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「日中友好の鹿」 農家の男性、餌代など1300万円自己負担

「友好の鹿」が収容されている上山市の飼育場。鉄パイプの柵なども男性が自費で設置した

 友好都市の中国・吉林市から山形市に贈られた鹿を同市に代わって飼育している上山市の農家の男性(82)が、2010年度まで13年間、餌代など必要経費の支給を受けていなかったことが分かった。山形市は、鹿の所有権が男性側にあったことを理由に、謝礼名目の年30万円だけを男性に渡していた。餌代だけで年100万円以上が必要とされ、男性は1300万円以上を自己負担したとみられる。

 鹿は1986年に4頭贈られ、当初は山形市内の観光会社が春から秋まで飼育し、冬場は男性が預かっていた。その後、観光会社は飼育から撤退し、男性は98年、当時15頭(現在20頭)に増えた鹿を完全に引き取り、以来、通年で飼育を続けている。
 山形市によると、鹿の所有権は市から観光会社を経て、98年に男性に渡った。市は「鹿は市の所有物でない」との理由で餌代などを負担せず、代わりに2001〜10年度、謝礼を各30万円、計300万円支払った。98〜00年度の3年間は謝礼も支給していない。
 男性によると、餌はおからや干し草、リンゴなど。仕入れに月10万円程度が必要で、餌代だけで1600万円程度を負担してきたという。単純に謝礼分を差し引いても1300万円程度になる。
 自宅前の飼育場(約1300平方メートル)も自費で設置し、鉄パイプを組み合わせた柵や小屋などの建設・改修費を含めると、男性が投じた金額はさらに増えるとみられる。男性は「(かかった経費を)市に請求するつもりはない」と話す。
 男性は体力的、経済的に飼育が負担になったとして、2年ほど前、市に今後の飼育方針を相談。市は、個人で負担しきれない経費が発生していることを、この時点で初めて把握したという。
 市は鹿の所有権を11年度、市に戻し、餌代と人件費計200万円を初めて予算計上した。新年度も同額を予算措置し、飼育委託を継続する方針。
 市観光物産課は「男性に鹿の所有権があった時期の経費は、市に負担する義務がない」と説明している。

◎農家男性一問一答/月10万円、年金から捻出

 中国・吉林市から山形市に贈られた鹿を世話している上山市の農家の男性(82)は河北新報社の取材に応じ、飼育に至る経緯などを語った。

 −鹿の飼育経費をどのぐらい負担したか。
 「餌代だけで1600万円ぐらい。月に10万円ほどで(山形市から支給されるまでは)年金から捻出した。(飼育場に)柵を作ったり、(以前)道路に案内看板を立てたり、というのも自分でやった。もう済んだことだし、好きでやったこと。(市に経費を)請求するつもりはない」

 −なぜ鹿の世話をするようになった。
 「最初に山形市から飼育を委託された観光会社に親戚がいて、頼まれた。動物好きなので、鹿を飼うのは道楽みたいなもの。神経質で懐かないがかわいいもんだ。ただ、妻は『旅行も行けない』とこぼしている」

 −鹿の所有権を山形市に戻したのは。
 「3年前に入院し、妻に(鹿の世話で)負担をかけたので、市に相談した。市は殺処分も検討したようだが、動物愛護団体が反対したので、市が(鹿を所有し)経費負担する方向に動いたと聞いている。それまでの経費(の領収書など)を市の担当者に見せたら(高額で)びっくりしていた」

 −見物客は来るのか。
 「以前は写生に来る子どもたちもいたが、いまはめったに人は来ない。昨年、所有権が戻るのを機に山形市の市川昭男市長が来て、『ありがとう、ご苦労さん』とねぎらってくれた。吉林市の関係者は10年前に来たのが最後だ」

 −山形市の対応をどう思うか。
 「本当は市が(飼育)環境を整備して、鹿を広く市民に見せるのがよかったと思う」


2012年03月14日水曜日


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