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三階層【王者の凱旋】
三階層【王者の凱旋】Ⅱ

 肆拾玖/

 宿屋に帰り、先に戻っていた内藤と合流する。
 執務室兼客室兼会議室兼遊技場及び倉庫としている少し広い部屋。そこにあるソファーに座っていた内藤はぽかんと、俺と俺の隣に立つ男を見上げていた。

「このメガネ。新しいメンバーだから」
「……って、え? この人って、あの……」

 ありゃ、情報収集のときに面識でもあったかな。困惑した表情の内藤にかまわず、山県は自己紹介を始めていた。

「山県義純だよ。よろしくお願いするよ。えっと……」
「そこの白髪娘は内藤だ」
「白髪じゃないです! プラチナブロンドですってば、ちょっと金入ってるじゃないですかッ」

 きらきらと目にまぶしい、自称プラチナブロンドの髪を指差す内藤を無視し。

「いちいちうるさいが理のないことは言わないやつだ。構ってやると懐くから仲良くしてやれ」
「な、なッ?! もうッ!!」
「あ、――はッ、ははははは。楽しいところだね。内藤さん、よろしくお願いするよ。改めて、山県義純です」
「あ、はい。な、内藤、美咲です。でも、山県さんって」
「お察しの通り、元≪カラミティ・ブルータス≫だね」

 困惑した表情の内藤が俺を見てくる。なんだ、言いたいことはわかる。

「やっぱり……あの、タカぼんさん」
「話は通してある。カラミティはな、出るも入るも自由みたいだからな」
「……そう、なんですか?」
「そうなんだ。そもそも元々がいくつかのクランやチームの連合だからね。僕も純粋に≪カラミティ・ブルータス≫の一員だったというわけではなかったし」
「死人が多すぎたんだ。今残ってるのは……確か、リーダー、使える剣士、使えない剣士の三人だったか。総資産は8000クレジット。パラ1UPが3つ。武器は剣が3つに、ボウガンはなし、残りの初期武具は売却済み、防具は破損しながらもそれを使用中。……こんなもんか?」

 絶句した表情の山県。それと、信じられない表情をしている内藤。

「な、な、なんでそんな詳しくッ。武器だけならともかくクレジットにアイテムのことまでッ!!」

 山県メガネが詰め寄ってくるのを手で押さえる。

「いや、割と当たってるもんだな。≪法の剣≫の情報収集能力も馬鹿にならんもんだ。うちも気をつけないとな。はっはっは」
「ほ、法の剣……。……ッ!! ああッ、あああッッ!! やっぱり、全部見られてッ!!」

 声を上げる山県を冷たい視線で見てやる。内心は別に軽蔑も呆れもしていないが、それだけで奴も頭が冷えるだろう。

「馬鹿が。お前らみたいな迂闊な連中が対人暴力専門の集団から本気で逃れられてるとでも思ってたのか?」
「く、ぅ、ぅ、理解はしていたはずでも、事実を突きつけられるのはきつい、ね」
「タカぼんさん、そ、そんなに責めなくても」
「責めちゃいないよ。しかし、引き抜いた後で聞くのもなんだが、どうしてあそこに残ってたんだ? 正直、あの二人以外は生き残れないはずなんだが……」
「まるで予定調和のように言うね。タカぼんさんは……。
 うん、全てを見通してる貴方の言うとおりだよ、タカぼんさん。それでも、≪法の剣≫から逃げ出した人間が、この街でたった一人で生きてけると思うのかい?」
「思わないな。そのように≪法の剣≫は動いている」
「うん、施設も使えず仕事もない。だから僕達は塔に挑み続けた。死ぬとわかっていてもそれしか道がなかったんだ。正直、自殺にも似ていたかもしれない」

 その指示には俺も関わっていたはずだった。しかし、心は動かない。

「終わったことだがな。よし、まずは契約を交わそうか。お前もその方が安心だろ?」
「貴方は……」

 納得できない表情で見てくる男は、目を閉じ、深呼吸をしてから頷いた。

「……うん。よろしくお願いするよ」

 そうして、俺は呆然とこちらを見ている少女に振り向く。

「内藤、悪いが食堂で飲み物を貰ってきてくれ。山県、何飲みたい?」


 伍拾/

「天才とは彼のような人間のことを言うんだろうね」
「はい?」

 山県義純さん。高身長で高学歴、高収入の商社マンだったという人は、対面に座り、メガネをクイ、と上げると。

「日本にいたころは当たり前すぎて忘れていたけど。衣食住、それとこれは塔外部に限るけど、安全。この状況下でそれを不完全とはいえ提供できるのはなかなか、いや、まったくいないよ」
「はぁ……?」
「≪法の剣≫は食に関しては不自由しているんだっけ?
 あとは、君に対しては、していないようだけど。そうだね、彼の気持ちもわかるかな? "内藤"、だっけ?」
「あなたはッ……」

 薄らと笑みを浮かべた山県さんの眼鏡が怪しく光っている。いや、あれはただ電灯の光を反射しただけに違いない。
 それでも、私には不気味に見えてしまう。自然と拳を握りかけるも、山県さんが牽制するように言葉を放っていた。

「そう警戒しなくてもいい。僕は君の事を知っているけど、興味は欠片もないよ。ただ、タカぼんさんの立場で考えれば偽名を名乗ってる人間とは契約したくはない、と考えられるだけでね」
「な、んで……。それ、を」
「わかるよ。君、有名だからね。【銀稜台の天使】だったかい? くくく、学生とはいえ偉く面白い通り名だね。それに、言い忘れてたけど、僕は南雲証券の社員だからさ」
「ッ……」

 南雲財閥の傘下企業の中でも大きいものだ。しかも、そこには父の仕事の手伝いで入社式に一度だけ顔を出した覚えがある。それが、この男の時だったとすれば……。
 しかし、目の前の男はその事実を持って脅すことも問い質すこともしない。
 ただ手の中にある紙を楽しそうに、うれしそうに眺めている。まるで日常の欠片をそこに見出したかのように。よく見れば、小さく目元に涙が滲んですらいるようだった。
 それは、"雇用契約書"だ。連理貴久が山県義純と交わした条項がそれには書かれている。

「本当に、すばらしい。こんなこと、普通の人間なら当然に考える事がここでは考えられていなかった。≪カラミティ・ブルータス≫のリーダーを知っているかい? 君と同じ学生の少女だ。
 そう、彼女が考えられないのならば僕達が考えなくてはならなかったのに。未だ考えるべきではないと言い訳をしていた。その結果が彼女と僕達のなぁなぁの関係。戦闘時に連携は取れていても日常での不協和が結局は一方的な関係を生み、彼女のために人間が死んでいく歪な構造を生み出した。
 だからこそ、連理さんは、タカぼんさんはすごい」
「タカぼん、さん? あの、本気で?」

 渾名にさん付けなんて歪なもの。私や≪法の剣≫の幹部たちのように既に逆らえないと思っている人間だけだと思っていたのに。
 すんなりと、山県さんはそれをしていた。

「ん、ああ、入るって決めてから自然と敬語で話してしまう、んだよね。年下で、まだ学生らしいのに……。なんだか敵わないな」
「でも、その契約が守られるとは……」

 そう、ただの紙なのだ。山県さんには悪いが、なんの力もない。タカぼんさんに契約書を守らせる力を山県さんは持っていないのだ。

「守られるよ。というより、タカぼんさんがこの紙を使う限り、守らざるを得ない」

 何故? 断言した山県さんは契約書の隅にあるものを私に示す。

「こんなものまで用意してみせるんだよ≪法の剣≫は。≪カラミティ・ブルータス≫が取り残された理由がわかるね」

 それは、≪法の剣≫がこの契約を執り行わせることを保証する記述だった。
 よくよく見れば紙自体にも仕掛けがなされている。透かしてみると、≪法の剣≫のエンブレムが浮かび上がるのだ。
 いつの間にこんなものを用意していたのか、呆然とそれを見てしまう。

「さっきもちらっと言ったと思うけど、≪カラミティ・ブルータス≫は昼間は施設のほとんどに立ち入れないんだよ。≪法の剣≫の武力によって」

 それが意味することをそれを想像する。都市の法を≪法の剣≫が自ら作り、守らせることの意味を。

「そして、軍施設に至っては昼だろうが夜だろうが立ち入ることすら許されない。例外はあの塔だけ。それの意味するところを君は理解できるかい。"内藤"さん?」

 彼らは塔に入るしかなかった。そういう状況に≪法の剣≫は追い込むことができた。
 考える。考える。考える。そして、山県さんは構わず語り続けている。

「しかし、驚くべきはタカぼんさんだ。彼は、そんな巨大に強大に成長した≪法の剣≫と対等に、同等に行動している。今日も驚いたよ。この僕が、白昼から堂々と街を歩けたんだから。タカぼんさんが隣にいるというだけで」

 その様は簡単に想像できた。おっかなびっくり歩く彼を堂々と連れまわす様など、いつかの私に彼を重ねてしまうだけでいい。
 そのタカぼんさんは≪法の剣≫に山県さんが正式に加入したことを伝えに行っていた。これでブラックリスト化を解き、≪法の剣≫によって、立ち入りを規制されていた施設を利用可能にするのだとか。
 私が思っていたよりも≪法の剣≫はこの街を熟知しているようだった。それに、それを占有するための手法までも。

「それにしても、一体どうやってここまで影響力をタカぼんさんは持ったのか。それにそれを維持することも」

 それは――

「情報を、塔に関する情報を売りつけてるんだと思います」

 たぶん、それ以外にも何らかの取引があるはずだけど、それはわからなかった。考えてみるとタカぼんさんについて、私は何も知らない。相手が自分を知る以上に、私は何も知らないのだ。

「それは例えば?」
「敵の情報。売却できるもの。武器、戦術、敵の拠点の種類、施設の利用方法に、あとは、ID」
「ID?」

 タカぼんさんから仲間になることを直接聞いているなら話しても構わないだろう。
 端末を取り出して武器屋のカタログを表示する。そして二階ボス、≪雌雄の区別のない巨大鳥≫から手に入れたIDで開放された情報を見せた。
 状態異常武器、状態異常耐性防具。その、今後の探索は必須になるだろうカタログを。
 山県さんは最初それを珍しそうな顔で見ていた。けど、次第に顔色が変わっていく。
 焦りにも似た怒りの表情。
 それは、私がIDについて知ったときのものと一緒だった。

「ば、馬鹿なッ?! な、なんでこんなッ!! こんな落とし穴がッ!! 属性?! 状態?! ……機械人はッ、僕達をなんだとッ!! いや、そうか、だからタカぼんさんは……」

 山県さんの言葉に疑問を覚えながらも、入手の仕方すら悪意に満ちていたものだったのだと話していく。例えば、二階層のボスについては、やはり弱点属性を突かずに倒さなければ、炎上するか凍結するかしてIDの保管されていたメモリーが破壊されたであろうことを。もちろん電撃や暗黒など使ってはいけない。確実になんの属性もついていない武器で殺害しなければならなかったのだ。
 ……時々、思う。どうしてあの人は、あんな土壇場でそれを達成できたのか。ほとんど全ての武器を使うなといわれているときに、どうしてあんなことを可能にしたのか。
 私は、とんでもない人物の下にいるのではないかと――
 私の説明を聞いていた山県さんがため息をつきながら小さくつぶやいた。呆然としているから、私に向けていった言葉ではないと思うけれど。

「これでは、僕は、僕達は、ただ遊び場を与えられて喜んでいただけの子供じゃないか。何も考えずに、確かに、この組織が何故≪法の剣≫と同盟を組めているのは疑問だったけど。この、圧倒的なまでの大差はッ……。リーダーの差だけじゃなくて、そもそもが次元の違う――」

