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第一部  新しき生
06  (機械+趣味)×情熱=球体+作業(C.E.55年 後)

 ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、ついに完成したモノを見上げる。
 今日、この日……ついに……遂にっ、完成したのだ!
 見よ、この勇姿! 見よ、この機能美!

「むぅ、アインの言う通りに本当にできてしまったな」

 ふふふ、これで我が社はあと半世紀は戦える。

「……アイン、嬉しいのはわかるが、もっと、子どもらしく喜べ」

 ……むぐっ。

 "父"よ、それは俺が子どもらしくないということなのかな?

「……」

 あ、明後日の方向を向きやがった。


 ……まぁ、いいや。


 今日は実に素晴らしく記念すべき日だから、俺も機嫌がいいのだっ!


 ……。


 それにしても、本当にできるかなぁ、と実は半信半疑で作っていたのだが、本当に出来るとはなぁ。

 まったくもって、実質的な作り手である"父"や親友達に感謝だな!

 俺が見上げるモノ……5mちょっとの大きさの球体をしたそいつは、まさに、前世において、あの有名SFアニメに出てきた、宇宙空間の片隅でチョロチョロして、その世界に臨場感を見た者達に与えた、あの、球体の渋い裏方とも呼べる存在を、スケールダウンかつちょっと手を加えたものだと言える!


 もっとも、天頂部の大砲はないけどなっ!


 ……ふ、ふふ、今のこの感動、どう伝えようか?

 ……。

 簡単に言えば、……うん、アレだ。

 ヘッドライトとテールライトを交互に点灯させているようなイメージだっ!

 ……。

 ……うっ、ううっ、自然と涙が……。



 --しばらくお待ちください--



 はいはい、チーン、っと。

 いや、"父"よ、見苦しいところを見せしました。

 ……。

 では、気を取り直して、俺の前に鎮座する球体について、簡単に説明することにしよう。


 ……んんっ。


 この渋い球体を見て、まず、目に付くのは、機体前部に取り付けられた五本指マニュピレイター付の二本の作業用アームだろう。こいつが宇宙空間で、どんな細かな作業もOK、どんとこいな、万能性を持たせている。さらに、安定して溶接や接合等の作業を行うための、普段はコンパクトに折りたたまれ収納されている、機体固定用アームを前面上下部に各二本の計四本、用意している。この固定アームの先には、電磁石と三本指の簡易マニュピレイターが搭載されて、状況に応じて使い分けることができる。先に述べた使い道以外にも、物を運ぶ時に旨く重心バランスを取るのにも使える。次に、球体の各所に配されている姿勢制御用の小型スラスター。こいつらを旨くバランスよく配置し、父やその仕事仲間達の経験則を元に作られた連動システムを介することで、宇宙空間360度、自由な動きが取れるようにしている。球体内に納められているスラスター用燃料は一応父の見立てでは10時間分の確保を見越しているが、活動時間を延ばすために、またまた、故障の危険性も考慮し、外付けタンクも大小、装備できるようにハードポイントを四箇所左右側部にそれぞれ準備している。また、もしも、急な移動や無理な機動でバランスを崩したり、何らかの外力が加わってスピンが発生したりして、姿勢制御が困難になった場合に、すぐに元の安定した姿勢に戻れるようにオートバランサーが常時、機体姿勢を監視している。いざ、事が起こった時には、すみやかに球体内部にて回転方向とは逆向きにバランサー帯が回転して、球体にかかった力をニュートラルに戻すのだ。そして、球体を形作る外殻。この外殻はスペースデプリや宇宙放射線から搭乗者を守るに十分な二重の装甲を持ち、装甲同士の隙間にエネルギー系統で使われる水を流動させることで放射線を確実に遠ざけ、更なる安全を生む。しかも、搭乗者を確実に守るための操縦席を収めた内殻を持つという徹底振りだ。その上にプラント脅威の技術力とも言うべき、放射線遮断塗料が塗りたくられているから安心だ。ちなみに、先程のバランサー帯は外殻と内殻の間に配されている。さらに続けて、宇宙で作業する上で重要な操縦席。頑丈な殻に強固に守られた内側にある操縦席も閉鎖空間を少しでも快適にするために直径3mという余裕の造りにしてある。加えて、周辺状況を即座に把握できるよう、死角がないように装備されたカメラからメインモニターと二つのサブモニターに映像が供給され、もしもの場合でも正面に備えられた外窓のシャッターを開けることで、前方の目視が可能になる。操縦系統は、機体制御用の操縦装置の他に、先のメインマニュピレイター用に篭手型操作装置も搭載している。なぜ、脅威の技術力を有するプラントがミストラルなる簡易なマニュピレイターしか持たない代物で満足しているのか、俺にはわからないがっ、たぶん、きっと、偉い人いうか、頭のいい人というか、きっと現場を知らん人には、わからんのですよっ! ……有能なプラントの技術者の皆様への揶……提言はさておき、機体そのものの主なエネルギー源としては燃料電池を搭載し、予備電源として太陽光発電パネルを展開できるようにしている。水素と酸素で水と電気を生産し、太陽光で発電した電気で水を分解して、また、水素と酸素を生産するという、閉鎖されている宇宙という環境に加え、無限のエネルギー源たる太陽が存在するからこその荒業! そして、こんな荒業を可能にするのが、またも登場プラント脅威の技術力! もう、この辺のプラント技術は、俺の理解では及ばないので、説明のしようもない! そしてそして、最後に非常時の備えだ。もしも、事故や故障で非常事態が発生した時のために、操縦席バックパッカーに危地作業用宇宙服を備え付け、それに加え、八時間分の宇宙服用酸素を装備。これに加え、球体自体にもメインの酸素供給装置に二十四時間分、別に二系統の酸素供給装置を装備、一つの系統だけで最低でも八時間の生存を約束している。忘れていたが、放熱板も当然搭載されていて、溜まった熱も外へと放出できる。後、作業で必要になる主要な工具類も併せてに様々に創ったから充実している! そして、何よりも驚くべきことは、これらをすべて廃材を合わせて作ったから実質作業代だけで、たったの一万$ぽっきり!


