食を願わば器物

 

 若木が目を覚ます間は静の相手で精一杯だった。はしゃぐは歌いだすわで、遊び相手になってやるといっても静の体は立派な女子高校生の体格なのだ。抱きつくわ、胸が揺れて顕になりそうやら、泣きそうになるわと心休まる暇が無かった。
 何十分か遊んでからようやく若木が目を覚ました。自分の下着が変わっている事に気づいて何か言われるかとドキドキしていたが若木は以外にもおはよう、と素っ気無い返事を返してきた。
 俺もおはよう、と返すと部屋には気まずい雰囲気が漂った。ど、どうしよう……話す内容が思い浮かばない。
 若木も赤くなりながら気まずそうな顔をしている。横では静がキャッキャッとはしゃいでいる。さて、どうしたもんかと思っていたその時。
 クゥゥゥゥーーーキュルルル
 若木のお腹から可愛らしい音が部屋に響いた。
「プッ……クッククク」
「フッ……フフフ」
『アッハハハハハ!』
 変な雰囲気の最中、間抜けな音が鳴ったもんだから二人ともつい可笑しくなりお互い声を上げて笑ってしまった。つられて静も笑い出した。
「そっか腹減ったよな、いつもはおやつの時間だから今二人の分持ってくるよ」
「ご、ごめんね……ありがと」
 最後のありがとが何に対するありがとなのかは俺は若木に聞かなかった。

 冷蔵庫にしまってある一日一個のおやつを取り出してスプーンと一緒に二人の前に並べる。
「今日のおやつは取っておき、バステルのプリンだ!」
 プリンは静の大好物で、機嫌が悪いときにはプリンを使って泣き止ますときもあるぐらいだ。しかもプリンで有名なバステル!親と一緒にデパ地下で買ってきたやつだ。
 普段は安っぽいお菓子しなんて食べない若木も、これなら喜んで食べてくれると……。
「へぇ、今のスーパーにはこんなプリンがあるんだぁ」
「え……ち、違うぞ若木」
「じゃあコンビニ?」
「し、知らないのかよ?バステルのプリン……このなめらかカスタードショートなんて一個380円もするんだぞ!?」
「やっぱり買ってきたものじゃない、うちでデザートが出るときはシェフに作ってもらうか出来立てをお店から持ってきてもらうわよ?出来立ての方が美味しいし」
 ……一度こいつが家で生活している様子を見てみたいもんだぜ、俺の頭には昔のフランス映画に出てきそうな洋館が思い浮かぶ。
「変な顔しないでよ、いくら私だって知り合いの家に上がって出来たてを出せなんて言わないわ、さぁ早く食べましょ静ちゃんも待ってるし」
 若木が子供ようのベビーチェアに座っている横では静が笑顔でプリン!プリン!と叫んでいる。こんな満面の笑みだったら、写真を撮れば若木に好意を寄せてる男性連中にはきっと高値で売りさばけるだろう。
