第一部 新しき生
19 艦隊+威嚇⇒MS+初陣(C.E.69年 1)
69年になって、ますます、時代の流れは不穏な方向へと加速している。
プラントの指導部である評議会がプラントのユニウス市で食糧生産を開始させたのだ。
この動きに対し、宗主国であるプラント理事国はL5の駐留艦隊を動かし、武力を背景に威嚇行動を見せつつある。
「ザフトの精鋭である諸君らの活躍を期待する! ……ザフトのためにっ!」
そんな一触即発の雰囲気の中、俺にも初陣の時がやってきた。
まったく望んでもいないのに関わらず……。
……後、一時間もしないうちに、殺し合いが許容される狂った空間、戦場に放り出される。
その間際になっても、軍人として社会に許容されて人を殺す、という行為にどうしても拒否感を覚えている自分がいる。
いや、一応は、国……というか、今現在、住んでいる場所を、生きている社会を守るために戦うという意識は持っているのだが……今回の武力行使に関しては、本当に必要なのだろうかと疑問に思っているのも、少なからず影響しているのかもしれない。
それに、相手が犯罪者ならば、法と罪と罰の考えが根底にあるから殺人は認めるけど、軍人として戦争で殺しあう相手は犯罪者でもない普通の市民なんだから殺人を認めるのはちょっと、と考える意識もあるみたいだ。
……なんて、どうしても同じ殺人に差別化を図ってしまう自分を自己分析してみるが、結局は、犯罪者相手だろうが、非犯罪者の軍人だろうが、人を殺すということには変わりはない。
まったく、平和ボケしていた前世では想像もできない悩みだ。
ほんとに、平和ボケ万歳、万歳、万々歳ってなもんだな。
それにしても、各々の機体とリンクしている通信系から、各パイロットの戦意と興奮に満ちた声が伝わってくるのを聞くにつれ、疑問に思うことがある。
これから戦場に立ち、殺し、殺される時間が始まるというのに……何が彼らを燃え上がらせるんだろうか?
俺にはまったく理解できない。
たとえ、相手を殺し、或いは、相手に殺される可能性を覚悟していたとしても、それは楽しいものではないし、ましてや楽しんでよいものではない。
……いや、それは俺の穿ち過ぎか。
うん、そうだよな、彼らが楽しんでいるっていうのは言いすぎだよな。ただ単に、自分が今から行うことへの恐怖と不安を覆い隠すために、自身を鼓舞するために、ああしているんだろう。
よし、ここは一つ、俺も彼らを真似て、自分を鼓舞するために、今の心境を表してみよう。
……。
……うん、これだな。
私はあなた達とは違うんです!
自分を客観的に見ることが出来るんです!
って言いながら、颯爽と、ビシィッ、って効果音が出るぐらいの勢いで、相手を指差すんだ。
……。
……こういう時って、意外とずれた方向に望んでいない馬鹿げた映像が浮かぶもんだなぁ。
「……不安かね、アイン」
あまりにあまりな想像に、戦意を高めるどころか、目を虚ろにしてしまった俺に、通信画面越しに声をかけてきたのは、ラウだった。
俺は、何とか目に意識を送り込んで焦点を合わし、心配してくれた友に応えるために軽く肩を竦めて、どうってことないと、余裕があるようにアピールして見せた。
……実際、体調や精神は普段とあまり変わらない。
「他の者達と違って、戦意旺盛とは言えぬようだが?」
「まぁ、な。やる気はそれなりにあるんだが……ただ、なんとなく、この場にいることが、悲しいだけだよ」
「…………そうか」
我が家に初めてやって来て、色々と語ったあの日以来、ラウは少し変わった。素顔を隠していた仮面を外し、代わりにサングラスをつけるようになったのだ。
本人が言うには、堂々と素顔を晒すのもまた一興、ということらしいが、実はミーアに変態扱いされたのが堪えたのではないか、というのが俺の勝手な見解だ。
……まぁ、仮面を外した真意がどこにあれ、ラウの中で、何かが少しぐらい変わったことに間違いはないだろう。
でもって、今もMSに搭乗するために、普段つけているサングラスを外し、ヘルメット越しに素顔を晒していたりする。同年代よりも少々の小皺が見えるが、俺から言わせれば、それだけのことで、非常に整った容姿なのは言うまでもない。
いいなぁ、俺も三枚目じゃなくて二枚目な役所になりたいなぁ。
ラウを見ながら、そんなことを考えていたら、先の俺の発言を戦場に立つ心構えができていないとでも感じたのか、ラウが珍しく苦言を呈してきた。
「アイン、君の想い……わからぬでもないが……これから我らが立つのは自らの生と死を賭した戦場だ。例え、機体特性でこちらが有利にあるとはいえ、絶対はない。……場にそぐわぬ、過ぎた感情は己を滅ぼすぞ」
「…………ああ、そうだな」
……非常に、耳が痛い言葉だった。
だが、道理だとも感じ、一時瞑目し、ラウに言われたとおり、己が抱いている過ぎた感情を整理する。
「……うん、無事に生きて、無傷で帰らないと、な」
「ふっ、怪我をしたら、ミーア嬢に泣かれるか?」
「まぁ、そういうことだ」
……。
さて、覚悟はできた。
以前、死が最大の不幸なんてラウに偉そうに語っていたのに、その死を他人に与えるなんて、まったくふざけ過ぎていて笑えない立場だが、こちらも死を賜る可能性がある立場なのだ。
そう……今からこの場に立つのは、お互いに己の命をチップとする対等の相手なのだっ!
