第一部 新しき生
14 操縦×習熟⇔基礎+整備(C.E.68年 3)
この訓練校で訓練を受けている俺が一番楽しんでいること。
それは言うまでもなく、モビルスーツの操縦だ。
これほど、男のロマンを充実させてくれるものはないだろう。
「ラインブルグ候補生! 早くハンガーに戻って来い! そのような曲芸を行う必要はない!」
別にいいだろ、三回転半ジャンプをするぐらいさ。
……。
実機演習の後、指導官室でMS操縦指導官から浴びせられる凄まじいまでの罵詈雑言を右から左に、左から右にと受け流して、毎度毎度の説教時間をやり過ごした俺は、MSが並べられているハンガーに戻ってきた。20mを超える鋼鉄の巨人達が並んでいる光景はいつ見ても壮観である。
「まったく、アインよ、さっきの機動はいったい何かね?」
飽きずにMSを何分も見ていたら、何やら整備員を話をしていたラウがこちらにやって来て声をかけてきた。
「いや、三回転半ジャンプ」
「……何故、君はいつも余計なことや馬鹿なことをする?」
「当然、それがロマンだからだよ」
「……ふぅ、理解不能だな」
ふぅ、これだから優等生は……。
「いいよいいよ、理解不能でさ。馬鹿の思考は秀才君にはわかりません。……だいたいだな、あんな機動あんな機動って皆して言うけどな、ああいう機動も、もしかしたら、MSの可能性を探ることにつながるかもしれないんだぞ?」
「……それで、本音は?」
「だから、少しぐらい変わった機動をして、遊んでもいいだろう?」
「まぁ、それが君の考えなら、それを固持するのもいいだろう」
「うんうん、そうだろうそうだろう」
「……だが、それは君の考えであって、他人に通用するとは限らんぞ?」
「ふ、ふふ、侮るなよ、ラウ。このアイン・ラインブルグ、我が言い分の一つや二つ、他者にも通用させて見せよう!」
「ならば、君の後ろにいる人物にもそう言ってみるがいい」
「……えっ?」
俺が後ろを振り向いたら、整備員候補生のおっさんが腕を組んで、仁王立ちしていた。
しかも、額には♯に見えるほどに血管を浮き立たせながらだ。
そして、俺はラウの何気ない誘導による謀りを悟る。
「お、おのれぇぃぃ、ラウ、謀ったなぁぁぁっ!」
「ふふ、せいぜい、君が今のした軽率な発言と昨日のアレを私に食わせたことを悔やむがいい」
な、前者ならともかく、後者の納豆をお前が食った件は自己責任だろう!
「ま、待て、ラウッ!」
「待てと言われて待つような輩はおらぬよ」
「くあっ、正論だっ!」
……よし、馬鹿なことを言って、後のおっさんの気が逸れた今のうがっ!
……。
うぅ、掴まれた肩がミシミシと音をたててイタイデス。
「……さて、ラインブルグ候補生殿? 先程の機動について、整備の方からすこーしOHANASIしたいんだが? ああ、もちろん、その道で有名なNOHANA式を源流に持つ、ザフト整備員候補生式の肉体言語でだがな」
の、ノォォォォぉぉぉぉっ!!
……。
ザフト整備員候補生達との、訓練校史に残ってもおかしくない程に激烈な肉体言語での会話の後、俺は機付き整備員であるマッド・エイブスと俺がついさっきまで訓練に使用していたMS【YMF-01B】、通称プロトタイプ・ジンの点検整備を行っている。
エイブス曰く、お前も整備員の苦労を味わえば、二度と馬鹿なことをすることはあるまい、ということらしいが、残念、俺は全然懲りないぞ。
っていうかぁ(↑)、このプラント脅威の技術力の結晶である機械をぉ(↓)、弄る機会が発生するってことだしぃ(↑)、むしろ小躍りしてやるって感じぃ(↑)?
……今、何か、頭ん中が変になってたな
さっきの話し合いの影響か?
