アニメ様365日[小黒祐一郎]

第157回 『DALLOS』

 1983年のTVアニメで、まだ印象的だったタイトルは残っているが、今日から数回は、TVアニメ以外の作品を取り上げたい。『DALLOS』の第2部がリリースされたのが、1983年12月16日。ビデオソフトとして販売するために製作されたアニメ作品をOVA(オリジナルビデオアニメ)と呼ぶが、世界初のOVAが『DALLOS』だった。ビデオメーカーはバンダイビジュアル、制作はスタジオぴえろ(現・ぴえろ)。原作としてクレジットされているのが『科学忍者隊ガッチャマン』をはじめ、タツノコリアルヒーローものを手がけた鳥海永行、監督はその弟子である押井守。役職は、原作と監督だったが、実際には、鳥海永行と押井守の共同監督のかたちであったらしい。
 『DALLOS』は未来SFものであり、舞台は21世紀末の月面開拓都市モノポリス。虐げられている月の開拓民は、地球連邦に対して抵抗運動を始めていた。開拓民の少年であるシュン・ノノムラは、ゲリラと統括局軍に巻き込まれていくのだった。タイトルになっているダロスとは、月面にある謎の建造物。月の開拓民は、ダロスを神のように思っている。
 何しろ世界初のOVAだ。いったいどんな凄い作品なのかと期待が高まった。僕達は、TVのアニメーションに、企画的な制限がある事を知っていた。作り手は、TV局やスポンサーの言う事を聞かなくてはいけないし、視聴率も気にしなくしてはいけない。表現的な部分にしても、やりたいようにできるわけではない。しかし、OVAならそういった制約はない。クリエイターがその才能を充分に発揮できるではないか。また、初期のOVAは現場スタッフが主体となって企画したオリジナル作品が主流だった。当時はオリジナル作品に対する期待が大きかった。オリジナルならば、今まで観た事なかったような素晴らしい作品が生まれるのではないか。それは『DALLOS』リリース時ではなく、むしろ、『DALLOS』以降に刷り込まれた理屈かもしれないが、僕達は、そういったOVAの可能性に信じていた。だから、わくわくしてOVAを観た。
 『DALLOS』は変則的なかたちでリリースされた。当初は30分、全3部とアナウンスされていたはずだ。見せ場であるアクションシーンが多いという理由で、最初に「第2部 ダロス破壊指令!」がリリースされ、その翌月に、物語序盤の「第1部 リメンバー・バーソロミュー」が発売。第3部はなぜか前半と後半に分かれ、1984年4月に「第3部 望郷の海に起つ —ACT.I—」が、1984年7月に「第3部 望郷の海に起つ —ACT.II—」がリリース。全4巻で完結した。
 OVA初期においては、少なくとも僕の周辺に関しては「OVAとは買わないと観られないもの」という意識があった。それは今ほど、レンタルショップが普及してなかったためでもある。『DALLOS』に関しては、友達の1人が全巻を買うと宣言していたので、僕は彼に観せてもらっていた。最初にリリースされた「第2部 ダロス破壊指令!」はアクション中心の内容で、ドラマも緊張感があり、楽しめた。観返すと第2部は、押井色が強いような気もする。メカアクションの見せ場は、山下将仁が作画を担当しており、僕らは大喜びだった。当時のアニメ誌でも、山下作画のパートと、銃を撃った際の薬莢のリアルな描写が、見どころとして紹介されていたはずだ。主人公の幼馴染みの女の子を鵜飼るみ子が、美形の敵司令官を池田秀一が演じており、その『ガンダム』っぽいキャスティングも、ちょっと嬉しかった(ちなみに敵司令官のフィアンセは、またもや押井作品常連の榊原良子が演じている)。
 続く第1部は、人物と世界観の紹介といった感じで、脂っ気がなく、退屈に感じた。しばらく経ってからリリースされた第3部前後編は、「望郷の海に起つ —ACT.I—」ラストから「望郷の海に起つ —ACT.II—」前半までの220カットにも及ぶ戦闘シーンを山下将仁が担当。エネルギッシュな仕事ぶりで、彼の代表作だろうと思う。その部分は見応えがあったが、ドラマに関しては、今ひとつ冴えないものだった。何だか長い物語のプロローグ部分だけ観せられたように感じた。謎めいたものとして扱われていたダロスも、結局、何なのかよく分からなかった。
 DVDの解説書等で触れられているが、元々『DALLOS』は『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の後番組として企画されたものだった。しかし、『モモ』の放映が延長されたために、『DALLOS』は放映する枠がなくなってしまった。企画は一旦ペンディングとなったが、それがOVAというかたちで世に出た、という事らしい。DVDの解説書によれば、TVシリーズとして企画されていた段階では、ダロスは、先人の科学者達が残した宇宙の果てとの通信機という設定で、物語のラストで彼方からメッセージが届き、移民達はそれによって宇宙の新天地にエクソダスする予定だったとか。しかし、当時の僕達はそんな事情を知らなかったし、もしも、元々がTVシリーズの企画だったとしても、OVAになった段階で、短い話数で完結するように話を組み直すべきだったと思う。
 ともかく『DALLOS』全話を観た印象は「こんなものか……」だった。それでも、僕達はOVAの可能性に期待して、次から次に発表されるタイトルを追いかけ続けた。今になって思えば『DALLOS』の主な見どころが、アクション作画であったのは、後のOVAの展開を暗示しているようだ。

第158回へつづく

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(09.06.30)