|
「リクルーター」が、重要性を増している。彼らによる「面接」まで行われると聞けば、攻略なくして内定なし。「本音」を調査した。(AERA編集部 直木詩帆、井上和典、東川哲也)
慶應義塾大学3年の男子学生(21)は現在、就職活動中。複数の企業の「リクルーター」に会っている。
リクルーターとは、会社の採用活動を助ける若手社員のことで、出身大学の学生などと個別に連絡を取り、自社の情報を提供したり、優秀と思われる学生に自社へのエントリーを勧めたりする。従来は、本格的な選考に入る前の「質のいい母集団形成」を目的としていたが、冒頭の男子学生は、金融系企業のリクルーターとの面談で、こんなことがあったと話す。
「最後に自己PRをするように言われたのですが、話している間、手帳に細かくメモを取ってるんです」そして、気が付いた。「これって面接なんだな」リクルーターによる面接、いわゆる「リク面」と呼ばれるものだ。リクルーターとの面談の段階で優秀な学生に事実上の内定を出す「一本釣り」狙いの企業が増えているという。
だとすれば、リクルーターの攻略なくして内定はない。アエラでは、ネットリサーチ会社マーシュの協力を得て、リクルーター経験者200人を対象にアンケートを実施。活動の実態と彼らの「本音」を調査した。
●顔や表情を見ておけ
200人のうち4割強が男性、5割強が女性で、約5割が従業員1千人以上の企業に勤務していた。調査票には、実感のこもった赤裸々な言葉が並んだ。興味深かったのは、アンケートに答えたリクルーターの半数にあたる98人が、「会社から、学生の顔や表情を見ておけ、と言われている」と答えたことだ。
個人の意見としても、「感じが悪い」のは身だしなみがだらしなかったり表情が暗かったり、話を聞いていなかったりする学生で、「感じがいい」のは表情が明るく、身だしなみが整っていて、話をきちんと聞く学生と答える人が多かった。「第一印象」がいかに重要かがわかる。
もちろん、話はそう単純ではない。金融機関に入社するなり1年目からリクルーターを任されたという男性(26)の場合、会社の施設に学生を呼んで、午前と午後にそれぞれ4〜5人ずつ面談していた。多いときは、1日に30人を超えたこともある。「人事からメールで参考質問集が送られてきました。学業や部活動、アルバイトなどを聞くように、と」
●焦りが見えはじめた
一人ひとりの学生について、「社交性」「論理的に話せるか」といった項目を評価してメモを残す。そのメモが最終面接までついて回るという。「金融はサービス業の側面がありますから、お客様に会わせられないような身だしなみの学生に、よい評価はつけません」この会社では、リク面だけで内定一歩手前までたどり着ける。なぜいま、リクルーターの活用が増えているのか。
例年より2カ月遅れで2011年12月に始まった、13年入社の就職活動。4月に本格化する面接などの選考を前に、学生、企業、双方に焦りの色が出はじめている。学生が焦るのは、単純に就活期間が短くなって、短期間のうちに自己分析から業界研究、企業選びといった一連の準備を進めなければならないから。一方の企業が焦るのは、学生が「就活に無知」だからだ。
「12月開始」が、就活の早期化を是正し学業の妨げになることを避けるなどの目的で、経団連が「採用選考に関する企業の倫理憲章」を改めたために起こったことはご承知のとおり。会社説明会、企業セミナーなど、採用のための広報活動や、学生からのエントリー受け付けは「12月1日以降」とされ、2カ月遅れへの不安からか、11年12月1日にオープンした大手就職情報サイトの「リクナビ」「マイナビ」にはアクセスが集中。つながりにくい状態になったことも大きく報じられた。
このことは当初、「就活に対する学生の意識の高さ」を示すものと考えられ、企業も当然、それを期待していたが、就職事情に詳しいHRプロの松岡仁さんによれば、実態はこうだ。
