(cache) SS LIBRARY -WORKS:002-004-004:砂理 その4

works:002-004-004

砂理 その4

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 支度のために仕事を早く切り上げ、調教部屋までやってきた僕は、ドアの前にうずくまった砂理をみつけてとっさに身構えた。まだ授業の終わっていない時刻だ。指定したよりも遙かに早かった。抜け出して、先手を打とうとしているのかもしれない。トラップの有無を確かめるために、何気ない風を装いながら周りの壁や天井を伺った。一見した限り、危険はなさそうだった。
 奇妙なことに、うずくまった砂理は先ほどから身動きをしていない。ただ呼吸に合わせて、規則的に背が上下しているだけだ。
(眠ってるのか?)
 待ち伏せをしようとしてうっかり眠ってしまったのだろうか。いや、幾ら砂理でもそこまで間抜けではないはずだ。多分。
 他に考えられる可能性として、彼女が既に折れてしまっている、というものもある。美月のいびりに疲弊して、自分の境遇を受け入れてしまったのかもしれない。こちらの可能性の方が高いような気がした。榊原からの連絡を聞いた印象でも、そろそろ折れるだろうと予想していた頃合いだ。
 できれば、まだ崖っぷちで踏みとどまっていて欲しかった。
 いったん砂理を置いて部屋に入った僕は、適当な拘束具を取って戻ると、砂理の手脚を適当に縛ってから部屋の中に連れ込む。人目に付かないよう十分注意した。よほど深く眠っているらしく、部屋に連れ込んだ後に服を脱がせて、寝台に張り付けても、砂理はまだ目を覚ます気配がない。伝え聞いていたとおり、陰毛は綺麗に剃り落とされていた。
 ほんの二週間程度の期間で瞬く間に零落し、心身ともに磨り減らせてきたのだろう。くたびれた寝顔には苦悶が浮かんでいた。目を覚ますまで時間がかかりそうだったので、裸体の上に毛布を掛けておく。風邪で弱られても面白くない。
 必要な道具の準備を終えたあとは、夕食を取りながら起きるのを待つことにした。このワンルームはなかなか環境がよかったので、寝泊まりに使わせて貰うために給湯ポットや食料を持ち込んである。できることならガスも通しておいて欲しかったが、本来なら住むために借りた部屋とは違うので文句を言うのも筋違いだろうし、そもそも僕は勝手に使っているだけだ。
 リンゴと野菜サラダをおかずにインスタント焼きそばを掻き込み、食後に白湯を啜る。それから一息ついてもまだ砂理は起きそうになかったので、こちらから手を出すことにした。



 穏やかになってきた寝顔にアイマスクをかけ、口にギャグボールを取り付けてから、毛布を取り去る。何も身につけていない体が空気に曝された。ん、と気怠げに声を出して寝返りを打とうとする裸体に、マッサージオイルを振りかけてやると、くぐもった呻きをあげながら砂理は目を覚ました。
 覚めたといっても、アイマスクに覆われた目には何も見えていない。
「・・・ん・・・・・・はぇ、はひ?」
 言葉になっていない音がギャグボールから漏れ聞こえる。
 まだ状況のわかっていない彼女の脇腹から腰回りにかけて、オイルで湿らせた掌を這わせた。目隠しされて触覚が敏感になった体は、不意打ちに対して素直に反応する。
「ぁっ・・・・・・は、はひ!? ふぁ、んっ・・・んぐっ・・・!」
 慌てて起き上がろうとするが、四肢を開かれた状態で寝台の四隅に繋がれているため全く身動できなくなっている。当然、アイマスクにも手は届かない。
