ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一部  新しき生
05  機械+趣味=父親+交流(C.E.55年 前)


 "母"が逝き、"父"と二人暮しになったわけだが……。
 周囲の暖かい有形無形の協力を得て、なんとか生きている。
 っていうか、不器用ながらも優しい"父"と、意外な程、上手くやっている。

「むっ、アイン、ここはこうした方が効率が良くなるぞ」

 今も、俺と"父"は自分の欲望の赴くまま、機械弄りに精を出している。

 機械油で手が黒くなろうが、ボールベアリングを鼻に吸い込みかけようが、額から汗が吹き出て周りに飛び散ろうが、まったく気にならない。


 "前の世界"では、機械なんて殆ど触る事もなかったのに……不思議なモノだ。


 そんな思いを抱きながら、"父"と二人して、宇宙港の片隅にある"父"の会社の格納庫兼倉庫で、俺が提案したある機械を製作中だ。

「いや、そこは違う、こうだ」
「……こう?」
「ああ、それでいい」

 てな具合で、大小二人で励んでいる。

 ……。

 どうしてこんなことをしているかというと、何というか、俺の精神の未熟さ故に、家に引き篭もってしまったのが切っ掛けだった。

 自分では成熟していると思っていた精神の未熟さが露呈した原因。

 最も大きなものとして、昨年の母の死があげられるだろう。

 ……やはり、あれは、堪えた。

 母が死んだという大きな精神的ショックは、時を一日、また一日と経るに連れて、本当に少しずつだが、小さくなりつつはあった。だが、やはり心に穿たれた穴は大きく、ぽっかりと開いた空洞が完全に塞がるには程遠い状況だったのだ。

 そんな不安定な状況に加えて、今年、入学した幼年学校が……酷かった。

 並み居るコーディネイターの子ども達の幼い精神性を元にした、歪んだ優越感に満ち溢れた、あまりにも悲惨すぎる幼年学校の内情は、俺を絶望させるには十分だった。
 本当に、お前はあれができない、これができない、おまえなんて、俺のほうが、等々って具合に云々云々、うるさいことうるさいこと。

 あれ、絶対、通ってる人間の性格が歪むわ。

 まぁ、そんなわけで常の元気を失ってしまい、家に引き篭もっていた俺を、"父"が、気を紛らわせさせようとでも考えたのか、本人に聞いていないのでわからないが、"父"が経営している会社の格納庫兼倉庫に連れてきたのだ。


 そして、それが今に至る始めの一歩だった。


 何ていうか、"父"が開いた扉を抜けると、そこはジャ……げふんげふん、"父"が清掃作業で回収してきた宝の山がそこに存在したのだ!

 もう、それを見た瞬間、俺は稲妻に打たれたかのように、こう、ビビビッと、天啓或いは毒電波を受けてしまい、それまでの鬱が一気に吹き飛んでしまった。


 ……たぶん、あれは、俺のごーすとが、アレツクルベシ、って、囁いたんだと思う。


 そんなわけで、俺は"父"に頼み込んで、幼年学校を退校し、自宅学習に切り替えた上で、俺が考案というか、前世の記憶から勝手に浮かんできたモノの設計及び製作を手伝ってもらうことにした。


 そして、本当にそれからというもの、親子二人で作業に、時に寝食を忘れかける程に没頭している。

 もっとも、何分、親子共に初めての製作作業ということもあり、様々な問題が多々生じてきたのだが、それはそれで、こう、解決を目指す時に、なんというか、こう、胸の内に燃え上がるものが自然と生まれてきたんだよ。

 ああ、ほんとに、困難は人を成長させるのだと、これほど実感したことはなかった。

 もう、頭の中には、常に、エンドレスで、ドッドッドンドッドッンと、某上の星が流れていたさ。

 いや、ほんとに、乗り越えようとする意思が、挫けぬ意志が、ある限り!

 そぉーーーーぅぅぅぅさ、やって出来ぬことなどないのさ!

 ……。

 ……いや、そらね、専門的な技術話についていけなくなって頭がパンクして、何度も何度も不貞寝もしたさ。

 でも、そのたびに、メタラヤタラ機械関係に強くなったパーシィが手伝ってくれたからいいだろっ!

 生来の不器用な手先のためか、細かい作業がうまくできなかったら、べ、べつにあんたのためじゃないわよ、おじさまのためだからねっ、かんちがいしないでよねっ、ってベティが助けてくれたよっ!

 ふっ、いいじゃないか、やはり、持つべきものは友達ということだろう!


 ……だいたいだな、この世の中に、全て何でもできる超人なんて、存在するわけないだろう?

 そもそも、人間ってのは、人の間と書いて人間なんだぞ?

 そう、人間は人と人と間に関係があってこそ、社会と言うものがあってこそ、人間足りうるのだっ!

 それこそ、超・人、なんて字の如く、人を超えるんだから、人じゃないんだよっ!

 そんな奴ぁ、あれだね、本当に化物になるか、社会に適応できない不適応者になるか、或いはその両方かになるに間違いない。
 

 ……なんてね。


 まぁ、超人云々なんて、どうでもいいことさ。

 それよりも今は、我がRSC(Rheinburg Space Cleaning)の未来を決めるかもしれない開発に勤しむべきだろう。完成すれば、少しは宇宙での"父"の作業も危険性が減じるはずだからな。

 あっ、そういえば、最近になって近所に地球から人が上がってきて住み始める人が増え始めた。

 家の隣に引っ越してきたキャンベル家の御夫婦と父の会話を聞いていると、地球では、去年のS2型インフルエンザの流行に関して、コーディネイターがナチュラルを抹殺するためにうんぬん、ナチュラルがコーディネイターをかんぬん、ってな感じの噂が流れて、ごたごたしてるらしい。
 正直、知ったこっちゃない、って言いたいところだけども、一昨年のあの世界初のコーディネイターとして有名なジョージ・グレン暗殺から、最近の、確か、テレビのニュースで見た……トリノ議定書だったかな、に至るまでの社会情勢を考えると、結構、ナチュラルとコーディネイターの関係は悪い方向に流れているのかもしれない。
 今の生活を、結構、気に入り始めている俺にとっては、その生活を壊すかもしれない、この流れは歓迎できないものだ。

 前世が唐突に終わってしまった我が身にとって、切実な思いである。


 いや、本当にこのまま無事平穏に、何事もなく、一生を終えたいもんだな。
10/09/02 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
11/12/23 誤字修正。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。