 そう。こんな、まるで答えをはじめから知ってるように動く人間が存在すること自体が――
 考えてはいけないことを考えかけ、思考に蓋をする。それは、その考えだけはいけない気がした。
 それに、そもそもがどうして私だったのだろうか。
 どうして、神崎君や、武満法行や、山県義純ではなく、どうして、南雲・アーリアライト・美咲をあの人は選んだのか。私以外ならば、上に行く手段などいくらでももっと効率よく得られたのではないだろうか。
 いえ、そもそもがあの人に他の人間など必要はない。私がいなくてもあの人はそれだけのことができていた。むしろ私がいることで行動が遅くなっているという現実もある。私を納得させること。納得させなくてはいけないということ、あの人が拘っているそれがなければ、他人にどう思われるかは別としても、もっともっとたくさんのことをあの人はできたはずだった。
 そして、その想像が正しくなくとも実行されていれば、

 ――連理貴久、忌々しい敵。勇者様の最大の……"敵"……

 きっと、この都市に君臨していたのは、武満法行ではなくあの人だったのではないかと、そう思うのだ。


 伍拾壱/

「何だ何だ、揃って仏頂面並べやがって」

 手に紙袋を持ち、その中に入っている何かを食べながら入ってきたのはタカぼんさんだった。彼はもはや彼の付属品と化している二号と三号を伴い、室内へと入ってくる。
 相も変わらず外見の変わらない肉の人形。武装で隠れているとはいえ、よくよく見れば不恰好な口に似た口と同じ機能を持つものがついているが、二階層を踏破した際の報奨金で購入したとされるそれから言葉が出てくることはない。あれは単純にパラメーターアップアイテムを食べさせるための口だからだ。
 言葉を話させるには、言語を放つためのプログラムが必要だった。

「山県のブラックリストを解除してきたやったぞっと。で、喜べ。支給品をくれてやろう」
「支給品、ですか?」

 支給品?
 ……今、この人は何を言ったのだろうか?
 二日目に()ってきたあれのことだろうか。考えるも、既にいくつかアイテムを使っていたはずだと思い直す。
 そんなことを考える私には目もくれず、タカぼんさんは二号に持たせていた箱を私たちの前にある広いテーブルの上に置かせていた。
 見れば山県さんも疑問を隠しきれていない様子だ。ポーションひとつすら高価すぎてまともに買えないこの都市で、武具、薬品、探索道具などのアイテムを他人に支給できるということの意味を、クレジットを稼ぐことすらできなかった彼は、きっと私より知っているに違いないのだから。

「そう、支給品。支給品だよ。揃えたんだよわざわざ。
 まず、ID入力済みの端末だろ。次に武器。剣と銃だが、武器に好みがあるなら言ってくれ。それと防具に、もともとの支給品とは別に探索用の道具。こいつは、戦闘に不慣れな山県には必要ないとは思うがな。
 後は、ほら、これ」

 ごとり、と置かれた透明なケース。
 それを見た山県さんの表情が変わる。……私も、ここまでタカぼんさんがするとは思わなかった。
 今日知り合ったばかりの彼にここまで?
 透明なケースを見る。
 それに入っているものは、果物のように見えるドーピングアイテムの詰め合わせだ。
 
「パラメーターアップアイテムッ?! た、タカぼんさん?!」
「……い、いやいや、タカぼんさん。しょ、正気かいッ?! 自分で言うのもなんだけど、どうして新参にここまでできるッ?!」

 言われたタカぼんさんはきょとんとした顔でそれを見る。別に不思議でもなんでもないみたいな顔をしながら。
 気付く、本当に惜しくないのだ。この人からしてみれば。

「出し渋るものでもないだろ。第一、これ1UPアイテムだぞ。+10は流石に多くは用意できなかったからな。すまんな」
「と、とんでもないッ。お願いして入れてもらった僕にここまでしてくださってありがとうございますッ!!」
「それと、希望があれば+10もひとつだけ用意しよう。上げたいパラメーターの希望もあれば言ってくれ。1UPを一日二個ずつ支給する予定だからな」

 あまりの待遇に絶句する山県さん。私も眩暈を感じるくらいだった。
 そう、タカぼんさんは、連理貴久は別にこの闘争の主催者というわけではない。アイテムを生産しているわけでも、大量に購入できるだけの資金を有しているわけでもない。
 タカぼんさんも集められた被害者側であるはずだったのに。たったの六日でここまで他と差をつけている。他の参加者を雇い、彼らの衣食住を保証し、給料を渡し、武器を持たせ、指示をする側に回っている。
 気付く。先ほどの書類を思い出す。
 ああ、山県義純と連理貴久は協力関係なのではない。
 雇用関係なのだった。
 山県さんがタカぼんさんに敬語を使うのもなんとなくわかってきた。彼は、連理貴久に解雇されることを恐れている。彼の機嫌を損なうことを酷く恐れている。≪法の剣≫に反逆していた彼が、従っている。
 形容のできない、凄まじい力を持つタカぼんさんには普段の行いから好感を持つと同時に、今回のことで、胸の奥から奇妙な怖気が溢れてくる。
 これは、いつものそれではなく、私が父に感じたものと同じものだった。
 圧倒的な、支配を常とする者を見るときに感じる感情。
 ああ、でも――

 保護すると称し、搾取する側に回っている≪法の剣≫。彼らはこの都市に暴力を持って法律を作り、タカぼんさんは彼らを利用しながら財を作った。そして、彼ら≪法の剣≫と覇王の塔に追い詰められた参加者を、参加者本人から頼まれる形で雇用するに至っている。

 気付く。
 まるで、≪法の剣≫とタカぼんさんは連携でもしているかのように……。いや、事実連携しているのだ。
 恋心や憎悪ではもはや誤魔化せない事実に気付き、私は愕然とする。
 怖気の正体はこれだったのだ。
 そもそもが、タカぼんさんは≪法の剣≫を嫌っていた筈では? いや、違う、当初は信頼できないから別に行動を取れるようにしようと言っていたはずだ。それが≪法の剣≫の作り出した書類を使うようになり、彼らから情報を代価にパラメーターアップアイテムを大量に手に入れている。
 この人は、何を考えているのか?
 ≪法の剣≫の思うとおりに動いているわけではない。タカぼんさんは、自由に動いているはずだった。いや、そもそもがどうして私たちが≪法の剣≫に攻撃目標にされていないのかも疑問なのだ。
 タカぼんさんがやり手というだけでは誤魔化せない事実。≪法の剣≫が本気で動けば、タカぼんさんと同じ成果を得られた? それはない。IDについては確実にタカぼんさんでなければ手に入らなかった。あんな罠に気付ける人間はそういない。しかし、直面して初めて得られるその評価を≪法の剣≫が最初から持つことができただろうか?
 そう、そうなると同盟関係というのはただの表向きで、実は私たちは≪法の剣≫の目的のために動かされているのではないのかとすら――

「あの、タカぼんさん」

 疑念が口を動かしていた。彼は相変わらずの見透かしたような目で私を見る。彼から何かを聞きだそうとすると、そんな感覚に囚われる事があるのだ。彼に心を読む力があるわけでもないのに。

「なんだ? なにか疑問でもあるのか? どうして俺が支給する側に回っているのか、なんて」
「それもありますが。その……、私たちは≪法の剣≫とは別の組織、……チームですよね?」

 きょとん、とした目をするタカぼんさん。山県さんも、いや、山県さんは私を不思議そうに見ていた。どうしてそんなことを急に言い出すのかという目だった。
 タカぼんさんは少しだけ考え込む仕草を見せると、納得したように頷いた。

「ああ、なるほどな。山県との契約書を見たのか。うん、なるほどなるほど。確かに≪法の剣≫と連携しているように内藤にも見えるんだろうな」

 それは、連携していないという意味だろうか。
 言外の否定を期待してみるものの、私の期待にやはり気付いてたタカぼんさんは、ここではっきりとそれを口にした。

「悪いが、連携はしている。それが今は最も効率が良いし、そうしないといけない理由があるからな」
「……ッ。なんで、」
「黙っていたか、か?」

 先に言われるも頷くことで先を促せば、反省の色も見せない表情で彼はそれを口にした。

「言ったら、納得したか? 話そうが、話すまいが俺はやったぞ?」
「それでもッ。一緒に行動しているなら話すべきだったと思いますッ。私たちは仲間じゃなかったんですかッ!!」

 私の怒声にきょとん、とした表情のタカぼんさんはくっく、と嗤っている。

「くく、悪い。今のはからかっただけだよ。それに、きちんと話してたぜ。内藤が気付いていなかっただけで、な。……しかし、十分以上に遅すぎる、か」
「……?」

 話して、た? そう、だ。確かに同盟を結んでいて連携を結んでいなかったわけがないのに、それに、タカぼんさんは交渉でアイテムを入手していることも私には隠していなかった。それ、なのに、私は……。

 ――……連理、貴久。気付いているの? やっぱり、あなどれない男。

 思考が、まとまらない。タカぼんさんが今、一瞬、冷たい目で私を見ていたようだったけど。気のせいなのか、すぐに明るい顔で私の頭を撫でてくれる。

「心配するな。≪法の剣≫と俺の組織は同じ目的を持ってるだけで、きちんと独立したそれぞれ別の組織だよ。ないと思うが、対立も可能だぞ。
 ……対立。対立、ねぇ。それも面白そうだが……」
「ちょ、ちょっと待つんだタカぼんさん。僕は反対だよ、≪法の剣≫と敵対するのは」
「あはは。山県、そう反応するな。冗談だよ冗談。なぁ、内藤。俺と≪法の剣≫は今までずっと親密だったよな?」

 頭を撫でられていることで疑念に支配されていた思考が戻ってくる。そうして私は思い出したようにやっといえるのだ。

「あッ、はい。そう、ですね」

 と。


 伍拾弐/

「さて、話がずれたが、支給品に戻るぞ。内藤、お前にもこれは支給しとくから、平日は着とけよ。休日は着なくてもいいが」

 机の上に出されたのは、見たことのないエンブレムの入った服一式だった。山県さんの支給品の中に入っていたものと同じ服のようで、これも二号が抱えてきたもののようだった。複数枚、いや、それ以上にあるようで十数枚ぐらいはありそうである。

「昨日、≪法の剣≫とも話し合ったんだが。
 明日から新しい連中が入ってくるようだし、お互いの所属をはっきりさせるべきだという意見が出てな。俺も同意して、それの手段として、様式を用意することになった」
「それで、制服、というわけかい? 短時間によく作ったね。
 ああ、書類を書いた後に採寸したのはこのためかな?」

 山県さんが自分の支給品の中に入っていた服を取り出し、サイズを見ている。
 制服の山に目を向ければ確かに、いろいろサイズがあるようだった。
 自分に合うサイズを探し、手にとって見る。

「用意できたのはインナーとシャツ、後は上衣だとか下衣だとかいろいろ、ああ、靴もあるし、ネクタイに、とりあえず一式作ったから。ほれ、帽子もあるぞ。
 あとこれだな。制服は戦闘にまだ適さないから塔の中じゃ着れないが、これは身につけておくように。ほれ、内藤も」
「……バッジ、ですか?」
「うちのな。≪法の剣≫も自分とこのを持ってる。こいつが重要なのは、暗号化した信号を放つ発信機が仕込んであることだ。
 その信号を受信して、俺たちと≪法の剣≫の使っているレーダーに所属が表示されるようになってる。敵に見つかる可能性も増えるが、そういった隠密行動の際はバッジの電源切ればいいし、とにかく同士討ちを防ぐための措置のひとつだ。誤解が発生してもこれを見せるだけで戦闘は収まるようになる」
「すごいな。しかし、これだけのアイテムをどうやって用意したんだい?」
「そればっか聞きたがるなぁ、メガネは」
「め、メガネって」