 動転して手脚をばたつかせる砂理に何も言わず、ただ手を動かした。太股から内股、陰部、再び脇腹を通って、脇からうなじ、耳の裏と丹念にマッサージしていく。何の抵抗もできない体を隈無く刺激していきながら、じっくり弱い部分を探っていった。
「・・・んぁ・・・・・・は、ぐっ・・・ぁ・・・・・・ひぉひ? はんっ・・・・・・や・・・ぐっ・・・っいっ・・・・・・ぁ・・・っは? ふっ・・・はっ・・・むぐ・・・・・・はへ、っ・・・ほうっ、ぐっ・・・・・・はあっ!」
 激しく感じていた。何も見えず、口もきけず、身動きもできない不安が刺激に上乗せされ、彼女をいっそう乱れさせている。毛の剃られた陰部も、かなり早い段階から愛液を流し始めていた。体が弄ばれることに慣れてきている証拠だ。
 もう一押ししてやることにする。
 用意してあった蝋燭に火を付け、左手に持って裸体の上にかざす。赤い筒の先に煌々と灯った炎が蝋を溶かし、熱い滴が股に垂れた。
「ひっ・・・・・・!」
 砂理は反射的に足を縮めようとして、足首に巻かれた皮バンドに阻まれる。
 蝋燭の突き刺すような熱さからも、彼女は逃げることができないのだ。僕は蝋燭を指先や、胸の中央へと移してつぎつぎに滴を落としていった。
「・・・っ・・・・・・ふっ・・・は、ひっ!? あむっ・・・ん・・・・・・んんっ! っ・・・・・・はぁ!」
 ギャグボール越しに声にならない絶叫が響いた。
 叫ぶ気力が残っていることに安心する。まだやってもよさそうだ。
 熱いだけというのも難なので、僕は蝋燭を持った左手はそのままに、開いた右手を胸の上に添え、努めて優しく愛撫を始めた。
「ふぁ・・・く・・・・・・ぁっ! ん・・・くっ・・・んっ・・・・・っ・・・うぅ!」
 無言のまま手を動かす僕の前で、砂理は苦悶と喘ぎとを織り交ぜてもがいている。すらりとした肢体は大量の汗と、所々に付着した蝋、股間から溢れる愛液に塗れ、本人の意志とは関係ない痙攣を繰り返していた。恐れと苦痛、そして快楽に襲われているだろう砂理の心中は、アイマスクとギャグボールに隠れた顔からは読み取れない。
 蝋と愛撫を同時に加えるのは思ったよりも難しかった。手脚を拘束されているとはいえ、身を揺すれる程度には弛みがある。蝋だけを垂らすならともかく、手も同時に動かそうとすれば度々狙がはずれてしまうこともあった。
 だがその分、効果も大きい。この苦痛と快楽の入り交じった感覚のなかで、無防備な砂理は完全な前後不覚に陥っているだろう。
 次第にこちらも熱中し始めて、息が上がってきた。
「・・・ひっ・・・・・・はっ、くっ! ぁ・・・・・・はんっ!」
「どうだ、砂理。 熱いか? それとも、気持ちいいか?」
「・・・・・・っ・・・ん、ひ・・・・・・はあっ・・・!」
 話しかけても、狂乱に近い有様の砂理には答えるだけの余裕がないようだ。最早、口のきけるきけないは関係ない。そもそも僕の声が聞こえてすらいないかもしれない。
「はあっ・・・・・・っあ・・・はぁ・・・・・・んっ・・・・・・はっ・・・くんっ・・・・・・んっ・・・」
 余裕を失い、もがく力も弱くなるにつれて、裸体からは不安による強張りが抜けていった。蝋を垂らされることに激しい反応がなくなり、口から吐き出される声からも苦悶の含有率が減少する。
 やがて砂理は艶やかな喘ぎを繰り返すだけになった。割れ目に二指をいれ、膨れた陰核を軽く摘む。蝋燭は脇腹の上においたまま、陰核を弄る指に意識を集中してやった。
 絶頂まで達する。
「・・・はっ・・・・・・っ・・・はあ――っ!」
 切ない悲鳴が狭い部屋に立ちのぼる。
 その時には蝋燭も半分近くまで溶けてなくなっていた。息をかけて火を消してから、傍に置いておく。続けて息苦しそうにしている口からギャグボールを外した。それからアイマスクの紐に手をかけて、もったい付けるようにゆっくりと外してやる。
