「分水嶺となる阿武隈山系から、F1(福島第1原発)を洗い流すように太平洋に地下水が流れている」
事故以来、福島第1原発の遮蔽対応に当たっていた馬淵澄夫原発事故担当首相補佐官(当時)は、2月21日の自由報道協会の会見で、驚きの事実を次々に明かした。
「使用済み燃料プールのある4号機は雨ざらしになっており、天井がドスンと落ちる形で爆発し、当時からそのまま海洋に汚染水が流れ出している状態だ」
建設会社に勤めていた馬淵議員は、事故後の4号機の中に入った唯一の国会議員で、現在の政府の事故対応を批判している数少ない当事者の1人。だが、馬淵氏の重要な発言が、マスコミで報じられることはめったにない。まるで「馬淵証言」が存在していないような報道ぶりだ。
馬淵氏の言う通りであるならば、当然に福島や周辺の海は放射能で汚染されており、そこにすむ海洋生物も危機にさらされているということになる。
海はつながり、水は流れ、魚は移動する。だが、日本政府とマスコミはこの自明の念を忘れたかのような対応を続けている。
例えば、昨年4月、国際環境NGOのグリーンピースは海産物の放射能調査を日本政府に打診した。結果は、世界で2例目となる「拒否」であった。その状態はいまなお続いている。
当時、そのグリーンピースとともに東日本の各漁港を取材していた私は、わかめや昆布などの海藻や魚介類の中に、高いレベルの放射能汚染個体のあることを知り、さっそく自身の「メルマガ」や「週刊文春」でリポートした。
その直後、猛烈な批判の声が寄せられる。ツイッターなどでも「魚が危ないというデマを流すな」「寿司屋の敵は死ね!」と罵(ののし)られる日々が続いた。
そうした声の中で励ましの声をくれたのは、何と、当の福島の人たちだった。
「上杉さん、ありがとう。それこそ俺たちが一番知りたかったことだよ」(いわき漁港の漁師=現在も休漁中)
「海が好きだから、本当のことを知りたかった。ありがとう」(同県いわき市のサーファー)
いまなお、東京電力福島第1原発からは、海洋への放射能汚染が続いている。米国海洋調査会社ASRによれば、その汚染は東北太平洋岸を北上し、すでに北海道南東岸にまで達している。
北海道のタラとサバの缶詰めから、放射能汚染が見つかったのは昨年夏のことである。
しかし、政府もマスコミも、その事実を黙殺したままである。
■上杉隆(うえすぎ・たかし) メディアカンパニー「NO BORDER」代表、元ジャーナリスト。1968年、福岡県生まれ。テレビ局、衆院議員秘書、米紙東京支局記者などを経て、フリージャーナリストに。政治やメディア、震災・原発事故、ゴルフなどをテーマに活躍した。著書に「官邸崩壊」(新潮社)、共著に「報道災害【原発編】事実を伝えないメディアの大罪」(幻冬舎新書)など。社団法人自由報道協会代表。