 くく、と笑うタカぼんさんに困った顔をした山県さん。既に上下関係の作られてしまった二人。それでも山県さんは悪くなさそうな顔をしている。
 暴言の許される人、か。
 好意と嫌悪の天秤。確かに私も好意に大分傾いているのは自覚しているけれど。

「紡績工場だのなんだのと≪法の剣≫が俺たちにも使える施設を発見してな。試作品を作るってことでねじ込んできた。実質タダだな」

 話の合間に机の上に置いた袋から何かを取り出して食べていたタカぼんさんは、三号が差し出したジャケットの包装を破くと、その中のそれを羽織った。
 そうしてくるっと回ってみせる。その際に、ジャケットの背中に大きく刺繍されたものに目が移った。
 さっき渡されたバッジにもあったエンブレム。龍の頭に振り下ろされるメイスの図。

「それじゃあ、私たちの組織名も決まったんですか?」
「ん……、ああ、せっつかれてたし。お前も意見出さなかったしな。適当なのねじ込んどいた」

 どうでもよさそうに言われるものの。うッ、と気まずくなって顔を逸らしてしまった。
 いえ、ちゃんと考えてたんですよ。考えてたんですけどね。

(趣味がばれるみたいで、は、恥ずかしかったし)

 有名なRPGの主人公チームの名前とか、そういうのばっかり浮かんだのだ。はぁ、いえ、きっとタカぼんさんは気にしないんだろうけど。

「それで、どんな名前なんだい?」

 ぼけっとしてる間に山県さんが聞いちゃってるし。

「≪支配の杖≫。意味は悪心を打倒する知恵の杖って意味だな。ま、こっちでも元の世界でのモラルを忘れないようにがんばっていきましょー的な組織にしようってことで」

 言われてエンブレムを見る。確か西洋だと龍はそういった悪いものの象徴として描かれることが多かったらしいけど。
 杖は……。いや、考えすぎか。

「の、割には余りにも東洋的な竜ですよね。エンブレムの」
「ん、ああ、デザイン頼んだのが元暴走族の兄ちゃんでな。竜っていったらこれっしょ、ってやられてな。俺もこだわりなかったし、いいかなって」
「なんでもいいけど。それで、コレを貰えるのかい?」
「ああ。あ、そうだ。山県、当分お前内勤な。とりあえずでいいが、何かやりたい仕事あるか? 内勤で、だが」
「何、っていうと?」
「交渉、人事、経理は当分俺がやるから。そうだな、情報収集とスカウトだな。ああ、内藤、明日はお前も街でスカウトを頼む。俺もちょっと仕事あるしな」
「わかりました。けど、仕事ですか?」
「そ、仕事。≪法の剣≫の連中に稽古つけてやんの。ほぼ全部用意させたからな。代価って奴だ」

 そういってポリポリとお菓子らしきものを食べるタカぼんさんが示したのは山県さんの支給品だった。もちろんそれにはパラメーターUPアイテムも含まれている。
 ……用意、させた?

「それに明日は新しく人間が入ってくるからな。多少は血の臭いが必要だ。だいたいの囲い込みは≪法の剣≫が行う。それから漏れた連中を狙え。多少はクズ石が混じっても構わんが、優秀な奴を狙えよ」
「その時点で協調性がなさそうだけどね」
「山県。どうして俺がここを会社みたいな形式にしたと思ってる? 雑多な衣服より統一された制服。ないルールよりあるルール。お前の持ってる契約書もその一環だ。いいか、まずは型に嵌めろ。嵌らない奴は俺が追い出す」
「それで、かい。≪法の剣≫が今まで動かなかったのは」

 ……え、?
 山県さんの言葉に疑問を覚える間もなく、タカぼんさんはうれしそうに手を叩いた。

「そうだ。よく気づいたな。そう、≪法の剣≫が今まで動かなかった理由はそれだよ。パラメーターを安全域にまであげたいなんて思惑もあったがな。一番はそっちだ。
 次が来るまでに組織を磐石にする。契約書しかり、制服しかり。俺はその結果だけ貰ってきたわけだ」

 初耳だった。いや、あのときはとりあえずの同盟だけが正式に決まっていて、段々とその骨子を練っていった?
 その変異を私が見逃していた、だけ?
 確かに、安全をとるためとはいえ、一週間も塔に行かないのはおかしいとは思ったけど。余りにも私たちに都合が良いとは考えられたけど。
 裏が、あったんだ。
 思えばタカぼんさんの行動には裏ばかりな気がする。
 私に説明してくれたことと、その実態がかけ離れすぎて、失望のようなものをタカぼんさんに覚えてしまう。
 今までのは全て嘘だったんですか、と。耳触りの良いことばかり言っていたんですか、と。
 先ほどの疑問がぶり返してくる。

「さっきの仕事も、裏があるんですか?」

 少しばかり拗ねた気持ちで言った言葉に対して、タカぼんさんは罪悪感など一切浮かんでいない、楽しそうな顔をする。

「んー? 裏か? あると思うか?」

 言われて、拗ねた気分を棚に上げて考えて見る。
 タカぼんさんがわざわざ出なければならない理由。そう、スカウトならば私たちよりもタカぼんさんの方が上手くできるはずなのだ。
 だったら、何を……?

「えっと、裏、ですよね?」
「ないかもしれないぞ。単純な話で本当に支給品の代価を払っているのかもしれないしな。
 って、はは、そうむくれるな。そうだな。ヒントは、何も仕事だけを見れば俺だけが与えているわけではない、ということかな」
 
  考える。ヒント、ヒント、ヒント……。あ、そういうことか。
  でも、頭に浮かんだ考えを言う前に、山県さんが答えてしまっていた。

「集団戦のノウハウかな? 塔の敵に有効な」

 うー、と山県さんをにらんで見るが、山県さんはこちらには一切注意を向けず、タカぼんさんはタカぼんさんで私を見ずに、山県さんを見て、うんうんとうなずいている。

「そう。戦闘のノウハウを与える代わりに集団戦のノウハウを引き出してくるわけだ。こっちでモンスター相手に戦術を練るにも、まずは士気と錬度の高い集団が戦術を使って、どれだけの効率を出せるかのデータが欲しいからな。
 それに、あっちの戦闘班に顔と実績を売っておくことも悪いことじゃない。こればっかりは風評や交渉でどうにかできるもんでもないし」

 これらは俺じゃないと判断も行動もできないだろう、とタカぼんさんは言う。
 確かに、戦闘指揮についてはタカぼんさんに任せるしかない部分もあった。私は戦えるけれど、それはあくまでタカぼんさんに指示されての結果だ。もし単独で塔の敵と戦えるかといわれれば首を傾げてしまう。いや、戦えることは戦えるけれど、ほかに人がいる状況で被害を抑えながら確実に敵を倒すとなるとまた別の能力が必要だ。
 私にその能力があるかないかと聞かれれば、もちろん、"なかった"。

「そういうわけで今後は合同訓練の予定も立ててる。……それで、話は戻すが、裏があると仮定した上で、この一週間はどんな意味を持っていたと思う?」
「意味、ですか?」
「ああ、内藤。ちょっと深く考えて見て見ろ」

 考えてなかったかのように言われると腹も立つが、確かに今までが盲目的すぎたのかもしれない。
 しかし、ただ考えてみろと言われても。少し頭を捻ってみるが出てくるのは益体もない想像ばかりだ。
 タカぼんさんはその反応をわかっていたとばかりに苦笑している。

「少し範囲が広すぎたか。そうだな、内藤は司令部に自爆装置があることを知ってただろう。そのとき≪法の剣≫は何を調べていた?」
「確か、物資の流通についてでしたよね」

 その言葉に黙って私たちの会話を聞いていた山県さんが反応する。

「流通? そんなことを……。あ、≪法の剣≫はつまり」
「ま、待ってください。私が考えてるんですから」
「あ? ああ、ごめんごめん」

 山県さんが私を見て、苦笑しながら口にチャックを掛けるポーズをするが、一瞥して思考に入る。
 物資……? 流通? 施設についてで。つまりは、……ああ、そういうことか。

「脱出の可能性ですか?」
「そう。それだ」

 タカぼんさんは、ポンと手を叩き、正解だ、と言った。

「どうして直接、塔の探索に脱出の目を見るのか? 脅されて、餌をチラつかされて、追い込まれて、理由はさまざまだろう。だが、まずはここを、足元を探るべきではないのか? それでから、しぶしぶ、仕方なく塔の探索をするべきではないのか? とな。
 組織力のある≪法の剣≫が街全体の探索を、肉人形なんて戦闘に特化した装備を持つ俺たちが最低限の塔の探索を。
 現実にあるタイムリミットを刷り合わせた結果、≪法の剣≫単体なら三日程度だった猶予を一週間まで伸ばした」

 嗚呼、さんざん≪法の剣≫への情報提供を行ってきた理由が、嫌に気前の良かった≪法の剣≫が重なっていく。
 最初から、決まっていたんだ。

「どうして、話してくれなかったんですか?」
「内藤がどちらに適正があるか見たかっただけだ。別に気付こうが気付くまいが俺の内藤に対する姿勢は変わらないから安心しろ」
「……随分、呆気なくバラしてくれますね」
「そう怒るな。だから情報提供にせよ何にせよ。表向きの理屈を並べてやっただろう? お前が納得するまで」

 ……そういう問題じゃない。
 私が、いつもそうやって説明されて、信じて。でも、それは違った。
 裏切り……。裏切りだと、思う。この人はこんなにも悪びれもなく言うから騙されそうになるが、やっていることは裏切りなのだ。

「内藤、お前には期待しているんだ」

 ビクっと身体が震えた。
 恐怖ではない、憎悪でもない、覇気と期待の篭った声だった。
 多くの人間を従わせてきた人間が発する声だった。
 そして、その言葉こそが――

「期待しているからこそ最初に騙すんだよ。試金石だ。ああ、山県ほどじゃないが、お前は賢い。1を聞いて10を理解しなくとも5は理解できる才能がある。
 だがな、俺が買っているのはお前の頭脳じゃないんだ。
 普通の人間ならば俺に不信感を抱いた時点で(ヨコシ)まな考えを抱く。そこにあるのは己の利益を目指す邪悪だ。
 だがお前は違う。お前が今、抱いている考えは俺を(タダ)すことだけだ。俺が裏切ったから復讐してやろうとか奪ってやろうとかそういった考えなど微塵もない。
 お前は、俺が正しくあることを望んでいる。騙されても恨むことなく、俺が正しく行動することを望んでいる。
 その美しさこそが俺がお前を買ってる理由だ」

 たまに傾きすぎて余人を蔑ろにすることもあるがな。とタカぼんさんは笑っている。
 なぁ、と彼は言う。

「お前はこの組織の良心になれ」

 真摯な目だった。本心から言っているのだと信じられるぐらいに。
 そして、と彼は続ける。

「お前の心が俺の傍らにいる限り、俺が本当の意味でお前を裏切ることはないと約束してやる。
 お前の目がある限り、俺はお前が思う非道だけは働かないと誓ってやろう。なぁ? 内藤。

                 ――騙されたことは未だに不満か?」


 息を吸った。吐いた。不思議と困惑と緊張だけが流れていった。
 自然と今の気持ちが出る。

「不満です」

 タカぼんさんは笑っている。

「そうか」

 気持ちを吐き出す。

「また、騙すんですよね」
「そうだな。騙すだろうな」

 簡単に言われる。

「裏切るんですよね」
「結果的には」

 ため息が出た。どうしてこんな人に好意を持ったのかわからなかった。それでも、この人の根本は変わっていない。
 この人は私に考えさせてくれる。過程を私が選び取ることを許している。
 それだけは変わっていないのだ。いや、元々そうだったことに今更私が気付いたのだ。
 連理貴久は、私に考える余裕を、選択する余地を与えてくれていた。
 その上で、また私に選択肢を与えていた。
 私が彼を選ぶか選ばないかを。

