「ん・・・?」
気が付くと見慣れた天井が目に移る。自分の部屋だ。
(またか・・・)
最早、日常となってしまったので驚きは無い。しかしこうもたびたびあるとうんざりしてくる。
断片的な記憶障害
俺の最近の悩みである。
まあ俺の自己紹介をしておこう。
名前は北島薫(きたじまかおる)。二十歳で今は普通のサラリーマンをやっている。
背は低めで童顔なのでよく女の子に間違われる。
自分のことを俺と言ってるのもそれへの反抗だ。
似合わないとか言われるが大きなお世話だ。俺は正真正銘男だ。
俺の悩みはさっきも言ったが記憶障害だ。
症状はうっすら覚えているとかそんな生易しいものじゃない。
さっきまで机に座って仕事をしていたのに、いつの間にか自分の部屋にいるという感じだ。
職場から家に帰って、朝起床するまでの記憶がごっそり無いのである。
病院に行ったが、原因不明だそうだ。
しかしこの症状には共通点がある。
それはいつも残業後からの記憶がないことだ。
残業終了直前や、帰宅しようとしてる時等、細かい差はあるものの、いずれも残業する時しかこの事象は発生しない。
最近は仕事が忙しく、ほぼ毎日残業続きである。
今日もどうせ残業だろうが、俺みたいな若者が残業を断れるはずも無い。
記憶が飛ぶのを分かっていながら残業をしているのが今の現状なのだ。
「おはようございまーす。」
元気に挨拶をしながらいつものように職場へと入っていく。
そこにはいつもどおりの顔ぶれがそろっていた。
「おはよっ!!」
ショートカットの元気そうな女の子が軽く挨拶をしてくる。
彼女は、如月渚(きさらぎなぎさ)、同じ年入社の同期である。
年も俺とタメで、話しやすく、友達のような存在だ。
「おはよーーー。」
やる気の無い声で挨拶するこの男は武田正志(たけだまさし)。
俺の小学生からの親友だ。
中学、高校とも同じで、さらには職場まで同じという腐れ縁である。
見た目はイケメンなのだが、このだらけた性格のせいで彼女はいない。
まあ根はいい奴なので、早く幸せになってもらいたいものだ。
「おはよ~、北島くん~。」
黒くて長い髪、温和そうな表情とそれに似合ったゆったりとした口調。
優しいお姉さんのような見た目のこの女性は、新宮寺優子(しんぐうじゆうこ)さん。
とてもOLには見えないのほほんとした人だが、これでも俺たちの上司である。
うちの部署は俺を合わせてこの4人がいつものメンバーだ。
こんだけ恵まれた職場に居れる俺は本当に幸せ者だと思う。まあ記憶障害さえなければの話だがね。
そうして今日も、いつもどおりの日常が過ぎていく。
昼休み
「記憶障害~~?」
「声が大きいよ馬鹿!!」
素っ頓狂な声をあげる正志。悩んだ挙句正志に相談することにしたのだ。
「すまねえすまねえ、で、何か手がかりでもあるのか?」
急に真面目な態度になり少し驚く。こんな正志を見るのは初めてな気がする。
「て・・・手がかりになるかどうかは分からんけど、しいて言うならいつも残業の後ってことかなあ。」
「ん~~~、おっ!!そういえば玄関に監視カメラがあるぞ。」
何だと?初めて知った。正志が言うには最近設置されたらしい。通りで俺が知らないわけだ。
「確かにいい案だが、監視カメラの映像なんて見せてくれるのか?」
素直な疑問をぶつける。俺らみたいな平社員が見るのは常識的に考えて難しいと思ったからだ。
「そこは安心しろ、警備員の中に知り合いがいるから頼んでおくさ。」
そんな人脈があるのか・・・。今日は初めて知ることが多いな。
「じゃあ頼むわ、それはそうと、ありがとな。」
改めて礼を言う。やはり持つべきものは親友だ。
「なあに長い付き合いじゃないか、一食奢りで勘弁してやるよ。」
