シシ神の申子 もののけ姫
第7章
揺さぶりが何かを変えるとは限らない
7
血痕を追うより先に、あたしの目は柵の外の闇へ走った。
辺りは異様な空気と騒然に包まれていた。
あたしは、アシタカが消えた道とは反対の道を駆け、いつも使っている抜け穴をすり抜けた。
見計らわずとも、あの騒然の中あたしが抜け出したことに気付く者はいないだろう。エボシ様のことは女房さんたちがいるから心配はない。それよりも今は、あの二人が気がかりだ。
月光が灯る暗闇へ飛び出すと、キラリと鋭い緑色が光った。今宵の雲とよく似た銀色の毛並みが風になびく。サンの兄弟たちだ。
「もうじきサンが出てくる。だぶん、正面から。」
「正面・・・?」
グルっと喉を鳴らした兄弟は警戒と憎悪の色を漂わせ、闇の彼方を睨みつけた。
「人間も一緒か」
「うん、たぶんね。・・・・でも、そいつは殺さないであげて。一応サンを助けてくれたから。」
とは言っても、この兄弟がどこまで聞いてくれるかは分からない。出てきた瞬間喰らいつくかもしれない。例え相手が深手を負っていようとも、それが人間であるのなら見境はないだろう。
地響きのような音が鳴った。門が開いたのだ。
かがり火の明かりが黒い夜に流れ出る。同時に兄弟たちが走り出した。
「そなたたちの姫は無事だ。今そっちへ行く。」
アシタカの声がはっきりと聞こえた。とても腹に穴が空いているとは思えない。凄まじい閉門の音が重く響き渡る。
頃合いを見て駆け寄ると、アシタカはサンを自分が連れていたシシに預けていた。その周りを、隙あらばと言わんばかりに兄弟たちがグルグルとうろついている。距離からして、彼はあたしに気付いていない。そのまま少しフラつきを見せつつも自らの足で立っている。
しかし、それもやっとのようだ。
「!!」
言葉を発するよりも早く体が動いていた。ついに彼の足元が崩れ、駆け出したあたしは間一髪でその体を抱え支えた。
「アシタカっ」
じわりと血が滲んだのが分かった。揺すらないように呼びかける。
「・・・・##ツララ##っ・・・何故、ここに・・・。」
苦しそうな息の中に、はっきりと聞こえる声。
「喋らないで。」
小さく告げ、冷えた体をそっと地へ寝かせる。
と、その時。ザリっと砂を踏みしめる音が背後で聞こえ、背中を強く押し退けられた。
「何故わたしの邪魔をした。」
意識を取り戻したサンが声を荒げた。
冷酷な目で横たわるアシタカを見下す。まるで八つ当たりでもするかのように、更にあたしを押し退ける。
「答えろ!」
ギラリと光を帯びた刃をアシタカの喉元に突き立てる。
「そなたを・・・・死なせたくなかった・・・。」
絶え絶えと。その度に傷口からゆるゆると血が流れる。
「・・・・##ツララ##も、そう願った・・・・。」
手にした刃より鋭く険しかったサンの表情が、糸を切ったように消えた。
驚愕。そんな顔であたしを見る。
なんで分かるんだろう。たしかに“止めたい”とは言ったが・・・。上辺のその奥を読まれていた。その通り、サンにもエボシ様にもどちらにも死んでほしくなかった。
「生きろっ・・・・・・そなたは・・・美しい」
闇に溶け込んでしまいそうな声色。あたしの耳にもサンの耳にもしっかりと届いている。
サンは息を詰まらせ飛び退く。美しいと発したそいつを、得体の知れないものを見るように見つめる。
その隙をついて、すぐさま刃を取り上げた。
「・・・・もう助からないかもしれない。」
兄弟たちを先に帰らせ、少し落ち着きを取り戻したサンが短く呟いた。
アシタカはそれきり何も言わない。言えなかった。それほど弱りきっている。
「?##ツララ##・・・?」
アシタカを抱え、引きずるように移動したあたしに、サンは怪訝そうに呼びかける。
「シシ神様のところへ連れていく。」
あたしは清めることはできても、傷を治すことはできない。
反論されるかと思った。が、サンは少し考えるように俯いたあと、珍しく同意した。
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血痕を追うより先に、あたしの目は柵の外の闇へ走った。
辺りは異様な空気と騒然に包まれていた。
あたしは、アシタカが消えた道とは反対の道を駆け、いつも使っている抜け穴をすり抜けた。
見計らわずとも、あの騒然の中あたしが抜け出したことに気付く者はいないだろう。エボシ様のことは女房さんたちがいるから心配はない。それよりも今は、あの二人が気がかりだ。