「私は必要ですか?」
「大いに。人間にはブレーキが必要だ」
「ふふ。ブレーキですか」

 笑みが零れる。きっとそんなことは関係ないだろうに。それでもきっと、この人は私が、私の定める良心に則っている限りは最後の決定的な部分を行わないのだと信じられた。
 不思議と、それだけは本当なのだと。何故だか信じられたのだ。
 だから。

「ついていきますよ。
 ええ、きちんと裏の裏まで読んで、その上で貴方に納得すればいいんでしょう?
 覚悟してくださいね。私はこれでも賢いんですから」

 そういった瞬間に、胸の奥から言葉が溢れた。
 いつもと違い、私を惑わせるような強い感情のない。ただただ情愛に満ちた声が。

 ――覚悟しておきなさい。目の前の男は決定的な場面で必ず貴方を裏切る。
       それこそが最上だと信じるが故に。

 選択肢。
 いつかきっと思い出す場面。
 私はそのときになって思い知るのだ。
 連理貴久が南雲・アーリアライト・美咲に課した選択の意味を、

『観測結果によって箱の中の猫の生死が決定するのならば。
 事実を知るものは猫の生死を決して語ってはならない』

 いつか誰もに囁かれるその言葉と共に。

【【寄生】の持つスキル【疑心】が抑制されます。スキル【思考妨害】が抑制されます】


 伍拾参/

「話は終わったかい?」

 山県さんに遠慮したように話しかけられ、私とタカぼんさんの間になんともいえない間が……。
 と思っていたのは私だけだったようで。タカぼんさんはなんでもないように手元の袋に手を突っ込んで何がしかを食べている。

「そういえば、さっきから何食べてるんですか?」
「ん、食うか? ≪法の剣≫の保育所の保育士の姉ちゃんに貰ったんだが、あそこの子供たちと三時のおやつに作ったんだとさ」
「はぁ、いただきます」
「僕も貰うよ」

 頂けたのはよかったけれど、もそもそとしていて味がない。スナック菓子に似てはいるが、宿屋で手に入るお茶菓子とは雲泥の差だった。

「噂で聞いたけど、やっぱり≪法の剣≫は食糧の自給が出来ていないのかい?」
「そっちにクレジットを使ってる余裕はないだろうさ。塔の探索予定班や幹部、秘書課にはまともなものを食わせているらしいが、下はこんなものだ」

 そうして目の前に置かれたスナック菓子の袋には『タカぼんさんがんばって』『タカ兄ちゃんガンバ』などとたくさんのメッセージが拙い字で書かれていた。
 顔が広い……。いつ交流をしてるんだろう、この人は。

「話を戻すぞ。現実として都市からの脱出は出来ないことがわかった。この都市の周囲は砂漠だが100キロほど行った辺りに都市を囲むように厳重な包囲が為されていたそうだ」
「包囲、ですか?」

 情報を聞き出した時を思い出しているのだろうか、難しい顔でタカぼんさんは頷くと。

「こちらとあちらを分け隔てるように建っている切れ目の見えない透明な壁。それとその向こう側にある巨大なロボットの軍人、だそうだ。
 壁は、上は果てが見えず横もまるで都市を覆うようにあり。巨人と称しても良いロボットの群れは機械文明人の兵士だな。それがズラっと、壁越しに揃っていたんだと」

 想像力を働かせてその光景を頭に描いてみようとするが、どうにも想像がつかない。ロボットの軍人? アニメとかで出てくる機械の兵士みたいなものだろうか?
 それに、壁。都市を覆うよう? 私たちを逃がさないために……。

「壁越しに兵士。なんの冗談なんでしょうか?」
「さぁな。逃げないように、だろうが。いや、問題はこっちか……」
「まだ何かあるのかい?」

 山県さんの声にも疲労感が漂っていた。一番最初の機械文明人による一方的な通告で、ここがそんな都合の良い世界ではないと理解できていたのだが。

「これで最後だよ。で、だ。問題というか、疑問というか、なんだが。
 ここの天井は、絵、みたいなんだよな」
「絵? 映像だとか、そういうものではなく?」
「天井、ですか?」

 私の疑問にはタカぼんさんではなく山県さんが答えてくれた。
 彼は窓のカーテンを引いて、空が見えるようにすると、指を差す。

「内藤さん。ほら、窓からも見えるだろう。天井が」
「空? ……って、天井?!」

 ドーム状と言えばいいだろうに、どうして天井などという狭く感じるような表現を使うのだろうか。この人たちは。
 ていうか、空? 空が天井で絵? 言われて、よくよく見てみる。雲に、太陽に。あれ、普通の空じゃ、ない?

「雲、ぴくりとも動いてませんね」
「絵だからな」

 思えば空なんかよく見ている暇がなかったけど、ところどころおかしかったような気もする。

「なるほど、それで絵ということかい」
「≪法の剣≫の調査では、大体上空3000メートルあたりで絵にぶち当たったらしい。何か、ロケットのようなものにカメラをくくりつけたらわかったそうだが」

 言われてみれば都市の調査でそんな集団を見かけたような覚えがあった。発射台のようなものを、軍司令部の駐車場でトラックに詰め込んでいた白衣の一団。彼らは結局、車に乗ってどこかに出かけていたが。

「≪法の剣≫には技術者がいるのかい?」
「まだ数十人程度だけどな。が、宇宙に行くのでもない、ただ真上に飛ばすだけのロケットなら資材と人手があれば作れるそうだ。クレジットさえあれば工場を動かす道具や工作機械も購入できるし、資材に不足もない」

 それで、と続けていくタカぼんさん。今更だけどさらっとすごいことを言ってる気がする、この人。

「それで、上空の絵だが。午後三時、六時の間が夕日の絵。六時からが夜の絵だな。午前の……四時あたりから早朝の絵で九時ぐらいから昼の絵だそうだ」
「馬鹿にされてるんでしょうか?」
「さて、な。……本当に何を考えてるんだか」

 やれやれとタカぼんさんはスナック菓子もどきの袋を手に取ると中身をぼりぼりと食べ始める。

「三号、食うか? ……二号も、食ってみ」

 そうして口をあけた肉の塊へとポイポイと放り投げるタカぼんさん。
 肉人形たちは口でキャッチするとぽりぽりと味わうように食べていく。
 静かな時間が流れていく。報告は終わりなんだろうか。タカぼんさんを見るとリラックスしながらさきほどのように肉人形に餌を与えているし。ていうか、今更だけど肉人形の燃料って食事なんだろうか。まともに何かを食べているところは見なかったけど。
 山県さんは……え?

「ちょ、ッ……何やってるんですか!!」
「はい? 制服に着替えようかと」

 なんでもう半裸なのこの人?!
 しかも下!!

「見えない見えてない見てない何も見てない!!」
「内藤は何言って? ん、着替えか。ほれ、これ下着。一応」
「ありがとう。これは普通の物とは違いがあるのかな?」
「火炎攻撃で燃えない。仮に燃えても崩れ落ちるだけで肌に張り付かない。そういう仕様だ。ただの布や石油製品だと痛いぞ。ただれた皮膚に張り付くとな。はがす時に地獄の苦しみだ。の、前に普通なら死ぬけど。
 ただパラメーターをアップしてると死ににくくなるからな」
「なるほど、隅々まで痛み入るね」
「良い良い、気にするな……で?」

 うわぁん、と泣きながら私も制服と下着を手に部屋から出るのだった。
 もうやだこの人達。


 伍拾肆/

「それで何の話だ? あの娘を追い出してまで」

 制服のジャケットに袖を通している山県をじっと見る。
 ちなみに俺も制服を着てみる。二人に渡した幹部用の制服とはまた違うデザインの、総帥服とでも言おうか。裾が長かったり、偉そうだったりする仕様だが。
 デザインもそこそこ凝ってあって、≪法の剣≫にいたプロの服飾デザイナーに……。そういや、ある程度の人材は既にいるよなあそこ。千人も持ってくれば大体は揃うだろうが。
 武満と見せ合いっこしたし。いや、興味ない振りしつつお互い自慢ばっかだったからあいつも同じ気質なんだろうが。自爆装置にも反応したし。

「通気性も中々、と。ああ、いや、一つだけだよ。
 ――機械帝国側は、もしかして塔を攻略しても僕達を外に出す気はないのでは」
「……よく理解したな。悉く俺以外の人間は無能だと思ってたが。
 ああ、正解だ。どうにも塔内部とこの施設は協調が取れ過ぎている。そういうことも考えた方が良い程度にはな」
「ギャンブルは?」
「聞いたのか? いや、これは確かだ。ギャンブルかどうかはわからなくなったが、我々、俺達に対して何か期待をしているのは確かだ。
 ただ、金以外の物を賭けている可能性が……。まだ不確定だ。解ったら教えよう」
「感謝するよ。
 それにしてもタカぼんさんは、何か起業経験とかあるのかい?」

 言っても問題ないが、なんだ? 含みのあるような視線で見られてるような気がしないでもないが。

「んー、……悪の総帥を一時(イットキ)

 言ってみるが。結果、ぽかん、とした顔の山県を見ることになる。
 忘れろ、と手を振り促す。

「悪の、総帥」
「ほら、そりゃいいから。それ着たら≪法の剣≫に挨拶に行くぞ。明日は俺も別行動だし、スカウト部隊の隊長に顔見せだ。
 ついでに飲み会開かせるから飲んで来い」
「あ、うん。会費は?」
「払わなくていい。≪支配の杖≫から三十万クレジット分出しとくから。あと、内藤も連れて行くからな」

 ちなみにこの宿屋は一日1000クレジットで三食食える。稼げる身分になれば自分ひとり食べるのはそんなに高いものでもない。

「さ、三十万ッ?! どこからそんなクレジットを?!」
「あーあー、気にするな。クレジットを直接払うわけじゃないから。というか、それじゃ相手も受け取らん。
 だから食料品で直接ってこと。食料品は手に入りやすいんだよ」
「うん? えっと、どういうことなのかな?」
「つまりだな――