「よお、今日もいい声で鳴くな」
 挨拶に、砂理は答えない。
 その代わりに、涙の溜まった双眸が恨めしそうに僕を見上げていた。
「気分はどうだ、学校でもパシリに降格したんだって?」
「・・・・・・」
「下の毛が綺麗になっちまってるな。陰毛を剃るなんて、美月も酷いよなぁ」
「・・・・・・なさいよ」
 砂理が小さく呟いた。
「なんだって?」
「もう、好きにしなさいよ。どうせ私が意地を張ったって無駄なんでしょう? 好き放題にいたぶられるだけなんでしょう? みんな揃って私が落ちぶれるのを愉しんでるんだわ。ええそうよ、私にはもう何もないわよ。全てあなたに奪われたから! いいわよ、犬にでも何でもなってあげるわよ!」
 痛切に畳みかけられる言葉には、まだ傲慢さが見え隠れしていた。どうやら女王様から悲劇のヒロインに鞍替えしたらしい。まだ折るべき部分が残っているとわかり、心から安心した。
「はは、元気だなぁ」
「余裕ぶらないで・・・・・・っ」
「でもそれじゃまだ駄目だ。強情なところが残ってる。口先だけで犬だって言われても困るよ」
「い、今更なによ! だって、あんなに・・・・・・酷いことしながら無理矢理言わせたくせに」
「自分が犬だって言うなら、その証拠を見せて貰おう」
 寝台の傍に並べた道具の中から、端にチューブの付いた扁平なガラス製の容器を取って、砂理の足の間に据える。チューブの先を持ってから、尿道を指で広げた。
「いれるからじっとしてろよ」
「いれるって・・・・・・溲瓶?」
 不自由な体勢から、顔を上げて股間に目を遣る砂理。本来なら端正なはずの細面を引き
つらせ、こころなしか声が震えているようにも聞こえる。
「僕の見ている前で尿を垂らしてみてくれ。犬なら、そのくらい何でもないはずだ」
「そんなもの見て何が面白いのよ! 馬鹿じゃない、あなたそんな低俗な趣味だったの!?」
「尿を見るのが好きなんじゃない。僕はただ、砂理が人前で放尿するような奴になったっ
てことを確かめたいだけだ。普通の人間にはできっこないが、砂理にならできるだろう?」
「そんな・・・・・・そこまでやらないといけないの? これだけ惨めにされたんだから、もう十分でしょう?」
「まだわかってないんだな」
 チューブを尿道に差し込みながら、僕は言った。
「おまえが下らない見栄を微塵も残さず捨ててしまうまで、止めるわけないだろう」
「嫌・・・・・・おしっこは、嫌。そんなの無理よ、謝れっていうならいくらでも謝ってあげるから、許してよ! 負けなら認めてあげるわよ!」
「どうしても嫌なら、こっちにしよう」
 先ほど使ったアイマスクとギャグボールの紐を摘んで、砂理の顔の上にぶら下げる。
「おまえが漏らすまで、さっきのやつを続ける。いつまでもな」
 砂理の顔に怯えが走った。
 目と口を封じられたうえで嬲られる恐怖は尋常ではない。長時間受ければ神経が参ってしまうだろう。
「ここで垂らすか、耐えきれずに漏らすか、どっちにする? 出せないって言い訳は無しだぞ。あれだけ長い間寝ていたんだ、全く尿が溜まってないはずないよな」
「・・・・・・」
 砂理は質問に答えず、押し黙った。
 もしここで砂理が放尿を拒んだなら、今までの繰り返しになるだろう。責めに耐えきれなくなった彼女が尿を漏らす結果になるのは確実だが、その場合、最後の一線で意地は守られる。無理矢理やらされただけ、という自己弁護が辛うじて成り立つからだ。これまで曝してきた醜態は、何らかの形で強要されてのものばかりだった。強いて例外を上げれば尻字くらいのものだろう。