いつもの口調に戻る。何かほざいているが今日は許してやるか。
「どうせ薫は今日も残業だろうから明日にでも見せてもらえばいい。
俺が話しつけておくから暇なときに玄関横の宿直室に行って見せてもらえ。」
「りょーかい、おっもうこんな時間だ、そろそろ戻らないと。」
ふと時計を見ると昼休みも終わりを迎えようとしていた。
対策も考えたし、少しホッとした。絶対にこの原因を突き止めてやる。
意気込む俺だが、今後予想を上回る事態になるなんて、このときの俺は夢にも思っていなかった。
不景気な世の中、今日も今日とて残業だ。
今の時間は午後8時、なんだか今日は早めに終わりそうだ。
しかし俺にとってはここからが本番だ。
なんとかして原因を突き止めなければ、俺に平穏は訪れない。
「かおりん!!暗い顔してど~したの?」
残業終わりとは思えないテンションで渚が話しかけてくる。
「特になんでもないよ。」
「そんな暗い顔してちゃ可愛い顔が台無しだよ~。」
ニヤニヤした表情を浮かべる渚。励ましてくれるのはいいが可愛い顔は余計だ。
「何でもねえって、じゃあ俺はそろそろ帰るよ。」
「ふ~ん、まあいいや、じゃっ!また明日ね~。」
満面の笑みで手を振りながら俺を見送る渚。あの天真爛漫な笑顔は癒されるなあ。
俺も手を振りながら玄関へと歩を進めていった。
渚と別れ、しばらく廊下を歩く。勤務時間外のため廊下は既に薄暗い。
ふと気付くと前方に何かが見える。人影のようだが、この明るさでは誰かは分からない。
声が聞こえる。前方の誰かが言っているようだ。よく耳を澄ましてみよう・・・・・・・・・
ガバッと上半身を起こしまわりを確認する。そこは何の変哲も無い自分の部屋だ。
時計を見ると午前7時だ。先ほどまで自分は会社の廊下を歩いていたはずだ。
そしてその後、誰かの声を聴いたはずなのだが、それが誰かはどうしても思い出せなかった。
しかしそんなことでは今日の俺は落ち込んだりしない。
なんたって今日は遂に、その原因が分かるかもしれないのだ。
ルンルン気分で俺は支度を済まし、職場へと向かった。
「おはようございまーす!!」
「おはよっ!!」「おはよーーー。」「おはよ~。」
三者三様に挨拶を返す。渚、正志、新宮寺さん。
「今日は元気だねっ!!いいことでもあった?」
朝っぱらからハイテンションな渚。
「まあな。」
俺もいつにないテンションで答える。流石の渚も少し驚いていた。
「あら~北島くん~、今日は楽しそうね~、いいことでもあったの~?」
「ハイッ!!」
新宮寺さんの質問にはっきりとした口調で答える。我ながらテンション高いな。
「じゃ~その元気を~、頑張って仕事に生かしましょ~ね~。」
まるで子供に言い聞かすような口調で語りかけてくる新宮寺さんに、柔らかな笑顔とその口調に、つい照れてしまう。
流石、この会社の奥さんにしたい女性第一位(非公式)だ。
まあどうせ宿直室に行くのはお昼なので、それまで頑張って働きますか。
そして今日も変わらない日常が過ぎていくのである。
今日は思いのほか仕事が忙しく、宿直室に行く暇が取れなかった。
時間はもう夕方、そろそろ勤務終了時間である。
今日も残業か・・・と思っていると急に新宮寺さんが話し始めた。
「一週間お疲れ様~~。皆さんお仕事とても頑張ってくれたので~、今日は残業は無しですよ~。」
嬉しい誤算だ。まあ善は急げだ。パッパッと支度を済ませ、俺は宿直室へと向かった。
「あーー、君が正志の言ってた子だね。部屋に入れるわけにはいかないからこれを渡しておくよ。」
警備員のおじさんがDVDを差し出してきた。セキリティ上、部外者の立ち入りは禁止なのだろう。
「これが昨日の夜8時からの監視カメラの映像データだ、あとこのことは内密に頼むよ。」
