第一部 新しき生
21 宇宙×(戦闘+艦船)=所属+部隊(C.E.69年 3)
ザフトは先の【L5宙域事変(仮)】で理事国の艦隊を排除することに成功した。
結果、L5宙域は事実上、プラント最高評議会及びザフトが実効支配することになる。
それに伴ない、俺も配置換えと相成り、新しい部隊へ転属することになった。
「【FFM-113】エルステッドへようこそ。……俺が、この艦の艦長になるオーリン・ゴートンだ」
……しかし、先の作戦に参加した身だから言わせてもらうが、後ろの(仮)ってのはないだろう?
先の戦い、L5宙域事変(仮)において、ザフトはL5から理事国の艦隊を叩き出し、同時に理事国の息がかかった者達を退去させることでプラント理事国の影響力を排除した。
これらをもって、L5宙域を確保したと考えたらしいザフトの上位組織であるプラント評議会は、L5の新型コロニー群をプラント(P.L.A.N.T.:Peoples Liberation Acting Nation of Technology)と名付け、国家組織の形成に乗り出した。
でも、この国名、天秤型コロニーの形式名称であるプラント(P.L.A.N.T.:Production Location Ally on Nexas Technology)と同じなので、ややこしいと感じるのは俺だけだろうか?
……まぁ、誰も口にしないので黙っているが、紛らわしいことこの上ない。
それはそれとして棚上げしておいて、L5を実効支配することになったザフトもまた、MS部隊含めた実動部隊を発展的解消させ、プラント防衛隊と宇宙での機動艦艇戦力となる宇宙機動艦隊へと改編させることにしたようだ。
これに付随して発生した人員不足は、新たに訓練所……じゃなかった士官学校を卒業したザフトの隊員が新規配属されることになっている。
つまり、ザフトの組織拡充が進んだのだ。
……にしても、軍事的組織ザフトは義勇兵組織というか、民兵組織にあたるはずなのに、何故に士官学校なのかとは聞いたら駄目なんだろうか?
「それはたぶん、プラントが一つの主権国家として認められたら、ザフトを今のような評議会の私兵……民兵組織から移行させて、プラントの国軍へと仕立てるつもりだからだろうねぇ」
「ありゃ、ゴートン艦長? 何故、俺の疑問に答えを?」
「……口に出てたよ」
ふむ、無意識のうちに、考えが口に出て、独り言になっていたみたいだ。
「ついでに言うとさぁ、……こんな宇宙港みたいな人気が少ない所で、独りでブツブツと呟いていたらさ、何かを怪しい電波を受信して返事してる、危ない人扱いされるよ?」
「いいっ、そりゃ勘弁ですよ。お願いしますから、今のは、ただの独り言ってことで流しておいてください」
「ははっ、わかったよ。……それで、どうだい、こいつを見て、どう思う?」
「……すごく、大きいですねぇ」
さすがは、ザフトというか、プラント脅威の技術力によって造られたローラシア級主力宇宙戦闘艦だ。
……?
何故に、艦長の後ろに控えた女の子は顔を紅くしているんだろうか?
……いや、別段、気にする必要もないか。
「だが、残念、君が言う程、こいつはそんなに大きくはないんだ。これでも戦闘艦としては小さい方なのさ」
「へぇ、そうなんですか?」
うーん、170m程もあって、まだ小さい方なのか。あんまり船には詳しくないから、よくわからんが……。
「……しかし、いつの間に作ったんです。こんな大きなもの?」
「俺もその辺の事情はあんまり詳しくないんだよねぇ。……ベルナール君は知っているかい?」
「は、はいっ、私が聞いたところでは、艦体を胴体と左右舷の推進ユニット、下部のMS格納庫の四つにモジュール化することで理事国側に何を造っているのか察知されないように生産したそうです」
「へぇへぇ、そうなんだ。……ところで、君は?」
「はいっ! エルステッドでMS管制官を務めます、サリア・ベルナールです! よろしくお願いします!」
「ああ、これは御丁寧にどうも……。俺はエルステッドのモビルスーツ隊に所属することになるアイン・ラインブルグだよ。……MS管制官ってことは、MS隊と艦を繋ぐ重要な役割だから、とっても大変だと思うけど、よろしく頼むよ」
「はいっ!」
なんとまぁ、ビックリすぐらい初々しいこと初々しいこと。
山吹色のショートカットやキラキラと輝く蒼い瞳、あどけなさがまだ残っている顔に幼さを感じるにつけ、恐らくは今期のザフト士官学校の卒業生なんだろうなぁ、なんてことを考えてたら、黒服着用のゴートン艦長がしきりに頷きながら、口を開いた。
……俺もユウキから変人だと言われているが、なんとなく、この人も変人臭いんだよなぁ。
「うんうん、顔見せは無事に済んだね。じゃあ今から、ベルナール君には艦橋で通信系のチェックをお願いするよ」
「はいっ、わかりました!」
艦長の指示に対して元気に敬礼して応えると、ベルナールは文字通り"跳んで"、エルステッドの搭乗口に向かったようだ。
「……あの活きの良さ……士官学校の今期卒業組ですか?」
