第一部 新しき生
13 情熱-冷静≒熱血×迷惑(C.E.68年 2)
望まぬうちに参加させられたザフトの訓練施設にて、俺は今日も頑張っている。
だが、周りの連中は情熱炎上、戦意過多。
本当にこんな奴らが人類の新種なんだろうか?
「アイン・ラインブルグ! お前は、今、プラントが置かれている状況に何も思わないのかっ!」
熱く語るのは結構だが、今はもう消灯時間寸前であって、あまりにも迷惑過ぎるんだよなぁ。
「いや、もう、夜も遅いから勘弁してくれ。何も言わないが、寝ているラウもきっと迷惑してるぞ?」
「む? クルーゼは既に寝ていたのか。さらば仕方がない、今日はここまでにしておこう。……だがっ! ラインブルグ! 少しはザフトの隊員に選ばれた意味を真面目に考えるんだぞっ!」
「はいはい」
「ッ! ……まだまだ話足りんが、今日はここまでにしておく!」
……はぁ、やれやれ、やっと帰ったか。
つい先程まで、俺に対して、自身が燃え上がりそうな程に熱血して語っていたのは、俺が所属することになったパイロット養成課程で、パイロット候補生の取りまとめ役をしているレイ・ユウキだ。
どうも俺の無気力振りが目に余るらしく、こうして夜な夜なやって来ては一席ぶって帰っていくのだ。いや、ユウキの野郎が女だったら、もう少し真面目に聞く気になるが、所詮は男だし……ねぇ。
馬鹿なことを多々やらかす俺も、流石に、なんて非・建設的なっ、だなんて、ある嗜好を持つ人達が喜びそうなことをする気も起きないし、やる気もない。
……あれ、俺、何を馬鹿なことを考えてんだ?
「ふっ、毎晩、大変だな、アイン」
「なら、助け舟の一つぐらい寄こしてほしいな、ラウよ」
「何を世迷い言を、君が自分で蒔いた種ではないか。しっかりと刈り取るといい」
「……いや、お前が蒔いた分も、確実に俺の方に来ている気がするんだが?」
寝たふりをして、ユウキの演説講談を旨く回避したのは、同室となったラウ・ル・クルーゼだ。
こいつは俺と違って、普通以上に優秀な成績を収めているのだが、どうにも、他者との馴れ合いを嫌う質らしい。で、当然の如くというか、ラウもユウキの攻略対象……本当に、なんて非・建設的な表現だろう……になったらしく、共にプラントを守るためには仲間との協調が云々云々と一席ぶっていく。
いや、ユウキが言っていることは正しい事だと思うし、現実に正しいだろう。けれども、この訓練所で訓練している奴等も子供じゃないんだから、必要以上に馴れ合ったり、常に同じ意見を共有したりする程、仲良し子良しじゃなくてもいいような気がするんだよ。
そもそも、信頼なんてものは、すぐにできるものじゃなくて、少しずつ育まれていくものじゃないのか? 一方的な考えの押し付けからは信頼が生まれるとは思えないぞ。
……少なくとも、俺はな。
「アインよ、何を言っている。我らが候補生代表殿は君の素行だけでなく、低空飛行な成績も心配しているのだろう」
「いや、それこそ、ほっとけって言いたいぞ、俺は」
そうなのだ、この訓練校での俺の訓練成績は順調といってよいほどに低空飛行を続けている。なにせ、こちとら底辺コーディネイターだ。パイロット候補生として、パイロットに必要な技能を修めるにしても、その一つ一つをこなすだけで、もう、大変なのだ。プラント生活で後天的に会得した、不撓の努力と不屈の精神がなければ、今頃、とっくに逃げ出していただろう。
ああ、そうそう、ちなみに俺が何のパイロット候補生をしているかというと、何と、驚くことなかれ、某SFアニメに出てきたような巨大ロボットだ。しかもしかも、そのロボットの名称は某SFアニメと同じモビルスーツなのだっ!