これから俺が殺す奴等には、文句は言わせないし、当然、怨み言も受け付けないっ!
「各員、当初の予定の通り、敵モビルアーマーを駆逐し、敵艦隊を排除せよ。繰り返す、当初の予定の通り、敵モビルアーマーを駆逐し、敵艦隊を排除せよ。……各員の戦果を期待する。以上だ。……ザフトのためにっ!」
「いくぞ、アイン」
「おうさ」
ザフトのモビルスーツ隊に配属されて以来ずっと乗り回してきた、プロトジンの正式量産型【ZGMF-1017】ジンは俺の操縦に応え、ザフトの宇宙港近くに設けられたMS専用ゲートから飛び出した。
そんな俺のジンを、いつもと変わらぬ漆黒のソラは、いつもと同じように迎え入れてくれた。
◇ ◇ ◇
今回、俺が参加する迎撃作戦は、軍事的組織ザフトとしての初めての作戦行動となる。
そして、俺が乗っているジンを擁するMS部隊は、この作戦で最も重要な、L5に駐留する理事国側の戦力を排除するという役割を担うことになっているのだ。
と、いかにも凄い役割を果たすように見えるMS部隊だが、実は曲者で、部隊運用方法がまだ定まりきっていなかったりする。
わかりやすく言えば、一番の基本であるMSを運用するための最小単位において、意見が割れているのだ。
現在のところ、MS隊内で最小単位として考えられているのは、三機小隊編成と二機分隊編成の二案である。
俺としては、二機分隊編成を基本にするべきだと考えているのだが、現在の潮流は完全に三機小隊編成の方向に流れてしまっており、このまま決定してしまいそうな勢いである。何でも、ザフトでも古参になるフク何とかって偉いさんが三機小隊編成が望ましいとしきりに主張して、後押しした結果らしい。
うう、悔しいのぅ、悔しいのうぅ。
……冗談はさておき、俺の考えでは二機分隊を基本編成にして、これを二組揃えて、四機一小隊編成にする方がいいと思うのだ。連携は三機よりもに二機の方が、習得も早いし熟練しやすいからな。
で、今回の作戦行動では三機小隊編成と二機分隊編成の両方が採用されていて、どちらがより良いかを最終的に判断することにしたらしい。
……こう言っておいて何だが、えらい余裕だなザフト上層部。
おっと、また余計な思索に耽ってしまった。
けれども、大丈夫!
俺の手足と視聴覚はしっかりと作動しているし、判断を必要としない行動はしっかりと身体が覚えていて、全自動で動くのだ。
すごいだろう?
……。
うん、そうなんだ。
それだけ、俺が日常的に血尿を出すぐらいに頑張ったっていう証拠なんだよ。
語り口調になっていた思考を通常に戻し、機体に故障等がないか情報を確認する。
うん、予め定められた宙域へと向かっている今の機動で、使用されている推進剤の消費は想定の範囲内で収まっている。
何が起こるかわからない宇宙空間で、ましてや人が想像できないようなことが発生するのが戦場である。酸素と並んで大事な命綱である推進剤は貴重なのだ。
……。
しかし、ほんとに、なんとも健気な身体だよな。
無意識のうちにスラスターの使用を少量にして、可能な限り、AMBAC(Active Mass Balance Auto Control)で効率の良い移動を心掛けているんだからな。
……。
うん、そうなんだ。
それだけ、お(ry。
「水平十一時方向、仰角二時方向にモビルアーマーの第一群を確認した。各機、戦闘準備! MSの力をナチュラルどもに見せ付けてやれっ! ……ザフトのためにっ!」
「「「ザフトのためにっ!!!」」」
……おい、なんで、ここにナチュラルなんて言葉が出てくるんだよ?
まったく、始まる前から厭な感じがするもんだ。
10/09/13 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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