いかに好調だとはいえ、そこまで計算を立てているわけではなかろうが、把瑠都の3日目の相手に見舞った攻撃が、2日目とは真裏の攻撃だった。一瞬の勝負だから、攻めの方向がどうのこうのといったことは、大した問題にはならないのかもしれない。だが、2日目に嘉風に出した攻撃と真裏の突きの攻撃が出てくるというのは、かなりやりにくい状況ではあるまいか。こうしたことは、たくらんでやることではなく、自然なものである方が効果的に思えるが、どんなもんだろう。
しかも、相手をつりに出る把瑠都、突っ張りに出てくる把瑠都、この二種の攻めは、先場所の14勝の優勝を実現させた原動力だったのである。
昨日に書いた通り、つりを出す把瑠都の攻撃は、一級品である。それだけに、突っ張りに出る攻めも、防ぐ側からすれば、かなりやりにくいものなのだと想像できる。今場所は開幕直後に、この二様の武器を披露してしまったようなものなのだが、この二様をどう使い分けていくのか、考えてみれば、ぜいたくな悩みが把瑠都を待っているのかもしれない。
高安が幕内で、目立たないが堅実な星を挙げつつある。大勝ちを挙げてみせるタイプではないが、その分、崩れも少ない。こうした力士をひそかに見守るのも、大相撲を注視する楽しみのひとつである。
初日から2日目までの稀勢の里を見たところでは、一体これはどんなひどい結果になっていくのかと気をもまされたが、どうやら持ち直したようだ。まだ3日目が終わったばかりで、挽回にかける時間はたっぷりあるのだから、場所はまだ始まったばかりだと、自分に言い聞かせてほしい。
嘉風戦は対戦成績6戦にして1敗という有利な実績の取組で、あの負けが込んでくるときの硬い表情はどこへやら、顔にも安気な表情が浮かんでいた。勝負は大関が突いて出る攻めの形もあり、初日から2日間の突き詰めたものから抜け出したように思えた。場所ごとに飛躍を期待する声がかかることも、ありがたく思わなければなるまい。 (作家)
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