まぁ、気にしたら負けだから、気にせずにいこう。
話を戻して、俺がMSを整備するとはいっても、本職じゃないから、簡単な場所を誰かの監督下でしかさせてもらえない。今もエイブスの監督の下、回転した際に生じた力が機体にどのような影響を与えているかを調べるべく、センサーの類を背負いながら、上下左右に機体の周りを動き回っているくらいである。
「まったく、お前さんも機体を整備する整備員の立場になって動いてくれよ」
「おいおい、何言ってんだよ。エイブスが俺に、お前の操縦は教本や基本通りになりすぎて機体の消耗が普通すぎる。もっと、整備の練習になるようにしろ、って言ったから、機会を作ってるだけじゃないか」
「……半月前のあの時、お前に言質を与えるような馬鹿なことを言った自分をぶん殴ってやりてぇ」
ふふふ、あの時のエイブスの言葉はありがたかった。丁度、その頃には機体制御に関して、基本動作を習熟し終わっていたからな、様々な可能性を試すいい機会だったのだ。
「だが、まぁ、馬鹿なことをやっている割には、お前の操縦が機体に与える影響は、意外と少ないな。あれだけ派手な動きをしたのに、間接の磨耗や油圧系への負担とかも、他の奴らよりも少ないくらいだしな」
「……いや、一応、これでもBOuRUの開発に参加した身だからな? どう動けば、機体への負担が軽減するかぐらい、計れるって」
機体の特性を理解せずに、ただただ、自分の思い通りに動かすために、無理矢理といって良いほどの荒い動かし方をする、他の連中と同じにしないで欲しい。確かに武人の蛮用に耐えるのが良い兵器の条件だが、使用者がそこに甘えてしまうのは、また違うことだと思うのだ。
そんなことを考えていると、センサーに表示される数値を確かめていたエイブスがまた話し出した。
「おお、そうらしいな。……しかし、BOuRUか」
「エイブスもBOuRUを弄ったことあるのか?」
「ああ、俺も一度、BOuRUを弄る機会があった。……あれには魅せられたな」
どこかうっとりしたように、しまりのない顔を浮かべる中年初期型のおっさん。普通ならば、色気があったり美人だったり、スタイルのいい女のことを、見たり考えたりした時に浮かべる表情なのだろうが、彼が考え、思い浮かべているのは球体の作業機械である。ほんとうにありがとうございました。
……いや、でも確かに、BOuRUの丸みってのは、実は、こう、中々に女性的なんですよ?
こう男の夢が一杯詰まった御乳のような……。
延々と、撫で回したくなる御腰のような……。
思わず、顔を埋めたくなる御尻のような……。
……むぅ、俺程度では、あの曲線美は形容しがたいな。実はBOuRUって、こう、球体といっても、完璧な球体じゃなくて、どちらかと言えば、楕円で、その曲線が女性のウエストからバストに至る曲線に、こう、に…………はっ!
いかん、俺までエイブスワールドに引き込まれていた!
って……あ、ああぁ。
たまたま、通りかかったそこの情報管制過程の美女な人、お願いだから目を逸らさないでくれぇ!
あぅあぅあぅ、航法管制過程の可愛い女の子にすんごい気の毒そうな目で見られたっ!
しかも、何気にラウがキャットウォークからこちらを見下ろしながら、ニヤリって笑ってやがるっ!
「よし、ラインブルグ! 今日は整備候補生の有志連中と一緒にBOuRUの可憐で美しい曲線について語り合うから、お前も付き合えっ!」
「いいっ」
「ふふふふふ、久しぶりに燃えてきたぞっ!」
そんな訳で、俺は整備候補生の会合に強制参加させられた。
……何気に楽しかったのは、俺が機械フェチの気があるからだろうか?
少し気になった。
ついでに、毎晩恒例の独演会にやってくるユウキも、言葉巧みに会合の場に誘い出して、巻き込んでやった。
くくく、これで奴も機械フェチの道を歩き出したに違いない。
……。
しかし、ラウを誘き出すことはできなかった。
やはり、奴の危機回避能力は侮れない。
それらを上回るだけの策が必要だ。
……そうだな。
……。
よし、奴への反撃……げふんげふん……ルームメイトの健康のために奴が愛飲しているグリーンティの袋に、乾燥蒼汁でも混ぜ込んでおくとしよう。
10/09/06 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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