 普通に初日や二日目は気付かなかったが、ゴブリンの死体などの肉の交換方法である。
 これは普通に"軍司令部"で売るよりもこういった宿屋やホテル、肉屋などの肉部位を扱っている施設で売ったほうが単純なレートが高いのだ。
 謎な話であるが、別に肉料理にゴブリン肉が入っているわけでもないし。遊びのひとつなんだろうが。下手にここがゲームっぽい世界だと信じていると全て買値の半額で売れるなんていう変なルールに惑わされ、気付かないような仕様だった。
 頭の痛い話であるが、≪法の剣≫が本格的に動き出したら、適当に言い含めてその辺りのレート表を作らせなければならないだろう。今のうちから対価を用意しなければならないが。ううむ、地下通路のネタや塔の内部で"絶対に踏み入れてはならない部屋"の情報。ああ、モンスターの墓場などのことである。あの大蛇も含め、レベルが圧倒的に違う生物がどうやら階層ごとに一体はいるようであるし。
 二階にいた、黄金色に輝く巨大鳥を思い出す。塔内の監視カメラの制御室で確認しただけだが、おそらく、接触したら確実に死ぬ部類の敵だ。
 探索して手に入れた情報から判明した名前を思い出す。
 個体名"落葉の始祖鳥"、一階層の"骨を吐く蛇"と同じく、死体処理係と考えていいのだろうか?
 モンスターの死体を回収していた鳥を思い出し、役割を考えるも、今はまだ何もわからない。
 しかし、あれクラスよりも強力な存在が、塔の頂上の将軍と考えれば、……はてさて勇者どもが本格的に覚醒したらどんなものになるのだか。
 今のところはそういった情報での交換でどうにでもなるだろうが。やはりこの程度の情報は自前で揃えたいもんだ。交換材料とてそれほど余っているわけでもないのだし。
 ただそこまで内藤も山県も便利使いできる状態じゃない。この情報収集も都市の規模を考えれば一日でできるわけでもない。カテゴリごとにアイテムを持っていき、売値を確かめるなんてガキでもできそうな仕事でも規模と店の数が違う。何よりガイドに載ってるような武器防具雑貨屋だけじゃない、居住区近くにある嗜好品類を売る店や、そもそもガイドに載っていない店も確認しなければならないんだ。車やバイクを貸しても山県や内藤一人で回りきれるような量ではない。
 この糞忙しい時期にそれほど優先度の高くないことに少ない人員を回せるわけがなかった。
 そう、優先度から考えれば山県にはやってもらうことは多いし、内藤からは、あまり目を離せるものでもないのだ。
 ここまで考えればやはりここは≪法の剣≫の組織力に頼るしかないという結論に落ち着く。
 ただ、ここでの売値なんてものはそれほど重要じゃない。確かに軍施設と宿屋での肉の売却額のレートは10倍違うが。それにしたって宿屋では直接クレジットに換えられるわけではないのだ。
 そう、宿屋などの施設の場合は、肉類を売却→ポイントに交換→そのポイントと食料品を交換→手元に来る、というプロセスになる。利点として食料品を直接クレジットで購入するより10倍安く購入できるし、ポイントはどの食料品店でも扱えるが、食料や雑貨以外には交換できないのだ。そして、≪支配の杖≫はそこまで大量の食料や雑貨を必要とはしていない。
 とはいえ必要としている勢力は確実にいるわけだし、ああ、この情報でいいや。生命線のひとつである以上は適当に値段を吊り上げて店マップとそのレートとの交換もできるだろう。湯水のように使っているとはいえ、わざわざアイテムを売却するほど連中はクレジットに困ってはいまい。だから食料品店のシステムを理解……。ああ、バイトを送ってるか。武満の性格を考えれば、既にいくらかの調査は行っているだろうし。
 溜息が出る。都市の情報で奴と張り合うべきではないな。とりあえず、……塔の情報でなんとかすべきだろう。
 このアドバンテージはまだまだ譲れないか。

「タカぼんさん、どうしたんだい?」
「ああ、なんでもない。益体もないことを考えていただけだ。それで納得できたか?」

 先ほどの思考の食料品部分だけを山県に聞かせていたのだ。

「うん。食料品は安く手に入るんだね。僕達はそれにも気付かなかったかな。
 というより、そもそもがモンスターの所持品は奪っても肉まで獲ろうとは考えなかったからね」
「その辺りはデータが必要だ。端末かモンスターに関する情報がなきゃそもそも売却するなんて発想には至らんだろうさ」

 そもそも前例やデータもなしにモンスターであろうと人型の生物を切り売りするという思想を日本人は持たないだろう。猿を食う文化圏の出身ならば違うんだろうが。日本じゃ猿食わんしな。

「しかし、店売りでも売却する場所で値段が違うってのはな。盲点ではあったんだよ、ここはいつでもどこでもなんでも店は買い取ってくれる。武器屋では肉を売れるし、道具屋じゃ軍事情報が売れる、が、だ。それがどこでも適正ってわけではないんだと、どうして最初に気付かなかったのかっていうのはあるな」
「それは、仕方がないとは思うけど。今の時点で気付いてる方がおかしいんじゃないかい?」

 山県が言ってくれるが、いまさらながらに堕落した結果がここまで俺の能力を落としていたことを痛感させられるのだ。武満に独走を許したのもそうだが、如何にあれが英雄の一部とはいえ、内藤一人を完全に従属させられないことが全てを証明していた。

(主要とはいえ、もうちょっと上手くできないもんか。ガチガチに硬い壁を殴ってる気分だ)

 表面上はどろどろに溶けているように見えても、その内奥をアレは俺に見せていなかった。
 心は開いている。しかし、本当の本心を聞くことができていない。
 そんな状態は、支配したとは言えないのだが。
 支配。支配か。当初に思っていた自分と今の自分では乖離し過ぎてきたか?
 否、そうでなければ生き残れないだろう。

(とりあえずは制服と制度で気構えを英雄から人間寄りにできりゃいいんだが……)

 如何な強者とはいえ組織に組み込んでしまえば情実や利害に縛られる、絡め手も使い、落としていくのが確実だ。

「話を戻そう。武満には先のブラックリスト解除のときに話だけは通してある。用意してある食料は」

 言おうとしたところで音を立ててドアが開かれる。
 慌てたように駆け込んできたのは用意した制服に身を包んだ内藤だった。

「た、タカぼんさん!! なんか≪法の剣≫の人たちがたくさん来たんですけどッ?!」
「来たか、通してやれ」

 窓の外をちらりと見れば眼下には数台のトラックとそこから出てくる人の姿が見えた。


 伍拾伍/

「どうも連理さん。本日は食料の件、感謝致します」

 黒背広二名を連れ、うちの執務室兼客室兼会議室兼遊技場及び倉庫に入ってきたのは精悍な顔つきをしたガタイの良い男で、何もしてなくても全身から剣呑な雰囲気を醸し出している。
 確か、武満の部下で≪法の剣≫戦闘部隊の隊長を務める男だ。
 それがゆっくりと俺の前で頭を下げている。

「ああ、いい、いい。そう畏まるな。うちの新人加入記念兼≪支配の杖≫結成記念パーティーをやろうってんだがな。目出度い出来事を自分達だけで独占するのはどうかと思うんだよな。
 それにこっちもこれからは世話になることが多いだろう。仲良くやっていこうや。あと、タカぼんでいい」
「はい。タカぼんさん。ああ、この方が新人の方ですね。アタシは戦闘部隊のリーダーをやらせてもらってる鹿島というもんです。
 よろしくお願い致します」
「は、はは。山県です。よ、よろしくお願いするよ」

 ごついハンサムなオッサンに頭を下げられ、ビビってる山県を横目に、鹿島を見る。
 胸の辺りにエンブレムの刺繍されているだけの黒背広とは違い、幹部用の、工場で生産された白背広を着ている鹿島。
 戦闘隊長兼武満の護衛であるこいつとはよく会っていたが……。武満の前以外でも礼儀正しく俺と接せられとは。
 最初の話し合いの際にぶちのめして骨まで叩き折ったってのに、それでも俺に頭を下げられる忠誠心には恐れ入る。
 武満が羨ましいな。こんな男が部下にいるなんて。

「山県さんは確かインテリさんでしたね。山県さん、タカぼんさんをお願いしますよ。
 この人といるとうちの大将も機嫌が良いですからね」
「うん。僕も組織の大切さを身をもって知ったばかりだからね。受け入れてくれたタカぼんさんを全身全霊を持って守り立てていくつもりだよ。
 それで、鹿島さんも僕のこと知ってるんだね」

 鹿島は挑発する山県を淡々とした目で見つめ。

「元気の良い方だ。
 タカぼんさん、それじゃ表の荷物を運ばせて頂きます」
「ああ、渡したらそれっきりだが、ガキどもやら後方の連中の食事に肉ぐらいつけてやってくれよ。
 祝い事だ。戦闘部隊以外だけじゃ余る程度には量があるはずだ。
 ――っと、俺が言うべきことじゃなかったか。忘れてくれ」

 口を出した途端に剣呑さを出してきた鹿島に慌てて付け加える。
 どうもこいつには一定の距離感を越えての発言が通じない面がある。
 頼もしくはあるんだが、融通が利かないのがやりにくい。

「そいつはうちの大将が決めることです。
 しかし、タカぼんさんもマメですね。うちの保育所にまで頻繁に顔を出して。
 そんなに子供たちが気になりますか?」

 釘を刺すように言われるも。

「あそこの姉ちゃん美人だよな。何? 元秘書課?」
「そっちですかい。いや、あの娘っ子は普通に保育士やってたっていうんであっちに回した娘です。
 プロフィールいりますかい?」
「ソラで言えるならお前をケーベツしてやるよ」

 くくく、と嗤う。鹿島は呆れ顔をしながら、ついでにお前が言うなと訴える目をしていた。
 心外だな。俺はいちいち他人の情報なんぞ覚えとらんぞ。

「話が逸れましたね。それでどうしますか? 軍司令部に向かうならうちの連中に送迎させますが?」
「いや、俺は飲まないから、うちはうちの車で行く。内藤、すぐに出かけられるか?」
「ッ?! えッ、あッ、は、はい。だ、大丈夫です!!」

 話を邪魔しないためにか、部屋の隅に立っていた内藤に問いかける。唐突だったのかはよくわからんが、びっくりしたようにこちらを見る内藤はすぐに返答を返してきた。頭はきちんと回っているな。よいことである。
 山県は男だからすぐに支度できるだろう。

「そんな隅で何やってるんだい? と、それにしても」
「……、これは、驚いた……」
「おぉ……」
「え、は、なにかおかしいですか?」

 内藤を見る二人の目は大きく動揺が走っていた。
 そう、内藤は現在、その奥に隠れている妙な魅力を振りまいていない。が、だ。
 唇に多少、色をつけ。新品の制服を着ただけなのに。

「おお、制服着て来たんだな。うん、似合ってる似合ってる。可愛い可愛い。
 で、聞いてたろ。今から≪法の剣≫のところに飯食いに行くから。制服着たまま、車までな」
「か、可愛い……。あの、ありがとうございます。それで、いつもの会談ですか?」

 顔を赤くして、制服の裾をつまんでみせる内藤に首を振り、山県を指差す。

「いや、こいつの歓迎パーティーだ。祝い事だしな。ついでに≪法の剣≫にもおすそ分けだ。それで人数的にあっちで開いたほうが便利だから軍司令部まで出向くぞ」
「お裾分け、ですか。……また、随分と出したんでしょうねぇ」
「そうでもない。溜まってたポイント使っただけだし」
「ああ、あれを」

 そうして会話が始まりそうだったところで、声が掛かる。

「…ッ、――内藤さん。に、似合ってます。その制服」

 声を上げた鹿島をちらりと見た。奴らしくないと思えば、漂っていた精悍なイメージが揺らいでいた。その揺らぎはきっと、アレが将来的な敵だという前提からなる揺らぎだ。
 山県は単純に呆けているし。やはり、鹿島は飲み込まれまいと抵抗しているのか。
 前提を敵としてみればわかる魔的な美しさ。何も知らずに見れば感心するしかない美だ。十中十が振り返る、魂を揺さぶるような輝き。いつも内藤の奥から醸し出す威圧にこそ俺は脅威を感じていたが、これはこいつの素に、魅了の効果が入ったせいだろう。

(待て、これが内藤の素ということは?)