「わざわざどうもありがとうございます。」
深々と頭を下げてお礼を言う。正志にも改めて礼を言っておこう。
「なあに、君みたいな可愛い子の願いならいいってことよ!!」
何か勘違いしているみたいだが、ここは無視しておこう。
せっかくの好意を不意にしたくはない。
軽く一礼をしておじさんの元を去る。俺は久しぶりに自分の意思で自宅へと帰っていった。
自宅
只今テレビの前、早速DVDを視聴中である。
警備員の配慮か知らないが、画面の右上に時刻が載っているので助かる。
確か残業が終わったのは8時くらいだったはずだ。
俺は画面を食い入るように見つめていた。
しかしいつまで経ってもカメラに自分が映らない。
どういうことだ?廊下から記憶が途切れているとはいえ、8時に終わりすぐに帰ったはずである。
いつの間にか右上の時刻を見ると10時となっていた。
画像の時刻は10時半駄目かと諦めかけたその時、遂に俺の姿が映り込んだのだ。
「えっ?」
あまりの衝撃に、つい声が漏れてしまう。そこには思っても見ない人物が俺と一緒にいたからだ。
そこには俺と一緒に玄関を出て行く新宮寺さんが映っていたのだ。
どういうことだ?何で新宮寺さんと一緒なんだ?余りにも想定外の事態に頭が混乱する。
その時、突然携帯が鳴り出す。
慌てて携帯を取り、画面を見て驚愕する。相手は新宮寺さんからだった。
なんと言うタイミングか。ある種の恐怖さえ生まれてくる。
しかしここで負けてはいられない。俺はどうしても原因を突き止めたいのだ。
俺は意を決し電話に出た。
「もしもし。」
「あ~北島くん~?ごめんね~遅くに~。」
いつも通りの口調の新宮寺さん。俺は何とか心を落ち着かせる。
「今日北島くんに間違って私の書類まで渡しちゃったみたいなの~。
それが結構重要な書類なの~、だから悪いんだけど明日でも~届けてくれないかしら?」
そう言われカバンを確認すると、貰った書類の中に一枚だけ明らかに重要そうな書類があった。
「それっぽいのありましたよ?で、どこに届ければいいですか?」
「ごめんね~、メールで自宅の住所送ります~、明日はお休みなのに面目ないです~。」
「了解しました、じゃあ明日伺います。」
「じゃあお願いね~。」
電話が切れる。しばらくすると住所の書かれたメールが届いた。
新宮寺さんの自宅か・・・。
よし!ついでに昨日のことを聞いてみよう。あの人が犯人とは考え付かないしな。
俺と一緒に帰ってるんだから、何か知っているはずだ。
遂に解決が見えてきた。俺は連日の残業の疲れを癒すため、今日は速く寝ることにした。
「ここか・・・。」
今日は土曜日。現在新宮寺さんの家の玄関前にいる。意外にも、俺の家の近所だった。
新宮寺さんの家は最近建ったような立派な二階建ての一軒家だった。俺のボロアパートとは全然違うなあ。
・・・つまらないことを言ってる場合じゃない。俺は気合を入れなおしインターホンを鳴らした。
しかし何度押しても返事がない。ひょっとして出かけているのか?
ドアノブを回してみる。何故か鍵が掛かっていなかった。
「新宮寺さーん!!北島でーす!!」
中に向かって大声で呼んでみるが、やはり返事がない。
ここで俺によからぬ考えが浮かんだ。
ひょっとしたらこの家の中に、俺の記憶障害の手がかりがあるかもしれないと思ったのだ。
俺は悪いとは思いながら、新宮寺さんの家へと入っていった。
中を探索していく。お洒落なリビング、清潔感漂うキッチン、ピンクが基調の寝室。
特にこれといった手がかりは見つからなかった。
帰ろうとした時、ふとあることに気付いた。この家は外から見て二階建てだった。
だがどこを探しても階段が無いのだ。もう一度、俺は家の中を探索することにした。
「これは・・・?」
