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ザ・特集:「グリーンアクティブ」中沢新一代表に聞く 「緑の意識」で政治刷新

 ◇「自然との共生」ベースに 東北含むネットワーク志向。

 ◇橋下市長は吉本的しゃべくり。それとは違う言説が必要。

 ◇政策賛同者に「シール」貼り、選挙に影響力持ちたい。

 震災から1年、宗教学者の中沢新一さん(61)らが発起人となり、脱原発などを掲げる運動体「グリーンアクティブ」が活動を始めた。今ある政党とも、従来の市民運動とも違うというこの組織、何を目指しているのか。代表の中沢さんに聞いた。【井田純】

 「設立記者会見の後、自分も入りたいとか、私はこういう活動をしているのでつなげてほしい、という話がいっぱいきているんです。結構、期待が大きかったんだなと感じました」。まず設立後の反響を尋ねると、柔らかい口調の中に手ごたえをにじませながら語り始めた。

 中沢さんの他、作家のいとうせいこうさん、社会学者の宮台真司さん、歌手の加藤登紀子さんら多彩な顔ぶれがそろった2月13日の記者会見。脱原発に加えて、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)反対、格差社会への反対などを打ち出した。「グリーン」という言葉の響きから連想される内容よりも、掲げられた目標は多岐にわたっているようだ。

 組織は、新しい日本の枠組みづくりを考える構想部、ツイッターなどの草の根メディアやデモを通じた表現を展開するメディア部、経済再生の道を模索する経済部、日本独自のエコロジー(環境保護)政党としての活動を行う政治部--この四つの活動体から構成されるという。だが、何やら漠然としていてイメージがつかみづらい。

 グリーンアクティブという名称は、オーストラリアの環境保護運動に端を発し、欧州を中心とする各国に広がった「緑の党」を想起させる。事実、中沢さんらは「緑の党のようなもの」という言い方もしている。

 だが、その根底に横たわる「自然観」には、決定的な違いがあると言う。西洋文明が自然を、対峙(たいじ)し克服する対象と捉えてきたのに対し、日本の伝統の中には共生という思想がある。

 「私たちの民族は自然に深く根を下ろし、そこから人間関係を築き、経済活動を行い、社会をつくってきたわけでしょう。ところが従来の自然保護団体、環境政党を支えてきたのは都市部の市民だけが担う『市民運動』だった。今はネットのおかげもあって、それにとどまらない広がりを持ち始めています」

 そこには、東日本大震災からの復興途上にある東北へのまなざしもある。

 「3・11の後、僕らの意識の中で大きくなってきたのが、第1次産業を中心として自然とのつながりがものすごく深い東北という存在だった。日本人がこれからどう生きていくのかという時代に、東北の問題が浮上してきたのは象徴的なこと。だからこそ僕らの運動は、東北で農業・漁業・林業などに従事してきた人たちも含むネットワークを志向したいんです」

 東京大学入学の時点では理系だった中沢さん。東京電力福島第1原発事故をきっかけに、原子核物理学や原子力工学についての本を読みあさった。そして今、「核分裂の連鎖反応による原子力と、絶え間ない経済成長を必要とするグローバル資本主義システムは、兄弟のように似ている」と喝破する。

 「ある限界を超えると暴走する、という点もそうです。リーマン・ショックのような金融破綻と炉心溶融のような事態。いまだに止めようにも止めようがないでしょう」

 思索の軌跡は、震災後に記した「日本の大転換」(集英社新書)にも詳しい。原発に依存しない社会をつくることと、節度のない自由主義経済への抵抗。この二つは「新たな日本の土台の補強」という点でつながるというのがグリーンアクティブのビジョンのようだ。

 ところで、環境政党といえば、参院議員だった俳優の中村敦夫さんを代表として02年に発足した「みどりの会議」が記憶に新しい。

 「みどりの会議」は、中村さんが落選後に解散。その後継組織ともいえる「みどりの未来」は、地方議会議員を擁して活動を続けているが、会員数はこの1年で約2割増えたという。来年行われる参院選に候補者を立て、国政進出を図る方針を表明している。脱原発運動の全国的な広がりに加え、今の政治に対する不満が、こうした「みどり」系政治勢力の追い風になっていることは間違いない。

 国民の多くが、与野党を含む既存政党に感じているもどかしさ。その閉塞(へいそく)感の背景を中沢さんはこう分析する。「官僚や大企業の要求に対抗する政治の力が落ちちゃったんじゃないか。他方で、いわゆる左翼政党の対応は、まるで歌舞伎のように、ある場面が出てくると決まった所作をしてという伝統芸能みたいになっている」。そして、ふふふと笑いながら「デモだって、一種の芸能ですから」と付け加えた。アクロバティックな論を好む中沢さんらしい言い方だ。

 そんな構造にうんざりした国民が求めているのは、新たな政治の言説だという。「だから、橋下(徹・大阪市長)さんたちのグループが出てくるとすごく清新にみえる」

 橋下市長のようなスタイルを「吉本のようなしゃべくり芸」にたとえ、「それとは違う政治表現の刷新をやりたいということを、いとうせいこう君なんかとよく話しています」。

 そのグリーンアクティブが、具体的な政治力のツールとして考えているのが「グリーンシール」である。脱原発、TPP反対などの政策に賛同する候補者には、与野党、保革の別を問わず、いわばお墨付きとして「グリーンシール」を貼る。「今の制度のもとでは、僕たちみたいにお金もない弱体組織は選挙には参画できない。けれども、こうした形で政治にある種の影響力を持つことはできると思う。要は、僕らの言う『緑の意識』を持っている人には貼っていこう、そうでない人は落としましょうと」

 このアイデアに関連して、すでに複数の政治家サイドからの接触があった、と中沢さんは明かす。「秘書などのレベルで何人か来てるんですよ。このままいくと、自民党も民主党も押し流されていく。みんなの党とか維新の会などの第三の受け皿に対抗するものをどう形成していけばいいかと考えあぐねている政治家はたくさんいて、僕らの運動がどの程度の力量を持ちうるかということを測っているんじゃないですか」

 さまざまな勢力を仲介する「のり」になりたい、というグリーンアクティブ。「緑の意識」が、不透明な未来を変えていくきっかけとなるか。

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 「ザ・特集」は毎週木曜掲載です。ご意見、ご感想は t.yukan@mainichi.co.jp ファクス03・3212・0279 まで

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 ■人物略歴

 ◇なかざわ・しんいち

 明治大学野生の科学研究所所長。1950年、山梨県生まれ。83年に出版した「チベットのモーツァルト」で脚光を浴びる。「森のバロック」「アースダイバー」など著書多数。

毎日新聞 2012年3月15日 東京朝刊

 
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