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強制わいせつ:10歳の告訴能力、「幼い」理由に否定 「地獄だった、重い罰与えて」も届かず

 母親の交際相手からわいせつ行為を受けたと訴えた女児(当時10歳11カ月)の告訴能力を、富山地裁(田中聖浩(きよひろ)裁判長)が「幼い」ことを理由に認めず、起訴そのものを無効とする公訴棄却の判決を下していたことが分かった。富山地検は「告訴能力は年齢で一律に決まらないのに、判決は実質的検討をしていない」として控訴している。強制わいせつ事件などの起訴について刑事訴訟法は、被害者らからの告訴が必要と定めているが、告訴できる年齢に規定はない。子供が性犯罪の被害に遭う事件が絶えないなかで、審理が注目される。【大森治幸】

 判決は今年1月。地裁は、富山市の無職の男(42)に対し、交際相手の女(39)の長女(当時15歳)や次女(同10歳11カ月)にホテルでわいせつな行為をしたとして、強制わいせつ罪など3事件で有罪とし、懲役13年を言い渡した。女に対しても、宿泊予約の手助けをしたとして同ほう助罪などで懲役4年を言い渡した。一方で、次女に対する強制わいせつ事件1件は公訴を棄却した。

 被害者が未成年の場合は法定代理人である親権者が告訴できるが、地検は一連の事件で母親の女も容疑者として捜査しており、告訴権者にはあたらないと判断。公訴を棄却された事件では「地獄だった。重い罰を与えて」と訴える次女の供述調書を告訴とみなしたうえ、祖母からの告訴状を受け起訴していた。

 地裁は判決で、(1)被害の客観的経緯を認識している(2)被害感情がある(3)制裁の意味や仕組みを理解している--を告訴が有効な条件とした。そのうえで「幼い年齢」や本人の正式な告訴状が作成されていない状況から、「告訴能力を有していたことには相当な疑問が残る」と指摘した。祖母の告訴状も、母が最終的に起訴されなかったことから、告訴権者は母であって祖母ではないとし、無効と判断した。次女を巡る別の事件では、母親を起訴していたため祖母の告訴状を有効とした。

 これに対し、地検は本人の告訴状について「形式的な告訴状より、被害者の生の言葉の方がわかりやすい」とし、「次女の供述は具体的で処罰感情などもあるのに、地裁は本人への尋問もせず、告訴能力を実質的に検討していない」と反論する。

 ◇小6に認めた例も

 告訴能力と年齢に関する統計は最高裁にもないが、小学生などの能力を認めた判決は過去にもある。

 03年の東京地裁判決は、性的暴行を受けた小学6年生の女児(当時12歳3カ月)について「被害の内容を具体的に認識しつつ、処罰を求めている」として告訴能力を認めた。

 07年の津地裁判決では、準強姦(ごうかん)未遂などの被害を受けた知的障害のある少女(同16歳)について、知的水準は7~8歳程度とされたものの告訴能力を認めた。

 公判で「刑務所はどのようなところか」と聞かれて「悪い人を懲らしめる」と答えたことなどから、処罰の概念を理解していると判断した。この裁判でも告訴状はなかったが、少女の調書を告訴と扱った。

 告訴能力とは一線を画すが、11歳の証言能力を認めた例もある。1948年の最高裁判決は、強盗事件の証人となった児童について「記憶している事実を順序よく尋問に答えており、事理を弁識する能力(判断能力)を備えていた」とし、供述内容を証拠とした。【大森治幸】

2012年3月14日

 

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