 プリンとスプーンは二人分持ってきたが、二人とも一人で食べる事ができない。なのでまずは静から。
「はい静、あーーーん」
「あーーーーーん」
 スプーンを上手く使いこなせない静には俺が口まで運んでやるしかない。
「おいちーねーにーちゃー」
「そうだねーおいしいねー」
「ちょっと、私の体とあんまり変な空気作らないでよね……」
 隣で若木が文句を言ってくる、一歳児の妹相手に何を心配してるんだかな……黙らせるために同じく1歳児の体で上手くスプーンを使えない若木に俺がベビースプーンでプリンをすくって食べさせてやる。
「ほら、あーんして」
「ちょ、ちょっと、あーんなんてあんまり恋人みたいな言い方しないでよ……!」
「あぁ、静かに食べさせるときの癖でな、ついだよつい」
 自分で恋人といったのが恥ずかしかったのか、若木の頬がポッと染まっていた。照れ隠しなのか若木は急いでプリンをパクッと加えた。
 モグモグと食べると食べた若木の表情がフニャフニャと笑みで崩れだしてきた。
「え……やだっ……これ美味しい……すっごく美味しい……!!」
 小さな自分の手で笑っている顔を戻そうとするがニヤニヤとなかなか元に戻らない。
「なんだ、若木もプリン好きだったのか?」
「そ、そんな事無いけど……でもこんなに美味しいの始めて!」
 きっと静の体になって、味覚も変化したのかもしれない。子供は辛いのや苦いのには少量でも敏感に反応するらしいが、逆に子供が好きなお菓子はより美味しく感じるのだろう。もともとプリンが好物の静の体なのだし、あの若木がここまで言うのだから余程美味しいのだろう。二人の口に交互に運ぶが静は流石に食べる早さも量もあり気づくと中身はほとんど空っぽになっていたが若木は三分の二ぐらいで大分満足した顔になっていた。
「んー俺も食べたくなってきたからちょっと貰うぞ」
 俺は若木の食べさせていたベビースプーンで残りのプリンをすくって食べた。うーん、流石バステルのプリンは絶品だぜ。
「あ!ちょっと私が食べていたスプーンで食べないでよ!」
「なんだよ、俺だって食べたかったんだから少しぐらいいいじゃねぇか、全部食べきれない訳だし」
「違くて……それじゃ……間接になるじゃない……!少しは気にしなさいよデリカシーないわね!」
「なんだよそれ……じゃあ静の方のスプーンで食べるからいいよ」
 俺は静に食べさせていた普通のスプーンに持ち替えて食べ始めた。
「あぁぁぁっ!そっちはもっと駄目ぇっ!!」
 じゃあ一体どうしろっていうんだ……。真っ赤になりながらベビーチェアの中で暴れまくる若木を落ち着かせ、コップに牛乳を入れて出してやる。
 少しはカルシウムを取って、穏やかな性格になってくれ……。願わくば、元の体に戻ったときは静にこの気の強さが移っていませんように。