「有効に時間を使っていたと感じる学生は少なかったそうです。2カ月遅れても就活に無知なままスタートする、という結果になっている」
●リクルーターの効用
HRプロが企業に対し、11年12月時点でのプレエントリー数を尋ねたところ、「昨年以上」「昨年と同レベル」と回答した企業が6割に上ったが、これも、企業側にとってはとりあえずエントリーした「志望意欲の希薄な母集団」が形成されていることを示す、というのが松岡さんの分析だ。
実際、昨年12月上旬に催された合同説明会は、数時間待ちの会場が出るなど学生であふれたが、来場理由を聞くと「興味本位」と異口同音に答え、業界研究や企業選びまでは「現段階では到底難しい」と話す学生が多かった。
そこで注目を集めたのがリクルーターだ。
バブル期には、主に金融やメーカーなど、採用人数の多い企業を中心に広く使われ、数百人単位の社員を動員したところもあった。社内や喫茶店の一角にリクルーターが陣取って、次々と学生と面談する光景も見られたが、景気の悪化や採用人数の減少とともに動員数が減り、リクルーターを活用する企業そのものも減っていった。
リクルーターの恩恵を受けられたのは特定の大学だけ、などの見方もあるが、民間企業で人事担当の経験がある『人事部は見ている。』の著者、楠木新さんは、こう話す。
「かつては本選考前にリクルーターと接触することで、内定が取れるかどうかの『相場観』がつかめた部分もあった。いまの学生の中小企業離れは著しいし、リクルーターとの接触があまりなくなって相場観もわからない。だから、早い時期に著名企業ばかりを受けてしまう。リクルーターには、合理的な部分があると言えなくもないんです」
前出の松岡さんも言う。「短い期間で志望度合いの強い母集団を形成するために、リクルーターを復活させるという企業の声を聞いています」
●力量や質が問われる
就活知識が少ない学生に自社や業界に興味を持ってもらい、エントリーへの動機付けもしなければならない。HRプロの調べでは、東京、京都などの旧帝国大学や国公立大学の学生約20%が、12月の早い段階でリクルーターと接触したと回答。特に理系で高い割合を示した。「リクルーターの力量や質も問われるでしょう」(松岡さん)
だが、前出の金融機関勤務の男性は、こう打ち明ける。「トータルで100人以上の学生と会いましたが、内定を得た人は1人もいません」
アエラの調査でも、「自分が気に入った学生が採用されるとは限らず、時間の無駄」という回答があった。若手社員は学生と年齢が近く、自然に話を引き出しやすい半面、人事権までは持たない。通常業務をこなしながらリクルーターとしての職務をこなす若手には、このことに不満を感じる人もいるようだ。
●フェイスブックで接触
リクルーターを使っていない外資系IT企業の人事担当者は、「社会経験の少ない社員がどれだけ学生を評価できるのか」と疑問視する。
インターネット広告会社のセプテーニは、「ソーシャルリクルーター」というネット上での就活支援をしている。会社が選んだ社員のフェイスブックのアカウントを公開し、ソーシャルリクルーターとして学生の意見や質問に答えさせる。
ただ、一般のリクルーターと異なり、面接の合否を左右するようなことはない。人事担当者は言う。「いまの学生は、就職支援サイトなどにある膨大な情報に触れ、必要なものを取捨選択しなければなりません。また、いわゆるリクルーターも、学生と面談するたびに同じような質問に答えなければならない。時間もコストもかかります」
フェイスブック上のソーシャルリクルーターなら互いの「無駄」を抑えられる、と。「多くの学生が必要とするだろう情報や質問はフェイスブックにログ(履歴)として残せるので、学生は好きなときに確認できる。社員も同じ質問に答えなくて済みます」
ウェブで単純な会社情報を発信するのではなく、コミュニケーションを図りながら学生に会社を知ってもらいたい。企業の規模を問わず、学生と接触する機会を増やせる例だ。