「っ……はっぁ……!!」 喉から侵入したソレは、俺の体内で歪にカタチを変えていた。 針のように鋭く喉を突き刺した一端は、二股に分かれ、俺の両目の視神経へと接続された。 ケーブルの中間────携帯電話サイズの物体は、俺の脳へと腰を据えた。 そして、普通のUSBケーブルの端子側は…………右手へと伸びてきた。 それら一連の動きが、すべて事細かにわかる。 ────異物が外から侵入しただけでなく、俺の体内でカタチを変え、胎内に居すわる気なのだ。 「う、うわああぁあぁあああぁぁぁぁ…………っ!!!!」 その恐怖に、大声で叫びのたうち回る。 神経をすべてむさぼり、引きちぎるような鋭い痛みが全身に走るが、そんなことよりも自分の身体が自分のものでなくなりそうという危機感…………そして未知の物体が胎内に入り込むという事実による恐怖のほうが、遥かに上回る。 「あ、あ、あ…………」 ────セットアップ、完了。 そんな、声が聞こえた気がした。 「…………痛みが、無くなった……?」 恐怖は未だ拭い去りきれないが、痛みが、水で洗い流したセッケンのように消え去った。 「な、なんで……」 声は震えているが、少しずつ落ち着いてきた。 むしろ、先程までのうろたえように、恥を感じる。 …………そうだ、説明書。 「どこだ……?」 辺りをキョロキョロと見回す。 目的のものは、部屋のはじのほうにあった。おそらく今、痛みで暴れてしまった所為で、そちらへとんでいったのだろう。 「…………くっ」 一応歩けるが、身体の芯がシンと痛む。 半ば這いつくばるようにして、なんとか説明書を手に取った。 「……っはぁ。えぇと……」 ──ぱら、と頭からめくっていく。 最初の方は店で読んだ。簡単に言えば………… 『他人を自分の思うがまま操れる』 ということだ。 よくMC系の小説などで見かけるこの能力…… ────くくっ、こんな面白いものが本当にあるとは。 「いででっ……!」 ちょっと笑っただけで身体中に痛みが走る。どうやらまだ完全に痛みが抜けたワケではなかったらしい。 痛みに耐えながらも、早くコレの真相を知りたい俺は、なんとか目的のページを見つけ出す。 「こ、ここだ……」 あ、あった……! だけど、 「……さっきと微妙に違う?」 店で見た時は、もう少し文字──と呼べるかどうかわからないが──が大きかった気がする…… 「まぁそのへんは気にしない方がいいか……」 とりあえずそのページに目を通す。 ……………… ………… …… 「す、すげぇよ…………」 大まかなことしか書いてなかったが、説明書の内容を要約すると、こんな感じになる。 1.体内に棲むケーブルは、所有者の意のまま操れる。 2.ケーブルは、身体のどこからでも出せる。 3.”そこに存在するもの”ならば、どんなものでも対象となり、ケーブルを接続出来る。 4.ケーブルを接続し、手順を踏むと、対象そのものが理解出来る。 5.前項をクリアすると、対象のファイルの書き換え・消去・新規作成などができる。 6.第4項をクリアした時点で、対象はケーブル所有者の作業に抗えない。 …………拙い説明だが、4〜6は明らかにパソコンでできることだ。 つまりは、俺がパソコンで”対象”が外付けHDDみたいな……? む、例えが見つからない。 他にもいろいろと制限があるが、それも第4項をクリアすれば、無いに等しい。 問題はそれで、第4項をクリアしないと制限だらけで、何も出来ないってことか…… 「とにかく、これを使えば人も操れるってことだよな……?」 第3項の意味が気になるところだが…………とりあえず使ってみよう。そのうちわかるだろ。 「ふふふ〜♪ どうやってあそぼっかな〜♪」 やっぱりここは、一度でいいからやってみたいと思ってた──── 「ハーレム? 性奴隷? どっちも捨て難いなぁ……」 やっぱり男として、こういうのしか思いつかないだろ。 やべ、今から股間が疼いてきたよ………… 「よし、決めた!! どっちもにしよう。 俺に尽くす性奴隷のハーレム…………素晴らしいじゃないか」 さて、一人目は、と。……やっぱりさっきの制限とかいろいろあるからな。慣れるまでは近しい人でやるしかないだろう。 「…………理沙、かな?」 クラスで隣の席の『沢渡理沙』。中学からずっと同じクラスで、それなりに親しい。それにほっそりとしていて、顔も可愛い方だ。 でも彼女には好きな人がいるハズ………… 「まぁいっか。どうせこれでいろいろといじれるんだし」 ────ひゅ、と右の掌からケーブルを出す。 手からUSBが出ているというのは、なんとも奇妙な光景だ。 「あ、そういえばコレ、フツーのパソコンに接続できるのかな?」 一応第3項は満たしてるっぽいし……やってみるか。 いつも使っているパソコンを起動し、普通に接続してみる。 ちなみにこのパソコンには改造を無数に施してあり、それなりにハイスペックとなっている。 「んっ……」 接続するとすぐに、ケーブルを伝って電気信号が流れ込んでくる感じがした。 それは一種の快感であり、さきほどケーブルに胎内を犯されたような恐怖感など微塵もない。 「…………これは」 数十秒もすると、このパソコンのスペック・状況・操作などがすべて理解でき、操れるようになっていた。 「すばらしい……!」 これを使えば、どんなセキュリティでもたやすく破れるだろう。なにしろ、そのセキュリティ自体を理解できるのだから。 さらに、インターネットを通して、さまざまなことができそうだ。 まさか本当に”そこに存在するもの”ならなんでもできるとは思わなかった…… まさにパソコン専用の『特殊ケーブル』ならぬ、なんでもOKの『一般ケーブル』だな。 「ふふ。このケーブル、思ったより使えそうだ」 ────ここに、世界最強の一般ハッカーが誕生した。
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