 奇妙な違和感。深く考えるには材料が足りないが、まさか、な……。

「ありがとうございます。鹿島さんでしたっけ?」

 にこり、と内藤が無邪気な笑みを見せる。
 初心な男なら失神確実だろうその表情。しかし鹿島もその程度なら耐えられる。

「ええ。頂いた食材はうちのもんが調理しますので、楽しみにしててください」
「はい。楽しみにしてます」

 内藤も、先ほどの話で吹っ切ったのだろう。≪法の剣≫で食事を取ることにはそこまで嫌悪を抱いていないようだった。興味もそこまでないようだったが。

「あっちに行ったら好きにしていいぞ。敷条もいるだろうから一緒に飯でも食って来い。小遣いもやろう」
「ちょ、ちょっと、子供扱いしないでくださいって!!」
「いいから貰っとけ。ああ、先に車に向かってくれていいぞ」
「もうッ。10000クレジットって、こんなにいらないのに」

 端末で送ったクレジットを見て嫌な顔をする内藤だったが、行け行けと手を振ると諦めた顔で外へと出て行く。

「山県ッ」
「あ、は、はいッ?!」
「内藤についてけ、車の運転はできるな? 行きはお前が運転しろ。帰りは俺がやるから」
「う、うん。ごめん。キーは?」

 ほら、とキーを投げる。キャッチした山県は首をしきりに傾げながら慌てて内藤を追いかけていこうとする、前に。

「あ、山県。ちょっと待て。あ、目瞑れ」
「うん? 内藤さんが行っちゃうから早くして。って、痛ッ!! なんで瞼越しに目を叩くんだい!!」

【山県義純の【眼球】の【支配権】が連理貴久へと移りました。山県義純の【眼球】を通して発動される全てのスキルの攻撃対象を連理貴久へと変更します。内藤美咲の【魅了】に対する【抵抗】が付与されました。以後、連理貴久がレジストに失敗しない限り【魅了】に対する抵抗力を永続的に付与します】

「子供に見惚れてたから罰だ。ほれ、行け行け」
「横暴ッ。って、ああ、待ってくれ内藤さん。僕は車の場所を知らないんだッ」

 さて、かつてのように無様を晒した部下への制裁を加えたので室内へと顔を戻す。
 静かに見ていた鹿島がつぶやいた。

「無様を見せました。しかし、よくあんなものと四六時中一緒にいられますね。ほとんど一緒にいるんでしょう?」

 声に篭っているのは理解できないものに対する畏怖だ。それは、きっと、内藤に対するもののほかに、あんな化け物じみたカリスマを放つ生き物が傍にいる俺に対するものでもあるのだろう。

「耐えられないほどではないさ。それに抗う期間が長ければ長いほど、屈服させた後が楽しみになる」
「そう、ですか。
 やはり貴方は……。いえ、なんでもないです」

 そんな剣呑を振りまいて、なんでもないもないだろうに。
 抜き身の刀のような気配を振りまいた鹿島を見ながら、内心だけにそれをとどめておいた。

「三号、二号、俺達も行こうか」

 そうして鹿島を先に行かせながら、俺も奴らの後を追うのだった。

 伍拾陸/

『タカ兄ぃ』

 ≪法の剣≫が保護している子供たちが後部座席から降りたタカぼんさんに向かってくる。
 一応は五人乗りとはいえ、流石に肉人形二体に挟まれれば当然なのだろう、道中狭い狭いと文句を言っていたタカぼんさんは、ようやく外に出られたことに対する感想を口にする前に子供たちに囲まれていた。

「ほらほら、まとわりつくな」

 助手席から降り、車をちらりと見た。今回の運転は山県さんだったけど、タカぼんさんと違い、きっちりと駐車場の白線の中に入れている。山県さんは普通に一発で入れていたのでやっぱりタカぼんさんが下手なだけなんだろうか。
 ちなみに、≪法の剣≫が拠点にしている軍司令部の駐車場にはタカぼんさん用の駐車スペースがある。たまに何を考えてかタカぼんさんは駐車スペースに対して垂直に停めたりするのできっちり三台分のスペースを借りてたりするのだ。

「おい、坊ちゃん嬢ちゃんたち。タカぼんさんが歩けないだろう」

 声に振り返れば≪法の剣≫の車で移動していた鹿島さんが歩いてくるところだった。タカぼんさんに纏わりついていた子供たちが「はーい! 鹿島のおじちゃん!!」と言いながらタカぼんさんから少し離れる。それでも、一メートルも離れていない。

「ねぇ、タカ兄。これってタカ兄がくれたんだよね!!」

 そうして子供たちが見せたのは透明なプラスチックのようなパックに入った肉の塊だ。骨のついた鶏肉のようなそれはきちんと熱を通してあるらしく、パック内でほこほこと湯気を立てている。
 見れば、軍司令部のそこかしこで≪法の剣≫に所属するおばさんやおじさんたちが笑顔で料理をしたり、できた料理を威勢良く配っている。

「おー、なんだ、お前ら、俺の関与なんぞ黙ってて自分たちの手柄にしてもよかったんだぞ?」
「……そんな怖い真似できるわけないでしょうが」
「何か言ったか?」
「いえ、同盟を結んでいるんです。黙ってるなんてことはできませんよ」
「そうか? ま、そんなもんか。よしよし、ほら抱っこしてやろう」

 言いながら、やっぱりまとわりつき始めていた子供のひとりを抱き上げるタカぼんさん。腕力パラメーターを強化してないとはいえ、タカぼんさんも立派に男らしく抱き上げている。「わー! 俺も、俺もッ!!」「あたしも。あたしもー!!」と子供達がわっと声を上げ、タカぼんさんは片手で周りの子供たちの頭を撫でくりまわしながら歩いていってしまう。

「あ、」

 声をかけようとするも、子供たちは、たぶん30人くらい。それが壁のようになって近づけなくなってしまっていた。
 見れば肉人形も近づけていない。タカぼんさんにぴったりと張り付いている肉人形にしては珍しいことだ。
 肉人形は不気味だし、子供達が怖がるからタカぼんさんが下がらせたのかな、と思えばそんなことはなく鎧を着ている二号がかっこいいのかタカぼんさんに近づけなかった少年たちが群がっているし、三号といえばさびしそうにタカぼんさんを見ている女の子に狩人服の裾を握られていた。

「人気者だね」
「山県さん」

 隣に立っていた山県さんが淡々と言う。

「普段からああいった感じなのかい?」
「そう、ですね。暇さえあれば何かしてるような人なので」
「あれの他にも何かある、と?」
「……たぶん」

 実を言えば把握してないけれど、ほかにも何かしていておかしくない人だった。

「……何故」
「はい?」
「何故、タカぼんさんは≪法の剣≫に所属しないのかな。あれなら、あの様子なら」
「山県さん?」

 ぼぅっと何か不穏なことを口にしていた山県さんが私の声にびくり、と身体を震わせ、「……なんでもないよ。忘れて」と言う。
 なんでもないようには見えないんですけど。なんて口に出せるわけもなく。

「僕達も行きましょう。置いてかれてしまう」
「……はい。そうです「美咲さんッッ!!」

 振り返る。聞こえた懐かしい声。意図的に避けていたそれが……。

 ――勇者様ッッ!!

(ッ゛……!!!!!)

 酷い、ノイズ……。思考の一部を抉り取るかのような声。何が聞こえたかわかっているのに、どんな意味かわからなくなる。

「美咲さん」

 背後に人の立つ気配。山県さんが知り合いかい、と目で問いかけてきた。
 頷き。呼吸を整える。胸の奥から砂糖菓子のような甘さの感情があふれ出していた。

「神崎君」

 胸を押さえつけながら振り返った。先の声は、頭の中から消えていた。
 それでも、自分をしっかり保つよう意識しながらその顔を見る。
 変わらない、精悍さの混じった幼さの残る顔立ち。好感しか感じられない男の子。
 神埼秀人君。

「美咲さん。久しぶり、かな」
「そう、ですね。敷条さんから聞いたんですか?」
「うん。茜から聞いた。それで、先輩は……、その≪法の剣≫じゃなくて」
「うん。タカぼんさん、連理さんって人のところでお世話になってるんです」
「そっか。茜の言ってた通り、か」

 少し沈黙する。わかっていて会いに来なかった私を責めるのかと思えばそうでもなく。後輩の少年は小さく(カブリ)を振ると、改めて顔を上げ、何かを言おうとしたところで。

「神崎君は大丈夫でしたか?」

 言葉を被せた。きっとその言葉を聴いてはいけないのだと解ってしまうから。遮ってしまう。無駄だと解っていても。
 目をぱちくりさせた神崎君はそれでも真摯に応えてくれる。

「え、あ、はい。≪法の剣≫のお陰で」

 ――飛翔もできず、囚われている
 
 ノイ、ズ……。ッ、いつもと違い、言葉が読み取れない。何か重要なことを言ってると思うのに、意味だけがわからない。
 なぜかそれに安心しながらも表面上は平静を整える。

「それで、……美咲さんは、何をやってたんですか?」
「私、ですか?」

 神崎君が言おうとしていること。私が聞いてはならない懇願へと繋がりかける言葉が放たれ、思わず目を逸らしかけ。

「あ」

 見れば山県さんが私たちを……。いいえ、違う。
 "私を"冷たい目で見ていた。

「ああ、どうぞ。僕には構いなく」
「美咲さん?」
「あ、この人は」
「彼女の同僚の山県だよ。どうぞ、よろしく」
「あ、はい。その」

 神埼君のどこかに行って欲しそうな視線を浴びながらも山県さんは動かない。その目は冷たく私を見ているようだった。
 タカぼんさんに向けていた尊敬の色などは一切含まれていない、全き無色の目。
 だから必然。私は悟らざるを得ないのだ。山県さんは、私が神崎君の言いたいことを意図的に逸らしていることを知っていると。そして、私がそれに対してどう行動するのかを見ようとしているのだと。

「僕のことは木か何かだと思ってていいよ」

 山県さんにむっとした表情を向ける神崎君だけれど、それでも私は少しだけほっとする。
 なぜだかわからない。だけど神崎君と今、二人きりになることは私にとって致命的な気がするのだった。

「美咲さん?」
「あ、うん。私は――


 伍拾漆/

「そっか。俺、甘えてたのかな」

 "内藤"美咲が都市に来てからの話を聞いた目の前の少年は、そう悔いるように言葉を吐き出した。

(違う。君らが≪法の剣≫に頼った決断は甘えではなく懸命だったから。むしろそれを言うならば僕達が甘えていたんだ)

 命を繋ぐことに本気になっていなかった馬鹿者たちの集まり。ヤクザ然とした連中に支給品を奪われ、そこから抜け出したが故の結末、≪カラミティ・ブルータス≫を知らないからいえるセリフ。
 先ほど、無視してくれと言ったのに思わず口を出してしまう。

「いいや。君は正しい。無意味な正義感、無価値な自立心で動くとこの世界では早死にするよ。いずれ状況も変わる。今はじっと≪法の剣≫のために働くべきだ」
「……アンタは」

 少年の僕を見る目は強い。猜疑と疑念、そして倦厭の宿る目。僕の言葉がまったく望まれていないのだとわかる目だった。
 茶化すための苦笑も浮かばない。それでも、事実だけは伝えたかった。
 力のない自由ほど碌な物ではないのだと。

「アンタにはわからないさ。俺の気持ちなんて」

 伝わるとは全く思っていなかったが、伝えたいことは一切伝わらず。やはり苦笑いさえも浮かばない。
 そして少年は決意した表情を浮かべ、僕は天を仰いだ。
 思い出す。ここに来る前、車に乗る寸前に掛けられた言葉を。

『内藤に気を掛けてやってくれ。あいつは危うい。特に友人と会ったりしたなら、妙な頼まれごとをされそうだしな』
『どうして僕に? タカぼんさんがしてるんじゃないのかい?』
『俺は、忙しくなりそうだからな。とはいえ、俺も子守を最後まで押し付けんよ。
 最初の一回だけでいいんだ。それで駄目なら……』

(それで駄目だったなら……。その後に何を言うつもりだったのかは知らないけど)

 あの強烈な裏を持つ人間のことだ。碌でもないことを考えているのは確かだった。
 そして、それはきっと知ってしまえば、今後正常に組織を運営することを躊躇させるような。
 なぜか本能的に悟らざるを得なかった不気味な予測を頭から振り切り、少年を見る。
 既に僕が眼中にない彼は。"内藤"美咲へと意思を込めた言葉を吐いているところだった。