しばらくして俺は奇妙なものを発見した。
寝室にある一見普通の本棚なのだが、よく見ると本が無いスペースの裏側が空洞なのだ。
俺はもしやと思い、横から本棚を押してみる。すると意外と軽い力で動かすことが出来た。
予想通りその裏から、二階と続く階段が姿を現した。
(いったいなんでこんなところに。)
隠し部屋の存在に少し恐怖が生まれたが、俺は心を落ち着かせ、一歩ずつ階段を上がっていった。
薄暗い階段をゆっくりと上がっていく。
これから起こることへの不安と、解決出来るかも知れないという希望で、心臓がどきどきしている。
階段を上がりきると、一枚の扉があった。耳を澄ますと中から微かに音が聞こえる。
本能が入っちゃ駄目だと警告する。しかしどうにかして解決してやるという思いが勝っていた。
(よし・・・。)
俺は覚悟を決めると一気に扉を開いた。
「あああっ!!駄目!!おちんちん擦るのキモチイイのお!!」
入った瞬間、媚声が部屋にこだました。俺はその声の発生源を見て固まってしまった。
部屋の奥にあるテレビが発生源なのだが、そこに映っていたのが自分だったからだ。
画面の中の俺は女装していて、必死にペニスを扱きながらオナニーをしていた。
口からは涎を垂らし、喘ぎ声をあげながら本当の女性のように快楽を貪っていた。
(なんだよ・・・これ・・・。)
ショックのあまり立ち尽くす俺。あまりにも予想外のことに思考が停止する。
「あらあら~、人の家に勝手に上がるなんて悪い子ね~。」
突然の後ろからの声にバッと振り向く。そこには私服姿の新宮寺さんが立っていた。
いつも通りの笑顔なのだが、今の俺には恐怖しか浮かばなかった。
「これは・・・なんなんですか?」
今の俺の精神状態ではこの質問が限界だった。
「可愛いでしょ~?この子は私のペットなんだよ~。」
嬉しそうな表情で答える新宮寺さん。しかしその言葉が狂気を物語っていた。
恐怖の余り声も出ない。逃げろという言葉が頭の中を埋め尽くす。
「いつもは私が連れて行くんだけど~、今日は自分から来てくれたんだね~。
ご褒美に~、今日はいつもと違ったことをさせてあげるからね~。」
新宮寺さんがゆっくりと近付いてくる。逃げるなら今しかない!!
俺は心に活をいれ、一気に走った。いや正確には走ろうとしたのだ。
「止まりなさい!」
強い口調で新宮寺さんが命令する。その言葉を聞いただけで、俺の体は、逃げることをやめてしまった。
「ふふっ、体が動かないでしょう。ここまで来れたご褒美に教えてあげる。
私はね、昔から催眠術が使えるの。今、自分で身を持って体験してるから信じてくれるでしょ?」
今までの口調が嘘だったかのように男を誘うような口調で喋る新宮寺さん。
どうにかして逃げ出したいのだが、全く動く気配が無い。自分の体が無くなっている様な感覚だ。
「じゃあ今日は~、意識がある状態でシテあげるね。たっぷり虐めてあげるからね。」
頬を染めながら嬉しそうに話す新宮寺さんの顔を最後に、俺の意識は闇へと消えていった。
「薫ちゃ~ん、起きなさ~い。」
私を呼ぶ声がする・・・。そろそろ起きなきゃ・・・。
ゆっくりと目を開ける。目の前に優子お姉ちゃんの顔があった。
「目が覚めた?」
優しくお姉ちゃんが話しかけてくる。ていうか顔が近いよ!お姉ちゃんっ!!
「お!・・・おはよう!!お姉ちゃん。」
ドキドキしてつい声が裏返ってしまう。
大好きなお姉ちゃんにこんなことされたらこうなっちゃうよ~。
「顔真っ赤になっちゃって・・・熱でもあるの。」
お姉ちゃんの手が、私の額に触れる。はわ~!!嬉しすぎてどうにかなっちゃうよ~!!
「あ・・・あのっ!・・・えっと・・・。」
恥ずかしさで声が出ないよ~。これじゃあ私の思いがバレちゃう~~!!