 逆にここで放尿を受け入れたなら、自己弁護は成り立たない。砂理が陵辱の恐怖に屈して、自分の意志で意地を捨てたということになる。放尿の屈辱感は、尻字の比ではない。彼女のプライドが促されるままに尿を垂れ流す自分の姿を許すはずはなかった。
 つまりこの二択は、砂理がこれからも辱めに耐え続けるか、もしくはここで白旗を揚げるかという設問だった。すでに疲れ果てた砂理に、それでもなお食い下がる意志があったならば、今回の調教も完遂には至らないだろう。もし仮に彼女が心身を崩壊させるまで敗北を拒み続けたとしたなら、その時は僕の負けだ。
 黙り込む砂理を無理に追求することはせず、静かに返事を待った。
 沈黙の末、砂理は顔を背け、肩を震わせる。横を向いた顔には、朱がさしていた。
 程なく、チューブの中を黄色い液体が流れ始める。
 液体は音もなく透明な管を伝い、ガラス製の容器の底に落ちて水音を立てた。風流、と表していいかもしれない。その液体――尿を垂れ流している少女の姿も含めて。あらゆる覆いを剥ぎ取られた無駄な肉のない均整な裸体と、やつれながらもやはり整った容貌は、微かに立ちのぼる小さな水音に潰されようとしていた。
「おおー、出てるな。やけに色が濃いじゃないか。疲れてるんだな、可哀想に」
「何が可哀想よ、全部・・・・・・全部あなたのせいじゃない・・・・・・じろじろ見ないでよ」
 声が震えていた。声音はすぐにも消え入りそうに、か細い。
 尿はまだ流れている。じょぼじょぼという水音が、尿の勢いを殊更に強調していた。
「長いな、早くしてくれ」
「見ないでよっ」
 命令よりは、哀願にちかい涙声。
 発火しそうなほど赤面しながら、じっと何かを堪えている。が、尿は思いのほか長らくチューブの中を流れ続け、少女はそのあいだ、耐え続けることができなかった。
「うっ――」
 大粒の涙が、切れ長の双眸から溢れた。
 震えていた細い肩にぐっと力が籠もる。
「これでもう人には戻れないな。まぁ、おまえはよく頑張ったよ」
「――――――――」
 度重なる恥辱が、ここで臨界を突破した。
「――――――――――ぁあああああああ!!」
 絶叫は、少女の全てが崩れ去る音だ。
 周りから音が閉ざされたマンションの内側で、一糸まとわず体を開き、かつて嬲ろうとした男に見物されながら、美貌の少女は断末魔の悲鳴をあげる。肺の中の空気が尽きて叫びが止まった後も、激しい嗚咽が部屋を包んでいた。
「すっきりしたか? 余計なものがなくなったから、かえって気分がいいだろう?」
 嗚咽が収まったころを見計らって声をかける。
 憔悴した様子の砂理は卑屈な笑みを浮かべて、焦点の不確かな視線を僕に向けた。
「そうね。本当に、なんでこんなに我慢してきたのか理解できない。台無しになってみればどうってことなかったのに・・・・・・何もかも馬鹿馬鹿しいわ。私、こうやってぜんぶズタズタにされるために生きてきたようなものじゃない」
 甲高く、引きつった笑い声。
 壊れたレコーダーのように調子の外れた喋りが続いた。
「威張って、強がって、なんだったのかしらね。私は何がしたくて格好つけてたの? 落ちぶれるため? あなたや美月を悦ばせるため? けっきょく犬扱いされる女のくせに、部下とか沢山つれてかしずかせてたなんて、裸の王様そのものじゃない。っていうか本当に裸に剥かれてるし! しかも逝かされまくってるしっ! ふふ、傑作じゃない・・・・・・ふふ、ははっはははははははは!」
「やっと認めてくれたんだな」
「認める? ええ、そうよ認めてあげるわ。私は犬だったのよ! ずっとそのことに気がつかないで威張ってた駄犬! あなたの言うとおりだったのよ、これで満足!?」