 

乗り掛かった船

 

 おやつの時間も終わり、夕飯の支度を始めることにした。静はまたしてもテレビに夢中で踊っているのか床が響いて聞こえてくる。
 するとご飯を研ぐ俺のズボンが引っ張られている気がして下を見ると若木が掴んでいた。
「どうした?元に戻れるアイデアが浮かんだか?」
「違くて……その……さっきはごめんなさい」
 珍しく素直な若木に少し驚いた。
「なんだよ、別に食べさせるだけなら昼食のときにも……」
「だから違くて!……だから……あれ……取り替えてくれて……」
 ようやく若木の言いたい事に気づく。寝ている若木におむつを着けたことだ。やっぱりあのときの若木は起きていて気づいていたのか……?
「き、気にすんなよ、そりゃあ着けてなかったときは驚いたけど、たいしたことじゃねぇよ」
 出来る限り平然を装い、料理の手を進める。
「でも……でもね私……着けたくなくて着けなかったんじゃないのよ」
 ん?……どういうことだ?
「あのね……その……この体で一生懸命自分で着けようとしたんだけど……なかなか上手くできなくて……自分で出来るって言った手前……近藤君の手も煩わせるわけにはいかなくて……それに見られるのはやっぱり恥ずかしいし……そんな自分も情けなくて」
 そうか、思えば自分でおむつのテープも取れなかったんだから着けるのだって大分苦労したはずだよな。
「それで結局着けずに過ごしていて……もしも外で惨事が起きたら近藤君にも怒られるんじゃないかと思ってて……とても不安で……結局謝りたくてもなかなか素直に謝れなくて……実は入れ替わってから…………怖くてしょうがなかったの…………もぅ……この体になってから……涙腺まで緩くなった……みたい…………」
 下を向くと若木の小さな瞳からは涙がボロボロと零れ落ちて戸惑ったように袖で拭っていた。
 俺はなにも言わずに近くにあったハンカチを渡してやる。
「……ありがと」
「……おう」
 しばらく無言の中俺は黙々と料理をしながら何故か今の姿の若木を愛おしく感じていた。
 食事の下ごしらえが終わる頃には若木も泣き止んでいた。若木は近くにあった子供用の椅子に座り、気の抜けたような表情で料理している俺を見ていた。
「ねぇ近藤君……」
「ん?」
泣いた後だから子供独特の甲高い声が少ししゃがれている。
「もしも……もしもね?……このまま元に戻らなかったら私は近藤君の妹として過ごす事になるのよね……」
「……そうだな」
「そしたらそのうち幼稚園に通わなくちゃいけないってこと?」
「そういうことになるな」
「歌とかお遊戯とか、園児に混じってしなくちゃいけないのかしらね……」
「そうだなぁ……でもその前にトイレトレーニングに予防接種にアレルギー検査も待ってるぞ」
「そして小学校に行って中学、高校に通って……元の年齢に追いつくころには近藤君は三十路過ぎになっているわね」
「そう考えるとちょっとした父親の心境だな」
 そう答えると若木はふふふと微笑んだ。
「そう考えると日本は飛び級が無いから地道に年を重ねるしかないわね……」
「あぁそうだな……静もあんな状態だと戻らなかったらこの先大変そうだ」
「静ちゃんはあのままだと……病院の精神科に行かされちゃうわね……」
「わずか1歳なのに、早くも女子高生の生活を覚えさせいと行けないんだから苦労しそうだ」
「私の父親に見られたら我が家の恥だとか言われて縁を切られちゃったりして」
「馬鹿言うなよ、親を見捨てる子供がいても子を見捨てる親がどこにいるんだよ!?」
「うちの父親は厳しいから……近藤君が思っているよりとても複雑な家庭なの」
 思わず言葉が詰まってしまった。
「……まぁ……中身は俺の大事な妹だし、何かあったら俺が責任を取って面倒見るから安心しろよ」
 うわっ……つい反射的に思ってしまった事を口走ってしまった……。恥ずかしくて顔が熱くなる……!
「そうね、近藤君って巧偽拙誠って感じの人だから……このままでも悪くないかもね……」
「こうぎせっ?なんだって?」
 言葉の意味が難しすぎて分からなかった俺は、若木が放った最後の一言が耳に届いていなかった。
「ねぇ、ちょっと私の体を持ち上げてくれない?」
 そう言うと若木は椅子から降りて俺の足元に近づいてきた。
「どうしたんだよ急に?」
「ほら、早く!」
「こ、こうか……?」
 俺は若木の脇に手を入れてヒョイッと持ち上げた。
「ねぇ、そのまま、たかいたかーいってやって!」
 外見が一歳児でも大人の知性を持ち合わせていた若木の顔が、この時は本当に幼児かのように笑った。