「ふふっ、じゃあちょっと元に戻ってもらおうかな~。
私が手を叩いたら性格だけが元に戻る。記憶はそのまま。けど体は動かない。」
なんかお姉ちゃんが言ってるけど私はそれどころじゃ
パン
手を叩く音が耳から聞こえた瞬間、一気に我に返る。
「え・・・あれ?」
「今の気分はどう?大好きなお姉ちゃんだよ~?」
からかうように喋る新宮寺さんだが、俺は余りのことに言葉も出なかった。
今までの自分の行動を思い出す。普段の俺なら考えられない行動をしていた。
嗜好、性格、価値観、全てが別のものに書き換えられる恐怖を、身を持って体験したのだ。
「試しに薫くんにはお姉ちゃんのことが大好きな妹になってもらったんだよ~。楽しかったでしょ?」
相変わらずおどけた感じで言う新宮寺さん。
「ど・・・どうしてこんなことを・・・?」
意を決して質問する。何故俺にこんなことをするのか純粋に気になったからだ。
「理由なんて無いわ。私はね・・・あなたの苦悶の表情や快楽にあらがう姿が見たいだけ。」
その言葉に絶望した。この人は、人を使ってただ遊んでるだけなのだ。
「じゃあね~、まず跪きなさい。」
「はい、ご主人様。」
口から勝手に言葉が出て、言われたとおりに体が跪く。
「ふざけるな!!俺を解放しろ!!」
突然の体の異常に驚いたが、せめてもの抵抗で声を荒げる。
「ペットなのにそんなこといっちゃ駄目でしょ?ちょっと自覚が足りないみたいね。」
そう言うと俺の目の前に足を差し出してきた。
「足を舐めなさい。」
「はい、ご主人様。」
抵抗しようとする俺の気持ちとは裏腹に、体が勝手に動き出す。
少しずつ、少しずつ、顔が足へと近付いていく。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
その気持ちをあざ笑うように、遂に俺の舌は、足を舐め始めた。
催眠のせいとはいえ、悔しさと惨めさで胸がいっぱいになってくる。
「悔しそうな表情しちゃって、可愛い~。
いい顔をしてくれたご褒美に、嬉しく感じるようにしてあげる。」
俺の意思と関係なく、ピタッと体の動きが止まる。
彼女の手がゆっくりと近付いてきて、俺の耳に触れた。その瞬間、世界から音が無くなった。
何も聞こえない。声だけじゃなく、物音すら聞こえないのだ。
彼女の口が動く。何か言っているようだが聞こえない。
するとその俺には聞こえない言葉に反応するように、また俺の舌が足へと伸びていく。
俺の舌が足に触れる。しかし先ほどとは少し違った。
足に触れた瞬間、舌の先から蜂蜜のような甘さが広がったのだ。
(おいしい・・・もっと欲しい)
強烈な欲望が生まれる。その甘さを確かめるように自然と舌が動く。
どんどん何かが体に吸収されていく。段々と幸せな気分になっていく。
自分の行為がおかしいとわかっているのに、舐めるのがやめられない。
ふと彼女の表情が目に入る。今までに見たことのないような妖艶な笑みを浮かべていた。
足をなめるたびに頭がどんどん蕩けていく。
度の強いお酒を飲んだような陶酔感が、体を包んでいく。
このまま身をゆだねてしまえばどれだけ楽だろうか。そんな考えが頭をよぎる。
(駄目だ!!駄目だ!!駄目だ!!)
なんとか折れまいと必死に心だけは抵抗しているが、それも最早風前の灯であった。
「可愛いわね~薫ちゃんは、嬉しそうに舐めちゃって~、まるで本当の女の子みたいね~。」
俺の姿を見てクスクスと蔑んだ笑みを浮かべる。
こんなところで負けてはいけない。せっかくここまでたどり着いたのにこのままじゃいけない。
せめて、せめて一言でも抵抗したかった。この状況は打破できないかもしれないが、このまま負けたくなかった。
その願いが体に通じたのか、今までビクともしなかった自分の体が止まった。
「・・・おまえ・・・なんかには・・・負けない!!」」
なんともか細い声だったが、口に出すことが出来た。少しでも一矢報いることが出来たのだ。
しかしそのあとかえってきた反応は、予想外のものだった。
「へえ・・・抵抗できるんだ・・・やっぱりあなたは面白いわね。」
その言葉を聴いた瞬間、ぞくっと、体が震えるのを感じた。
先ほどまでとはうってかわっての冷え切った口調に、理性が反射的にとった行動だった。
いつも見てるはずの人なのに、目の前の彼女が、とても怖く感じたのだ。
「いいわ・・・今日はその御褒美、いや・・・おしおきかしらね。徹底的に壊してあげるわ。」
彼女がパチンと指をならした瞬間、俺の意識はまた闇へと消えていった。
「起きなさい。」
その言葉で俺は目を覚ました。
いつの間にか俺は四つんばいの格好になっていた。
「ど・・・どうするつもりだ?」
声は普通に出すことが出来たので質問をする。
「言ったでしょ?壊してあげるって。」
後ろの方から冷たい口調の声が聞こえた。体は催眠のせいか動かすことが出来ないので、何をしているかは分からなかった。
「頼むからこんな馬鹿な真似はっっぎっ!!」