 すっかり自棄になっている砂理の頭を掌で、ぽん、ぽん、と軽く叩く。そのまま髪の間に指を差し入れ、撫でてやる。
「よしよし」
 僕は頷いて、言った。
「これで教育は終了だ。僕はもう砂理に何もしない」
「え?」
「僕はおまえに、自分が犬だと気づかせてやりたかっただけなんだ。だからもう目標は達成した。砂理はもう用なしだ」
 呆然とする砂理の頭から手を離して、拘束具を外す作業に取りかかる。四肢の皮ベルトを外されて自由になっても、彼女は口を半開きにしたまま硬直していた。
「服はそっちの隅に放ってある。拾って帰ってくれ。食べ物とか机とかは勝手に処分しといていいから、もう会いに来たりするなよ。じゃあな」
 僕はそれだけ伝えてから砂理に背を向けた。必要なものを詰めた鞄を持ち、部屋の玄関へと真っ直ぐ進む。
 背後で、どた、と鈍い物音がした。
 それに反応せず、僕は片方の靴に足を入れる。
「まって!」
 凄絶な呼び声が背後から聞こえた。


 振り返った僕の目に映ったのは、四つんばいに近い格好で駆け寄ってくる砂理の姿だった。その身には何も纏わず、乱れた長髪を振り乱し、表情には一片の余裕もない。
「まってよ、置いていくなんて・・・・・・ないでしょう?」
 砂理は僕の服の裾に縋り付くと、上目遣いで訴えた。
「だって私には、もう何もないのよ!?」
「心配するな。美月にも開放するよう言ってやるし、榊原の写真も消して貰うよ。もともと僕が依頼したんだから話せばすぐだろう。榊原はもしかしたらコピーを隠し持ってたりするかもしれないが、あいつなら必要以上に脅迫してきたりなんてしないさ。砂理はもとの生活に戻っていいんだぞ?」
「無理よぉ・・・・・・みんな見てる前で泣かされて、笑われて、面子なんて無茶苦茶だもの。スカートのなか見せられたり下の毛剃られたりもした。脅迫されなくなったって、戻れるわけない。命令して言うこときかせたって、もう誰も私のことを畏れたりしないんだわ。表面でだけ従う振りして、心の中では私のことを嘲笑うのよ」
「ふぅん」
「ふぅんじゃないわよ!」
「だからなんだ。僕が何で砂理の世話をしてやらないといけないんだ?」
「だって、全部あなたのせいじゃない! 奪ったのはあなたなんだから、責任とってよ!」
「もとはといえば砂理が僕を奴隷扱いしようとしたのが原因だろ? だから逆に仕返される羽目になったんだ。自己責任じゃないか」
 反論できない砂理は言葉を詰まらせたが、それに反して、服を掴む指にはより強い力が籠もった。
「・・・・・・置いていかないで」
「理由がない」
「だって、こんなにされたのにっ」
「さっきも言った。僕は反撃しただけだ。おまえが立場を弁えて、変な手出しをしてこなくなればそれでいいんだ」
「でも、待ってよ!」
 縋り付いてくる砂理の肩を掴んで、後ろに押し倒した。引きずられる形で僕も膝をつき、そのまま覆い被さる。
「なぁ、素直に言ってくれ。何をして欲しいんだ? 責任なんて言い方じゃわからない」
 横たわった砂理の裸身に視線を這わせると、自分が裸であることに今更気がついたかのように、彼女は乳頭と陰部を手で隠そうとした。
 陰部を隠している側の手首を掴んで強引に脇へ除ける。濡れそぼった割れ目の中に指を差し込み、淵の周囲を指先で撫でた。
「気持ちよくして欲しいのか?」
「そ、そんなのじゃないっ」
「変だな、嫌ならもっと抵抗してもいいんだぞ? 僕はもう解放してやったんだから」
「それは・・・・・・っ!」
 狼狽したまま、申し訳程度に腕と腰を捩る。抵抗はそれだけだった。
 唇を震わせながら、指先を受け入れている。
「犯されるのが好きなんだろう。やられると体はすぐに悦んだもんな。もしかすると、逆に犯されたくて僕にまとわりついたんじゃないか?」
