東京電力福島第1原発事故で漁の自粛が続く福島県沖で、大規模な風力発電所の建設計画が進んでいる。県の要請で政府が発案し、洋上に100基規模の風車を浮かべる構想だが、周辺海域での漁業が制限される可能性があり、県漁業協同組合連合会(県漁連)は「漁の再開を諦めろということか」と反発。「脱原発」を掲げる福島の復興が新たな課題に直面している。
福島県沖では魚から暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されているが、検出値が下がり始めた魚種もある。県の検査を基に県漁連が試験操業を模索している中、計画は突然持ち上がった。
政府は福島県を「再生可能エネルギーの先駆けの地」と位置づけ、11年度第3次補正予算で約125億円の調査費を計上。世界最大となる100万キロワット(原発1基分)を目標に、風車を沖合に浮かべる「浮体式」を採用し、11~15年度に3基(総出力1万6000キロワット)で実験する。6日には東京大学と丸紅など民間企業10社による産学連合に事業を委託した。場所は水深100~150メートル、岸から20~40キロの海域で、いわき市沖が最有力という。
だが、周辺は「常磐もの」と呼ばれるブランド魚が取れる好漁場で知られ、いわき市漁協の江川章・副組合長(65)は「漁場が壊され生活できなくなる。死活問題だ」と危機感を募らせる。政府は「漁業者の妨げになるのは確か」と認める一方、補償は民間業者などによる事業化後の問題とする。丸紅は「安全に漁ができるルール作りを考えたい」と話す。
県漁連によると、民間業者が天然ガス採取のため、構造物(海面からの高さ約90メートル)と海底パイプライン(長さ約40キロ)を福島県沖に敷設した際、補償額は10億円規模だった。今回の発電機は高さ200メートル程度になるとみられ、海底ケーブルも設置される。県漁連の新妻芳弘専務理事は「メーンの底引き網漁ができなくなる恐れがある。浮体式発電機の安全性も不明で、簡単には協力できない」と話している。【清水勝、樋口岳大】
毎日新聞 2012年3月14日 11時09分(最終更新 3月14日 11時23分)