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第一部  新しき生
03  敗北+屈辱⇒執念×(不屈+努力)(C.E.53年)


 こーでぃねいたーとなちゅらるの関係を軽く甘く見ていたな。
 もう、日常でさえ、羨望と嫉妬、侮蔑と傲慢、憎悪と増長の連鎖連鎖連鎖。
 当然、俺もその渦中の真っ只中だ。

「やめろよな、ナチュラルや出来そこないのお前が、俺達に勝てるわけないだろぅ」

 とりあえず、このくそったれな、こーでぃねいたーのガキの、その傲慢ちきな顔をぶっとばしたるっ!


 ……。

 今だっ!

「っ! できそこないがっ!」

 ぐべっ!

「大人しくっ!」

 ぷぎゃっ!

「這いつくばってればっ!」

 あばべっ!

「いいんだよっ!」

 ぎゃふんっ!


 ……身体のあちらこちらを殴られ蹴られ叩かれて、地面に倒れ込んだ。

「ふんっ、出来そこないとナチュラルなんかに負けるかよ」

 くそっ、不覚だ!

 一発も殴れんまま、なちゅらるの友達の仇も取れんままっ、ぼこぼこにされてしまった。

 何とか、顔をあげて、今の台詞を吐いた奴を睨みつける。

「っ! ふ、ふん。おいっ、行くぞ!」

 一瞬だけ、ビビッたようだが、すぐに優越に満ちた見下した目をして、ニヤニヤと笑いやがると仲間を連れて去っていった。

 くそっ!

 ほんとうにクソッたれた奴らだっ!

 だいたい、あの反応といい、力といい、ほんとにあれで六歳か?

 絶対に信じられんっ!

 なんだ、あの反応は!

 なんだ、あの力は!

 確かに、こーでぃねいたーは遺伝子を改変することで肉体や頭脳といった能力を大幅に伸ばすことが出来るということは、現状を把握するための情報収集で知っていたが、現実にその差を見せ付けられると、なんというか、理不尽すぎる!

 こんなふざけた事が、ゆる……いや……まてよ?

 そういえば、こーでぃねいたーは十三ないし十四くらいで成人だったよな?

 ってことは……単純に考えて、こーでぃねいたーの六歳はなちゅらるの十歳前後に相当するんじゃないか?

 だったら、改造六歳児(実質十歳児)と純粋六歳児の喧嘩ってことになるよな。

 ……はっ。

 ははっ、負けて当然じゃねェか!

 は、ははは、そうかそうか。当然だわな。

 はは、ははははは……。

 ……。

 ……だが……な。

 そう、だが……だが、しかしだっ!

 例え、負けて当然だろうが、能力の差があろうが、負けて、はい、もう歯向かいません、なんて殊勝な考えなんぞを持てるわけがない!

 つーか、負けたままでいられるかっ!

 ……この敗北……この屈辱…………生涯、忘れんぞっ!

 必ず……必ず……奴らを、全ての面で、越えてみせるっ!!

 くそっ、くそくそくそくそっ、くっそっったれめぇぇぇっ!!! 

 ……。 

 ……ぐっ。

 ……。

 ……。

 ……ふぅ。


 内心で未だに滾る憤怒と荒れ狂う激情を、何とか、心底に押さえ込み、砂に塗れた身体を起こす。


 ……って、そういえば、パーシィとベティは無事か?

 なんせ、二人は俺と違って本当の意味での六歳児だからな。

 ……。

 ……いかん、本当に伸びてる。

 とりあえず、俺の大切な二人の友人、暢気なパーシィと勝気なベティ、をひどい怪我をしていないか確かめるために介抱する。

 ……くそっ、たかが遊び場一つで、どうしてこんなことになるんだっ!?

 先程、封じ込めた怒りが再び、鎌首をもたげそうになる。

 そして、同時に、大事な友であるパーシィとベティをこんな目に合わせてしまった自身のあまりの不甲斐なさに情けなくなる。

 己の無力さと護れなかった悔しさを耐えるために歯を食いしばりながら、二人の涙に塗れ、口惜しさが表に出た幼い顔を見る。

 せめて、涙に濡れた顔だけでも綺麗にしようとポケットからハンカチを取り出して、二人の顔をそっと拭っていると、自然、彼等と付き合うようになった理由を思い出してくる。


 ……俺の身体は最低限のコーディネイトしか為されていない。


 だから、ほとんど、なちゅらると差がないこーでぃねいたーだ。

 それが理由なのかはわからないが、俺と同世代の他のこーでぃねいたーは俺のことを出来そこないって、言いやがる。俺から言わせれば、そいつ等は図体とオツムばかりが育った、人としての精神が未熟な幼稚な餓鬼としか見えんがな。
 ……それはともかく、このあまりにも人格構築に大きなマイナス影響を与えそうな不健全な人間関係を気にかけた"母"が、なんとか俺に普通の人間関係を構築させようと考えたのだ。その結果が、このこーでぃねいたーの牙城であるプラントで非常に希少ななちゅらるの子ども達との交流だった。
 これは俺の両親はなちゅらるだから、その関係上、こーでぃねいたーよりもなちゅらるの友人や仕事仲間が多いという条件があったから、上手くできたのだ。


 それにしても、いい歳になって、子どもと一緒に遊ぶことになんて……。

 しかも、ほんとに、本気になって一緒に遊んでしまうことになんて……。


 おう、俺の精神は、我が相棒と同じで幼児並みということなのだろうか?

 ……いやいや、ここは身体に精神も引っ張られたのだと信じた方がいいよな?


 とにかく、気を取り直して……気の置けないという表現はまだまだ早いが、二人の大切な友人とこのプラントという社会で過ごしてきたことで気がついたことがある。

 なちゅらるとこーでぃねいたーの負のデス・スパイラルは当然として、こーでぃねいたーという存在の歪さだ。
 人という存在は、成長するにあたり、何事でも失敗経験というものを繰り返していく。仕事であれ、人間関係であれ、運動であれ、とにかく何であれ、幾度も失敗し、幾度も挫折を味わい、それでも再び立ち上がり、もう一度挑戦する。この連続を繰り返しながら、成功へと……まぁ、辿り着くかはわからないが……向かっていく。

 俺は、それが人の成長する過程だと思うのだ。

 まぁ、それでだ、そういった過程を生得的な能力でほとんどすっ飛ばせるこーでぃねいたーという存在が挫折に物凄く弱いモノと考えられないだろうか?
 色々なことで成功してきた所謂勝ち組みって奴が、一度の失敗で大コケした以降は立ち直れずにボロボロになった、なんて話は"前の世界"で生きてきた中でもあったことだしな。
 簡単に言うと、もしも、自分の能力を超える存在や状況が現れた時、こーでぃねいたーのほとんどは心が折られてしまうのではないだろうか?

 曰く、こんなことはありえない。

 曰く、自分達以上の存在はありえない。

 ってな具合に、な。

 ……。

 でも、あんな人の弱みを感じ取れないような奴等のことなんぞ、心配する義理も必要もないか。

 いいや、ほっとこう。


 あっ、パーシィとベティが気がつきそうだな。

 とりあえず、二人を何とか連れて帰るとするか。

 ……ほんと、今日の出来事で二人の今後に影響がなければ良いけど。
10/02/24 サブタイトル表記を少し変更。
10/09/01 サブタイトル表記を変更及び加筆修正。
11/02/14 表記修正。


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