「違うの!」
「じゃあ止めるように言えばいい。そうしたら僕は止めるし、これからも二度とやらない。金輪際、砂理には手を出さないと約束する」
「・・・・・・」
「止めろと言わないのか?」
 僕は割れ目から指を抜いた。。
 砂理は完全に脱力して、一切抵抗しなくなっている。あれほど流したばかりだというのに、再び双眸から涙が溢れ始めていた。
「・・・・・・気持ち、よかったわよ。いつもいつも凄く感じさせられて、オナニーが癖になって・・・・・・でもそれだけじゃなくて、その・・・・・・」
「態度が偉そうだ。口の利き方がおかしい」
「・・・・・・すいません」
「教えてくれ、どうして欲しいんだ?」
「気持ちよくするのは、止めてもらいたくなくて、でもあんまり酷いことはして欲しくなくて・・・・・・美月とかに馬鹿にされるのも嫌で・・・わからない・・・・・・どうして欲しいかも、全然、わからないけど・・・でも・・・・・・」
 うまく言葉をまとめられないでいるようなので、助け船を出すことにした。
「さっき言ってた責任ってのは、飼い主としての責任のことか?」
「そう・・・・・・です。私、もうどうしていいかわからないから、飼ってもらわないと生きていけません。犬、なんです・・・・・・私、もう本当に犬で、人間の振りなんてもうできないんです。もうわがまま言わないから・・・・・・優しくして・・・・・・」    
 切れ目のない涙を流しながら、所々で声を詰まらせつつ、砂理は内心を吐露した。
「でもなぁ、僕は砂理がいなくても生きていける」
「お願いします!」
 砂理は仰向けの状態から跳ね起き、頭を床に押しつける。そして彼女が土下座したまま金切り声でまくし立てた言葉には、見栄の片鱗もなかった。
「お願いします、飼ってくださいっ! 言うことは何でも聞きます、どんなことでもします。お金は沢山あげられます。部下も、命令だけならできますから、弘樹さんが好きに使っていいです。この部屋も、私が渡せるものならなんでもあげますからっ!」
「本当に何でもするのか?」
「はい」
「僕のすることは何でも受け入れる?」
「はい!」
「信じられないな。今までも自分が犬だと認めておきながら、結局あれこれ言い訳して誤魔化したりしたじゃないか」
「今度は本気なんです! もう嘘なんて二度とつきませんから!」
「なるほど。なら何でもやれることを見せてもらおう」
 僕は立ち上がり、寝台のそばに戻った。
 並べてある道具のうち二つを取って、砂理に向き直る。
「こっちに来て座ってくれ。それからこのアイマスクも付けるんだ」
「それ・・・・・・・鞭、ですよね?」
 恐る恐る訪ねられたので、返事の代わりに一回素振りする。長さ一メートル弱の短かい鞭。非常に扱いやすい代物で、練習すれば十分使えるようになった。
「例え鞭打ちでも、僕のすることなら受け入れられるはずだ。砂理が本当に僕無しで生きられないなら」
「・・・・・・わかりました」
 砂理は僕が指さした位置まで移動して、言われたとおり目隠しする。
 不安からか、半分覗いた顔からは緊張が見て取れた。両手を後ろに組んで、乳房や陰部を無防備に曝した蝋と油まみれの体は、鞭を受ける恐怖に堅く強ばっている。指示を従順に守ってこそいるが、心はまだこちらに委ねきっていないのだ。
 仕上げのために。砂理の耳元に顔を寄せて、囁いた。
「一つ教えてやる」
「僕はずっとおまえのことが嫌いだったんだ」
 その言葉に、砂理はびくりと身を竦める。
「虚栄心だけでできていて、人に威張り散らすこと以外に興味がない中身が空の奴だと思っていた。じっさい、おまえはそういう奴だった。できるだけ関わりたくなかったから、妙に絡んでくるのが本当に不快だった」