いや、驚いたこと驚いたこと。もちろん、ロボットの名称が一緒なのも驚いたが、まさか自分が巨大ロボットの操縦をすることになるとは、想像もしてなかった。それに、俺も何だかんだと言ったってオノコだから、前世でもこういったものに憧れていた、はず、だし……。
…………流石に……記憶が、薄れて……来てる、な。
……。
気を取り直して、だ。
今現在を生きている俺にしても、あのBOuRUを作った身である。当然、こういったものは好きである。というか、大好きである。
本当に巨大ロボットを自由自在に乗り回すという、漢の夢が実現できるなんて、なぁ。ここの訓練施設にやってきて初めて、良かったと思ったよ。
……話がそれた。
「俺は俺のペースでやるしか、出来のいい皆様には追いつけんのですよ、成績優良者殿」
「ふん、その口がよく言う。基礎ならば、私以上に習得しているのではないか?」
「所詮、愚直な底辺コーディの足掻きですよ」
「ならば、私は君に足元をすくわれないよう、注意しておこう」
こんな感じで普段から俺とラウはやりあっている。
いや、いいなぁ、こういう言葉の掛け合いって……。
ほんと、ザフト万歳、ザフト最強と刷り込んでくる洗脳施設のような場所でマトモな神経を保っていられるのは、これが清涼剤になってるからだ。
でも、長く生きている"俺"という存在と話が合いやすいなんて、精神的に成熟してると思うよ、ラウは。
いや、別に、俺とラウが世の中を斜に見ているからではないとは思う。
……たぶん。
で、万事がこんな具合だから、なんとなく互いに気兼ねをしなくなって、お互いをファーストネームで呼び合う様になったのだ。
まぁ、こんな感じでザフト精神に侵されていないせいか、或いは、一般的なプラント産コーディネイターとは精神的な土壌が違うせいなのかはわからないが、俺とラウはこの訓練校で浮いた存在になりつつある。
また、この浮いた存在という言葉には、先の一般的なザフト訓練生と異なる精神性といった意味合いとは別に、他にももう一つ、パイロット養成課程の成績面も意味合いとして含められるだろう。もっとも、ラウは高値の花的な存在、俺は路傍の石的な存在としてだがな。
そう、路傍の石的存在の俺をまともに俺という個として認めているのは、目の前にいるラウと暑苦しい奴だがユウキだけだ。
一般的なコーディネイターだと、路傍の石には興味がないか、優越感の元にするかのどちらかだろう。
現に、今までも優越感に浸りたい奴等から様々なハラスメント……はっきり言って、鼻で笑い飛ばせるレベルだったが……を受けたりすることがあった。
それに俺だって、幼少時に同年代のコーディネイターにボコボコにやられて以来、肉体言語を勉強してきたのだ。当然、相応に上手になったから、こういった"言葉"をかけられても相手に"言い返して"やれるようになったし、負けたとしても、かつてのような一方的敗戦は起こらない。
そもそも、そういう詰まらない"ちょっかい"を出してくる奴らに限って、直情的で単純な奴等ばかりだから、面白い位に心理戦で動揺したり、こちらが望む状況を構築するための誘導に引っかかったりしてくれるから、逆に精神的な充実感すら覚える時がある。
ついでに言うと、言葉の揶揄なんてものは最早慣れ過ぎており、屁の河童である。言いたい奴には、好きに言わせておけばいいし、そんな奴等の相手をするだけ、自分の品位を貶めるだけだからな。
……俺の現状はさて置き、何の因果か、はぶられた者同士が同室のルームメイトになった為、一部例外がいるものの、他のコーディネイターの出入りがない部屋となっている。おかげで、訓練時以外は非常に気楽な生活を送らせてもらっている。
「さて、明日も辛い辛い一日がまた始まるからな。俺はもう、寝るよ」
「何を言う、君にとっては、楽しい一日がまた巡ってくるの間違いではないのか?」
「そっちこそ、言ってろ。…………ふぁぁぁぁあ、んじゃ、寝る、おやすみ、ラウ」
「………………ああ、私も眠ることにするよ」
ラウに眠りの挨拶をした後、ベッドに横たわり、瞳を閉じる。
確かに儘ならぬのが人生だが、前向いて生きていったら、そうそう捨てたものじゃないとないと思うんだよな。
……。
では、本日のアイン・ラインブルグ個人商店は、これにて営業終了である。
……おやすみなさい。
しかし、ラウも寝る時まで仮面をつけたままだなんて、変な奴だよなぁ。
なにか、理由でもあるのかねぇ?
まぁ、機会があれば、聞くことにしよう。
10/09/07 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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