第一部 新しき生
09 成人×(借金+返済)=就職×公務(C.E.60年)
今年、プラント籍コーディネイターの俺は成人となった。
家族は遠くに離れて暮らしているけれど、近くにも祝ってくれる人はいた。
そんなことに幸福感を味わうのって、結構、贅沢なことだと気付いた。
「アイン・ラインブルクさんですね。あなた名義の借財の返済期限が迫っております」
えっ? ……いや、いきなり、そんな話は初耳なのですが?
……。
セプテンベル市の行政職員であると正式な身分証……穴を開けてしまおうかと思う程、確認した……を提示して見せた借金取立人に、自分名義の借金と返済に関して色々と聞いた俺は、この借金が何の目的で為されたものなのかを知るために、アメノミハシラにいる父へと連絡をいれた。
俺からセプテンベル市からの借金について聞かれた父曰く、借金は何らやましいものではなく、元々の来歴は俺を生み出すために母名義で借りられた金であるということ、名義に関しては、母がなくなり、父もオーブへと移住する予定であったために俺名義に変更していたということ、更に返済に関してだが、旧会社の発展的解消に加えて、新会社の発足等とドタバタしている内に、返済が頭から抜けて、口座に入金するのを忘れていたらしい。
いや、だったら、せめてそういうモノがあるということを伝えておいてほしいと思ったのは、いきなり借金があると聞かされ、混乱して馬鹿なこと……いつの間に俺は詐欺にはまったんだとか、クレジットカードなんて作った憶えもなければ使ってもいないぞとか……を口走って大恥を掻いた俺の自分勝手な願望とは言わないだろう。
だが、……うむ。
これも天の導き、或いは母の導き、に違いない。
通信画面の向こう側で、すぐに返済金を送ると言っている父を止めて、俺は自分の考えを話す。
先に我が家にやってきた借金返済要請の使者殿の話には続きがあったのだ。
……。
「借財の返済期限が迫っておりますが、もしも、その期限に返済が間に合わない、もしくは返済能力がない場合はラインブルクさんにはセプテンベル市の行政局にて、働いていただくことになります」
「……それは要するに、金ないなら、うちで働いて返せや、ごらぁ、ということですか?」
「……いや、ごらぁ、というのは言い過ぎですが、率直に言えば、そういうことになります」
俺の物言いが少し受けたのか、口元に苦笑を浮かべる使者殿は頷いてみせる。
「……もしも、その、働く場合……生存権は保障されてるのでしょうか? 例えば、タコ部屋労働をさせられるとか?」
「た、タコ部屋労働ですか? ……さ、流石にそういったことはありませんよ。普通の生活は保障されてます。給料に関しても、一部が返済に充てられるために他よりも少ないですが、ちゃんと出ますし、雇用も返済が終わった後も継続いたしますし、その場合、給料も通常と同等のモノになります」
「……そうですか」
なら、考慮に値するだろう。
……いや、むしろ、ウェルカムではなかろうか?
なにしろ、これ以上、非常にレベルが高い就職活動をしなくていいからなっ!!
いや、冗談じゃないんだよ、これが。
俺みたいな、ほぼ無改造クラスのコーディネイターには、なかなか、ねぇ、現実は厳しいんだよ。
だいたい、特技は何ですか、と聞かれたら、自信を持って答えられるのは、生殖能力が他のコーディネイターよりも絶対的に優れてます(キリッ)、ってくらいしかないんだよ! ってか、普通は言えねぇよ、これっ!
そもそも、人間なんて、最低限の生活さえできれば、どこかに幸せを見つけ出すように、どんな仕事でもやりがいってモノを見つけ出して、最初は上手く仕事できなくても最後には上手くできるようになるはず、はず、はず、なんだよっ!
だから、俺にもチャンスをくれよっ!
……って、うん、思い通りに事が進んでなくてイライラが爆発してしまった。
はぁ、とにかく、今の俺の能力では他のコーディネイターに比べたら、著しく低いとはいわないが、劣っているという現実を否応なくわからされたのだ。まぁ、結果的に、我が父が何気にコーディネイターを相手に互して仕事していた、凄い存在だったんだと、父に対する認識を新たにしている今日この頃である。
気を取り直して、使者殿に聞くべき事を聞く。
「働く場合の返事は今すぐ必要ですか?」
「いえ、返事は返済期限が来る来月までで結構ですよ。もちろん、お金を返していただいてもかまいません」
「……わかりました」
という、経緯があって、俺はお金の返済を自身で行いつつ、職を確保するつもりであることを我が父に説明して見せた。
「なるほどな、確かにプラントでは住民の苦情処理係的な行政サービスが低く見られている所がある。なり手が少ない上に、ストレスから精神的に耐え切れずにやめていく者も多いとも聞いたこともある。だから、恐らくお前が聞いた先の話も人材確保を狙っている面があるんだろう。だが、そこはな……」
「うん」
「……コーディネイターは気位が高いから、きっと、お前が考えている以上に辛い所だぞ?」
「わかってるよ。でも、これはきっと母さんが与えてくれたチャンスだと思うんだ。それに独り立ちするチャンスだとも思えるし」
「……そうか」
俺の言葉に父は少し翳があるけど、嬉しそうな笑顔を見せた。
「まったく、子は知らぬうちに大人になっていくのだな」
「……まぁ、ね」
いや、前世も含めたらもう、いい歳なんですが?
……色々と、複雑な評価だ。
「いや、お前が職を探しきれない場合はうちの会社にでも放り込もうかと考えていたのだ」
「うん、それは、とてもありがたい話だけどね……それは、本当に一番最後の方法だと俺は思ってるんだ」
いや、実はアメノミハシラでRSCは順調に成長してるんだな、これが。
大体、BOuRUの生産だけじゃなくて、いつの間にか小型とはいえ、造船にまで手を出し始めているなんて、誰が考え付くだろうか?
まぁ、それは後々、時間がある時に詳しく父から聞きだすことにして……。
「父さん、俺、大丈夫だよ。隣のキャンベルさんにも色々と助けてもらってるからさ」
「……わかっている。だから、お前には頑張れとはいわない。ただ……元気でいろよ。……それと困ったことがあれば、必ず相談するように、な」
「うん、わかったよ。……それじゃ」
「ああ、また、な」
通信が切れ、再び遠く離れた父の、俺への信頼をうれしく思いながら、俺は新しい職場に連絡を入れようと端末に手を伸ばした。
「はい、毎度、御贔屓にぃ! 雷々亭ですっ!」
……いや、ごめん間違えた。
10/09/05 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
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