 砂理の顔色が蒼白になっていく。これから鞭打たれる相手から告白される事実としては、これほど不安を煽るものもない。
「でもな、砂理をいたぶっているうちにだんだん考えが変わってきたんだ。泣き出したときの砂理はとても可愛いからな。あんまり気にしてなかったが、近くでよく見れば外見は綺麗だ。余計なものを全部剥いでしまえば、最高のペットになると確信した」
 だからな、と前置きして告白を続けた。
「保証するよ。偉そうな砂理のことは嫌いだけれど、全て受け入れて完全に僕の言いなりになった砂理のことは絶対に好きになれる。そうしたらずっと可愛がってやるよ。もうおまえは、捨てられる心配なんてしなくていいんだ」
 尊厳を根本から無視した物言い。だが今の砂理に、それを不快と感じるようなプライドはなくなっていた。堅くなっていた表情が弾ける。子犬が縋ってくるように、期待を露わにした無防備な調子で訊いた。
「本当に? 絶対?」
「絶対だ」
 ひゅん、と床へめがけて鞭をしならせる。
「だから、こんな鞭なんて怖がるんじゃない。砂理は僕を受け入れさえすればいいんだ」
「・・・・・・はい」
 感情の静まった顔が、粛々と頷く。
 僕は太股を狙って鞭を振るった。樹脂製の鞭が狙い通りにしなり、白い肌を打ち据える。
「んっ!」
「次だ」
 背中を打つ。続けて、脇腹にも一発打ち付けた。
「・・・っ・・・・・・ぁ!」
「痛いか?」
「あ、えっと・・・・・・」
「堪えなくても、好きなように泣き叫べばいいんだ」
 更に一発。
 その後も、鞭打ちを続けた。
「――ぁ・・・ああっ! 」
「・・・くあっ・・・・・・んっ・・・いっ・・・!」
「今度は四つんばいになれ」
「はい・・・・・・ひゃうんっ!」
 四つんばいになったばかりのところで尻を叩いてやる。けたたましい悲鳴があがった。
 桜色に顔を上気させていた砂理は大口を広げ、悲鳴の勢いで涎を飛び散らせた。体を支える両腕は生まれたてのように頼りなく、胴は立て続けに与えられる刺激に身もだえしている。その荒い呼吸には、熱が籠もっていた。
「どうだ、痛いか?」
「大丈夫、です・・・・・・」
「無理はしなくていいんだぞ。バイブを挿れられたときのことを思い出すんだ。おまえは必死に堪えようとしていたのに、実際は感じてしまっていたよな。それと同じだ。無理に受け入れようとしなくたって、その体は正直だ」
 そこで一旦鞭打ちを止める。
 新しい蝋燭を用意して、火を付けた。蝋が滴り始めていることを確認して、四つん這いの体の上に持っていく。ひとまず蝋で狙うのは、足の裏。
「ひうっ!」
 足首から尻にかけてゆっくりと狙いをスライドさせながら、穏やかな声音を作って話しかける。
「もう一つ思い出してくれ。さっき目隠でマッサージしたときもこうやって蝋を垂らした。だが、おまえは熱いと感じただけだったか? 違うよな、しっかり逝ってたんだから。あのときの快感を思い出してみるんだ」
「・・・っ・・・・・・んっ・・・!」
「鞭も行くぞ」
「―――あぁっ!」
 悲鳴に切ない色合いが濃く混じった。効いている。
 至る所に熱い滴を垂らしていきながら、悶える体を観察した。そして“欲しそうにしている”部分を狙って鞭打ちを加えていく。初めは悲痛だった声は、熱に溶けたものに変化しつつある。しばらく鞭と蝋の責めを継続した僕は、頃合いを見て宣言した。
「きついのを行くぞ。無駄な力を抜いて委ねるんだ」
「はい・・・・・・っ!」
 これまででもっとも強烈な鞭を与える。柄を素早く振りかぶり勢いを付けた鞭の一撃が、既にいくつも赤い線の浮いた腹部へ鋭い衝撃を与えた。
「・・・っ――――ぁああん!」