月光が灯る暗闇へ飛び出すと、キラリと鋭い緑色が光った。今宵の雲とよく似た銀色の毛並みが風になびく。サンの兄弟たちだ。
「もうじきサンが出てくる。だぶん、正面から。」
「正面・・・?」
グルっと喉を鳴らした兄弟は警戒と憎悪の色を漂わせ、闇の彼方を睨みつけた。
「人間も一緒か」
「うん、たぶんね。・・・・でも、そいつは殺さないであげて。一応サンを助けてくれたから。」
とは言っても、この兄弟がどこまで聞いてくれるかは分からない。出てきた瞬間喰らいつくかもしれない。例え相手が深手を負っていようとも、それが人間であるのなら見境はないだろう。
地響きのような音が鳴った。門が開いたのだ。
かがり火の明かりが黒い夜に流れ出る。同時に兄弟たちが走り出した。
「そなたたちの姫は無事だ。今そっちへ行く。」
アシタカの声がはっきりと聞こえた。とても腹に穴が空いているとは思えない。凄まじい閉門の音が重く響き渡る。
頃合いを見て駆け寄ると、アシタカはサンを自分が連れていたシシに預けていた。その周りを、隙あらばと言わんばかりに兄弟たちがグルグルとうろついている。距離からして、彼はあたしに気付いていない。そのまま少しフラつきを見せつつも自らの足で立っている。
しかし、それもやっとのようだ。
「!!」
言葉を発するよりも早く体が動いていた。ついに彼の足元が崩れ、駆け出したあたしは間一髪でその体を抱え支えた。
「アシタカっ」
じわりと血が滲んだのが分かった。揺すらないように呼びかける。
「・・・・##ツララ##っ・・・何故、ここに・・・。」
苦しそうな息の中に、はっきりと聞こえる声。
「喋らないで。」
小さく告げ、冷えた体をそっと地へ寝かせる。
と、その時。ザリっと砂を踏みしめる音が背後で聞こえ、背中を強く押し退けられた。
「何故わたしの邪魔をした。」
意識を取り戻したサンが声を荒げた。
冷酷な目で横たわるアシタカを見下す。まるで八つ当たりでもするかのように、更にあたしを押し退ける。
「答えろ!」
ギラリと光を帯びた刃をアシタカの喉元に突き立てる。
「そなたを・・・・死なせたくなかった・・・。」
絶え絶えと。その度に傷口からゆるゆると血が流れる。
「・・・・##ツララ##も、そう願った・・・・。」
手にした刃より鋭く険しかったサンの表情が、糸を切ったように消えた。
驚愕。そんな顔であたしを見る。
なんで分かるんだろう。たしかに“止めたい”とは言ったが・・・。上辺のその奥を読まれていた。その通り、サンにもエボシ様にもどちらにも死んでほしくなかった。
「生きろっ・・・・・・そなたは・・・美しい」
闇に溶け込んでしまいそうな声色。あたしの耳にもサンの耳にもしっかりと届いている。
サンは息を詰まらせ飛び退く。美しいと発したそいつを、得体の知れないものを見るように見つめる。
その隙をついて、すぐさま刃を取り上げた。
「・・・・もう助からないかもしれない。」
兄弟たちを先に帰らせ、少し落ち着きを取り戻したサンが短く呟いた。
アシタカはそれきり何も言わない。言えなかった。それほど弱りきっている。
「?##ツララ##・・・?」
アシタカを抱え、引きずるように移動したあたしに、サンは怪訝そうに呼びかける。
「シシ神様のところへ連れていく。」
あたしは清めることはできても、傷を治すことはできない。
反論されるかと思った。が、サンは少し考えるように俯いたあと、珍しく同意した。
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プロフィール
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- 雪島氷柱
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- 典型的なO型
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- 大学生
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- 妄想力は並外れていますが、表現力に問題あり;;笑 拙い文章表現で大変見苦しいかと思いますが、楽しんでいただけたら光栄です。 更新はわりかし早めで。
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