第一部 新しき生
15 (指導+無視)×怨恨⇒模擬+戦闘(C.E.68年 4)
訓練所にやって来た時と今を比べて、俺も少しはザフトに染められたんだろうか?
……自分では、あまり変わっていないように感じる。
ああ、でも、少しは自分でも変わったと言える所があるにはあるか。
「本日の搭乗が最終試験となる。諸君の実力をみせてもらうぞ。……ザフトのためにっ!」
この、なんとも恥ずかしい標語を、素面で叫べるようになったことかさ。
……自慢にならねぇなぁ、おい。
だいたい、何故にこんな標語なのか?
いい加減、ジーク・ザフトッ! に直そうぜ、頼むからさ。
そんなことを考えながら、いつも以上に意気軒昂な指導官に、こちらも初っ端から最高潮なパイロット候補生全員と一緒にいつもの標語を叫んで応えたら、ふと、何で、俺、こんなのに参加してるんだろうと思ってしまった。
そしたら、もう、何だか、無性に自分自身が可哀想に思え始め、少しはあったテンションが急転直下、どん底へと真っ逆様である。がっくりと肩を落とした俺を見て、俺がこの試験に自信がないとでも思ったのか、幾人かが嘲笑や軽侮の言葉を投げかけてくるが、それは見当違いである。
いい加減、膝が床へと落ちそうになった時に、ラウが声を掛けて来た。
「……アイン、まだ、慣れないのかね?」
「いや慣れていたつもりだったんだが、ふと、な、正気に戻ってしまってな……」
「それは恐らく、人として正しいのだろう。……だが、この場では間違いだな」
「わかっちゃいるんだが……」
「ならば、割り切ることだ」
流石、パイロット養成課程の秀才ラウ・ル・クルーゼ!
羞恥すらも、その澄ました顔で克己したというのか!
どのような時でも沈着冷静、あな恐るべし、ザフト所属、素性不明の謎めいた仮面の男!
「何を考えているか、大体は想像できるが、その通りだと言っておこう」
ぬぅ、短い付き合いなのに、何故にこうも簡単に心中を読まれてしまうのか?
どんな時でも明察看破、あn(略。
「……君の顔があまりにも雄弁過ぎるだけだ。馬鹿なことを言っていないで行くぞ」
おれ、しゃべってないよ?
なんて具合に、ラウとのやりとりで少しだけ癒された俺は、テンションが少しだけ上がった。
うん、これが終われば、ようやく娑婆に戻れるんだから、出来る限り、頑張ろう。
なんてことを考えていた時代が、俺にもありました。
「ちょっ、なんで俺の競争相手がパイロット課程主席のユウキなんだよっ!」
「……私から自ら志願したのだ。……君の減らず口と曲がった根性、それに目に余る程の怠惰で無気力な精神を叩きなおし、ザフトの栄光をその身に焼き付けるためにっ!」
「いや、いやいや、んなもん焼き付ける必要ないから! つか、試験は別にMS同士で格闘したり、撃ち合ったりするんじゃないんだからな? 動目標や標的に向かって突撃機銃を撃ったり、得物をぶん回したり、機動制御の確実性をみたりするだけだから、な。落ち着け、そして、相手をラウに変更しろって」
「クルーゼは立派にザフトの一員としての自覚を持っている。だから、大丈夫だ。…………だが、君は……きみは…………きみわぁ………………」
うわぁぁ、通信画面越しで見るユウキの顔が、クリアな画面越しだと絶対に細かいところまで見えるはずなのに、何故か、顔半分が翳に隠れて、表情が読み取れん!
しかも、ブツブツぶつぶつブツぶつぶっちキルってぶつぶつ、ってぼそぼそと洩らすもんだから、最早、ホラーの領域だぁっ!
「お、落ち着け、ドゥ、ドゥドゥ!」
「ふ、ふふっ、何をいっていルんダ、ラインブルグ? ボクハとてモ堕血ツイテ、ソゥ、コンナニスベテノモノがオソクミエルCRYには乙チテイルゾ?」
アドレナリンが分泌しすぎて、言語野が逝かれてるぅぅ!
こ、ここは何とかして、この危地から離脱する方法を考え出さねばっ!
……あっ。
……な、なんてこった。
すでに、俺はMSには搭乗してしまっている!
くっ、これでは逃げ道が限られすぎている。
だ、だが、俺はあきらめない!
俺がプラント社会で鍛えたこの口八丁よ、出番だぞ!
「ユウキ……主席のお前……あまりにも優秀すぎて雲上人の如き、お前とな、地べたを這いずって、必死で生きてきた俺とをなんて、比べる必要なんて別にないだろう? ただでさえ、常日頃から底辺にいて凹んでるというのに、こんな最終試験なんて重要な場で比べたられたら、余計に俺が立ち直れなくなるかもしれない位には凹む可能性が少しはあるだけだから、な。……俺を社会的にじゃなくて、物理的に抹殺するための公開処刑なんてやめて、な? 真っ当な道、お前がいつも言う輝かしいザフト正義の道に戻ろうぜ、な? ほら、例え、ダークサイドに落ちたじゃなくて、落ちかけたとしても、今からならまだまだ輝きを取り戻せるし、絶対に立ち直れるから、な? まだまだ遅くはないから、な? …………指導官、黙ってないで、こんな結果がわかりきっていることをさせないで、ユウキの奴を何とか止めてくださいよっ!」
「……ラインブルグ候補生。この最終試験では、お前たちだけに特別に、そうっ、特別にっ! 通常試験終了後にMS同士の模擬戦闘を行うことになっている」
な、なん……だと……!!
「ラインブルグ候補生、この最終試験では、規格外品である君を評価するために、予想外の事が大好きな君が大喜びするであろう曲芸が大いに出来るように、私の方で、プログラムを工夫したのだよ。そういう訳で、今回のユウキ候補生の志願は、本当に、渡りに船であったよ。……この私の、そう、この私のっ! 素晴らしく解り易い指導を毎回毎回、ヘラヘラヘラヘラ、右に左に、左に右に、と素通しさせて避けてくれた君が、このような公の場で、見苦しい苦悶と聞き苦しい悲鳴とを衆目に晒すのを特等席で見聞きできるという喜悦に浸れるのだからな」
いや、あんたっ、指導官っ!
その表情や口調から察するに、それ絶対、あんたの私怨が多分に入ってるって!
つか、後半で本音がダダ漏れになってるぞ!
どうする、俺!
俺、どうすんのぉぉぉぉ!
はっ、そうか。
これはゆめだっ!
わるいゆめなんだっ!
お、俺の体よ、はやく、この悪夢から覚めてくれぇぇぇぇ!!
「では、これより試験を開始する。二人の健闘を期待する」
……現実は非情だった。
こうして俺は、最終試験において、課程主席であるユウキとMS同士のガチバトルをする羽目になってしまった。
10/09/09 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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