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【コラム 私は見た!】

把瑠都は、つりに磨きをかけろ

2012年3月13日

 把瑠都が嘉風を豪快きわまるつりで倒した。この勝ち方は、把瑠都に最も向いた勝ち方である。だから、かねてこの勝ち方に磨きをかけろと言ってきている。しかし、本人もそばについている人たちも、何もそんなことにこだわる必要はないと考えているらしい。

 時にこの技の鮮やかな決め方を見せてくれるものの、さらにお家芸の段階まで高めようという気配はないようだ。私などの素人衆の意見などは、参考にする必要もないと考えているのかもしれない。

 それも分からないではないが、果たして素人衆の言うことにも耳を傾ける必要はないのだろうか。

 力士もあるところまでは芸の魅力で売る仕事なのだから、客席から“待ってました”という声がかかるような魅力を、芸の内として備えていた方がよい。それから、以前にも書いたことがあるのだが、攻められる側にとって、つりは一番防ぎにくい技なのだ。なにしろ、つられた力士は両脚を宙に浮かされてしまうのだから、防ぐといっても、正直のところ防ぎようがないのだ。

 対嘉風の一番は、まさにそういった闘いだった。いや、闘いではない。闘いにも何にもなっていない。そうなってしまった原因はどこにあるかと考えると、把瑠都の対戦相手にとって一番厄介なのは、あの上背なのだ。

 この上背の件は、一種の天然の要塞(ようさい)を体の周囲にめぐらしてあるようなもので、いかに稽古に努力を注いでも、いかにタイミングに工夫を凝らしても、追いつかない。防ぐ方法はごく単純なもので、つらせないことしかない。

 それだけの天与の有利さを、把瑠都は持ち合わせながら、つりを攻めに出してくるのは、一場所に一番か二番である。もったいない話ではないか。

 多分、十八番の技はめったに出さないから高い値打ちを持っているのだ、といった誤ったことを教えた人がいたのだろう。私は大変な間違いだと思う。組み止めたら、次の段階としてつりが出てくる。そこまで売り込めば、後は観客が一緒になってつりを待ってくれる。そうなってこそ、平成の名力士たちが土俵に上ってくる。私はそうなった把瑠都を見てみたいと思う。

 稀勢の里が、例のごとき自壊作用で連敗してしまった。この力士には、勝とうと努力して勝ちにくいところに入り込む悪い癖があるようだ。 (作家)

 

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