「うん、彼女は今期卒業生だよ。まったく、こちらが恥ずかしくなるくらいに純粋な眼をしてるじゃないの」
「ええ、俺には絶対にできない眼ですよ」
「俺にも絶対にできないさ」
と、俺の言葉に同意して、肩を竦めて見せるゴートン艦長は、コーディネイターとしてはあまり美男とはいえず、むしろ、外見、撫で上げて手入れされた黒髪を持つ位しか特徴がない、冴えない中年のようにしか見えない。けれども、心底を露呈させないかのように半分閉じられた黒目と茫洋と韜晦した表情が、逆に油断ならない老獪さを俺に感じさせる。
こんな艦長のようなタイプは、基本的に直情的なタイプが多いザフトでは非常に珍しいだろう。
そして、ザフトでは珍しいとなると、是即ち……。
「……艦長は他職からの徴集組ですか?」
「そういう君も徴集組だろう?」
ということになる。
「わかりますか?」
「ああ、わかるもんだよ、同類は」
……なんか、その言葉に、ほろりとした。
「……艦長も、苦労……してきたんですねぇ」
「……そして、これからもきっと苦労するんだろうねぇ」
俺の言葉に、しみじみと、けれど、頻りに頷いているゴートン艦長。
……ああ、この人とは凄く気が合いそうだ。
そんな好感触を心に留めつつ、俺が一番気になっていることを聞いておく。
「それでゴートン艦長……俺以外の、モビルスーツ隊の他の連中は着任済みなんですか?」
「うん、出来立てほやほやの新米パイロットが四人と先任パイロットが一人、着任済み。今はその先任が新任パイロット達を集めて、色々と話しているみたいだよ」
「……ザフト精神を抽入してやるっ、とかじゃないといいなぁ」
「ぷっ、ザフト精神を抽入か、言い得て妙だねぇ」
いや、実際、精神抽入棒なる代物が指導教官室に飾ってあったから……俺にとっては笑えない冗談の一つだ。
「笑い事じゃないですよ、艦長。そんなことされたら、組織戦なんて、絶対無理ですからね」
「……それは先の戦闘で得た教訓かい?」
「そういうわけじゃないですけど、ザフト万歳っ、ザフト最強っ、なんて精神論や、新種コーディネイターと旧種ナチュラルとの差は絶大だーーーっ、なんて優劣論で勝てるほど、戦いは甘くないって考えてるだけですよ」
「なるほど、ねぇ。でも、それは杞憂じゃないかなぁ。……実際、先の戦いでも大勝したじゃないの」
「基本、戦いは数ですよ? 1:5や1:10では勝てても、流石に1:100じゃ、まず勝てないでしょう?」
勝てたら、あれだ、100人切りや無双を名乗ってもいいよ。
「……勝てないねぇ」
「ええ。……だから、もしも……総力戦というか消耗戦になってしまったら、人口が少ないプラントは間違いなく全てを磨り減らしていって、滅びの道を行くことになるはずです」
俺のこの予測は、一般的なザフトの隊員が聞けば、貴様には敢闘精神が足りないっ、そのような精神でなんとするっ、なんて具合に憤慨して激怒しそうなものなのだが、艦長は面白そうに口を歪めるに止めている。
「……では、それを回避するためにはどうすればいい?」
「なんとか、全面衝突する前に交渉で、ある程度の妥協と譲歩で持って、決着をつけることですかね」
「うん、俺もそう思うよ。戦わずにことを収めるのが、一番いいだろうねぇ」
先程の俺の勘は当たったようで、艦長もやはり"ザフトでの"変人に分類されるらしい。このような避戦を口にするのは、今のザフトではほとんど存在しないだろうからね。
「けれども、昨今の社会情勢がそんな楽観を許さないから、我々は備えを万全にしておかなければならない」
「ええ、飼っていた金の卵を生み出す鶏にちょっと突かれたぐらいで尻餅をついたような、無様な醜態を晒したままにしておく程、理事国……大国が甘いとも思えませんしね」
「ははっ、うまいことを言うねぇ。……うん」
うんうん、癖のように頷いていた艦長は、緩ませていた表情を引き締め、俺を見据えて、宣した。
「……アイン・ラインブルグ君、今後は大いに頼りにさせてもらうよ」
そう言って、俺に笑いかけた艦長の目には、さっきまでの茫洋とした色を感じさせない位に、怜悧な理性の光が宿っていた。
「……こちらも頼りにさせてもらいますよ、オーリン・ゴートン艦長」
俺と艦長は、どちらからともなく、力強く握手していた。
うん、ザフトって、コーディネイターはナチュラルより優れてるなんて考えを信奉する、どう考えても精神的に瞑目して逝っちゃってる人達ばかりだと思ってたけど、意外や意外、マトモな人っていたんだね。
本当によかったよ、こういう人が艦長を務める艦に配属されてさ。
後は、自分が死なないように、我が家ともなる艦を沈められないように、腕を磨かないとな。
戦力化のための慣熟航行も直に始まるって聞いてるし、……うん、心機一転して、頑張ろう。
10/09/16 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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