 ……はぁはぁ、ふぅふぅ。


 …………嗚呼、すばらしい!



 称えよ、ボゥル!
 ビバッ・ボゥル!

 称えよ、ジャンク!
 ビバッ・ジャンク!


 これで"父"やその仲間達の作業が格段に安全になる!


 ……にしても、よく、こんだけ、いろんな使えるジャンクがあったもんだ。

 まったく、物を大切にしないと、そのうち、もったいないお化けが出るぞ。


 もっとも、俺は見たことないがなっ!


 んんっ、それでは、さてさて、こいつの正式名は何としましょうかな。

 父よ、父よ、何か案はありませんか?

「ふむ、やはりこの形状からいえば、ボー「それは駄目だという世界神の啓示がっ!」そうか?」

 いや、俺は神なんて見たことないけどね。たぶんだけど、なんとなくだけど、発禁コードを色々と使うような助平な神様のような気がする。

 ……まぁ、神様だろうが、別に助平でもいいと思いますよ?

 俺も男ですから、その気持ち、わかりますし?

「ならば、お前が、今さっき叫んでいた、【BOuRU】でいいんじゃないか?」
「はい、Building Operation used Refined Unit(建造作業で使用される洗練されたユニット※注:適当訳)です」
「……俺が言ったボー「ああ、母さんが世話してたサボテンの花が咲いている」……変わらん気がするがなぁ」

 変わらなくても、認めるのと認めないのとでは大違いなのですよ、父上。

 さて、いまからでも試験運転して、駄目なところの洗い出しをしませんか。

 あっ、そういえば、これって、初めて宇宙に出られることになるんじゃなかな?

 ……うん、何だか、より一層楽しみになってきたぞ!






 えっ、父よ、何ですか?

 はやく、準備をして宇宙に向かいましょう!

 宇宙が、俺を待っているん……で……。

 ……。

 なん……だと……。

 ただ単に宇宙連絡船等に乗るならともかく、宇宙に出て自身で動かしたりする作業艇に乗るには、最低四十時間の講習と実地訓練を受けないと許可されないし、そもそも、相乗りを許可されるには年齢が足りていない。ああ、もちろん、私も乗せることはしないし、勝手に乗り込んだ場合は叩き出す……だと……?

 こ……ここまできて、せ、殺生すぎる。

 ……ち、父よ、慈悲をっ! 何とか……何とか、慈悲をっ!


 …………えっ、恨むなら、己の生まれた年を呪うがいい、ですとっ?


 ……何という迷妄言っ!

 今の歳に合わせて俺を母に仕込んだ本人が言う言葉ではないぞっ!


 ちょっ、逃げるなっ! 乗るなっ!


 ……何、早く退避しろだとっ!


 お、おのれぃ!




 ……。




 結局、俺はBOuRUの初乗りができなかった。

 そして、BOuRUを操縦する父があげる感嘆の声と隠し切れない歓声を倉庫で聞く度に、俺の内で嫉妬と羨望の嵐が吹き荒れた。



 その後、上機嫌にBOuRUから降りてきた親父に殴りかかって、はじめての大規模ラインブルグ親子大戦(喧嘩)を仕掛けた俺は悪くないと思う。


 くくく、金的攻撃は親子喧嘩における、子どもの特権ですよ。


 まぁ、その分、やり返されたけどね。
10/09/02 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。


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