 あられもなく開かれた大口から、ひときわ艶やかな悲鳴が放たれた。
 僕は二回繰り返した質問を、三たび砂理へむける。
「痛いか?」
「・・・・・・、です」
 消え入りそうな声。言っている本人にさえ、事実が信じられないのだ。鞭打たれるのはこれが初めてなのだから。
 更に一発、尻に強打を入れた。
「恥ずかしがるなよ。大声で言ってみろ!」
「――――あっ・・・・・・きっ、気持ちいい! 気持ちいいですっ!」
「そうだ、おまえはこんな体だったんだよ。嬲られる快楽をずっと否定し続けてきただろう? 我慢の限界はとっくに過ぎていたんだ。そりゃ置いて行かれたら困るはずだよ、嬲られる快楽無しには生きていけないんだから。ほら、どうして欲しいか言ってみろ」
「もっと、もっと打ってください! あう――っ、もっと強くぅ・・・・・・ああっ――んぁああっ!」
 視覚が封じられていること。触覚を強烈に刺激する蝋の存在。砂理が拒絶を恐れて動転していることも、要因になっていた。アイマスクを付けたまま蝋と鞭を同時に受けた砂理の精神は、先ほど蝋とオイルマッサージを同時に受けたときと自己の置かれた状況を混同したのだ。結果、容易に鞭の刺激を快と認識してしまった。だが鞭を受容する兆しは蝋燭を使い始めるより前から見えていた。錯覚の利用は最後の一押しに過ぎない。
 痛めつけられる悦び、支配される開放感。
 高圧的な態度を崩さないように生きてきた砂理は、そういった欲求を抑圧し続けてきた。故に、辱められるほど膨らんでいく被虐欲は激しく、解放された瞬間の快楽も並ならない。僕は様々な手を使って彼女に己の被虐心を意識させてきた。そして今や欲求は肥え太り、たわわに実っている。
 かつての傲岸な女王は、淫靡な家畜に堕ちたのだ。
 砂理はふやけた口の端から涎を垂れ流しながら、感じるままに甲高い喘ぎをあげた。
「はぅん・・・・・・っ・・・はぁ、はぁ・・・・・・くうんっ!」
「いい鳴き声だ。立派な家畜になったじゃないか!」
「えへぇ・・・ありがと、ございます・・・・・・っ・・・あんっ!」
 屈託のない笑顔が満面に広がる。そこには安らかな悦びだけがあった。 
 全てを主人に委ねた彼女が、何かに悩むことはあり得ない。
「もっと・・・・・・もっとぉ・・・・・・!」
 淫らに腰をくねらせながら、砂理は鞭を求めた。
「嬉しいか? もっとやってやるぞ、悦べ!」
「・・・ふうっ・・・・・・あふんっ・・・・・・・・・ん、はぁっ・・・・・・いいっ・・・大好きっ・・・・・・はぁ・・・・・・ぁ、強いの・・・強いのください・・・・・・はぁああ――――――っ!」
 ついに鞭打ちで逝った。背筋を滑稽なほど反らせて、長い長い嬌声を天井へと放つ。
 そこを頃合いに、僕も鞭を振る手を止めた。
 互いに疲労は激しかったが、見返りとして得た満足感はそれ以上に大きい。
 鞭を置いた僕は、膝をついて砂理のアイマスクを外す。ぼんやりとした様子で宙に眼を泳がせていた彼女は、僕が接近したことに気がついて視線をこちらに巡らせた。
「よく受け入れたな。偉いぞ」
 頭を撫でてやると、砂理は「えへへ」っとあどけなく微笑む。
 僕の胸元へ顔を埋めてきたので抱きしめてやると、心地よさそうに喉を鳴らした。
「合格だ、一生可愛がってやるからな」
 息を吐いた砂理は、力を抜いてこちらにもたれ掛かってくる。抱きしめる腕に力を込めると、砂理もより強く体を押しつけてきた。まだ火照りの取れていない体からは仄かな熱気と、そこに混じった甘い香りが昇っている。
 成し遂げた満足感が、僕の胸に満ちていた。
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