突然、自分の下半身から発せられた衝撃で言葉が切れてしまった。
「すごい声が出たね。あなたは見えないでしょうけど、アナルにバイブを入れてあげたんだよ。」
当たり前のように言われた事が、信じられなかった。
女の子のようにされることへの屈辱が芽生えたが、なによりもそれに対する嫌悪感と、猛烈な異物感に、頭がおかしくなりそうだった。
「がっ・・・ぎっ・・・やめ・・・て・・・くれ・・・。」
ここまで男の自尊心を踏みにじられる行為があるだろうか。あまりの情けなさに泣いてしまいそうだった。
「あらあら泣いたら駄目よ。じゃあその嫌な気持ちを消してあげる。」
そう言うと、またパチンと指を鳴らした。
その音を聞いた途端、先ほどまで自分を埋め尽くしていた嫌悪感、異物感が嘘のようにサッと消えていった。
そして後に残ったのは。
「えっ・・・嘘・・・あっ・・・」
快感だった。
あれからどのくらい時間が経っただろうか。
彼女は俺に刺さったバイブを、無言で動かし続けている。
「んっ・・・あっ・・・んんっ・・・。」
バイブが俺の中を行き来するたびに、なんともいえない快感が体をめぐっていき、自然に声が漏れた。。
彼女にばれないよう、必死に声を押し殺しているが、自分でもこの行為に感じているのは明白だった。
最初はなんとか我慢していたが、今まで体験したことないような、未知の快楽に、俺の心はどんどん押し流されていた。
(これは催眠のせいだ。どうせお尻で感じるように催眠をかけたに違いない。)
頭の中で言い訳をする。こんな変態的な行為に快楽を感じてしまう自分を信じたくなかった。
(催眠なんだから、抵抗してもしょうがないんだ。)
そう考えたら堕ちるのは簡単だった。
「あんっ!!」
快楽に身を任せ、女の子が出しそうな声を出してみる。自分でもそんな声が出るとは思っていなかった。
そしてその瞬間、体に更なる快感が広がっていった。それは、脳を溶かす、まるで麻薬のような快感だった。
「ふぁっ!!・・・あんっ・・・んんんっ!!」
一度味わってしまった甘い蜜を、更に求めるように、恥ずかしい声が漏れる。
そして声を出すたびに、どんどん気持ちよさが増していく。
「気持ちよさそうね。」
ずっと無言だった彼女が、ふと言葉を口にした。
「あんっ!!んんんっ・・これも・・・ぁんっ・・・んっ・・・催眠・・・のっふぁあっ・・・せい・・・だろ・・・?」
喘ぎ声をあげながら言い訳をする。
「フフフ、アハハハハハハ!!あなたそんなこと言うんだ~?」
それを聞いた途端、笑い始める彼女。バイブを動かすのも止めたようで、お尻からの快感がふっと止まった。
「私が掛けた催眠はね、嫌な気持ちが消える催眠だけだよ?アナルで気持ちよくなる催眠なんて~私は掛けてないんだよ?」
絶望的な言葉に思考が凍りつく。彼女の放った言葉が信じられなかった。
「え・・・嘘・・・で・・・しょ・・・?」
余りのショックにうまく言葉が出ない。頭が混乱する。
「う・・嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ!!・・・違う、俺は・・・騙されないぞ!!違う違う違う違う違う違う!!俺は変態じゃない!!これもっ・・・これも催眠なんだろ?」
必死に言葉を紡ぐ。必死に言い訳を述べる。そうしないと、心がどうにかなってしまいそうだった。
「嘘じゃないわよ。あなたは~アナルで感じちゃう~・・・変態さんなんだよぉ?右の鏡を見てごらん。」
そう言うとバイブの動きを再開させる。またお尻からあの快感が復活する。
首が勝手に右を向く。勝手に目線が鏡へといく。
そこには、顔を蕩けさせた女の子が、四つん這いで、淫らにバイブを咥えている姿が映っていた。
それを見た瞬間、頭の中で大切な何かが壊れる音が聞こえた気がした。
「アハハッ!アハハハハハハッ!!」
こわれたように、ワライゴエがデる。
さっきまでなんかカンガエてたけどもうどうでもいいや。だってキモチいいんだもん。なんだかスッゴクたのしいキブンだよお。
「あら ら、ホン に壊 ちゃ た 。」
ウシロのおねえさんがナニかいってる。そんなことよりそのバイブもっとウゴカシテほしいなあ。
「ねえ~、もっとキモチよくしてよお~。」
おねだりをすると、おねえさんはうごかすスピードをはやくしてくれた。
「あああああああ~~すごいよおぉ~~~・・・」
キモチよすぎてコエがでちゃう。
「どう?キモチいい?」
おねえさんがアタリマエノことをきいてくる。うん、だから、もっともっときもちよくなりたいよお。
「あっ!!ひゃあっ!!しゅごい!!きもちっ!!いいよおぉ!!」
ねがいがつうじたのかな?おねえさん、わたしのキモチいいところをテキカクについてくる。
つかれるたびにキモチいいのが、あたまにヒビく。
メからナゼかナミダがでてきた。カナシクないのになんでだろ?キモチよすぎてカラダがコワレチャッタかな?
