
「こ、殺されるかと思った。……うぅ、少し、もら「ほら、外出届を出しに行くぞ」」
レナの名誉のために、恥辱は遮ってやる。
何を?
そんなこと、言うわけがないだろ。
俺は紳士だからな。
ああ、注意しておくが、紳士は紳士でも、紳士と言う名の変態ではないからな?
……んんっ、さて、冗談はこれくらいにしてだな。
まぁ、後輩達よ、安心しろ。
俺が、しっかりと、死なないように、とことん、身体も精神も、鍛えてやるから、な。
ふふふふふふ。
「うぅ、さっきから、鳥肌が止らないっす」
「……あっ。…………わ、ワタシ、ちょ、ちょっと、着替えてきますっ!」
今のレナの着替え発言から連想して、少し興奮を感じてしまった俺は、紳士と言う名の変態なのかもしれない。
……。
い、いや、今のは嘘だからな?
……さ、さて、美味しいとミーアから聞いた店に予約でも入れておくか。
10/09/16 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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