「美咲さんッ!! 俺を、俺を貴女の組織に入れてくださいッ!! 俺は、俺はッ「ストップ」

 止めの言葉を放ち、瞬時に少年ではなく内藤に目をやる。やはり、連理さんは、流石だ。
 少年と話し始めてから次第にとろんとした目をし始めていた内藤は正直、信用ならない。
 先ほどの連理さんと話し合いをしたときの凛とした表情など欠片もなく消え失せていた。
 精神的な棒立ち状態だ。

「おいッ! アンタいくら同僚だからって『黙ってて貰えるかな。糞餓鬼』ハァッ?!」
「内藤ッ!!」

 張り上げた声に少年が奇妙な顔をした。この少年が南雲・アーリアライト・美咲の本名を知っているならば当然の反応。
 そして、僕の存在などこの少年が熱意を込めた声を上げたあたりから消失していたであろう銀髪の少女は、男ならば魅了されずにはいられない表情をしながら相対した僕を睨みつけ――

【【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください。【憎悪】の効果が発動しています。レジストしてください】

【割り込みが発生しました】
【山県義純の【眼球】の【支配権】は連理貴久に移動しています】

【【眼球】を通る全てのスキルの攻撃対象を連理貴久に移します。レジストが成功しました。山県義純に対する【憎悪:魂の破壊】はレジストされました】

 ――、口を開いた。

「えっと、山県さん? あの、神崎君。ちょっとごめんね」

 手を握られ、神崎とやらから離される。少し前なら初心な少年のように胸を高鳴らせただろうが、疑念を持って接しているからだろうか。先ほどのように忘我するほどの魅力を内藤から感じなかった。

「ちょっと、どういうつもりですか? 神崎君は≪法の剣≫から抜けようとしているだけじゃないですか。それをどうして――「なるほど、タカぼんさんも不幸だ」

 僕の言葉に一瞬、言葉を失った内藤が信じられないような目で僕を見る。その目には先ほどの憎悪のほかに、かすかな困惑が見て取れた。

(自覚がなかった? それに、タカぼんさんもどうしてこの娘にそこまで……)

「ッ! 貴方が何をッ!!」
「……ん。客観的な評価だよ。それとも、"連理さんを呼びますか?"」
「ッ……。待って、待ってください。……ちょっと、考えます」

 ……言われ、一分も待てば、顔を青くした内藤が僕に自ら頭を下げてくる。

「うかつッ。どうしてここまで頭が悪くッ?! ぅぅ、糞ッ。糞ぉッ……」
「で、彼氏なのかい?」
「違いますッ!」

 ふぅん。見れば、僕に頭を下げる内藤を見て、少年が不安半分申し訳なさ半分といった表情だった。どうも自分の言葉で内藤が怒られているのは理解できたらしいが、そもそもの提案の馬鹿さ加減に気付いているとは思っていないようである。

「彼には僕から言っておこうか?」
「いや、私が言います。これ以上、恥を掻かせないでください」
「了解」

 両手を広げ、おどけるように任せることを示すと、内藤は唇をかみ締めながら少年へと歩いていく。

『最初の一回だけでいいんだ。それで駄目なら……』

 言葉を思い出す。刺す釘が一本で良いという理由。一本だけで十分だとわかっていた連理貴久。一体、内藤美咲にどれだけの価値があるというのだろうか。まさか南雲財閥が目的でもあるまいに。
 そう、あの娘に連理貴久、タカぼんさんがあそこまで甘い理由。あれだけの器量を見せてくれたタカぼんさんに限って、女関係はないと思いたいが。
 それとも、説明されていないことがまだあるのか?

(それでも、まさか本人が望んでいるとはいえ、≪法の剣≫からの引き抜きをあれだけ軽く承諾しようとするなんて……)

 信じられないくらいの頭の軽さだった。いくら連理貴久とはいえ、そんなことをすれば両組織の間を取り持つのは不可能だろう。
 一度くらいなら、それでもなんとかできてしまいそうだが、今の友好的な関係に戻すことは不可能に違いなかった。

『……対立。対立、ねぇ。それも面白そうだが……』

 ふと、先の話し合いのセリフを思い出し、ぞくり、と背筋が寒くなる。≪法の剣≫と対立することを本気で楽しそうだと思っていたあの言葉。一応、僕を使って彼はその対立を留めることに成功した。
 しかし、僕が今日、≪支配の杖≫に入ることはわからなかったはずなのだ。だったら、本来は失敗していたかもしれず、ならば抗争は必至だったのか。
 嫌な想像を振り切る。あの人に限ってそんなことはないとは思う。だけれど、もしそれでもよかったというならば……。
 やめよう。これは考えるべきではない。首を振り、神崎少年と内藤を見る。
 頭を下げ、神崎少年からの願いを断る内藤。それを見ながら思うことはやはり。

(本人は否定したが、やはり彼氏か。肉体関係ぐらいは持ってそうだけど)

 未だ学生とはいえ、やはり女は女。……やはり、女は信用できない。≪支配の杖≫のトップがタカぼんさんでよかった。これで女だったら情で全てを決められかねなかった。
 内藤への僕の中での評価を決め、頭を切り替える。もうあれらに関わる必要はないだろう。内藤がそれでもヘマをしたなら、タカぼんさんの器量を改めて確認するためにも処置を見せてもらうしかない。
 少なくとも、女で身を崩すような人間には見えなかったが。
 それでも、あの人には少しだけ警戒を忘れないようにする。
 それに、僕にもすることはあった。タカぼんさんがわざわざ今日、宴会を開いた理由。表向きだけかもしれないけど、僕のために開いたという宴会。
 今後の仕事のためにも、ここで思い切り人脈を作っておく必要がある。


 伍拾捌/

 宴会の終わり。駐車した車のドアに背を預け、キーを片手に空を見る。
 星や月があるが、それらは全て偽者の空だ。

「二号、三号、お前らは楽にしていろ」

 俺を護るように立つ肉人形に言うが、反応はない。当然とはいえ、苦笑のひとつも浮かぶ。
 やはり、いざというとき、信頼に足るのは人間ではなく、浮かぶ想像に首を振る。いや、まだ諦めることもないだろう。
 時間はまだ残っている。

「来たか」

 宴に酔ったのか、ふらふらとした足取りの内藤と、渡した端末を既に自在に扱っている様子の山県。その背後を目を凝らし見る。駐車場脇からでも未だ騒いでいる軍司令部の様子はよく見えた。

(俺も身体を休める必要があるか。息抜きも必要だ)

 少し動きすぎている。オーバーワークまでとはいかないが……。しかし、……。

(まだ、足りない)

 何か根本的な勘違いをしているのだ。内藤、龍村、そして恐らくは敷条。未だ見ぬ敵の存在。
 何かボタンを掛け違えているのはわかる。しかし、それがどの服の、どのボタンなのかがわからないのだ。

「タカぼんさん、外でずっと待ってたんですか?」
「いや、子供達やらおばちゃんやらと話してたんだがな。子供達が眠くなってきてたから帰らせた」

 俺を見た瞬間に、すたすたと行儀良く歩いてきた内藤が隣に立って聞いてくるので正直に答えておく。俺もこんな宴の席で密談をやるほど馬鹿でもない。だから、こういうときは一番下の人間の顔を見るに限る。
 静かなので顔を向ければ、山県が何かを言いたそうに立っている。

「タカぼんさん」
「どうした山県?」
「うん。明日のことなんだけど」
「PCとプリンターなら使えるぞ。頼んでおいた。好きにやっていいぞ」

 ぽかん、とした表情の山県が直後に腹を押さえて笑い出す。

「はッ、ははははッッ!! さ、流石だね。もし言い出さなかったら?」
「資料は俺が用意することになってたな。ま、≪法の剣≫に適当に代価を払って用意させただろうが」

 こういう手回しは内藤相手にはやっていなかったことだった。

「あの……、その……、す、すみませんでした」
「どうした内藤? 何かミスでもしたか?」

 唇をかみ締める内藤の視線が一瞬、山県に向く。うん? 本当にヘマでもしたのかね。

「不甲斐なくて、今日も大口を叩いたくせに、すぐに忘れてしまって。今日は、そうでもないんですけど。霧が掛かったように頭が悪くなるときがあってッ。でも、でもッ、大丈夫です。次からうまくやりますからッ!」

 泣きそうに弱音を吐く内藤の頭に手を置いてやる。俺の隣に立つ少女はぐずぐずと鼻を鳴らしながら上目遣いで見つめてくる。
 ぽんぽん、と撫でてやる。そうして安心するような言葉を掛けてやった。

「大丈夫だ。それは思考力が落ちてるんじゃなくて疲れてるだけ。それに今日は気が緩んだんだろう。明日で一週間だしな。慣れてくれば不調もとれるさ。さ、今日はもう休め」
「はい。……今日くらいは、夢もみないでゆっくり寝たいな……」

 後部座席を開き、内藤を支えながら奥へと座らせる。内藤は相当気疲れしているのか、ドアを枕に目を閉じてしまった。
 そして、目を閉じた内藤が聞こえるか聞こえないか程度の声で囁いたそれ。
 夢? ……夢? 俺も毎日見ているあの不快な?
 とりあえずそれは考えの隅に起き、後部座席のドアポケットに入れておいた資料を取り出し、山県へと向き直る。

「山県、これが資料だ」
「ありがとうございます。それでPCは?」
「ああ、軍司令部の受付で聞けばわかる。ああ、そうだ。変なことを聞くが――ここに来てから夢を見たか?」


 伍拾玖/

 ――微睡みに落ちていきなさい。

 声が聞こえる。【聖歌】。讃える歌。

『ノエル! 我らが姫! 我らが聖女! おぉ、ノエル! 愛しきかな! 愛しきかな!』

 どこか遠くからたくさんの人々が祝福の歌を奏でる。それは、戴冠式。
 機械に人面を貼り付けた人々が歌い、騒ぎ、そして静粛の場へと移動していく。
 機械王国の姫、聖女ノエル。彼女が冠を頂き、そして、大陸統一国家ソシエトへと捧げられる時の記憶。

 ――私は、クトゥンズハヴザスに捧げられる筈でした。機械帝国の属国たる我が祖国のために。

『おお、ノエル! 悲しき姫よ! 愛しき姫よ! 美しき姫よ!』

 歌う近衛兵、楽団、市民たち。合成されたような金切り声が歌を唄う。

 ――だけれど、そんな日は来なかった。戴冠式が終わり、その日が来る前に……

 空を覆う暗黒。機械帝国の終焉が始まった日。【魔王】ウェンディサーク襲来。
 そうして、地獄の日々が幕を開け、彼女の祖国は破壊され、彼女は出会うのだ。

 ――ああ、早くお会いしたい。

 現われる金属の身体を持つ、機械文明人。【勇者】アーク・ソシエトの姿。
 彼は魔王の将に襲われる聖女を助け、そうして彼女の特異な能力を知ると、手を取り、共に魔族を倒すために力を合わせようと声を張り上げ、

 ――勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。勇者様。

 声が、膨らんでいく。私の視界をアーク・ソシエトの姿が埋めていく。

 ――敷条茜。貴女の大切な人の為にも早く、早く、決めるのです。

 言葉が重なっていく。視界が埋まっていく。


 陸拾/

【【寄生】が進行しています。【勇者】【聖女】【戦乙女】の【寄生】深度が第二段階へと進行します】
【【戦乙女】の進行判定に失敗しました】
【【支配者】の【能力】により【戦乙女】の【寄生】進行度が低下します。第一段階で停止します】
【【支配】が成功したため、【戦乙女】の【支配者】に対する【憎悪】が強化されます】
【【魔皇将軍】が性向一致を経て第三段階へと進行します】

 どこかでアナウンスの音が聞こえた気がした。
 そうして、落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。
 どこかへと、地の底へと、天の頂へと堕ちていく。