「あらあら、もうあっちが限界みたいね。じゃあ数を数えてあげるから逝っちゃいなさい。」
どうしてゲンカイなの、まだまだわたしはダイジョウブだよ?
「5」
「ふえっ!!これっ!!しゅごいっ!!」
すうじをきいたシュンカン、カラダにイママデいじょうのカイカンがはしりぬける。なんでかわからないけどキモチいいからいいや。
「4」
「あああああっ!!ひゃあん!!キモヒいいよお!!」
4のときより、スゴイカイカンがくる。あはっ、カガミノなかのワタシ、ヨダレたらしちゃってる。4でこれなら、コノサキどうなっちゃうんだろ。
「3」
「ふわああああん!!あああ!!ひっ!!すっっっっ!ごっっっいっっっっ!!」
おかしくなりそうなくらいキモチいい。あたまのなかでしろいなにかがはじけてる。それがとってもキモチいい。
「2」
「あっっっっ!!ひっっっっ!!あっっっっ!!!」
パチパチひばながひかってる。アタマがマッシロキモチいい。なんだかからだがういてるみたい。どっちがうえ?どっちがした?キモチいいからどうでもいいや。
「1」
「~~ッッッッ!!~~~~ッッ!!~~~~~~ッ!!」
スゴ アタマ マッシロ キモチ イイ コトバ ウマク デナイ ツギ ハヤク。
「じゃあまたね・・・逝ってらっしゃい・・・0ッ!!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッッッッッ!!!」
ヒカリガ バクハツ キモチ ヨスギ マッシロ キエチャウ オヤスミ。
「まさか本当に壊れちゃうなんてね。」
独り言を呟く。今日はとてもいいものが見れた。本当に彼には何度も驚かされてばかりだ。
このパターン自体は何度もやってるが、彼は毎回違う反応なので、楽しみで仕方がないのだ。
「こんな一人に執着することなんてなかったんだけどなあ。」
今までいろいろな子で遊んでいたが、最近は彼ばかりだ。
会社で猫をかぶるのは面倒だが、その程度で済むなら安いことだ。
「これが恋?なあんてね。」
言ってて馬鹿らしくなってくる。こんな歪んだ恋愛なんてあるわけないのは、自分が一番分かっている。
ノーパソでいつもの日課にとりかかる。こうやって遊んだときの映像は、全て保存してあるのだ。
ちゃんと今日の映像に名前をつけて保存する。変に細かい性格は昔からだ。
そういえば、今回は二人分、後処理しなくちゃ。一人はいいけど、警備員はちょっとめんどくさいかな?まあ何とかなるでしょ。
それと彼もちゃんと元に戻してあげないとね。まあこれはいつものことだから大丈夫だ。
「ケーエーオーアールユーっと・・・あとは・・・。」
今日の彼は、今までで一番の反応だったな。次はどうしようか考えるだけで楽しい。
まだまだ彼で楽しめると思うと嬉しくてたまらない。今度はどんな風になるかなあ。
「またあなたの可愛らしい姿、私に見せてね。」
154と最後に打ち込み、これからのことにニヤつきながら、私はパソコンを閉じた。
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