「よっしゃ、驚くなよ!」
 俺は若木の行動を深く考える事はせずに、その小さな体を持ち上げると放り投げるように上に掲げ上げ、ゆっくり胸元まで戻してまた上に掲げ上げたかいたかいを繰り返した。
 若木はとても嬉しそうな笑顔で、静の顔のはずなのにその無垢な笑顔は何故か高校生だった若木の顔と重なった。
 俺の腕も疲れ始め、若木を床に下ろしてやると若木はどこか懐かしむような……まるで楽しかった旅行先の思い出を浮かべるような幸せそうな表情をしていた。
「私ね、小さい頃父親にたかいたかいをしてもらうのが大好きだったの……私の父親って仕事がとても忙しくて家には眠りに帰って来てるようなものだったわ。だからいつまでもたかいたかいをおねだりして、少しでも長く父親と遊んでいられるたらいいのにといつも思っていたわ」
 若木の幸せそうな表情が少し寂しげになる。俺は返す言葉が見つからず相槌で答えていた。
「でも何年かしたら怒られるようになったわ、子供じゃないんだからそういうことを言うのはやめなさいって、その時はとても悲しかったけど……今度は勉強やテストで良い点を取ったりすると喜ばれるようになって、父親に褒めてもらいたくて一生懸命勉強したし作法やマナーも覚えたわ、少しでも長く父親と話せるように頑張った……でも何年か前に気づいたの……小さかったとき私を喜ばしてくれた様な父親をもう見ることはできないんだって……今の父親は私の形をした優等生……誰に見せても恥ずかしくないような自慢できる宝石みたいな娘が欲しかったのよ」
 若木はまるで独り言をしているかのように喋り続けた。声は幼児独特の甲高い声なのに妙な迫力を感じた。
「でも、まさか高校生にもなってこんな事してもらえるなんて、思ってもみなかったわ……少し懐かしくなっちゃった……ありがとね」
 若木も若木なりに苦労していたってことか……うちは今までずっと母子家庭で親父って存在を少し羨ましくも思っていたが、みんながみんな望んでいる物を与えられていたとしても全てが満たされるって事にはならないんだよな、それが家族って存在だとしても。
 若木の心の中は俺が今まで見てきてそして思っている以上に混沌として深いんじゃないだろうか。こんな状況でも俺はまだ若木のほんの一部しか知らないのかもしれない。
「元の体になったらこんなこと、してもらえないもんね」
「お、ポジティブシンキングってやつだな!そうそう物事は前向きに考えなきゃいけないよな!」
 たかいたかいしたぐらいで若木の心を回復できるならお安い御用だ。
「あれ……?」
「ん、どうした?」
「静ちゃん、急に大人しくなったわね」
「そういえば……また寝ちゃったのかもしれないな」
 言われて見ればさっきまで床をドスドスと鳴らして踊っていたり、テレビの曲に合わせて声を出していたのだがいつの間にかテレビの音しか聞こえてこなくなっていた。
 一応気になった俺は部屋を覗いてみたが……。
「あれ、いない……どこ行ったんだ?」
テレビはつけっぱなしになっていたが、肝心の静の姿が見当たらない……。
「ちょ、ちょっと近藤君!窓!!外!!」
 遅れて入ってきた若木が叫びながら窓を指差した。見ると何と静が窓を開けてベランダに飛び出ているではないか!
 小さな体のときは窓の鍵まで手が届かなかったし、窓を自力で開けるような力も無かったから油断していたが今の静は一般女性の体力を持ち合わせている。きっと器用に指で開錠させて窓を開けて外に出たのだろう。
『危ない!!』
 俺と若木は同時に声を張り上げた。静がベランダの手すりから上半身を外に乗り出してまるで鉄棒をするかのように足を浮かせたのだ。外の景色が気になったのか分からないが、うちの部屋は三階だ!落ちたりでもしたら怪我どころじゃ済まない!最悪、二人とも元の体に戻れなくなったりでもしたらそれこそ取り返しがつかない!
 俺は急いでベランダに出ると静の体を後ろから抱えこんだ。しかし急に俺に取り押さえられて驚いたのかこの危険な状況でバタバタと暴れるではないか。
静を……そして若木の体を守るため俺は渾身の力で後ろへ引っ張った。……形で言えばバックドロップ……あるいはジャーマンスープレックスの様な体制だったかもしれない。
 足がもつれた俺は静とそのままの状態で部屋の中に倒れ込もうとした……が、しかし俺と静の後ろには小さな脚で駆けつけた若木の姿があった。
「ちょっ!!うぉぉぉぉっ!!」
「キャァーーーーッ!!」
「ふぇぇぇぇぇん!!」
三人の叫び声が重なり合う中、ズドーンと大きな効果音を立て雪崩れ込むように倒れ込んだ。