 ――聞こえる。
 
 雑音。ザァザァとまるで砂嵐だけが映っているテレビのような。
 雑音、暗転、夢の中を堕ちていく。
 そして見るものは歴史だ。機械帝国の、皇帝を至高とし、その配下に各地の諸侯、各貴族は一部の例外を除き、兵を取り上げられたために誰も武力を持てず、平民を登用した王軍が存在するそれを――暗転。
 魔王について。
 魔王とは……。
 世界に存在する毒。否、それは否である。そのようなものではない。善も悪も世界に存在せず、どちらも事象に貼り付けられたラベルにすぎない。それを観測するユニットの心象、マインド、精神こそが観測結果を歪めるのである。その歪み、それを分類する。取り上げる。数多の世界に無量に存在するユニット、プレイヤー、デバイス、その心象をくみ上げ、事象につけられたラベルを分類し、善と悪に分断する。裁定する。決め付ける。
 そして、世界に物語は与えられ――否定する。

 『嘘つきめ』
 
 ――雑音。

 創世の神話について――雑音――魔王と勇者について。第一世代魔王、勇者を頂点とする魔王及び勇者たちは複数世界に配置され、その世界の道徳において、善、悪と呼ばれるものを実行。――雑音――聖剣と魔剣、互いを滅ぼすために必要な神器――雑音――勇者について、勇者とは……、善、正義の体現者。配置された世界において生育され、その世界での道徳及び倫理を学習し、覚醒後にそれらを執行する。管理ユニットと同じく、その行動はプログラムされたものではなく、核となる魂に刻まれた性質によって行われる。――魔王と勇者は対応して存在し、複数世界にまたがって"ストーリー"が展開される場合においても、双方のどちらかが消滅しない限り、"観測"は続けられ――
 

 陸拾壱/

「……また、か」

 機械帝国の興亡から始まった夢はとうとう世界なんてものを飛び越え、もっと大きなものの流れについての話になっていた。
 見ているのか、見せられているのか、それとも見ようと思って観ているのか。

「考えても仕方がないか。ただの妄想が夢の形になった、ということも否定しきれないしな」

 ……三号の差し出してきたコップから水を飲み、寝ぼけ眼の中、ボケっと宙を見る。
 思考を整え、今日やることを確認する。そうこうしているうちに二号が水の入った桶を持ち、三号が鏡とタオルを差し出してくるので顔を洗い、髭を剃り、歯を磨き、口をゆすいで別にある空の桶に水を吐き、そうしてから差し出された豪運の果実を口にする。
 何故運を上げるのかといえば、俺の趣味の問題だけではなく、実利の部分だ。
 別に戦闘がなくてもパラメーターは大事なのだが。例えば、力が上がればアイテムを持って歩ける量が増えるし、耐久が増えれば死からそれだけ遠ざかることができる(即死は無理だが)。俊敏なんかも割と大事だ。速度が上がらなければ死んでしまうような場面も多いしな。
 そういうわけで運だけ上げるのは割と馬鹿な行為なんだろうかと思わなくもないが、俺の持っている能力というか、スキルに問題があった。
 【経験値非効率】である。解っている効果は凄い単純である。運以外のパラメーターの上昇が10分の1。その上、1UP系は上昇範囲に入らないという悪夢的な効果まである。
 だから運以外は食べても意味がないのだ。
 ……なんだかなぁ。食ってる間に二号が全身鏡を用意し、三号が糊のきいた総帥服を持ってくる。
 服を脱ぎ、二号に体を拭かせ、髪を整えさせる。その間に三号がてきぱきと俺に服を着せていく。……しかしこいつらはこいつらで便利だな。仕込めば仕込むほど便利に物事を覚えていく。進化型人工知能だったか、便利なものだ。ただ、三号に限ってはなぜか最初からこういったことは覚えていたが、当初のコンセプトが違ったのだろうか?
 二号が端末と銃を俺の腰に吊るし、三号が財布を通信端末を懐にそっと入れる。そうして朝の支度を終えた俺は二号の開いた扉から廊下へと出るのだった。


 陸拾弐/

「おう、おはよう」

 宿の廊下で内藤に出会った。奴はふらふらとこちらへと歩いてくるものの。
 首を傾げた。なんだ、あいつ。顔色が悪いぞ。

「た、タカぼんさん」
「おぉ、どうした? 具合でも悪いのか?」

 ふらつく内藤に近づいて、熱でも測ろうとすれば。

「……三号?」

 腕を三号に押さえられていた。痛くはないが、これ以上は進むなという強固な意志を感じる。
 とはいえ、進めないなら仕方なしに内藤を見るだけ見てみるものの。

「うん? どうした内藤。そんな目をして」

 悲哀を浮かべた少女が目だけに憎悪を込めて俺を見ていた。

「ッッ、ぅ……~~~ッッ。ぅう~~~ッッッ」

 まともな言葉などしゃべらず、頭を抑えてしゃがみ込んでしまった。
 見下ろしながら耳を澄ませば。

「憎くない。憎くない。憎くない。憎くない。憎くない。憎くない……」

 なんて、なんて心地の良い悲哀。っと、違うか。見下ろしながら端末を見る。

【内藤美咲が状態【憎悪】をレジスト失敗しました。自我消失の危険があります。知能の値を上げ、抵抗値を上昇させてください。知能の値を上げ、抵抗値を上昇させてください。知能の値を上げ――】

「ッッッ。憎くない。憎くないッ。憎くないぃぃッッッ」

 健気だった。その生き物はただただ健気に俺を憎まないようにしていた。どう見ても、折れたほうが楽なものなのに。ただただ健気に俺を憎まないと意思を振り絞っている。ああ、健気だ。大好きだよ。その意思が。やはり人間はいい。動物にないその意思こそが俺が人間に傾倒するに足る理由だ。侍らせるなら肉人形よりも人間だ。そう確信を抱かせる程度には、気高く、価値がある。
 俺を見上げる内藤を見下ろす。目には憎悪。顔には苦痛と悲哀。そして諦観に支配されない意思。
 放っておけば壊れていくだろうそれを、壊れさせてしまうこと。それを、面白く感じ。

(ああ、そうか。思考が"戻って"たか)

 俺の全盛期に、人を人と思わなかった時に、戻っていた。
 思い直す。内藤を見る。心が折れないように、健気に俺だけを思ってくれている少女の意思を汲み取ろうと努力する。

(そして、助ける手段か……。なくはない)

 必死に俺を信じようとするその魂を掬い上げる手段があるのならばやってやるべきだろう。
 これを放っておいて、内藤の自我が失われれば俺の敵が露になるのだとしても、だ。
 最悪を少し考えてみた。ああ、大丈夫。内藤の身体能力から考えてみて、制圧は可能だ。監禁する部屋もある。

(尋問して口を割らせ……――『タカ、ぼんさん……?』

 自重せず、楽しく妄想を始めようとしたところで内藤が俺を不思議そうな顔で見上げていた。涙の滲んだ目。よほど己に抵抗したのか、汗の飛沫となって踊る屍体。
 今にも倒れそうな身体。
 しかし、いかに弱さを振りまこうともその目だけが別人のように俺を見ている。睨みつけている。

(内藤を助ける助けないの前に。……興が乗ってきたな)

 目に力を込め、言葉に意思を入れ、内藤の身体へと手を伸ばした。三号が制止の力を強くするものの、構わず内藤の顎に手をかけ、至近から囁くように問いかける。
 言葉は、選ぶことなくするりと出た。

「内藤」
「に、げて、ください」

 言葉は必死だ。目の端の涙を拭ってやる。

「内藤」
「タカ、ぼんさん。おねがい、します」

 なぁ、と問う。内藤がわかってくださいと目で祈るも、俺は構わず声を掛けた。

「なぁ、お前の主は何だ?」
「あ、るじ?」
「お前の意思は誰のものだ? お前の身体は? お前の憎悪は誰の憎悪だ?」
「わ、たしの? わたしの」

 そっと力を込める。それを意識して使ったことはないが、恐らく【支配】と同じように俺にとって初めてというわけではないはずだった。
 このスキルという力は、きっと俺が、元の世界で振るっていた力に名前を付けただけに過ぎない。だから、意識をして、俺は、初めてそれを使用する。

【スキル【魅了の魔眼】を発動しました】

 眼球に激痛が走った。能力の出力に身体がついていけていないのだ。無意識に残滓を振りまくのではなく、その大元を使うのならば当然の負荷だった。
 それを、まだ内藤には向けず、ただ発動させた状態で留めておく。

「そう。お前のものだ。お前の意思は、お前の魂は、お前の憎悪はお前だけのものでしかない」

 そうして言葉をもぐりこませる。内藤の意思をつつくように刺激する。過去何千と行ってきた行為。だから、唆すこと自体には問題がない。
 問題は、ギリギリと眼にかかる激痛と、

(すごい疲労だな。この能力とやらは……。 いや、スキルだったか?)

 今更止めるわけにもいかんが。
 そうして内藤の顎を持ち上げ、目を合わせる。憎悪の篭った目がギョロギョロと俺を見てくるが構わず【魅了の魔眼】の指向を決定する。

「タカぼんさん、わ、私はッ」

【【魅了の魔眼】がレジストされました】

(まだだッ)

 それはわかっていたこと。こんな封印だらけのスキルに期待なんぞしていない。効果なんぞ発動するわけがないのだ。
 が、それでも使いようはある。
 内藤に立ち上がる時間を与えることができる。
 俺の魅了をレジストするために眼の憎悪にゆらぎが走る。そこに声を差し入れる。内藤、と。
 それで、内藤の意思は満ちる。

「私はッ、私はッッ……。私の心はッッ!! 私の身体はッッ!! 私の、私のッッ!!」

 そして、俺もタイミングを計る。
 眼球の激痛は頂点に達していた。

【スキル【魅了の魔眼:抗えぬ瞳】が発動しました。レジストされました】

 それはわかっている。しかし、だ。タダで俺の支配から逃れ得ると思うなよ?

【スキル【憎悪】に損傷を与えます】
【【憎悪】が損傷しました。【魅了の魔眼】が損傷しました。スキル【憎悪】、スキル【魅了の魔眼】は回復するまで使用不能となります】

「私のものだッッッッ!!!!!」
(痛ぅッ……)

 叫び。内藤に掴み掛かられ、抱きしめられ、耳元で己は己のものだと宣言が轟く。折れぬ意思の発言。それは、それでいい。
 が、激痛に目に触れる。瞼の血管でも破裂したのか血が流れていた。

(これで、いい)

 多少正面が見え難いが、問題はない。眼球の機能自体が損傷したわけでもない。
 それよりも、と目前を見下ろせば興奮したのか、肩に寄りかかった内藤ががっしりと俺の身体を掴みつつ、気を失っていた。

「これだけやってやったんだ。次はもっと上手くやれよ」

 膝立ちから立ち上がる。薬を差し出してくる三号に俺の手当てをさせながら、内藤の身体をきつく抱きしめてやった。しかし意識を完全に失っているのか目覚める気配はない。
 そうして、ふと遠くに光るものが見え、目を凝らす。
 遠くの床に転がっているものがわかり、嗤いが漏れた。
 抜き身の剣だ。その切っ先を誰に向けるつもりだったのか。そしてどういう事情からそれを投げ捨てたのか。

「可愛い奴だな、お前。割と本気でそう思うよ」

 どうせ気絶してるんだからと、内藤の乳と尻を服越しにまさぐりながらそんなことを思った。
 感触を楽しみながら思う。こいつを屈服させたらどれだけ楽しいんだろうな、と。
 健気に尽くすのか、嫌々ながらも従うのか、それとも、全てをかなぐり捨ててでも従おうとはしないのか。
 それを想像することは、とても楽しいことだった。
 そんな妄想をしながら内藤を持ち上げ、俺は廊下に落ちている剣を拾いに歩いた。





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