 

昨日は人の身今日は我が身

 

「痛つつつっ……」
 軽く意識が飛んだが、俺は体の様々な痛みを感じながら体を起こした。頭や膝などいろいろな箇所をぶつけたみたいで、ズキズキとした痛みが感じられる。そして俺の胸元には駆けつけた若木が抱えられていた。とっさにかばったのだろうか……。
 若木も気がついたようでゆっくりと目を開けてキョロキョロと辺りを見回し俺の顔を見ると、またいつものように若木の口からは文句を言われ……。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇええええん!!」
 え!?ちょっ!!なんだ!?いきなり若木が大きな声を出して泣き出したではないか!涙どころか鼻水まで垂れ流している!やばい、これは頭を酷く打ったな……あの若木がこんな顔をグシャグシャにして泣くなんてこれじゃあ本当の1歳児じゃないか。
「にーちゃあああああ!!いたいぃぃ!!うぇぇぇぇぇぇ!!」
 いよいよいかんな……こんなまるで若木が静みたいににーちゃーなんて俺のことを呼ぶなんて……ってあれ?
「え!おい!!静!?静なのか!?」
 急に叫んだせいで声が裏返ってしまったが俺が叫んでも元に戻ったのか泣き止む気配がない。
 静が元に戻っているということは、だ。若木もきっと元の体に戻っているはずだ!そう思った矢先、スグ横で起き上がる気配が。………………ん?
 あれ、若木の体ってこんなに背が高かったっけ?それに髪も短いし……ちょっ……性別まで違うように見えるぞ……誰だこの男?目つき悪いっていうか、モテなさそうっていうか、年齢イコール彼女いない歴な感じ…………って、おいおいおいおいおい!!!!
 俺はようやく体の違和感に気づき、スグに自分の体を見下ろす。いつの間にか俺の髪はサラサラロングヘアーへと伸びており、体のラインも細くなっている……肌は陶器のように白くてスベスベで胸には成熟した二つの実りがムニュッと……いつの間にこんなけしからん体に……。
「おぉ……俺の胸が……これはなかなか……エベレストとはいかないまでもモンブランぐらいはあるな……」
 と、そこで俺は誰かの気配を感じ取った。
 今の状況を説明すると、元の体に戻った静が泣いていて、何故か女性みたいな体つきになった俺は自分で自分の胸を鷲づかみにしておりその俺の正面には殺気すら感じる男がその光景を見詰めていた。
 えーと、まさかとは思うけど……。
「もしかして……わ、若木さん……ですか?」
 細く綺麗な声で俺は尋ねた。
「……ってぇ……」
「え?」
「……最っ低ぇっ!!なによこれ!?どうして私が近藤君になってんのよ!?それに近藤君が私の体になっているじゃない!!信じられないわ!!ライオンの檻に肉持って飛び込む様なものよ!!あっちゃいけないことよ!!」
 もはや静と入れ替わった以上に興奮してる俺の体になってしまった若木……頼むから女性口調はやめてくれ……。俺の声でそんな言い方をされても気持ちが悪いだけだ。
「ま、待て若木!!落ち着け!!なにもやましい事を……」
 と言いかけて胸を揉んでいるこの状況では説得力の欠片も無い事に気づく。
「……近藤君……」
「は、はいっ!!なんでしょうか!?」
 急に冷ややかな口調になった若木に対して俺は慌ててビシッと体勢を整えやましい気持ちが無い事を行動で示してみた。が、効果はなかったみたいだ。
「…………死んでちょうだい……こんなこと許さるはずがないわ……」
「ちょっ!!ちょっと待て!!なっ!?頼むから落ち着いてくれ!!」
 必死で暴走している若木を宥めようとするが……。
「こんな状況で落ち着いていられるわけないでしょ……!異性の……しかも近藤君に私の体を預けるぐらいなら……!死なないんだったら、私が近藤君を殺してあげるわ……!!そして私も死ぬーーー!!」
 目の色が変わっている若木が近づいてくる……やばい本気だぞ……!!
「そんなことしても俺も若木も元に戻れないだろうが!!頼むから許してくれ若木ぃぃぃぃ!!」
 美人で有名なクラス委員長になった俺が恐怖の断末魔を上げ、ごくごく一般の高校生男子になってしまった若木が俺の首を絞めようとし、さっきまで泣いていた、数ヵ月後には二歳の誕生日を迎える妹が笑い出した。

 

 その後、俺の叫び声からか藤浦のばばぁに俺が同級生を襲ったという噂をばらまかれることになるのだがそれはまた別の話だ(ある意味間違ってはいないが……)
 旅行から帰ってくる親に気づかれないように若木は俺を演じて、俺はまるでホテルみたいな若木の家で頭の良い、良識あるお嬢様を演じなくてはならなくなるのだが……まぁそれもまた別のお話ってことで。
 一難去ったと思ったら今度は百難が降りかかってきた気分だよ全く……。まぁ実はこれからも若木と静はちょくちょく入れ替わる事になるんだが、残念だがそれもまたまた別のお話にしておこう。
 まぁ俺からの忠告は小さな妹と美人のクラス委員長がいる奴は夏休みに本を借りに行かない方がいい、きっと人生を変えるような大事件が起こるはずだ。悪い意味でな。

 

                               完

 

まえ